〜食事会議〜
「「「「…………」」」」
リゾート地であるサマーズの唯一にして最大のホテル『ホテル・ド・サマーズ』の一室。
ネス&ポーラ&シェフ&プーの四人は、険しい表情で向かい合っていた。
「「「「…………」」」」
いつもの和やかで明るい空気は無く、有るのは重苦しい沈黙の空気。こんな状況が、もうかれこれ一時間近く続いている。
その理由はと言うと………
「……ハンバーグ」
徐にネスが低く呟き、沈黙を破った。それに呼応するかの様に、ポーラも口を開く。
「……パスタ」
半ば意固地ぎみのその言葉を聞いて、今度はジェフが声を上げた。
「……シチュー」
少々疲れ気味に言った彼の横で、プーが無感情で呟く。
「……米」
「「「「…………」」」」
そして再び沈黙がその場を支配する。……が、それも束の間、ネスが堪りかねた様に立ち上がりながら叫んだ。
「……ったく、もう!!これじゃ、全っ然決まんないじゃないか!!!」
「仕方ないでしょ!?みんな意見バラバラなんだから!!」
「そうだよ!それにそんな事言うんだったら、ネス!君が誰かの意見に合わせりゃいいじゃないか!!」
「嫌だ!!僕はハンバーグがいい!!」
「しかしネス……そんな事ばかり言っていては、永遠に決まらんぞ?」
「じゃあプー。君が誰かの意見に合わせたらどう?」
「……出来ればそうしたいが、こればっかりは譲れん」
「もう、皆して!譲歩しようっていう気持ちは無いの?」
「そう言うポーラだって、そうだろう?」
「う……だ、だって、私だってパスタが食べたいんだもの!」
「と〜〜に〜〜か〜〜く!!早く決めて食べに行こうよ!僕、もうお腹ペコペコなんだから!!」
「じゃあ、一番近くに店があるパスタって事で……」
「ネスとプーのテレポートがあるんだから、距離なんて関係無いだろ!!今回はシチューだ!!」
「俺は米がいい」
「だ〜〜か〜〜ら!!あ〜〜もう〜〜〜……!!」
……もうお分かりだろう。
ネス達は今、『何を食べに行くか』という事で、激しい議論(?)を交わしている真っ最中なのだ。
事の発端は、ネスが「たまにはゆっくり休もう。」と言い出した事にまで遡る。
全員冒険の疲れが溜まっていたからか、誰も反対の意は示さず、すぐに四人は休暇をとるには絶好の場所―――サマーズにやってきたのだ。
そしてビーチで遊んだり(修行を始めたプーは除く)、ショッピングを楽しんだり(主にポーラが。後の三人はむしろ苦痛)、
出店巡りで食べ歩きをしたりと至福の時間を楽しんだのである。
……ところが夕方になり、夕食に出掛けようとした瞬間、ネスが言いにくそうに切り出した。
「……ゴメン。お金使いすぎて、もうあんまり残ってないや」
この言葉に、他の三人は揃って不満そうに口を開く。
「えっ?それじゃあ……」
「……『アレ』は白紙だな」
「おいおい待てくれよ。それは無いぜ、全く……」
「……ゴメン。みんな、『アレ』を楽しみにしてたんだろうけど……」
ぼやくジェフに、ネスは申し訳なさそうに頭を下げた。
――――ここで『アレ』について説明しておく。
『アレ』とは、黒光りする体を持って台所等に潜伏し、世の女性達からの嫌悪と憎悪の視線を独り占めにしている生物の事……では勿論ない。
ネスが発案した、夕食の際のちょっとした提案の事である。
その提案とは、『皆それぞれ、好きな場所で好きな物を食べる』というものであった。
と言うのも、いくら固い絆で結ばれた四人とはいえ、趣味趣向は各々で当然異なってる。
無論、それは食べ物も例外ではなく、食事の際には決まって誰かが遠慮したり、我慢したりしなければならない事態になっていたのだ。
集団生活をしている以上、仕方ないといえば仕方ない事でもあるのだが、時々くらい、みんな好きな物を好きなだけ食べてもらいたい。
そう思ってネスが言い出した事だったのだ。
……しかし、当然だが、それにはそれなりのお金が必要である。その必要なお金が、今ネスの手元には無いのだ。
久しぶりに遊んで、ついついお金を使いすぎてしまったのが原因である。
更にこのメンバーで財布を持っているのはネス一人で、他の三人は1ドルも持ち合わせていない。
加えて運の悪い事に、キャッシュディスペンサーにも残高が残っておらず、完全に切羽詰った財政状態という訳なのだ。
「それじゃあネス、今日の夕食どうするの?」
「あ、うん。一応、まだ少し残ってるから……皆で同じ物を食べにいけば、何とか……」
「はあっ……って事は、毎度の如く献立決めなきゃいけないのか」
「……で、何にするんだ?」
「「「「…………」」」」
プーの言葉で、四人の間に一瞬沈黙が流れる。やがて、それぞれ思い思いの食べ物の名を、同時に声に出す。
「ハンバーグ」
「パスタ」
「シチュー」
「米」
「「「「…………」」」」
先程とは違って、気まずい事この上ない沈黙が、四人の間に流れた。
……という事で話は冒頭へと戻る。
全く進展の無い議論に、全員多少なりとも辟易しているのだが、それでも誰一人とて、自身の意見を曲げる気は見られない。
いつもなら、精神的に一番成長しているプーか人一倍優しいポーラかが遠慮するなり何なりするのだが、今回はそうもいきそうにない。
二人だって、時には自分の好きな物を食べたいのだ。それに長時間の議論による空腹で、どうしても気が荒くなってしまっている。
