〜頼りない?〜

 

 

 

緑に覆われた森の中から、今日も戦いの音が聞こえる。

 

 

 

「やあっ!!」                                                            

金色の髪の少年―――ユリスが一匹の脳天にハンマーを振り下ろした。

鈍い音がし、食らったモンスターは地に伏せて動かなくなる。

「はあはあっ……やった……」

ユリスは肩で息をしながら呟く。

と、そのとき別のモンスターが背後から彼に襲い掛かった。

「グオォォォォォォッ!!!!」

「えっ!?……うわあぁぁっ!!」

完全に不意をつかれ、防ぐことも避けることも出来ない。

やられる!と思ったユリスは目を瞑る。

しかし、何かが切り裂かれる音がして目を開けると……胴体を斬られたモンスターが転がっていた。

一瞬驚いたユリスだったが、すぐにそれが誰の仕業か分かり、傍にいた剣を持つ赤い髪の少女に礼を言う。

「あ、ありがとうモニカ……助かったよ」

そう言われた少女―――モニカは呆れた表情を浮かべる。

「もうっ!ありがとう、じゃないでしょ!魔物と戦う時は最後まで油断しないようにって、いつも言ってるじゃない!

 もっとしっかりしてよね!」

「……ゴメン」

返す言葉もなく、ユリスは申し訳なさそうに俯いて謝る。そんなモニカにモニカは大きく溜息をつき、

「はあっ……だからそういう風に謝らないの!もっとシャキッと、ね?」

「……ゴメン」

再度謝るユリスに、モニカはまた一つ溜息をついた。

「……ホンット頼りないんだから……」

 

 

 

 

 

 

 

二人で冒険するようになってから随分経つが、モニカから見てユリスはまだまだ戦闘には不慣れだ。

まあ今まで戦いなど経験したことがなかったらしいから、当然といえば当然なのだが……

(……それにしても、ねえ……)

もうすこし強くなって欲しいとモニカは思う。

これから先、魔物はどんどん手ごわくなっていくだろうし、いつまでも自分が助けられるとも限らない。

―――――それに……

(普通立場が逆でしょ?こういうのは……)

ふうっと溜息をつく。

決して守られっぱなしになりたいというわけではないが、モニカとて女の子。

男の子に格好よく助けてもらうシチュエーションに憧れる気持ちも少なからずあるのだ。

(でもまっ、無理かなユリスじゃ……)

地図を見ながら前を歩くユリスを見ながら、モニカは苦笑する。

どう考えても、そんなことをしてくれる程の器量がある様には見えない。

やっぱり自分が『頼れるお姉さん』として引っ張っていかなくてはならないだろう。

(まっ、そういうのも悪くないかもね……)

再び苦笑すると、知らずに声が漏れていたのだろう。ユリスが振り向いて不思議そうに尋ねる。

「モニカ?どうしたの、何かおかしいことでもあった?」

「え?あっ、な、なんでもないよ」

慌てて手を振って答える。

「ふ〜〜ん、ならいいけど。……じゃあ、今日は戻ろうか?日も暮れてきたし」

「そうね、この森じゃ暗くなったら何も見えなくなるし、そうしましょ」

そんなわけで二人は来た道を引き返して行った。

――――――当然、帰り道での戦闘も先ほどと同じ調子だったのは言うまでもない……

 

 

 

 

 

 

―――そして次の日、ユリスとモニカはバームブリンクスの公園にいた。

本当はこの日も冒険に出かける筈だったのだがアイテム類が不足していたこともあり、その調達も兼ねて休日にする事にしたのだ。

ということで、用事を終えた二人はこの場所で、思い思いに時間を過ごしている。

(本当は急がなくちゃいけないんけど……たまにはいいわよね)

そう思いながらモニカはチラッとユリスに視線を向ける。……ちなみにユリスは池で釣りをし、モニカは芝生に寝転び日向ぼっこ中だ。

「あ〜あ、また小さいのか……」

魚を釣り上げたユリスはがっくりと肩を落とし、その魚を池に返す。そんなユリスを見てモニカはふっと微笑んだ。

(まだまだ子供なんだから……)

