〜幸と不幸のハーモニー〜

 

 

 

 

 ()この小説は、『コラボ学園パロ設定』(ダークロとマザーのキャラが学生)になっています。

 

 

 

 

 

――――2月10日。

「……今週か」

「へっ? 何が?」

ユリスの部屋に上がりこんで一緒にゲームをしていたネスは、不意に呟いたこの部屋の主に尋ねる。

すると、返ってきたのは溜息交じりの声だった。

「……木曜日」

「?……あ、ああ、そういう事か!」

彼の言葉を聞き、壁に掛けられているカレンダーに眼をやったネスは、思わず声を上げて頷く。

今週の木曜日――2月14日である。そう、言わずと知れたバレンタインである。

女の子から愛のこもった(そうでないのもあるが)チョコを貰える日だ。無論、恋人のいるこの二人にも、喜ばしい日のはずである。

(そっか、今週だったのか……今年は、どんなチョコかなあ?)

ふと昨年ポーラから貰った特製手作りチョコの味を思い出しながら、夢見心地になっているネスに、ユリスは冷ややかな視線を送った。

「ネス……涎」

「え? ああ、ゴメンゴメン。でもユリス、何でそんなに憂鬱そうなの?」

「……分からないで尋ねてるのか、嫌味で尋ねてるのか、どっちだい?」

そう返されたネスは、一瞬眼を瞬かせたが、すぐにユリスの言わんとしているに事に気づき、やや引き攣った顔で言う。

「え、あ、えっと……モニカの事?」

「他に何があるんだよ?」

そう言って、ユリスは再び大きな溜息をついた。

モニカ――ユリスの恋人である彼女の料理の腕前は、誰もが認める超弩級最低レベルである。

一度口にすれば、それはもう奇々怪々摩訶不思議な味が舌を犯し、抵抗力の無い者なら数秒後には天国行きになる程(ユリス談)だ。

当然、それは手作りチョコでも変わりない。

「確か一昨年はブランデー入りだったっけ?……とんでもない量が入ってたけど」

「そう。おかげで酔っ払って倒れるわ、次の日には二日酔いになるわ……」

「それで、去年は……ああ、アーモンド入りだったよな」

「……丸ごとのが、ゴロゴロと入ってたけどね」

悪夢が蘇ったのか、凄まじくブルーなオーラに包まれたユリスに、ネスは励ましの言葉を掛けた。

「だ、大丈夫だよ! 何かあったら、すぐにヒーリングしてあげるから!」

「……今年は上手く出きてる、とは言ってくれないんだ……」

「い、いや……その……ち、ちょっとユリス! 元気出しなって!!」

――……励ますのも、難しいもんだなあ。

そう思わずにはいられないネスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――ポーラの家。

「それじゃ、そろそろ始めましょうか」

白いエプロンにピンクのバンダナといった格好のポーラは、同じ格好をしたモニカに笑顔で尋ねる。

「う、うん……」

対してモニカはかなり緊張した様子で頷いた。それを見て、ポーラは苦笑しながら彼女の肩を叩く。

「大丈夫よ、そんなに難しくないから!」

「……う、うん」

小声で答えるモニカから、普段の勝気でお転婆な面影は微塵も感じられない。

(流石に気にしてたのかしら……) 

彼女に気づかれないよう、ポーラは小さく息を吐く。

「チョコを作るの、手伝って!」と半ば半泣きの声でモニカから電話が掛かってきたのは、数時間前の事だった。

一昨年、去年と凄惨たる出来栄えのチョコしか作れなかったのは、楽天家の彼女とて、大いにショックな出来事だったらしい。

それを感じたポーラは二つ返事で「いいわよ」と答えたのだ。

……本音を言えば、彼女は例えモニカから呼びかけが無かったとしても、自分から手伝うつもりでいたのである。

(毎年毎年、身体壊してるユリスを見たらねえ……)

