〜妹の幸せ〜

 

 

 

 

どうも皆さん。地球の危機を二度も救った偉大なる少年――ネス(ちょっと褒めすぎかな?)の妹、トレーシーです。

お兄ちゃんとは二つ違い。喧嘩らしい喧嘩も滅多にしないし、自分で言うのもなんですが、とっても仲良しな兄妹です。

周りの友達からも、『羨ましいくらい仲がいい』ってよく言われます。(でもきょうだいって、普通仲良しなんじゃないかなあ?)

そんな私とお兄ちゃんですが、実は初対面の人からは『兄妹には見えない』と言われる事が多いんです。

多分、髪の色が違うからだと思うんだけど……私はママ似で、お兄ちゃんはパパ似だから。

ここだけの話だけど、私はお兄ちゃんと『兄妹には見えない』って言われると、すっごく嫌な気分になります。

だって、いくら髪の色が違っても、お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだし、私はお兄ちゃんの妹なんだもん。

これまでも、そしてこれからも、ずっとず〜〜〜〜っとそれは変わらないんだから。

……えへへ。こんな風に話してると、ブラコンって思われちゃうかな?だけど、私はやっぱりお兄ちゃんが大好き!

こんなお兄ちゃんがいて、私は本当に幸せだなって、よく思います。……う〜〜〜ん、これがブラコンって言うのかな?

……っとと。そんな事はどうでもいいとして、最近お兄ちゃんは結構忙しそうです。

まっ、昔ギーグ(ママはグーギとか言ってたけど、お兄ちゃんに聞いたらこっちが正しいんだって)とかいう悪者を退治に旅に出て、

長い間休学してたし、去年もいきなり居なくなって(あの時は本当に心配したんだから……)一年間も行方不明だったりで、

思いっきり勉強が遅れてて、その分を取り戻すのに四苦八苦してるから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。

その上、今でもちょくちょく野球部から助っ人頼まれてるし(ホームランヒッターなんだって)

頼んでもないのに時々私のアルバイト先―――エスカルゴ運送に、手伝いしに来るし(お兄ちゃんはテレポートが使えるから、配達係をやってます)

何だか昔以上に優しくなった気がします。それはとっても嬉しいんだけど、少しは自分の事に時間を割いてもいいんじゃないかと思います。

暫くポーラお姉ちゃんとも会ってないみたいだし……ガールフレンドは大切にしなきゃダメじゃない。

……ひょっとして、喧嘩でもして上手くいってないのかなあ?

 

 

 

 

 

そんなある日、リビングで暇を持て余していると、突如として電話が鳴った。

「トレーシー。今、手が離せないから出て頂戴」

「は〜〜〜〜い」

私は間延びした返事をして、受話器を取った。(因みにお兄ちゃんは、野球部の助っ人に行ってて留守にしています)

『もしもし?』

『あ、トレーシーちゃん?私、ポーラよ。元気?』

『うわあ、ポーラお姉ちゃん!今日はどうしたの?生憎お兄ちゃんは留守なんだけど……』

そう言った瞬間、電話越しにでもポーラお姉ちゃんがドキマギしたのがハッキリと感じられる。

『べ、別に、き、今日はネスに用事があるんじゃなくて……その……』

……本当、清清しいくらいに純情なんだから、ポーラお姉ちゃんは。尤も、それはお兄ちゃんも同じだけどね。

『うんうん。それじゃあ、今日はどうして?』

『あ、あのね、トレーシーちゃん。明日、一緒に買い物にでも行かない?』

『えっ、買い物?ツーソンのデパートで?』

『ええ』

『うん!行く行く、絶対行きまーーす!!』

ツーソンのデパートって言えば、この辺りじゃ一番大きなお店。

オネットのどのお店でも売っていない、服とかアクセサリーとかぬいぐるみとかが一杯!これに行かない手は無いわよね!

