〜奇跡の力〜

 

 

 

 

 

 

トンズラブラザーズに送られて、次なる町――スリークにやって来たネスとポーラは、全身に寒気を感じていた。

「なんか……暗いね、この町」

町を見渡しながら、ネスが呟く。すると、ポーラも相槌を打った。

「うん……トンネルに幽霊がいたせいかしら?」

心なしか表情を硬くし、彼女は首を傾げる。

まだ昼間だというのに、辺りには人もまばらで日もあまり照っておらず、まるで真夜中のようだ。

ときたま通る人の顔にも、生気が感じられない。……さながら、ゴーストタウンと言うべきだろうか。

賑やかなバスに乗っていてから、余計そう感じるのもあるだろうが、それを抜きにしてもこの雰囲気は普通じゃない。

「ポーラ、本当にここに次の仲間がいるの?」

「多分……そうだと思うんだけど……」

彼の問いに、彼女は自信なさげに答える。正直ポーラもその事を不安に思っていた。

自分の予知能力が今まで外れた試しはないのだが、今回ばかりはどうにも自信が持てない。

と、そんな心情が表情に出ていたのか、ネスが不安げそうな顔で口を開く。

「まさかポーラみたいに、どこかに捕まったりしてる……とか?」

「ええっ!?ちょっと止めてよネス。そんな不吉な事言うの」

「いや、だってさあ……」

彼はもう一度スリークを見渡しながら言った。

「こんな所に仲間がいるとは思えないんだけど……」

「……」

それは確かだと内心頷きながら、ポーラは深く溜息をつく。

しかし、すぐに気を取り直してネスに声を掛けた。

「……とにかく、まずは情報収集でもしましょう。そしたら仲間の事も分かるかもしれないし」

「そうだね。それしかないか」

と、ネスが頷いた時、後ろから声がした。

「君達、この町の人間じゃないね?」

「「!?」」

反射的に後ろを振り向くと、いつの間にか一人の男性がこちらを見ている。

思わず警戒して無意識に各々の武器を構えたネスとポーラだったが、そんな二人を見て男性はケラケラと笑い出す。

「あっ、驚かなくていいよ。俺は怪しいやつじゃないから」

((……そう言われても……))

二人は同時に思い、笑いながら手を振っている男性を見た。

黒いスーツに黒いズボン、そして黒い帽子。どう贔屓目に見ても、普通の人とは思えない。

これでサングラスでもかけていたら、裏社会の人間と思われても文句は言えないだろう。

「えっと、あなたは?どうして僕達がこの町に人じゃないって分かるんですか?」

ネスがおずおずと尋ねると、男性は苦笑しつつ説明してくれた。

「いや、分かったというか……そんな気がしたんだ。この町を大人も連れずにうろつく子供なんて、まずいないからね」

「……あの、それ、どういう意味ですか?この町はそんなに物騒って事ですか?」

今度はポーラが尋ねると、男性は沈痛な顔つきで腕を組む。

「物騒というか……とにかく、これ以上ないくらいの非常事態が起きているんだ。このスリークは」

「「非常事態……?」」

ネスとポーラはそろって呟いた。――――いったい何だろう?病でも流行っているのだろうか?