青ざめた顔で保健室へと歩いていく彼の姿を一瞬思い出した後、ポーラはモニカに声を掛けた。

「さっ! まずは下準備からね……モニカ、チョコ溶かしてくれる?」

「あ……うん、了解!」

決心がついたのか、ようやく明るい表情になったモニカは、言われた通りの事をしようとチョコを手にする。

……が、そこで不意に、何かを思い出したかの様なポーラに止められた。

「モ、モニカ! ちょっと待って!!」

「えっ? ……何、ポーラ?」

「そ、その、念の為に聞くけど……チョコの溶かし方知ってる……わよね?」

遠慮がちにポーラがそう言うと、一瞬の間の後、モニカは憤慨した様に頬を紅潮させた。

「あ、当たり前でしょ!? お湯を使って溶かす事ぐらい、ちゃんと知ってるわよ!!」

「ゴ、ゴメン。そりゃそうよね。モニカは、去年も一昨年も作ってるんだものね。それくらい昔から知ってるわよね」

「へっ?……あ、う、うん……そ、そう……ね……」

「……モニカ?」

途端に俯き加減になって言葉を濁し始めたモニカに、ポーラは首を傾げる。

そして数秒の間を置いた後、彼女は戸惑いがちに口を開いた。

「ひょっとして……去年までは、知らなかった?」

「う……だ、だから今年はしっかり勉強して覚えて……その……」

「……去年はどうやって溶かしたの?」

「お、お湯の中に放り込んで……」

「……一昨年は?」

「フ、フライパンで……バターみたいに……えっと……」

「……」

ポーラは思わず無言で額に手を当てる。

(これは全面的にサポートした方がよさそうね……自分のは後で作ろう)

束の間でそう考えた後、すぐに気を取り直して声を出した。

「ま、まあ、去年までは去年まで! 今年は今年! しっかり作れば、きっとユリスも喜んでくれるわ!」

「そうよね!……よし、頑張るぞ!!」

――――そんなこんなでチョコ作りは開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――数時間後。

「出来た〜〜!!」

顔中泥まみれ……いやチョコまみれのモニカが、完成したチョコを前にして歓喜の声を上げる。

その横で、ポーラは安堵の溜息をつきながら、額の汗を拭った。

「ほらね、言ったとおりでしょ? そんなに難しくないって」

「うん! 本当にありがとうね、ポーラ。さてと、それじゃあ後片付けを……」

「いいわよ」

「……えっ?」

その言葉に、モニカはキョトンした顔で尋ねる。そんな彼女に軽い笑みを浮かべつつ、ポーラは言った。

「後片付けはしなくていいわよって事。今から私、ネスのを作るから」

「で、でも……こんなに散らかしといて」

「いいって、いいって」

ヒラヒラと手を振りながらそう言うポーラに、モニカは暫く悩む仕種をしていたが、やがて感謝の笑みを湛えて口を開く。

「それじゃ、お言葉に甘えて。……じゃあね、ポーラ! こんどお礼するから」

凄まじい速さで帰り支度をすると、彼女はあっという間に帰っていった。

それを笑顔で見送った後、ポーラはいそいそと腕まくりをし、残っている材料に眼をやる。

「うん、まだ十分余ってるわね。……さて! それじゃあ、ネスのを作ろうっと!」

(今年はユリスも幸せなバレンタインになるだろうし、ネスにも幸せな気分になってもらわなきゃ)

そんな事を考えながら、彼女は慣れた手つきでチョコ作りを再開した。

――――……しかし、彼女は気づいていなかった。今年のモニカのチョコが、去年までとは違う意味で大惨事になる事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――2月14日。バレンタインデー。

