Surprise Costume

 

 

 

「……」

ベニーティオの桟橋で釣り糸を垂らしながら、ユリスはボンヤリとしていた。

「釣れないなあ……」

し始めてから一刻ほど経つが、吊り上げるどころかアタリさえ来ない。

今日はもうダメだと思ったユリスは釣具を片付け、他にすることもなく海を眺める事にした。

「……」

時刻はちょうど夕暮れ。一日に勤めを終えた太陽が、空と海をオレンジに染めながら沈んでいく光景はなかなかの物だ。

「綺麗、だな。」

それを見ていると、何故か感傷的な気分になり、ユリスはふうっと溜息をついた。

「……にしても、遅いな〜モニカ。」

ふと、ここにいないパートナーの事を思い出し、彼は停車場の方に目をやる。

随分前に彼女が乗って行ったバース壱号は、未だ帰ってきてなかった。

「そんなに凄いものでもあったのかな?」

疑問を口にしながら、ユリスは再び海に視線を戻した。

 

 

 

 

 

 

――――――数時間前。

「やっぱりここは、何時来ても気持ち良いわね」

「うん。何か心が安らぐよ」

ユリスとモニカは休憩がてら、ベニーティオを訪れていた。

今まで色んな土地を見てきてが、やはりリラックスをするのならこの場所に限る。

「最近戦ってばっかりだったからね。しばらく休暇にしようよ」

「さんせ〜い!いくら世界の危機とは言っても、たまには休まないと体がもたないわ」

言いながらモニカは、桟橋の上にゴロンと寝転んだ。

「ははっ、そうだね」

ユリスも彼女の横に座り、何気なく空を見上げる。

すると、いくつものカモメが悠々と飛び回っているのが目に映り、彼にはそれが平和を象徴しているかのように思えた。

(……って言っても、まだなんだよな。)

そう。グリフォンを倒さない限り、この世界に真の平和は訪れない。ここが平和と言っても、それは一時的なものにすぎない。

(近いうちに必ず、グリフォンを倒してみせる!)

