〜恋人報告?〜

 

 

 

 

―――――ポーラ救出の旨を、彼女の両親に報告し終えた矢先。

「ねえ、ネス」

「ん?何、ポーラ?」

これからの事を考えていたネスは、ポーラの問いに上の空の返事をする。そんな彼に、彼女はとんでもない事を言い出した。

「私、あなたの家族にも挨拶しておきたいんだけど」

「ああ、別にいい…………てっ?ええええええええっ!!?」

思わず頷きかけたネスだったが、すぐさま目を丸くし、素っ頓狂な声を出す。

そんな彼の様子に、ポーラは少々戸惑いながら口を開いた。

「ネ、ネス!?わ、私、何か変な事言った?」

「い、いや……別に……その……」

彼女から視線を逸らしつつ、ネスはハッピーハッピー村で、母親の電話を掛けたときの事を思い出す。

 

 

 

……

…………

―――――ハッピーハッピー村のドラッグストア。

あれこれと買う物を選んでいるポーラを横に、ネスはポケットからコインを取り出し、自宅へと電話を掛けた。

『はい、もしもし?』

『あ、ママ?僕だけど……』

『まあ、ネス!こっちは皆、元気でやっているわよ。貴方は?』

『うん、僕も元気だよ』

『そう、それなら良いわ。ところで……』

『えっ?』 

突然、妙に間を空けた母親に、ネスは怪訝そうな声を出す。すると直後、彼の耳に衝撃的な言葉が飛び込んできた。

『ネス、貴方……旅先でガールフレンドが出来たでしょ?』

(っ!?)

突拍子もないその言葉に、思わずネスは電話機に頭をぶつける。

「!?ネ、ネス!?ど、どうしたの!?」

「てて……あ、い、いや!何でもない何でもない!!」

思わず打ち付けた頭を摩り、受話器を押さえながら、ネスはこちらに振り返ったポーラに手を振る。

「……どう見ても、何でもない様には見えないんだけど?」

「ほ、本当に何でもないって!」

「……じゃあ、何で電話に頭をぶつけて……」

「あ、ああっ……!そ、それは、ちょっと……か、身体がぐらついちゃって……!!」

「?……変なネス」

そう言って再び買い物を始めたポーラに安堵しつつ、ネスは電話越しの母親に、小声で文句を言った。

『マ、ママ!……い、いきなり何言い出すんだよ!?』

『あら、違ったの?……そんな訳ないわよね。その反応を見るに』

『!!ち、違……』

彼はどうにか反論しようとするが、頭が混乱して言葉が出てこない。

次第に意味不明な声を出し始めた我が息子に、ママは可笑しそうに笑いながら言った。

『くすくす……まあいいわ。どうせ近くにいるんでしょ?ママがよろしくって、言っておいて』

『な、何言って……』

『ああ、そうそう。報告はいつでもいいわ。でも、なるべくなら近いうちにお願いね。それじゃ、バーイ♪』

『ち、ちょっと!ママ!?』

……

…………

 

 

 

「…………」

回想を終えたネスは、困った様に頬を掻く。

(今、ポーラを連れて帰るとなあ……)

『まあ、ネス!報告の為に、わざわざ帰ってくるなんて!よっぽど自慢のガールフレンドなのね!』

(……とか言われるだろうしなあ……絶対……)

そして、それに対して自分が慌てふためくのも、容易に想像できる。

―――――気が進まない……全くもって気が進まない……しかし……

「ネス……ダメなの?」

(……う……)

この時の彼の苦悩が、理解できるだろうか?

少々残念そうな顔で自分を見つめてくるポーラ。……彼女を見ていると、どうしても首を横に振る事が出来ないのだ。

(……はあっ……腹を括るか……)

心の中で溜息をつきながら、ネスは首を縦に振り、口を開く。

「……じゃあ、今から行こうか?」

その言葉に、ポーラは花が咲いた様な笑みを零した。

 

 

 

 

 