そうモニカが考えていると、ユリスはまたウキを池に投げ入れ、真剣な顔つきで水面を睨む。

日向ぼっこに飽きたモニカも彼の傍により、同じように水面を見つめた。

――――するとしばらくして……

「!……よし、かかった!!」

待ってましたとばかりに、ユリスが手馴れた手つきでリールを巻く。

「うん、手ごたえ十分!こんどは大きいぞ!!」

嬉しそうな表情でリールを巻き続ける彼に、モニカも興奮して声援を送る。

「がんばってね、ユリス!」

「もちろん!……よし、もう少し…」

―――そして……

「やったーーーっ!!」

歓喜の声を上げ、ユリスは吊り上げた魚を手にして満面の笑みを浮かべる。

「うっわー本当に大きい!すごいじゃない、ユリス!」

「うん!粘った甲斐があったよ!!」

確かに今度の魚はさっきのよりも数段大きく、彼が大喜びするのも無理のない物だった。

そんなユリスを見て、少し興味をそそられたモニカは、

「ねえユリス、私にも釣りさせてよ?」

と、頼んでみた。

するとユリスは心配そうな顔をして言う。

「え?別にいいけど……釣りって結構体力いるよ?モニカ大丈夫?」

そんな彼の言葉に、モニカはプッと頬を膨らませ文句を言う。

「何よそれ?私が戦闘の後、いっつもぐったりしてる誰かさんより体力ないって言いたいの?」

「い、いやそういうことじゃないけど……ほら、やっぱりモニカは女の子なんだし……」

「……何よそれ?男女差別する気?」

「だ、だからそう言う意味じゃ……」

「ああもう、つべこべ言わない!ほらっ、貸してよ!!」

「わ、わかったよ」

モニカの気迫に押され、ユリスは釣竿にエサを付けて彼女に差し出す。

奪うようにそれを受け取ると、彼女は力いっぱいウキを投げてジッと水面に目を凝らした。

 

 

 

 

 

 

――――少しずつ日が傾き、周りにいた人も徐々に少なくなってきた頃、

「……モニカ、もうやめたら?全然釣れない時だってあるんだしさ……」

ユリスが遠慮がちにモニカに尋ねた。が、

「もうっ、すこし黙っててよ!気が散るでしょ!!」

「……はいはい」

ピシャリとそう言い返され、ユリスはやれやれと肩を竦める。

すでにあれから一時間ほどが経過しているが、モニカは魚を釣り上げるどころかアタリさえきていなかった。

それなりに釣りを経験してきたユリスから見れば、これだけ待って釣れないなら切り上げた方がいいと分かる。

しかし、半ば意地になっているモニカに何度そう説明しても無駄な事だった。

「絶対に釣るんだから!!」

と一点張りを決め込む彼女に、ユリスは気づかれないように溜息をつく。

(……そんなにムキにならなくてもいいのに。……たかが釣りでさ……)

そう思い、もう一度モニカにやめようと言いかけた時……

「きゃっ!!」

急にモニカが声を上げた。見ると竿が大きく揺れている……ようやくアタリがきたらしい。

「やったじゃんモニカ!かかったよ!」

「う、うん……みたい、ね。」

なぜか苦しそうに答えるモニカに、ユリスは首を傾げる。

「モニカ?……どうしたの、嬉しくないの?」

「そ、そんなわけないでしょ!……ただ、その……」

「……?」

頭上に?マークを浮かべる彼に、モニカはまともに答えられなかった。

―――――なぜかというと……

(……な、何この引き?こんなにすごいなんて……)

予想を上回る魚の力に、モニカは苦戦していたのだ。

いつも剣を振るっているから力には自信があるつもりだったが、それとこれとはまるで違っていた。

徐々に手から力が入らなくなり、足元もふらついてくる。

(……も、もうだめ……)

ついに釣竿から手を離そうとした時、横から伸びてきたユリスの手が釣竿を掴む。

「え?ユリス?」

「モニカ!手を離して、後はボクがやるから!」

「う、うん……」

言われたとおり手を離すと、ユリスは両手で釣竿を持つ。

「ぐっ!……こりゃ……すごいや……」

そう言いながらユリスは険しい表情をする。

それでもゆっくりと、しかし確実にリールを巻いて魚を引き寄せる。

持っているのがやっとだった自分とは大違いだ。

(……嘘)