それはネスとジェフも同様で、二人とも苛立たしそうに眉間に皺を寄せている。
ピリピリと嫌な緊張感が漂う有様……まさに、一触即発の状態であった。
「……ハンバーグ」
「……パスタ」
「……シチュー」
「……米」
――――代わり映えしない四人の意見。堂々巡りする議論。
そんな現状に、とうとう全員の不満が爆発した。
「あ〜〜〜〜〜!!いつまでこうやってなきゃ、なんないんだよ!?」
「そんなの決まってるでしょ!?意見が纏まるまでよ!!」
「纏まる訳ないだろ!?もう、ずーーーーーーーーっと、こんな状況なんだから!!」
「じゃあ、どうするってんだよ、ネス!?」
「全くだ!」
余程の事でない限り、声を荒げる事が無いプーまで怒鳴りだし、四人は完全に喧嘩腰で言い争いを始めた。
「とにかくハンバーグにしようってば!ハンバーグに!!」
「嫌よ!パスタっていったらパスタ!!」
「冗談じゃない!!シチューだっての!!」
「ふざけるな!米だと言ってるだろうが!!」
「あ〜〜もう皆して!!アメリカ人の心であるハンバーグを敬うって気持ちは無いの!?」
「「「無い!!!」」」
「う……」
即答で否定され、言葉に詰るネス。そんな彼に、三人は怒涛の言葉攻めを開始した。
「大体、何なのよそれ!?ハンバーグがアメリカ人の心なんて、聞いた事無いわよ!?」
「ネス!君、それハンバーグとハンバーガーをゴッチャにして言ってるだろ!?」
「それよりもだ!第一、俺はアメリカ人では無い………」
「あ〜〜〜〜〜〜〜!!!!分かった!!分かりました!!!」
両手で耳を塞ぎながら、ネスはうんざりした様に大声を上げる。
突然の事で驚いたポーラ達が静かになった所で、彼は荒い息を上げつつ口を開いた。
「こんな事やってたら、いつまで経っても決まらない!!ここは一つ、厳正に決めようじゃないか!!」
「厳正にって……」
「どう決めるんだ?」
「何かで勝負でもするのか?」
「そう、プー!その通り!!」
プーの言葉に大きく頷いた後、ネスは自分の黄色いリュックをゴソゴソと漁りだす。
……と、それから暫くして、ある物を取り出し、それを高々と掲げた。
「それって……トランプじゃない」
「とらんぷ?……ああ、遊びに使う札か?」
「そう!これで決めよう!恨みっこ無しの一回勝負!!文句無いよね!?」
既に勝負体勢に入りつつ言い放ったネスに、ジェフが呆れた様に溜息を漏らす。
「おいおい……何もそんな時間の掛かる方法で決める必要無いだろう?」
「あ、じゃあジェフやらないんだね?それじゃあ自動的に、シチューが今晩の献立になる可能性は零に……」
「ち、ちょっと待て!!誰もやらないとは言ってないだろ!?」
「それじゃあ文句無いわね、ジェフ?」
「ぐ……あ〜〜分かったよ!!やればいいんだろ!?こうなったら絶対勝ってやる!!」
態度を180度翻して、やる気満々になったジェフに、プーは内心で「……案外単純な奴だ」と呟く。
しかし、ふとある事を疑問に思い、彼は何気なくネスに尋ねた。
「ところでネス?」
「何、プー?」
「それで決めるのは構わんが……一体、何の勝負で決める気だ?」
「え?……あ、それは……」
一瞬だけ考える仕種を見せたネスだが、すぐに笑顔でプーに返答する。
「やだなあプー。トランプって勝負するって言ったら、『アレ』に決まってるじゃないか!」
彼のその言葉に、ポーラも相槌を打つ。
「そうよね!みんながルールを把握してる『アレ』以外には無いわよね!」
続いて、ジェフも賛同の言葉を言う。
「そうだな。まあ『アレ』ならプーも知ってるし」
その言葉で、プーは納得した様に頷いた。
「おお、そうか。俺が知ってる勝負という事は……『アレ』か」
「そう、『アレ』だよ」
「『アレ』ね」
「『アレ』だな」
「うむ、『アレ』か」
次の瞬間、四人は一斉に口を開いた。
「ババ抜きだよ」
「七並べね」
「ポーカーだな」
「神経衰弱か」
……
…………
刹那、辺りには議論を始めた時と同じ、あるいはそれ以上の気まずい沈黙が流れた。
そして―――――――――――
「何でだよ!?トランプで勝負っていったら、ババ抜きって相場が決まってるじゃないか!!」
「勝手に決めないでよ!あんな運で決まっちゃうのより、頭を使う七並べの方が公平でしょ!?」
「そんな長ったらしいの、やってられるか!短時間で勝負がついて、尚且つ駆け引きが物を言うポーカーで決定だろ!?」
「ややこしい決まり事があるのは御免だ!やはり、ここは神経衰弱でだな……」
またしても言い争いを始めた四人。最早、当初の目的である『何を食べに行くか』という事は、忘却の彼方である。
四人がその事を思い出すのは……空腹も限界に達した一時間後の事であった。
あとがき
お久しぶりのMOTHER2小説です。メイン四人でのギャグ話……になってたらいいなあ。(オイ)
ギャグ話って読むのは楽しいですけど、書くとなると結構難しい物です。
だからと言って、シリアス話が楽かと言えばそうでもないんですが……(当たり前だ)
「MOTHER2の世界に、ババ抜きとか七並べとか神経衰弱とかがあるのか?」というツッコミは無しでお願いします<m(__)m>
ちょっとでも笑って頂けたのなら、嬉しい事この上無いです。では。