しばらく二人の顔を交互に見ていた男性は、やがて溜息まじりに呟く。

「ああ、実はな、今この町に大量発生してるんだよ……ゾンビがな」

「!?……ゾ、ゾンビ!?」

思わずネスは素っ頓狂な声を上げる。ポーラも驚いて目を見開いた。

「な、何でゾンビが……!?」

「……それが全く見当もつかないんだ。トンネル内に幽霊が現れてすぐだったから、それに関係してるんじゃないかとは思うんだが……」

その男性の言葉に、ネスとポーラは顔を見合わせる。

「やっぱり、これもギーグの仕業かしら?」

「多分、ね。でも何が目的でそんな事……」

「ん?ギーグ?」

「!……い、いえ、こっちの話ですから気にしないでください!」

不思議そうに尋ねてきた男性に手を振り、ネスは慌てて誤魔化す。

「……という事は、ゾンビのせいでこの町はこんなに暗いんですか?」

「ああ、やつらは暗さを好むらしくてな、何かの力で日が照らないようにしちまったんだ。そのおかげで、町の人間もすっかり元気をなくしてな」

そこまで話して、男性は自分の着ている服を引っ張った。

「服装にせよ、こんな風に暗い色にしてなきゃ、ゾンビに襲われちまうんだよ」

「な、成程……」

ネスは納得して頷いた。そして、ふと自分の服装を見やる。

「……ってことは、こんな格好だとマズイじゃ……」

「その通り。気をつけないと、ゾンビにやられちまうぞ。特に、そっちのお嬢ちゃんはな」

名指しされて、ポーラはビクッと体を強張らせた。次いで、不安げに服を掴む。

確かに、真っ赤なリボンにピンクのワンピースという彼女の服装は、暗いこの町では必要以上に目立つ。

不安になるのも無理はない、とネスは思った。……尤も、赤い帽子に横縞のシャツという、自分の格好も似たような物だが。

と、不意に顔を見合わせた二人を見ながら、男性は励ます様に言った。

「おいおい。そんな怖がることないって。ゾンビが襲ってくるって言っても、町中じゃまず大丈夫さ。危険と言ったら……」

言いつつ彼は遠くに目をやる。

「危険と言ったら?」

「……そうだな。墓地の方には絶対に行くな。あそこはゾンビのたまり場の様な所だからな」

「「墓地……」」

ネスとポーラが同時に呟くと、男性は頷いた。

「そっ。まあ、大人しくしてるこった。じゃあな!」

そう言って手を振りながら去っていた男性を見送った後、二人はどちらともなく墓地の方角に視線を向けた。

「ねえ、ネス?」

「……何?」

心なしか震えている声の彼女に、ネスはゆっくりと振り向いた。

「まさか……『墓地に行こう』なんて言わないわよね?」

「……」

彼は何も言わずに目を逸らす。……まさかも何も、自分は今そう言おうとした所だった。

ゾンビのたまり場と言われている墓地。もしゾンビ達がギーグの手下だとしたら、そこに何か秘密があると考えるのが普通だ。

となれば、行かないわけにもいかないだろう……例え、気が進まなくても。

(しかし、幽霊トンネルの次はゾンビの墓地か……)

ネスがうんざりした様に溜息をつくと、ポーラは恐る恐る確認するように口を開いた。

「……やっぱり、行くの?」

「……嫌だけどね。調べない訳にはいかないよ」

その言葉に彼女は引き攣った表情を浮かべる。が、すぐに大きく深呼吸してゆっくりと頷いた。

「そう……よね。この町で何か起こってるか、原因を突き止める必要もあるし」

「うん。それに……ここで出会える仲間の事もね」

それから二人は静かに墓地へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

――――墓地の周辺に来ると人影は全くなく、まさにゾンビ達の絶好の場所という雰囲気になった。

「い、行くよ、ポーラ」

「う、うん」

立ち入り禁止の看板を無視して、二人は墓地の中へと歩を進める。

「「…………」」

一歩一歩進むたびに、体に鳥肌がふつふつとたってくる。

否応無しに背筋が寒くなってき、ネスはポーラを庇う様に歩きながら彼女に声を掛けた。

「……ポーラ。大丈夫?」

「……うん、何とか……」

必死に平静の声で答えているが、自分の腕を掴んでいる手から、震えているのがハッキリと分かる。

「……一度戻る?」

不安になってそう聞くと、ポーラは「へ、平気よ!」と首を振った。

「も、もう幽霊も見てるんだし、ゾ、ゾンビぐらい怖くも何ともないわ」

「……の割には、体震えてるけど?」

「!こ、これは……そ、そういうネスだって鳥肌たってるじゃない!」

「う……いや、これは……」

などと、半ば意地の張り合いの様な会話をしていた時だった。

不意に何かが動く音が聞こえ、二人は反射的に身を硬くして、辺りに視線を飛ばす。

「っ!?……な、何?今の音?」

「わ、分からない。……敵か?」

最悪の事態を想像しながら、ネスがバットを構えると、ポーラも震えながらフライパンを手に持つ。

しばらく微動だにせず、息を殺して構えていた二人だったが、やがてふうっと息をついた。

「何だ……気のせいだったみたいだね」

「はあっ……よかった。ゾンビかと思ったわ」

そう言ってポーラは胸を撫で下ろす。ネスも安堵の笑みを浮かべ、再び歩き……出そうとした瞬間だった。

先ほどよりも近く、そして大きな物音がし、二人はもう一度辺りを見回した。

「きゃっ!?」

「!?……今度は気のせいじゃない!!」

何かが自分達の近くにいると確信したネスとポーラは、世話しなく周囲に視線を飛ばす。

しかし音は聞こえても、何も怪しい物は見当たらない。そのうち音も聞こえなくなり、ネスは首を傾げた。

(……何なんだ、一体?)