改めてユリスが決意すると、モニカがふと思い出したように身を起こし、彼に話しかけた。

「あっ、そうそうユリス。これ」

そう言って彼女はポケットから、一枚の小さなメダルを取り出し、ユリスに手渡す。

「これって……」

「メダルよ。さっきのダンジョンで見つけたの。君、集めてたでしょ?」

「あっ、うん。ありがとうモニカ」

受け取ったメダルを専用の箱にしまいながら、彼は礼を言った。

「でもさあ、それって結局何なの?」

すごく貴重なものとか?と聞いてくるモニカに、ユリスはバツが悪そうに答えた。

「いや実は…僕も何か知らないんだ」

「ええ〜〜っ!?なにそれ!?何にも知らない物集めてたの?」

そう言って、彼女は呆れた表情を浮かべた。

「だ、だって……いろんな所で見つかるから、何かあるのかなあ〜〜って……」

「はあっ、な〜〜んだ。ちょっと期待してたんだけどなあ、お宝とかじゃないかなって」

心底残念そうに、モニカは呟く。

「う、ゴメン」

ユリスが謝ると「別にいいわよ」と彼女は苦笑し、次いでもう一度確認するように彼に尋ねた。

「でもユリス、本当にそのメダルが何か知らないの?」

「う〜〜〜ん……」

腕組みをしてユリスは空を見上げる。

そして、しばらくそのまま時が過ぎ、モニカが「ねえ」と声を掛けたとき、

「あっ!そう言えば……」

「何?何か分ったの!?」

目を輝かせる彼女に少し怯みながら、ユリスは「う、うん、確か……」と前置きをして言った。

「ニード町長が、コインだかメダルだかを収集するのが、趣味だったってのを思い出したんだ」

「町長が?」

「うん」

彼は頷き、ホルダーから一枚のメダルを取り出して眺める。

「で、これと似たような物も、集めてた気がするんだ。だから……」

「だから?」

「これ持っていったら、何かお礼が貰えるかもしれないなって」

「ええ〜〜っ!?それって凄いじゃない!あ〜〜何が貰えるんだろう?」

先刻以上に瞳を輝かせ、一人色々と想像しているモニカに、ユリスは水を差した。

「でも、あんまり期待しないほうがいいよ」

「えっ?何でよ?」

彼女が不満そうに聞き返すと、彼は一言。

「あの町長だよ?」

「……確かに」

モニカはコックリと頷いた。……同時刻、ニード町長が「ヘクション!!」と大きなクシャミをしたらしい。

「でも、何か貰えるんでしょ?だったら遠慮なく貰わなきゃ!今から行くわよ!!」

「え?い、今から!?」

ユリスが驚いて聞き返すと、

「当たり前でしょ?善は急げって言うじゃない!」

「……」

この様子じゃ、何を言っても無駄だろう。

彼はため息をつき、彼女にメダルホルダーを渡した。

「えっ?ユリス?」

「…・僕はいいから、モニカが貰ってきてよ。これは全部あげて良いから」

「い、いいの?殆ど君が集めたんだよ?」

戸惑いながら尋ねるモニカに、ユリスは苦笑して手を振った。

「別にいいよ。ホントにただ集めてただけだし。……ほら、早く行っておいでよ。僕はここで釣りでもしとくからさ」

「ユリス……」

彼女はしばし、メダルと彼の顔を交互に見比べていたが、やがて笑みを浮かべていった。

「うん!じゃあユリスにも何か貰ってきてあげるね!じゃあ、すぐ帰ってくるから!!」

言うなりモニカは停車場へ駆け出し、バース壱号を乗り込む。

汽笛を吹き鳴らし、バース一号はバームブリンクスへと発車した。

 

 

 

 

 

 

 

 

……と、こんな事があって今に至る。

あれからユリスはずっとモニカの帰りを待っている訳だが、いい加減待ちくたびれていた。

空は段々と夕闇に包まれてくる。彼女が行ってから、もう三時間が経とうとしていた。

「……いくらなんでも遅すぎないか?」

声に出すと、妙な不安が胸に過ぎる。彼は落ち着きなく立ち上がり、停車場を眺めた。

(まさか、何か事故でもあったんじゃ……)

そう思った途端、ユリスの不安はピークに達し、彼は停車場へと駆け出そうとしたその瞬間、

聞きなれた汽笛の音と共に、バース壱号が姿を現した。

駆け出そうとしていたユリスは足を止め、ほっと胸をなでおろす。……どうやら杞憂だったらしい。

「ユ〜リ〜ス〜!ゴメ〜ン遅くなって!!」

暗くてよく見えないが、ドアから出てきたモニカがこちらに手を振っているようだ。

「モニカ〜!!何か良い物貰ったの!?」

ユリスも手を振りながら叫び返すと、

「うん!今からいくから、ちょっと待っててーーー!!」

言いながらこちらへ駆けてくる彼女に、知れず笑みが零れる。

(こりゃ、相当気に入ったものを貰ったんだな)