毎年この日になると、学校全体がそわそわしている。

頬を染めながら健気にチョコを渡す女子や、お返し目当てで義理チョコを配り歩く女子。

チョコをくれとせがんで引っ叩かれてる男子や、無関心に溜息をついている男子等、実に多種多様な光景が、所々で繰り広げられている。

当然、ネス・ポーラ・ユリス・モニカも、そんな中にいた。

「はい、ネス。今年のチョコレートよ」

「ありがとう、ポーラ!……うわあ、今年も美味しいそうだな」

毎年繰り広げられるこの二人のやり取りに、周りにいた数人の男子が恨めしそうな表情でネスを見る。

しかし、当の本人は全く気づきもせず、ポイッとポーラのチョコを一切れ口の中に放り込み、満足げに頬を綻ばせた。

「うん! 今年も美味しいや! ありがとう、ポーラ」

「ふふふ……どういたしまして」

――――その頃。

「ユリス! はい、これ!」

「……あ、ありがとう」

さりげなくモニカを避けていたユリスだったが、やはりそう上手くいく訳も無く、休み時間に捕まってしまった。

尤も、住んでる家が同じなのだからどの道逃げられる訳が無い。それでも出来る限り、彼は彼女のチョコを食べるのを後回しにしたかったのだ。

……とはいえ、捕まった以上、それも不可能になった訳であるが。

(後でネス探して、ヒーリングしてもらおう……多分、すぐにしてくれるだろうし)

ガサガサと渡された包みを開きながら、ユリスは数日前の会話を思い出しながら、そう考える。

そして、期待と不安の入り混じった瞳で見つめているモニカを気にしながら、おずおずとチョコを口に運んだ。

(……あれ?)

しかし、次の瞬間、自分の舌を犯すはずだった殺人級の風味が全く感じられず、彼は思わず首を傾げる。

「どう、ユリス? 今年はバッチリでしょ!?」

「……うん」

ためらいながらも、ユリスはしっかりと頷いた。実際に去年とは比べ物にならない程、れっきとした『チョコ』になっている。

――いや、これは今まで食べてきたチョコの中でも、かなり上位に入るくらい……。

去年までとの、あまりの変わり様に、彼は何があったのかと暫し思案する。

が、直後にモニカが発した言葉で、その疑問は瞬く間に解決した。

「でっしょう!? ポーラに協力してもらったんだから! 今年こそは、ユリスに美味しいチョコを食べてもらおうって!」

「……モニカ……」

ユリスは心の中で、(ポーラ。君はボクの命の恩人だ!)と叫びながら、モニカがどんな自分を思っていてくれたかを理解し、こう言った。

「ありがとう、ボクの為に。……本当に美味しいよ、このチョコ。これだったら、いくらでも食べられるよ」

「本当!? 良かったあ、沢山作ってきて!!」

「……へっ?」

次の瞬間、モニカの鞄から大量のチョコが取り出され、ユリスは唖然としてそれを見つめる。その数およそ十……いや、二十はあるだろう。

「今年は絶対に美味しいチョコになったって確信してたから、一杯作ってきたの!」

「え……あ……これ……全部、ボクの?」

間違いであって欲しいと願いながら、彼は呟く様に彼女に尋ねる。しかし、返ってきたのは、この上なく残酷な言葉だった。

「うん! 去年までのお詫びも兼ねて、全部食べていいわよ!!」

「……あ、ありがとう」

――――渇いた笑みを浮かべたユリスの眼には、去年までとは、また違った意味での涙が、僅かに滲んでいた。

 

 

 

 

 

 

「……今年は質じゃなくて、量の問題か」

「……みたいね」

そんな彼らの様子を少し離れた所から眺めながら、ネスとポーラはユリスへの同情を込めた溜息をつく。

「モニカ……あれから自分で一杯使ったのね。多分、どれも美味しいチョコにはなってるとは思うけど……」

「……あの量はキツイよな。どんな美味しい物でも、程度が過ぎるとねえ……」

「……大丈夫かしら、ユリス?」

「……まっ、去年までに比べたら、可愛いもんなんじゃない?」

「……だと、いいんだけどね」

「……そうだね」

――――その後、ユリスがモニカのチョコを完食したか否かは……ネスとポーラだけが知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

という訳で、15000のキリ番小説でした。

エイト(こまめ)様、こんな物でよろしかったでしょうか? 一応、リクエスト通りバレンタインの話にはしましたが……。

またご意見・ご不満などありましたら、遠慮せずにお申し付けください。

最後に、リクエストありがとうございました。では。

 

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