〜PSI〜
――――PSI…………超能力と呼ばれる力。
空想の産物だと思っていたけど、本当にあった不思議な力。そんなものを……ぼくは、どうして使えるんだろう?
「うわあ……ここを通るのか」
暗く狭い洞窟を抜けて外に出たネスは、目の前に広がる渓谷―――グレートフルデッドに思わずうんざりした声を上げた。
ただでさえ洞窟の中で、動き回る芽やらキノコやらと戦って体力を消耗しているのに、こんな険しい谷を通らなきゃならない、
なんていうのは正直遠慮したい。
(……でも、行かなきゃいけないよな。やっぱり……)
夢の中で自分に助けを求めてきた少女―――ポーラは、この谷の山小屋に囚われているのかもしれないのだ。
それならば、何としても行かなければならないだろう。まだ顔すら知らないが、彼女は共に地球を救う使命を背負った仲間……のはずだから。
「……行こう」
大きく深呼吸し、ネスは歩き出した。
「ふう……本当、遠いなあ……」
―――あれから、一時間。未だネスは黙々と道を歩いていた。
時々、山小屋がないか周囲に目をやるが、行けども行けども見えるのは同じような景色ばかり。
いい加減うんざりしてくるが、今更引き返すわけにもいかず、ネスは大きく溜息をついた。
「……はあっ」
すると、余計に疲労感が増してきて、ネスは辺りに敵がいないのを確認した後、その場に腰をおろした。
「本当に山小屋なんてあるのかなあ?」
疲れのせいか、ついそんな弱音が漏れる。が、そんなことばかり言ってはいられない。
こうしている間にも、ポーラは危険な目にあっているかもしれないのだ。それにまだまだこの渓谷は続いている。諦めるにはまだ早い。
「……そうだよな。頑張ろう!」
そう思ったネスは再び立ち上がり、先へ進もうと歩き出した。が、その時……
「……?」
不意に何か宙を飛ぶような、どう考えても自然に発生するものではない音が、ネスの耳に聞こえた。
(何かいる……のかな?)
ネスは注意深く辺りに視線を巡らせる。と、次の瞬間、全身の肌が鳥肌を立てて、彼はハッとしてとある方向に振り返った。
「?……何だ?……うわっ!!?」
刹那、間の前で閃光が奔り、ネスは反射的に眼を閉じてたじろぐ。
同時に何か熱い物が肌を掠め、小さな痛みを覚えた彼は即座にある考えに至った。
(!……敵か!!)
――――多分、間違いないだろう。
ネスは未だ不快感の残る眼を無理やり開け、自分に攻撃―――恐らく、ビームか何かを撃ってきた敵を見据える。
しかし、その敵の姿を確認した途端、彼は少々緊張感に欠ける声で呟いた。
「えっ?……ゆ、UFO……?」
……そう、そこには小型ではあるが、確かにUFOとしか言いようのない物体がフヨフヨと浮かんでいた。
(……ハッ!?)
しばらく呆けていたネスだったが、それが敵だと分かると我に返り、慌ててバットを構える。
すると、再びUFOがビームを放ってきた。
「!!」
「当たるか!」
それを飛んでかわし、そのままの勢いでネスはUFOにバットを振り下ろす。
「やあっ!!」
渾身の力を込めたその一撃は、決まれば一発でUFOを破壊できるほどの威力を秘めていた。……だが、
「……!?くそっ、素早い!!」
機敏に空中を動き回るUFOに、ネスの攻撃は掠りもせず空しく外れてしまう。
と、間髪いれずUFOが二、三発のビームを連射してきた。
「……くっ!」
それら必死に避けながら、ネスも隙を突いて攻撃するが、如何せん相手の動きが機敏すぎる。
バットは一回もUFOに当たらず、ただただ空を切るだけだった。
(直接攻撃じゃダメか。……だったら!)
このままでは埒があかないと思ったネスは、不意にUFOから離れて精神を集中し始めた。
(PSIを使うしか……ないよな!)
PSI―――超能力と呼ばれる力。その力は複数の相手に大ダメージを与えたり、怪我を治癒したりと様々な効果をもたらす。
中々攻撃が当たらないこの敵にも、PSIなら致命的なダメージを与えられる―――ネスはそう判断したのだ。
しかし、今ココでPSIを使うのは正直避けたかった。なぜならPSIを使うには、多大な精神力を要するからだ。
洞窟の中でかなり精神力を消耗している上、この先もっと強力な敵がいるかもしれないと思うと気が進まない。
だが、今の状況でそんな事を言っていられない。やられたら元も子も無いのだから……
突如攻撃をやめたネスに、UFOは戸惑ったのか何もしてこない。チャンスだと思ったネスは、更に精神を集中する。
……だがこの時、ネスは後方から自分を狙っている影に気がついていなかった。
突然後方から撃たれたビームが、精神集中していたネスを襲う。
「……なっ!?」
その音にハッとし、精神集中を解いて避けようとしたネスだったが遅かった。ビームはネスの右足を直撃し、激痛が走る。
「ぐっ……!」
ネスは思わずしゃがみ込んで右足を押さえ、ビームを撃ってきた相手を見る。
ソイツはなんとも形容しがたい、まるでオモチャのような機械だった。
(な、何なんだコイツ!?)