と、その時、足元に転がっていた小石が、片足にぶつかって音を立てて海に落ちる。

その音を聞いて何気なくその海面にやったユリスは、珍しい物を発見した。

「!うわあ……」

ルナストーン、だろうか?海に沈んでいる小さな粒が、丁度空に顔を出し始めた月の光を反射し、キラキラと輝いていた。

「これは……凄いな」

我知らず呟くと、すぐ後ろから声がした。

「何が?」

……モニカだ。どうやら自分でも気づかぬうちに、しばし見入っていたようだ。

「あっ、モニカ。凄いんだよ、ここ。ほら海面が光って……」

と言いながら振り返ったユリスは、声にならない叫び声をあげた。

「!!!!????」

思わずぎょっとして彼女に背中を向ける。…………と、その拍子に足を踏み外して、海に落ちてしまった。

「ちょっ、ユリス!君なにやってるの!?」

「う……ぺっ……な、何やってるって!……その……わぷっ……」

落ちた拍子に海水を飲んでしまい、まともに喋れない彼は溺れるかのように手足をバタつかせた。

「はあ〜っ……本当になにやってんのよ?」

呆れたモニカは自分も海に飛び降り、ジタバタしていたユリスの片手を掴んで立たせてやる。

「ほらっ、そんなに深くないんだから。ちゃんと立って。」

「あ、ありがと。……って、わああああっっ!!!」

決まり悪げに礼を言いかけたユリスは、目の前にいた彼女の姿に叫びながら目をそらす。

「な、何よ?私を見てそんな叫ぶなんて、失礼なんじゃない?」

「なななななな、何なんだよ、その格好はっ!?」

目をそらしたまま、ユリスはモニカを指差して怒鳴った。

「何だよって……そんなに変?これ」

「へへへへ、変とかじゃなくて!!」

舌がもつれて上手く喋れない彼に、彼女はキョトンとして首をかしげた。

――――モニカの今の服装について説明しておく。

今のモニカは肌の殆どを露出し、胸と下半身のごく一部のみを隠しているだけの……所謂ビキニ姿である。

オマケに虎の足を模ったブーツを履き、頭には何の意味があるのか、鈴つきのつけ耳をしている。

健全なる男の子にはかなりキツイ格好である。まして、少し気になっている女の子なら尚更だ。

「なな、なんでそんな格好してるかって聞いてるんだよ!」

「なんでって、町長がくれたのよ。メダル集めてくれたお礼だって」

「〜〜〜っ!!??(な、何でこんなの持ってるんだ、あの町長は!?趣味か!?趣味なのか!?)

彼はこの時、本当にパームブリンクスをニード町長に任せておいていいのかと、真剣に苦悩した。

そんなユリスの心情を知る由もないモニカは、のんきに口を開く。

「メダル持ってったら、すっごく喜んでくれたのよ!で、何か服をプレゼントしてくれるって言うから……」

「そ、それを選んだの、君?」

冗談だろ?といった顔で尋ねるユリスに、彼女は頬を掻きながら言う。

「う〜〜ん、選んだって言うか、町長がオススメって言うから、なんとなく」

その言葉に彼はガクッと項垂れ、そして確信した。―――――ダメだ。あんな人に町を任せてたらお終いだ。

(早いとこ誰か別の人が町長になった方が……って次期町長候補はモートンさんだっけ?あんまり変わんない気が……いや、でもまだ……)

一人悩み始めたユリスに、モニカは怪訝そうに尋ねた。

「どうしたの、ユリス?」

「へっ?あっ、いや別に……」

一度彼女を振り返り、すぐさま彼は視線をそらす。そんなユリスの行動に、モニカはしびれを切らして言った。

「あーーーっ!!さっきから何なのよ!?人を見たり見なかったり!」

「な、何なのよって……それは、その…………」

あちこちに視線を巡らせながら、彼はごにょごにょと言葉を濁す。

と、その時、ピューッと夜風が通り過ぎ、びしょ濡れになっていたユリスは大きなくしゃみをした。

「ハックション!!」

「うっ、寒!……ユリス、とりあえず海から出ましょう。風邪ひいちゃうわ」

「そ、そうだね」

慌てて海から上がった二人は、とりあえず元いた桟橋まで戻った。

「あ〜〜〜どうしよう?この服?」

海水でベトベトになっている服を引っ張りながら、ユリスは頭を掻く。

「大丈夫よ。ユリスの服も貰ってきたから」

そう言ってモニカは、大きな紙袋を彼に手渡した。

「これ?」

「そうよ。私がすっごく悩んで選んであげたんだから!」

感謝しなさいよ、と続ける彼女に、ユリスは心配げに尋ねる。

「…………変なのじゃないよね?」

「あ〜〜何よ?信じてないの?」

「いや、だってさ……」

なおも食い下がろうとする彼を、モニカは一喝した。

「つべこべ言ってないで、さっさと着替える!!」

「は、はい!」

思わず返事をし、ユリスはおずおずと近くの物陰で着替えを始めた。

 

 

 

 

 

 