それに、ポーラお姉ちゃんとお買い物するのも久しぶりだし。そう思いながら、私は元気よく返事をした。

『OK、決まりね。それじゃ、待ち合わせなんだけど……』

『あ、それは大丈夫。デパートの前で待っててくれたらいいよ』

『え?……でもトレーシーちゃん、一人で来れる?』

心配そうなポーラお姉ちゃんの声に、私は笑いながら「大丈夫、大丈夫」と答える。

……実はこの時、私の中では、ある考えが浮かんでいた。

『そう?それなら時間は……十一時にくらいにしましょうか?せっかくだし、お昼も一緒に、ね』

『は〜〜い、分かりました!それじゃあ、また明日!!』

『うん、また明日』

受話器を置くと、私はふう〜〜と大きく息を吐く。すると、会話を聞いていたママが話しかけてきた。

「良かったわね、トレーシー。ポーラちゃんとお買い物なんて」

「うん!明日がとっても楽しみ!!」

「ふふふ……あら?でもトレーシー、貴方ツーソンのデパートまでどうやって行く気?結構遠いわよ、あそこまで」

「それなら大丈夫。ママ、ちょっと耳貸して……」

そう言いつつママを手招きをして、私は近づけられたママの耳に小声でそっと囁きかける。

「あのね……で…………の」

「まあまあ……トレーシー、貴方もお節介な事考えるわね」

言いながらママはちょっと顔を顰めて見せたけど、声はとっても優しい。……きっと、ママも楽しがってるみたい。

「えへへ……」

だから、私は少し悪戯っぽく笑って見せた。つられてママも、口元を隠しながら笑い声を立てる。

……と、その時だった。

「たっだいま〜〜〜〜!!!」

「あ、お兄ちゃん!お帰りなさ〜〜い!!」

――――実にタイミングよく帰ってきた話題の中心人物を、私は愛想良く出迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――翌日。ツーソンデパート前。

「「…………」」

お互いに向き合ったまま、俯いている二人に、私は遠慮がちに声を掛けた。

「……あの〜〜お二人さん?いつまでそうしてるの?」

「「…………」」

その言葉にも、二人―――ネスお兄ちゃんとポーラお姉ちゃんは、殆ど反応しない。

少しだけお兄ちゃんが私を睨んできたけど、ハッキリ言って真っ赤っ赤な顔で睨まれても、怖くも何ともない。

かたやポーラお姉ちゃんは、嬉しさ半分気まずさ半分といった表情で俯いたままです。

……ただ、ちょっと妙だなと私は思った。何というか、二人の間に流れる空気が重たい気がするの。

ギチギチというかギスギスというか……もしかしたら、本当に喧嘩中だったのかな?

(……それじゃ私、かなりヤバイ事しちゃったのかも……ああ、失敗だったかなあ、これ)

そう、ここにお兄ちゃんを連れてくるのが、私が昨日ポーラお姉ちゃんと電話中に浮かんだ考えだったんです。

どうやったか、ですか?簡単な事です。少し説明しておきますね。

――――遡る事昨日、お兄ちゃんが野球の助っ人から帰ってきた後、私はちょっと甘えた仕種で、こう話しかけました。

「ねえねえ、お兄ちゃん!」

「ん?……何だ、トレーシー」

運動後でお腹が空いているのか、口一杯にクッキーを頬張りながら振り返ったお兄ちゃんに、私は言う。

「明日ね、ツーソンデパートに連れてってよ!」

「はあ?いきなり何言い出すんだ、お前?」

「いいでしょ?ねえ、連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてって連れてってーーーーーーー!!」

「あ〜〜〜〜〜!!分かった!分かったから、そんなに連呼するなっての!!」

「わ〜〜〜い!さっすが、お兄ちゃん!!」

「はあっ……で?何時に?」

「十一時!!」

「……OK……ったく……何で僕が……」

……と言う訳です。ね、簡単な事でしょ?

なんだかんだ言っても、優しいのが私のお兄ちゃん。唐突なお願いにも関わらず、(文句言われたけど)ちゃんとテレポートで送ってくれました。

これならお金も時間も掛からないし、何よりポーラお姉ちゃんにとっても良い事だろうと思った……んだけど……

(……マズイなあ……完全に逆効果だったかも……)

からこれ数分経つけど、お兄ちゃんとポーラお姉ちゃんは相変わらず気まずそうに俯いたまま。

そんな二人を見ているこっちまで、気分が重たくなってる感じ。これじゃあ、せっかくの買い物が台無しになっちゃう。

(あ〜〜〜〜もう、仕方ない!ちょっと、乱暴だけど……)

そもそもの原因が自分にある事も手伝ってか、妙な責任感に襲われた私は、とっさにある行動に出る。

「ポーラお姉ちゃん!ちょっとそれ貸して!!」

「えっ?……ちょっ、トレーシーちゃん!?」

殆ど強引にポーラお姉ちゃんから(結構大きくて重そうな)手提げバッグを取ると、私はすぐにそれをお兄ちゃんに押し付けた。

「ハイ、お兄ちゃん!これ持って!!」

「なっ?な、なんで僕が……」

「ガールフレンドの荷物がボーイフレンドが持つ!!デートの基本中の基本でしょ!?」

「「……っ!?」」

『デート』と言った途端、また二人揃って真っ赤になる。……思わず溜息が出そうになったけど、堪えて私はサッサとデパートの自動ドアに入る。

「心配しなくても、お邪魔虫は後で消えますから。……ほらっ、せっかく来たんだし、楽しもう?」

そう言いながら、後ろを振り返ると、二人は遠慮がちに顔を見合わせた。……流石にこれでもう、大丈夫だとは思うけど。

内心ハラハラしつつ見ていると、暫くしてお兄ちゃんがそっとポーラお姉ちゃんに手を差し出しながら口を開いた。

「……行こ……っか?」

「……うん」

一瞬の間の後、ポーラお姉ちゃんは小さく頷きながら、おずおずとお兄ちゃんの手を握る。

(……良かった。今度は上手くいったみたい)