――――オネット 

「うわあ……静かで素敵な所。ネスのお家って、こんな所にあるのね」

オネット郊外へと続く道を歩いている途中で、ポーラは周りを見渡しながらそう呟く。

それを聞いて、ネスは少し照れた様な笑みを浮かべた。

「い、いや……そんなに褒められる所じゃないと思うけど……」

「そんな事ないわ。ここじゃ、きっと夜も静かなんでしょ?羨ましいわ。私のお家……夜でも車が近くを通って、眠れない時あるから」

「そ、そうなんだ……」

初めて聞いた都会の生活問題()に、ネスは戸惑った表情をする。……と、そうこうしているうちに、二人はネスの家に到着した。

「ここが、僕の家」

「うわあ……小さくて、可愛いお家ね」

「ははっ、ありがとう。……さてと」

笑顔で感想を述べているポーラの横で、ネスは一つ深呼吸をした後、ゆっくりと呼び鈴を鳴らした。

短い音が鳴り響いて数秒後、パタパタという足音がドア越しに近づいてくる。

そして、その足音が間近まで迫った時、カチャリという音と共にドアが開かれた。

「は〜〜〜い、どちら様で……って、お、お兄ちゃん!?」

「ト、トレーシー!?な、何でお前、こんな時間に居るんだよ!?今、午後二時だぞ!?」

予想外の事態に、ネスは酷く驚き声を上げる。……が、その直後の妹の言葉を聞いて、すぐに納得した。

「何でって……今日は日曜日だもん。学校はお休みよ?」

「えっ?……あ、ああ、そっか。今日は日曜日か」

―――――……完全に麻痺してたな、曜日の感覚。

冒険に出て以来、別に曜日なんか知らなくても全く問題ない日々が続いていたものだから、ついついそんな当然の事を忘れていた。

(考えてみれば、今日が何日なのかも忘れてるな……まあ、いっか)

心の中で苦笑していたネスだったが、トレーシーの疑問の声にふと我に返る。

「ところでお兄ちゃん、どうして帰ってきたの?もう旅は終わったの?」

「ああ、いや……そうじゃないんだけど……ちょっと……」

そう言いつつ、彼は視線を横に移し、つられて彼女も同じ様に視線を移す。

「……えっ?」

その視線の先―――ポーラに目をやった瞬間、トレーシーは目をパチクリさせた。

「お、お兄ちゃん?……だ、誰?このお姉ちゃん?」

「え、えっと……ポーラって言うんだ。旅の仲間……って所かな」

「トレーシーちゃんだったわね?初めまして、ポーラです」

年下相手だと言うのに、彼女は礼儀正しく深々と頭を下げる。

そんなポーラを暫し呆然と見つめた後、トレーシーは上擦った声を上げた。

「ま……ま……ま……」

「?……どうした、トレーシー?」

「……トレーシーちゃん?」

不思議に思って首を傾げて二人は尋ねるが、彼女はそれに答えない。

そして、数秒が経過した後、トレーシーはくるりと二人に背を向け、家の中に向かって大声で叫んだ。

「ママーーーーーっ!!!お兄ちゃんが、ガールフレンドの報告に帰ってきたよ〜〜〜〜!!!」

「「!!??」」

刹那、ネスとポーラからボンッという音が聞こえ、二人は一瞬にして真っ赤になる。

そのまま暫く立ち尽くしていた二人だったが、数秒経ってようやくネスが我を取り戻した。

「バッ!……ち、違う!な、何言ってんだお前は!?ポポ、ポーラは別に……!!」

ガールフレンドじゃない、と続けようとした彼だったが、それよりも早く、トタトタと二階からママが降りてくる。

「まあ、トレーシー!本当なの!?……あら、ネス!随分早かったわね、いつかでいいって言ってたのに」

「い、いや、だから……!!」

「あ〜〜そっか!きっと自慢したかったから、こんなに早かったんでしょ?お兄ちゃん?」

「なな……な……!?」

「あらあら、真っ赤になっちゃって……それにしても、本当に可愛いガールフレンドね。ママ、びっくりしたわ」

「ふ……二人とも!……ぼ、僕の話を……!!」

「そうそう!ちょっとお兄ちゃんには勿体無くない?」

「くすくす……トレーシー。そういう事言っちゃダメでしょ?」

「……っ……」

「お願いだから、僕の話を聞いてってば!!!!!」

頭から湯気を出して俯いているポーラの横で、ネスは堪りかねた様に大声で叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――普段は三人。そして、最近は二人だったネスの家の食卓が、今日は四人になっていた。

「……それで、ネスに助けてもらったんです」

「うっそ〜〜!?あのお兄ちゃんが、そんな格好良く!?」

「まあまあ……少し見ないうちに、男の子は成長するものね」

(……聞こえない……僕には何も聞こえない……聞こえないったら聞こえない……)