―――――しばらくして、

「モニカ……何これ?」

ユリスが顔中に不満の色を浮かべながら、物陰から顔を出した。

「へえ〜ユリス、案外似合ってるじゃない」

「……質問に答えてよ。何だよ、これは?」

「何って、見ての通りよ」

アッサリと言い放ったモニカに、彼は額に手を当てて俯いた。

…………ユリスが今着ているのは、白と青の縦縞が目立つ、ピエロの衣装だ。靴の先や帽子の先端に、赤い玉までついている。

いったい何を思ってこんなのを選んできたのか、彼は心底理解できずに項垂れる。

と、そんなユリスに追い討ちをかけるように、

「あっ、そうそう。はい、ユリス。これもつけてね」

言いながらモニカは、どこから持ってきたのか、ピエロのお面を取り出して、彼の顔につけた。

「うっわ〜完璧じゃない!誰がどう見てもピエロにしか見えないわ」

「……あのね」

荒っぽくお面を外しながら、ユリスはワナワナと肩を震わして呟く。

「?どうしたの、ユリス?」

「モニカ、君は一体何を考えてるの?何でボクがピエロの格好をしなきゃいけないの?」

「似合うと思ったから」

アッサリと言われ、彼はその場に崩れ落ちそうになるのを何とか堪えた。

「…………それだけ?」

「うん」

「……あっそ」

もはや言い返す気力もなくなり、ユリスは盛大に溜息をついた。

「ちょ、ちょっと何よ!?そのため息は!?」

モニカが憤慨して問い詰めてきたが、それすら答える気になれず、彼ははぐらかす。

「何でもないよ。それより……」

「ん?」

そっぽを向きながら、ユリスはモニカに頼んだ。

「い、いい加減着替えてくれないかな?それ……」

幾分見慣れて(と言うのも変だが)きたとはいえ、やはり今の彼女の格好は目の毒だ。

ところがモニカは、とんでもない事を口にする。

「着替えるって、無理よ。着てた服はパームブリンクスで置いてきちゃったもの。」

「………………は?」

――――今のはボクの聞き間違いか?いや、そうだ、そうに違いない。

自分にそう言い聞かせながら、ユリスは恐る恐る確認した。

「えっと、まさか、町でそれ着てココまで来たわけじゃ…………ないよね?」

「?……そうだけど?」

今度は耐え切れず、彼はその場に崩れ落ちた。

「……モ、モニカ。君は本当に女の子?」

よろよろと立ち上がりながら、彼は心底呆れたように彼女に尋ねる。

「な、何それ、どういう意味よ!?」

気色ばむモニカは、腰に手を当てて言い寄った。

「だ、だってさ……その……」

ハッキリ言おうかと一瞬思ったユリスだったが、やっぱり恥ずかしくて結局言いよどんだ。

「……なんでもない。それよりさ、早く戻ろうよ。随分暗くなっちゃったし」

「えっ?あっ、うん、そうね」

頷いて支度を始めたモニカに、彼は自分の荷物から一枚の大きな布を取り出して、彼女に放った。

「?ユリス、これは?」

「……その格好じゃ寒いでしょ?それでも体に巻いてて」

「えっ、でも…いいわよ別に。すぐにバース壱号に乗るんだし」

そう言いつつ返そうとしたモニカを制し、ユリスは俯きながら言った。

「頼むから着てよ……」

「?ユリス、本当にどうしたの、さっきから変だよ君?」

「……」

もはや何も言えず、彼は何でもないという様に、静かに首を振った。

(もう少し、恥じらいってのを持って欲しいよなあ……)

先行く彼女の後に続きながら、そんなことを思うユリスであった。

 

 

 

 

 

 

 

――――――翌日。

「ニード町長」

ユリスは役場を訪れていた。

(ギクッ)お、おおユリスか。ど、どうしたんだ?そんな怖い顔して」

「……ボク知らなかったよ。町長にあんな趣味があったなんてさ」

(ギクギクッ)な、何の事かな?」

「しかも、よりによって王女に着せるなんてさ。一体なに考えてるの?」

「し、仕方ないじゃろ!?クレアがどうしても着てくれないんじゃから!この際モニカで我慢し……ハッ!?」

(ピキッ)へえ〜〜〜〜〜?そういう事だったんだ〜〜〜〜?(ジャキッ)

(滝汗)あ、う、そ、そうじゃユリス。ピエロの衣装はどうじゃった?な、中々の物じゃった……ってオ、オイ!じ、銃を下ろせ!!」

(にっこり)大丈夫だよ町長。急所は外してあげるから。死にはしないよ、多分ね」

「ち、ちょっと待てユリス!わ、わしが悪かっ……」

必死に弁明する町長に構わず、彼の指はゆっくりとトリガーを引いた。

「ぎゃあああああっっ!!!!!」

 

 

 

 

 

―――――そして、その日の夕刊のトップには、

『ニード町長変態疑惑!?ユリスが成敗!!』

とかいう記事が載ったとか、載らなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

次の長編への息抜きに書いた話。そんな訳でキャラが壊れています(笑)

ユリスは最後黒いし、町長は完全なギャグだし・・・・・・モニカは天然か?(聞くな)

あと余談ですが、悠士はハッキリ言ってパンサーセパレートは嫌いです。

今回はネタが浮かんでから書きましたが、ゲームじゃ一回も着せたことありません。

いくら何でもアレはねえ・・・・場違いというか、狙いすぎというか。とにかく好きになれません。

反対にユリスのピエロ衣装は、結構気にいってたりします。顔が怖いけど(笑)

と、無駄な話はここまでにしておきます。そろそろ長編のモニカ編書かないと・・・(汗)では。

 

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