正直なところ、彼より自分の方が力強いだろうと思っていたモニカは、意外な事実に驚いていた。

しかしよく考えてみると、ユリスはいつも片手で重量のあるハンマーを使って戦っているのだ。

自分より力があるのは当然かもしれない。

今更ながらそのことを理解し、魚と格闘しているユリスを見つめる。

(……案外、頼もしいとこあるじゃん……)

柄にもなくそんなことを考えたモニカは、途端に恥ずかしくなり慌てて頭を振った。

 

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに、ユリスは見事に魚を釣り上げていた。

「うっわあ〜、すっごい!こんな大きいの初めてだよ!!」

はしゃぎながら言うユリスの言葉どおり、吊り上げた魚は、2mはあるだろう巨大なものだった。

「こ、こんなに大きかったんだ……」

想像を遥かに超えた魚の大きさに、モニカは思わず呟く。流石にここまで大きいとは思っていなかった様だ。

「あっモニカ、そういえば大丈夫?」

「えっ?大丈夫って何が?」

急に心配そうな顔をして聞いてくるユリスに、モニカは尋ねた。

「何がって……さっきかなり苦しそうにしてたじゃん?手とか腫れてない?」

言われてモニカは自分の手を見る。少々赤くなっているが気にするほどの物でもないだろう。

「うん、平気。それよりユリスこそ大丈夫なの?」

「えっ、ボク?……うん、まあね」

そう言ってユリスはヒラヒラと手を振る。……別段異状はないようだ。

「あっ、そうだ。ありがとうユリス。代わりに釣ってくれて」

ふと思い出した様に、モニカはユリスに礼を言う。

「どういたしまして。……でもモニカ、辛かったんならそう言ってよね。意地張らないでさ」

「うっ……ゴメン」

ユリスにそう注意され、モニカは素直に謝る。

「……まあ、謝ること無いけど。でも、いつもはボクが迷惑かけてるんだし、こんな時ぐらい頼ってくれてもいいからさ。だから……その……」

言いながらユリスは恥ずかしげに頭を掻く。

そんな彼の言葉に、モニカは胸があったかくなるような気持ちになり、笑顔でもう一度、礼を言う。

「うん、ありがとうユリス」

「……どうも」

そっぽを向いて返事をするユリス。……その顔が赤かったのは夕日のせいだけではないだろう。

(……いつもこんな感じだったら、ユリスも格好いいのに)

彼の横顔を見ながら、モニカはそう感じた。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして………

公園を後にした二人は、すっかり暮れてしまった道を歩いていた。

手ぶらで意気揚々と歩くモニカとは対照的に、ユリスは先ほどの魚を抱えて息を切らしながら歩いている。

「モ、モニカ……ちょっと待って、すこし休もうよ」

運ぶのに疲れたユリスは立ち止まり、先を歩くモニカに声を掛ける。

「な〜に言ってるのよ!早く帰らないと夕飯に間に合わないでしょ?もっとテキパキ歩いてよ」

その言葉に振り返ったモニカは、腰に手をあてて文句を言う。

「コレを持たせておいて、よく言えるよなあ……」

彼女に聞こえないように、ユリスは小さく呟いた。

因みになぜユリスが魚を運んでいるかというと………

「こんな大きい魚なんだし、持って帰ってユリスの家の人達にも食べてもらいましょ!」

と言うモニカの思いつき(本人は思いやりと主張)で運ぶ羽目になってしまったのだ。

まあユリスとて、モニカの提案自体には文句を言う気はない。――――だけど、何でボクだけで運ばなくちゃならないんだ?

そう思って彼女に手伝いを求めると、あっさり言い返された。

「なによ、女の子にそんな重たい物持たす気?こういうのは男の子の役目でしょ!」

「……モニカ、それって男女差別なんじゃない?」

釣りをさせて欲しいとせがまれた時のやりとりを思い出し、彼はジト目でモニカに聞く。

「うっ……つ、つべこべ言わない!ほら、さっさと行くわよ!」

(……自分が不利になったからって流したな)

そっとため息をつき、ユリスは再び歩き出した彼女の後を追いながら、心の中で愚痴る。

(……そりゃあ、頼ってくれていいって言ったけどさ……だからってこれはあんまりじゃないか?)