黙々とハンバーグを口に運びながら、ネスは呪文の様に同じ言葉を、心の中で繰り返す。

――――――……今日一日ぐらい泊まっていけば?と進めたのはママだった。

最初は断ろうと、彼は思った。無論、これ以上妹と母親に、あれこれポーラとの事を聞かれるのが、嫌だったからである。

しかし、結局は泊まっていく事になった。なぜなら……

……

…………

「あら、ネス。別にいいよ、ってこれからどうする気なの?もう夕方よ?」

「い、いや……それは……まあ……とりあえずツーソンに戻って……」

「ちょっとお兄ちゃん、何言ってるのよ?ここまで歩いてきたんでしょ?またツーソンまで戻るなんて、体力が持つ訳無いじゃない」

「大丈夫だよ。旅に出てからずっと歩いてばっかりなんだから……」

「……お兄ちゃんは大丈夫でも、ポーラお姉ちゃんは大丈夫なの?」

「……えっ?」

トレーシーにそう言われて、ネスはハッとした様にポーラに振り向く。すると、彼女は恥ずかしそうに俯きながら言った。

「……ゴメンなさい、ネス。出来れば私……もう歩きたくない」

「あ、ああ……そっか、そうだよね」

考えてみれば、いくら隣町とはいえ、ツーソンからオネットまでは結構な距離がある。

それを往復するのは、彼女の体力では少々辛いものがあるだろう。

「……仕方ない。それじゃ、久しぶりに自分の家で休むか」

「スイマセン……お世話になります」

ペコリと頭を下げたポーラに、ママは笑って手を振った。

「いいのよ、ポーラちゃん。貴方には、これからもネスがお世話をかけるんだから」

「……ちょっと、ママ。それ、どういう意味?」

「決まってるじゃない。冒険の間、お兄ちゃんがポーラお姉ちゃんにずっとお世話されるって事でしょ?」

「……お前……!!」

ネスが思わずトレーシーを睨み付けると、彼女は嘘だとバレバレの演技でポーラに縋りついた。

「うわ〜〜〜ん!ポーラお姉ちゃ〜〜ん!!お兄ちゃんが苛める〜〜〜〜!!」

「え、え!?あ、え、えっと……?」

「お、おいトレーシー!ポーラが迷惑してるだろ!?早く離れろよ!!」

「あっ、お兄ちゃん焼餅?」

「誰が!!!」

……

…………

と、こんな風に妹と母親に散々からかわれながら、ネスは今に至る。

ポーラが真面目なのを良い事に、食事中にも関わらず、根掘り葉掘り色々な事を聞き出している二人を見ながら、彼は溜息をついた。

(はあっ……やっぱり、オネットのホテルにでも泊まった方が良かったかな……?)

一瞬そう考えたネスだったが、心のどこかで安堵している自分がいる事は、否定できずにいた。

(……でも……まあ……いっか)

―――――見慣れた風景……聞き慣れた、母親と妹の笑い声……慣れ親しんだ、ハンバーグの味。

ずっとずっと、自分が生きてきたこの空間。そこに彼女―――ポーラが自然に溶け込んでいるのを、ネスは無意識に嬉しく思った。

(また明日から、旅が始まるけど……今はその事を考えるのは、止めよっか)

そう決めたネスは、相変わらずポーラとお喋りしていたママに、三回目のハンバーグの御代わりをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――翌日。

ネスとポーラは昼食を摂った後に、ネスの家を出発した。

最後までからかいの言葉を言われながらも、嬉しそうに家族に手を振るネスの顔を、ポーラは穏やかな表情でみつめていた。

……だが、オネットの中心までやって来た所で、彼がふと足を止める。

「……マズイ」

「?……ネス、何が?」

不思議そうに首を傾げながら尋ねる彼女に、ネスはげんなりした声で言った。

「ねえ、ポーラ。ひょっとして……ママに、君の家の電話番号とか教えたりした?」

「?……うん。よく分かったわね、どうして?」

「いや、あのママの性格からして、絶対に尋ねるだろうなって。……それより、マズイ事になったよ」

「??……何が?」

彼の言わんとしている事がイマイチ分からず、再度首を傾げたポーラだったが、その次の彼の言葉に、思わず声を漏らした。

「ママがもし、君の家に『お宅のポーラちゃんが、ネスと一緒に家で一泊していきましたの』……なんて電話したら、どうなると思う?」

「?……あっ!」

「……分かった?」

「……パパが……きっと……」

――――……そう。『超』がつくほど、娘を溺愛し、過保護なポーラの父親。

彼の耳にこの事が入れば、どうなるかは嫌でも理解できる。

「で、でも大丈夫よ、ネス!マ、ママがきっと上手くやってくれるわ!!……と、泊まったって言ったって、へ、部屋は別々だったんだし!」

「……あの小父さんに、そんな事関係無いと思うけど……?」

僕、殺されるんじゃあ……と遠くを見つめながら呟いたネスに、ポーラは慌てて口を開いた。

「だ、大丈夫だってば!!だ、だから、ネス!元気出して行きましょ!ね?」

「……うん、そうだね。……はあっ……」

「だ、だから、そんな風に溜息つかないで!ほらっ、もうすぐツーソンよ!!」

 

 

 

 

 

 

―――――その頃、ネスのママは上機嫌でポーラ宅に電話をし、ネスの危惧していた通りの事を話していたのだが……

今の二人には、知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

長編以降、めっきり書いていなかったMOTHER2小説。久々の新作です(汗)。

シリアスなネス×ポーラばかりだったので、今回は明るい雰囲気の物にしてみました。

…しかし、どうもネスの家族を出すと、ネスがかわいそうな役になってしまう(笑)。

いつかは、家族の前でも格好良いネスが書ける様になりたいです。では。

 

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