と、そう考えた時、自分とは別の方向を見ていたポーラが服を引っ張った。

「ネ、ネス!あれ……」

「えっ?」

震えながら彼女が指差ししている方向を見やると、なんの変哲もないゴミ箱がある。

「なんだ、ただのゴミ箱じゃないか」

呆れ気味にネスが呟くと、ポーラはブンブンと首を振った。

「違うわよ!だ、だってあれさっき、一人でに動いたもの!!」

「一人でに?ゴミ箱が?」

そんなバカな、と彼が言いかけた瞬間、ゴミ箱が大きな音を立てて激しく揺れだした。

「うわっ!?」

「ほ、ほら言ったじゃない!!」

半分泣きそうな顔でポーラが文句を言ってきたが、そんなのを気にしている場合じゃない。

(……これは?)

呆然とネスが眺める中で、ゴミ箱は一層激しく揺れだす。

やがて蓋が下から突き飛ばされたように宙を舞った。

「うわあああっっ!!!」

「きゃあああっっ!!!」

その途端、二人は悲鳴を上げながら後ろ飛びのく。

全身が血のように赤くニョロニョロと細長い体をしたゴーストが、ニタニタ笑いながらゴミ箱の中から姿を現しからである。

「な、何だよコイツ!?ゾンビじゃないみたいだけど……」

ネスが呟くと、ゴーストはこちらをおかしそうに見つめ、けたたましい叫び声をあげた。

「キャキャーーーーッッ!!!」

すると、その叫び声に呼応するかのように、辺りの地面が盛り上がり、ゾンビがわらわらと這い出てくる。

そいつらから徐に距離をとって身構えつつ、ネスは彼女に呼びかける。

「……ポーラ、戦える?」

「う、うん。…ゾンビとユーレイじゃ、思いっきりPSIを使ってもいいわよね?」

「勿論!遠慮なんかすることないよ。コイツらは生き物じゃないんだしさ!」

彼のその言葉に、ポーラは力強く頷き、指先に精神を集中させる。そして、片手をゾンビの群れに突き出しながら叫んだ。

「PKファイヤーα!!」

指先から燃え盛る炎が放たれ、ゾンビ達を一瞬に灰にする。

「PKドラグーンα!!」

ネスも負けじと、自分の必殺PKをゾンビやゴーストに放つ。

暗い墓地に、彼らのPSIの閃光が、現れては消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあっ!はっ!……くっ、これじゃキリがない!!」

次々と襲ってくるゾンビをバットで殴り倒しながら、ネスは毒づいた。

赤いゴーストはPSIで消滅させたものの、ゾンビ達はいくら倒そうとも地面から無数に這い出てくる。

「PKドラグーンα!!」

もう何発目か分からない必殺PKを放ちながら、ネスは荒い息をついた。

「はあっ……はあっ……はあっ……」

傷自体は殆ど受けていないのだが、短期間にPSIを連発した為か、精神的疲労がかなり溜まってきている。

(早いとこ、片付けないと……)

そんな彼の思いを嘲笑うかのように、PSIを食らったゾンビ達がまた立ち上がり、こちらを睨み付けた。

(……やっぱり、そんなに効いてないのか?)

ネスは苦々しい表情を浮かべる。

戦っていて薄々感付いていたが、自分のPSIでは、ゾンビ達に大してダメージを与えられていない様だ。

このまま何の考えもなしに戦っていたのでは、自分の精神力を消耗するだけかもしれない。

(……って言っても、バットで叩いたって全然効き目ないし……)

何か策はないかと彼が思案していると、横から放たれた炎が目の前にいたゾンビ達を飲み込んだ。

それが誰の仕業かすぐに分かったネスは、ハッとした表情で離れた所にいた彼女の方を振り向いた。

「ポーラ!」

「はあっ……はあっ……ネス!大丈夫?」

声は明るく振舞っているが、その顔にはハッキリと疲労の色が浮かんでいる。

「うん、僕は平気。ポーラこそ大丈夫!?」

駆け寄りながら声を掛けると、彼女は肩で息をしながら返事をする。

「な、何とか……」

と、その時、再び地面から数体のゾンビが姿を現した。

「ま、まだいるのか!?」

「し、しつこいわね……い、いい加減にして欲しいわ」

ぼやきながらポーラは、再度PKファイやーを放とうと構える。

「あっ…」

「ポーラ!」

だが次の瞬間、彼女の体が前に倒れかけ、慌ててネスは受け止めた。

「なんか……頭がボウッとして……」

そう言うポーラは目も虚ろだ。おそらく精神力が尽きたのだろう。戦い始めてから、ひっきりなしにPSIを放っていたのだから無理もない。

(マズイな……これじゃ、本当に……)

力が抜けている彼女を支えながら、ネスは歯噛みする。

この様子だと、ポーラはもうPSIを使えない。そして、自分も使えたとして、後一回が限度だ。

つまり、その残りの一発でこのゾンビ達を全滅させなければならない。

(けれど……出来るのか?PKドラグーンで……?)