そして、なんとなしにモニカを見やると、いきなり彼女が振り返ってユリスに話しかける。

「あ、そうそうユリス、帰ったら私の部屋のスタンド直してくれない?」

「……また壊したの?」

本日三度目の溜息をついて、ユリスは顔に手をあてる。……この手の頼みは、もう何度聞いただろうか。

―――モニカは部屋の中の家具を壊すことが多々ある。その理由はモニカに言わせると、

「だって毎日修行しないと、腕鈍っちゃうでしょ?」……との事だ。

つまり、部屋で剣を振ってる時に、勢い余って物を壊してしまうと言うわけだ。……無論、ユリスにとっては迷惑以外の何物でもない。

当然、ユリスも黙っていたわけではなく、「何で部屋の中で修行するの?」と、至極もっともな意見を言ったのだが、モニカに

「だって部屋の中の方が快適でしょ?ユリスの家、空調設備バッチリだし」

と、平然と答えられて言い返せない始末である。

(後で修理するボクの身にもなってよ……)

そう思わずにはいられないユリスだが、戦闘中はいつも彼女に助けられている身でもあるので、強く『修行するな』と言うことはできず、

結局後で嫌々ながらも直すというのが、彼の習慣になっていた。

…と、今までのことを振り返ったユリスは、またしても溜息をつく。

(まったく……ボクは便利屋じゃないんだからね)

そんな彼の心情を知ってか知らずか、モニカは照れ笑いを浮かべながら言う。

「あははっ……その、ちょっと気合いれすぎちゃって……だから、ね?」

「……わかったよ」

ユリスは渋々引き受けた。途端、彼女は大げさに感謝の意を表す。

「さっすがユリス!頼りになるわ!」

「…昨日は頼りないって言ってなかったっけ?」

ユリスがジト目で尋ねると、モニカは白々しく首を傾げて言う。

「え〜どうだったかしら?覚えてないわね〜。」

「……調子のいい奴」

彼がボソッと呟くと、

「……なんか言った?」

キュイィィンと左手の魔法の腕輪を光らせながら、凍りついた笑顔で言うモニカに、ユリスは慌てて首を振った。

「な、何も言ってないよ!」

「……ふ〜〜〜〜〜ん?」

まだ疑念の表情で自分を見るモニカに、ユリスは内心冷や汗をかく。が、彼女はそれ以上追及せず、

「……まあいいわ。それはそうとして……」

と言いながら、ゆっくりとユリスに近づいた。

「ユリス、あのね……」

「……何?まだ頼みごとがあるの?」

いい加減うんざりしたような顔で答える彼に、モニカは笑いながら首を振って、彼の耳元にそっと囁いた。

「……ってね。」

「……!?」

それを聞くと、ユリスは暗闇でもハッキリ分かるくらい真っ赤になった。

「それじゃ、私は先に行くね!ユリスも早く来なさいよ!」

そういって駆け出すモニカをしばし呆然と見つめていたユリスだが、やがてゆっくりと歩き出した。

(……ボクってこれからもこんな調子でモニカに振り回されっぱなしなんだろうか?)

未だ赤い顔のまま自問する。……だが、それも悪くないのかもしれないと思ってしまう自分がいるのに、ユリスは気づいていた。

「……僕も今日からトレーニングでもしようかな」

――――モニカの願いに応えられるように……

密かにそう決意したユリスは、彼女を追って自宅への道を急いだ。

 

 

囁かれた彼女の言葉、それは……

――――本当に頼りにしてるんだよ?今日のユリス格好よかったもん。……戦闘中でもあんな風になってね

 

 

それからユリスの戦闘中での活躍が目覚しくなったのは、あえて語る必要も無いだろう。

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

ダーククロニクル小説一作目。一応ユリス×モニカ・・・・のつもりです()

時間軸は、三章に行く直前ぐらいだと思ってください。

ゲームでの雰囲気から言って、冒険中の二人はこのくらいが限度ではないかと。

いわゆる、ほのぼの系ってやつですね(それになってるかどうか、かなり怪しいですが・・・・)

話として、色々ツッコミたい所もあるでしょうが、少しでも楽しんで頂けたのなら幸いです。では。

 

 

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