思わずそちらの敵に気をとられてしまったネスに隙が生まれる。
彼の眼の前にいたUFOは、その隙を見逃さずにビームを撃ってきた。
「うわっ!!」
慌てて避けようとしたネスだったが、右足の痛みが邪魔して即座に動くことができず、反射的にバットを盾にする。
しかし、木製のバットにも拘らずその行為をする事は、あまり賢いとは言えなかった。
事実どうにかビームの直撃は避けられたものの、バットは勢い良く燃え上がり燃えカスとなる。
丸腰になってしまったネスは、自分を囲む様に陣取る二体の敵を睨み付けた。
(……マズイな……)
痛みを堪えて立ち上がった彼の背中に、冷たい汗が流れる。
武器はもう無い上、右は行き止まりで左は崖。おまけに挟み撃ちにされているから逃げ場もない。……かなり絶望的な状況だ。
とは言え、このまま黙ってやれるわけにはいかない。無意識に浮かんでくる恐怖心を抑えながら、ネスは必死で考えを巡らした。
(……なんとか、コイツらを固まらせないと)
ネスはそう思いながら、グッと拳を握る。丸腰になった以上、もはやPSIに頼るしか術は無い。
だが、ネスが使える唯一の攻撃系PSIは精神力の消耗が激しく、二発撃てるほどの余力は今の彼にはない。
どうにかして、一発でこの二体を倒さなければならなかった。
(誘き寄せる……にしたって……っ!……よし!一か八かだ!)
ネスがある考えに至った時、、二体の敵が同時にビームを撃つ。
咄嗟に前転してビームをかわしたネスは、崖の方へ猛然と走り出した。
(……痛っ!)
走っている最中、右足がズキズキと痛むがそんなことに構って入られない。
そして、なんとか崖にたどり着いたネスは、毅然とした表情で振り向き、追いかけてきた二体の敵と向かい合った。
(……よし……後は、タイミングを……)
二体がゆっくりと近づいてくる。そして、それに合わせてネスもジリジリと後退する。しばらく同じ動きが続いた。
……だが、それも長くは続かなかった。とうとう崖っぷちに追いやられたネスの動きが止まる。踵に当たった小石が音を立てて川に落ちた。
「!」
それが合図であったかのように、二体が無数のビームを連射する。
しかしネスは、今度は避けようともせずに右手を胸の前に突き出し、叫ぶ。
「シールドα!!」
その声に反応して、ネスの体を光のシールドが包み込む。敵が撃ってきたビームはそのシールドに当たり、次々と消滅した。
いくつかのビームはシールドを突き抜けてきたが、減衰していて当たっても大したダメージではない。
それに動揺したのか、二体の敵は一瞬たじろぐような挙動をみせた。
「「……!!」」
(……今だ!!)
今度は両手を突き出し、ネスは声の限りに叫ぶ。
「PKドラグーンαーーーーー!!!」
両手から放たれた念動波が、四方八方から二体を襲いかかる。……これがネスの必殺のPSI―――PKドラグーンであった。
それはあまりにも強力で、二体の敵は避ける事も防ぐことも出来ずに喰らい、派手な爆発音を立てて粉々に吹き飛ぶ。
やがて辺りに静寂が戻り、戦いが終わったと判断したネスは、一つ安堵の溜息をついた。
だが、その途端ビームの直撃を受けた右足が痛み出す。
「痛っ……っ……このままじゃつらいな」
その場に座り込み、ネスは傷口を見やる。もう出血は止まっているが、放っておいて良い物ではなさそうだ。
(まだなんとか、使えたらいいんだけど……)
そう思いながら傷口に右手を翳して、ネスは呟いた。
「ライフアップα」
すると右手から出た暖かな光が傷口を覆い、瞬く間に傷は完治した。
「ふうっ、コレで良しっと」
言いながらネスは立ち上がる。右足の痛みはもうせず、動いても差し支えないみたいだ。
……が、頭が少しボンヤリする。どうやら先ほどのPSIで精神力をほとんど使ってしまったらしい。
そうと分かるとやや心許ないが、ともあれ敵は倒し傷も治った。後は一刻も早く、ポーラのいる山小屋を見つけるだけだ。
「さてと……だいぶ時間くっちゃったけど、行こうか。
辺りの地面に転がっている、先ほどの敵の残骸を尻目に、ネスは先へと歩き出した。
(それにしても……)
地道にグレートフルデットを歩きながら、ふとネスは思った。
(……さっきの敵は何だったんだろう?)