ネスは我知らず冷や汗をかいた。

さして効果のない自分のPSIをいくら全力で放ったとしても、このゾンビ達に致命的なダメージを与えられる可能性は低い。

「ネス……私が……」

彼が苦悩していると、ポーラがふらふらとPSIを使おうとした。

「無理だよポーラ。もう君には、PSIを使える力が残って……」

「……だけど、このゾンビ達は炎に弱いみたいなの。だから、私が……やらなきゃ……」

制止するネスの声を聞かず、彼女は指先に精神を集中する。

「PKファイ……あっ……」

しかし、やはり力が残っておらず、ポーラはその場に崩れるように座り込んだ。

「ポーラ!」

「……ダ、ダメ。力が……入ら……ない……」

弱々しい声で彼女は呟く。と、その間にもゾンビ達はジリジリとこちらに迫り、完全に二人は追い込まれた。

「……」

彼女を庇う様に立ちふさがり、自分の手を見つめながら、ネスはジッと考え込む。

(一か八か……やって見るしかないか……)

何かを決意した彼は、片手をゾンビたちに向け、精神を集中した。

「ネス?……何を?」

「……」

ポーラの問いに答えず、ネスは更に精神を集中する。

しかし慣れない型のせいか上手くいかず、右手に激痛が奔った。

 (ぐっ!……片手じゃ無理か……だったら!)

ネスはもう片方の手を添えるようにし、両手で精神を集中させる。

(…よし、これなら!)

精神力が安定しだしたのを確認して、彼は残っていた全ての力を注ぎ込み、最後のPSIをゾンビ達に繰り出した。

「PK……ファイヤーーーー!!!」

ポーラのそれに比べれば遥かに劣るものの、ネスの両手から炎が放たれる。

そして、ゾンビ達を包み込み、全てを燃やし尽くした。

「ギャーーーッッ!!!」

「はあっ……はあっ……やった」

息も絶え絶えに呟きながら、ネスは笑みを浮かべる。――――……なんとか上手くいった。

全力で放ったにしては貧弱な威力だし、体に掛かる負担も半端じゃないが、即興の割には上等だろう。

「ネス……貴方……」

呆然と呟くポーラに、彼は振り向いて口を開く。

「見よう見まねで……やってみたんだけどさ。……結構……難しい……もんだ……ね……」

「……バカ」

倒れる寸前といった感じのネスに、彼女はふわっと抱きついた。

「無茶……しないでよ」

「はは……ゴメン」

――――その後、二人は何とか町に戻り、ホテルで体を休めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ〜?おっかしいなあ?」

翌日、すっかり元気になったネスはホテルの部屋で頭をかいていた。

「どうしたの?」

買出しから戻ってきたポーラが尋ねると、彼は首を傾げてみせる。

「いや、昨日みたいにやってるんだけど……出来ないんだよ、PKファイヤーが」

なんか違ってるかなあ?とあれこれ両手を動かしているネスに、彼女は苦笑する。

「くすっ、そりゃそうよ。PSIは人によって使えるものが違うんだから」

「でも昨日は出来たんだよ?あんまり上手じゃなかったけど……」

ネスは不思議そうに尋ねると、ポーラはしばらく宙を眺め、やがて冗談めかして言った。

「それは……きっと……奇跡、だったんじゃないかしら?」

「……奇跡?」

「そう。危なかったから神様が特別に助けてくれたのよ。きっとね」

言いながら笑う彼女に、彼は不満そうな顔をする。

「……それって、昨日助かったのは僕のおかげじゃなくて、神様のおかげって事?」

「えっ?あ、ううん、そんなことないわ。昨日助かったのはネスのおかげよ」

「……まっ、どっちでもいいけどね。助かったんだし」

言いつつネスはベッドに寝っ転がった。

「でもさあ、もう使えないのかな?」

「……それは私にも分からないわ。けど……」

ポーラは彼を正面から見つめ、力強く口を開く。

「私がいるんだから、いいじゃない。あなたが使えなくても、私が使えばいいんだし」

「……そうだね」

ネスは頷き、ベッドから飛び降りて彼女に声を掛ける。

「さてっと!今日はしっかり調べなきゃな!墓地にいくよ、ポーラ!!」

「ええ!」

 

 

 

――――こうして、二人は再び冒険へと身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

久しぶりのMOTHER2小説。

最近ダーククロニクルの長編の方で手一杯で、なかなか新作を書く時間がなくて……

メインの一つなんですから、もっと更新するべきなのに、どうもすいません。<m(__)m>

その分、今回は結構いい出来の物が書けたかと思うんですが、いかがでしょうか?

少しでも楽しんで頂けることを願っています。では。

 

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