仲良く手を繋いで後ろからついてきた二人に、私はホッと安堵の溜息をついた。

そして、少し気を利かせて離れて歩いていると、「……あの時はゴメン」「ううん……もういいの」って会話が聞こえた。

…………どうやら、本当に喧嘩してたみたい。まっ、仲直りしてくれたからいいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫く買い物をした後、ちょうど十二時になったので、お昼にする事になった。

正直言って、私はもう帰るつもりだったんだけど(だって、余計な事しちゃったし……)お兄ちゃんもポーラお姉ちゃんも、

『一緒に食べよう』って言うから、結局ご馳走になる事にしました。

……そんなこんなで、私達は揃ってハンバーガーを齧ってます。このメニューは誰の希望か……なんて、言う必要ないですよね。

その途中、お兄ちゃんはお手洗いに行ったので(お行儀悪いなあ…)私は一応ポーラお姉ちゃんに謝っておく事にした。

「ポーラお姉ちゃん」

「何、トレーシーちゃん?」

「その……今日はゴメンなさい」

「え?……あ、ううん……いいのよ、気にしないで」

苦笑しながらポーラお姉ちゃんは首を振る。それから、ちょっと黙り込んだ後、徐にこう口を開いた。

「それよりさ、トレーシーちゃん……」

「なあに?」

「……私、今日変じゃない?」

「……えっ?」

言葉の意味が分からず、目をパチクリさせる私に、ポーラお姉ちゃんは言う。

「ほら……髪とか……服とか……変じゃない?」

「あ……う、ううん、全然変じゃないよ。とっても綺麗」

やっとポーラお姉ちゃんが言わんとしている事が分かり、私は慌ててフォローを入れる。

……って、別にフォローって訳でもないんだけどね。だってポーラお姉ちゃん、今日もいつも通り綺麗だし。

「本当?……どこかおかしくない?」

「大丈夫、大丈夫。全然おかしくないよ」

「……なら、いいんだけど……今日……お化粧もして来てないし…」

「えっ!?……お、お化粧!?」

予想外の言葉が飛び出したので、私は思わずやや大きめの声を出してしまった。

その後、ハッとして口を塞ぎ周りを見渡したけど、幸い誰もこっちを見ていない。……よかった、目立ってはないみたい。

……と、その時、ポーラお姉ちゃんがそっと尋ねてきた。

「あ、トレーシーちゃんの前では、した事無かったわね……意外だった?私が、お化粧してるって……」

「え、えっと……意外って言うか……その……」

お化粧は大人のやる事だと思っていた私は、モゴモゴと言葉を濁す。

(……驚いたって言うのも……なんか失礼だろうし……なんて答えよう?)

返答に困った私は、内心でそんな事を考える。が、それも束の間、私はオズオズと口を開いた。

「ポーラお姉ちゃんは……いっつもしてるの、お化粧?」

「う、ううん、別にいつもって訳じゃ……ただ……最近ネスと会う時は……大抵……」

「……は〜〜……」

私は思わず感嘆の溜息を漏らす。

「でも、ポーラお姉ちゃんなら、別にお化粧なんかしなくてもいいと思うけどなあ」

「そ、そう……?」

「うん、だってポーラお姉ちゃん、そのままでも綺麗だし。それに……」

お兄ちゃん、お化粧してても気づかないと思うよ?と言いかけて、私はギリギリで口を閉ざした。

流石に、これは言っちゃいけないよね。……多分、間違って無いだろうけど。

「それに、何?」

「あ、う、ううん。何でも無い、何でも無い」

ポーラお姉ちゃんの質問を適当に誤魔化しながら、私はふと思う。

(お兄ちゃんに言うべきかなあ?ポーラお姉ちゃんが、デートの時はお化粧してるんだって)

……とりあえず、今は保留にして、帰ってからゆっくり考える事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その直後。

「あ、ネス。」

「お兄ちゃん、お帰りなさい。だけど、あんまり食事中にお手洗い行かないでよ」

「……悪かったよ。だけど、行きたくなるもんは行きたくなるんだから、仕方ないだろ?」

そう言いながら、お兄ちゃんはドカッと椅子に腰掛けて、残っていたハンバーガーに齧り付く。

(……あ〜〜〜あ、あんなにがっついて食べて。口の周りがケチャップだらけに……)

お兄ちゃんがハンバーガー食べると、いっつもこうなるんだよね。もう慣れっことは言え、やっぱり妹としては少し恥ずかしい。

「お兄ちゃん!口元拭いて!」

「ん?……あ、悪い」

するとお兄ちゃんは、手の甲でケチャップを拭うと、それを舌で舐める。……もう!本当にお兄ちゃんったら!