今までネスは戦ってきた敵は、ギーグの悪の気に影響された動物や人間、それに異常進化した植物ばかりだった。
だが、先ほどの敵はどう考えてもソレらではない。……明らかに、人為的に作られたロボットだ。
「アレが……ギーグの手下?」
思わずネスは呟く。確証はなかったが、多分間違っていないだろうと彼は思った。
……アレがギーグの手下というならば、これから戦うことも多くなってくることだろう。
そう思うと不安が胸をよぎる。―――あんな強敵と、戦っていかなくてはならないのか?
だが、逃げ出すわけにはいかない。未だ信じられないが、自分は地球を救うという使命を背負っているのだから。
――――そのために、この冒険をしているのだから……
そこまで考えて、ネスはそっと自分の手を見つめながら呟いた。
「ひょっとして、そんな使命を背負う運命だったから……ぼくはPSIを使えるんだろうか?」
自問なのか、誰かに問いかけているのか分からないその言葉は、ただ宙に舞い、消えた。
――――どうしてぼくはPSIが使えるんだろう?
それはネスが旅立ってから、幾度と無く感じた疑問だった。しかし、その答えは依然として見つかっていない。
――――確かに昔から、自分はちょっと不思議な力があった。
母親の話では、自分は赤ちゃんの頃に指差した物を少しではあるが動かしいたらしい。
幼児の時もやれアイスのクジだとか、懸賞だとか、そういう運が関係するものには良く当たっていた。
だが、そんな事をこれまでネスは、別段深く考えた事はない。
クジの類の事は、自分は運が良いんだと片付けていたし、母親の話にしたって、記憶に残っていないのだから実感が持てなかった。
しかし、ここ一年程からネスは、自分はちょっと特殊なんだと思い始める様になっている。
動物の言葉が何となく分かったり、明日の天気が分かったり、学校のテストの内容が分かったり……そんなことが出来るようになっていた。
そして数日前。全ての始まりであった、あの『オネット隕石落下事件』
その時ネスは、突然やって着た未来人―――ブンブーンから、自分はPSIが使え、今までの不思議な出来事もPSIのおかげだと知らされた。
同時に銀河宇宙最大の支配主―――ギーグの存在や、自分と三人の仲間が地球を救う使命を背負っているという事も……
「……」
ネスはその場に立ち止まり、何気なく空を見上げた。
――――あの時、自分はPSIが使えるという事を聞いて、どう思っていただろうか?
懸命に記憶を辿るが、数日前の事なのによく思い出せない。
不安がっていた様な気もするし、カッコイイと思って喜んでいたような気もしないでもない。……そしてそれは今でも同じだ。
PSIを戦いの中で使う瞬間は、何ともいえない高揚感が体の中を駆け巡る。だがその一方で、自分の持つ力の恐ろしさに怯えることもある。
いとも簡単に敵を撃破し、一瞬で傷をも治してしまう、不思議な力PSI……それは、自分が地球を救うという使命を背負っていると
決まっていたから、生まれつき備わっていたのだろうか?それとも、何か別の理由で……?
「……」
空を見上げたまま、ネスは思う。
―――いつか、その答えが出るのだろうか?なぜ自分がPSIを使えるのかという問いの答えが……
そんな思いを心に宿しながら、やがてネスは再び歩き出した。
(……いつか、いつかきっと分かるさ。この力……PSIを、ぼくがなぜ使えるのか?
だから今は…何も考えないでいよう…考えたって分からないんだから……)
―――答えはこの冒険で見つかるのだろうか?そもそも、答えなんてあるのだろうか?
そんな思いがネス達の胸をよぎるが、それでも彼らは歩み続けるしかなかった。この冒険の果てに、きっと答えがあると信じて……
あとがき
MOTHER2小説一作目。PSIについてのお話です。
プレイしていてふと、ネスたちは何で超能力が使えるんだろうと疑問に思い、それを書いてみました。
作中に出ているネスのPSIの名前ですが、これは悠士のプレイ時の名前です。
本当はキアイに戻そうかなとも思ったんですが、別にいいかなと思ってそのままにしました。
それでもってこの話、いかにも続きがありそうな話ですが……今の所、続編の予定はありません(汗)
まあ、評判がよければ書くかもしれませんが…一応これで完結のつもりですので。
次はシリアスじゃない話をUPする予定です。では。