「お兄ちゃん!行儀悪い事しないでよ!!」

「……行儀悪い?何が?」

「何がって……っ、もういいわ」

思わず大声で叫びたくなったけど、ポーラお姉ちゃんに悪いから、何とか堪えきった。

(……でも、ポーラお姉ちゃん。こんなお兄ちゃん見て、どう思ってんだろう?)

そう思って、ふとポーラお姉ちゃんの方に眼をやると……なんともまあ、幸せそうな顔で笑ってるのよね、これが。

(はあっ……まっ、いっか)

私がそうやって、諦めの溜息を心の中でついた時だった。

「あ……そういえば、ポーラ」

「なに、ネス?」

不意にお兄ちゃんがハンバーガーをテーブルに置いて、ポーラお姉ちゃんに振り返る。

そして、暫くポーラお姉ちゃんを眺めた後、徐にこう言った。

「何かさあ、今日いつもと違わない?」

「え……ち、違うって何が?」

ポーラお姉ちゃんは驚いた様に聞き返したけど、私も驚いた様にお兄ちゃんを凝視する。

……まさか、あの鈍感なお兄ちゃんが、ポーラお姉ちゃんがお化粧して無いって気づいたんだろうか?

「いや、何がどうとは言えないけど……ま、いいや。気のせいだね、きっと」

「そ、そう……」

「……」

少しでも、そう考えた私がバカだった。そりゃ、そうよね。お兄ちゃんが気づく訳ないよね。

……あ〜〜あ、ポーラお姉ちゃんが悲しそうな顔してる。何やってるのよ、お兄ちゃんは。

やれやれと思いながら、私がフォローを入れようとした時だった。

「あ、そうそう。忘れるとこだった。……ハイ、ポーラ」

「……え?」

突然お兄ちゃんはポケットの中から小さなペンダントを取り出すと、さも慣れた動作でポーラお姉ちゃんの首に掛ける。

その余りにも自然な行動に、私は一瞬眼を疑った。

(ちょ……お、お兄ちゃん?……い、いきなり何でペンダントを……というか何でそんな慣れてるのよ?)

「ネ、ネス?……これ……」

「さっきの買い物の最中に見つけてさ、ポーラに似合いそうだったから買ったんだ。……うん、可愛いよ」

「あ……ありがとう、ネス」

小さく呟きながら、ポーラお姉ちゃんははにかんだ様な笑顔で頬を染める。

それは、見ている方がくすぐったくなるくらいに幸せそうな笑顔で……私はそっと二人から視線を外しながら、笑みを漏らした。

(本当にお似合いの二人だわ……お兄ちゃんにポーラお姉ちゃん)

 

 

 

 

 

 

 

―――――最近、時々お兄ちゃんとポーラお姉ちゃんについて、考える事があります。

もし、お兄ちゃんがあの旅に出てなかったら、ポーラお姉ちゃんとは出会ってなかったんだろうかなって。

……ううん、そんな事ないよね。だって、あんなにお似合いの二人なんだもん。

きっと、必ずどこかで出会う運命だったと思います。どんな人生を歩んでいたとしても…きっと。

お兄ちゃんとポーラお姉ちゃん。どちらも私にとって、大切な人。

そんな二人の妹…と、未来の妹でいられて、私トレーシーは本当に幸せです。

―――――この幸せは、ずっと続いていくと思います。お兄ちゃんとポーラお姉ちゃんがいる限り……

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

と言う訳で、トレーシー視点でお送りした、ネス×ポーラでした。(テレビ番組風)

『ネス×ポーラ話というより、単なるトレーシーのブラコン話じゃ……?』とか言われそうですが、別に構いません。

……そういう要素も含んでますからね、実際()

ネス視点、或いはポーラ視点での話は結構書いてきたので、これからはこういう第三者視点の話も沢山書いていこうかと。

次回候補はジェフかプー、またはネスのママか、はたまたポーラのパパでしょうか()

まあ、誰にしても書けなくはない様な気がしますので、ネタが出来たら書こうと思います。では。

 

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