〜再会は突然に〜

 

 

 

「ふう……やっと片付いたか」

動かなくなったモンスターの残骸を確認しながら、ユリスは大きく息を吐き、肩を下ろした。

「あ〜〜あ、こんなにモンスターがいるから、ボクに頼んだのか……町長も人使い荒いよ、全く」

地図を片手に、彼は厄介事を頼んできた町長にぼやく。

――――せめて、アイテムぐらい支給してほしいよね。

心の中で呟いたその一言は、溜息となって外へと吐き出された。

 

 

 

 

 

 

アトラミリアを巡る、二人の少年少女の大冒険から暫くの月日が流れた。

世界はかつての豊かな姿に……とは言えずとも、確実に復興への道を歩み始めている。

そんな中、世界を救った勇者の一人であるユリスの元に、ニード町長から一つの頼みが舞い込んできた。

「バース鉄道を世界中に広げるためには、列車の燃料となるゼルマイト鉱石が大量に必要なんじゃ。

しかし今の発掘量では、とても目標の量には達していないのじゃ。それでじゃユリス。

すまんが鉱山洞の奥深くに行って、新たな発掘ポイントを探してきてくれんか?」

なぜ自分なのかと少しばかり疑問に思ったユリスだったが、世界復興のために協力することに異存はなかった。

「うん、わかったよ。任しといて!」

そう二つ返事で引き受け、善は急げとその足でゼルマイト鉱山銅に向かったのである。

(まあ別に、そんな危険な所でもないしね)

そう決め付けた自分を、ユリスは今めいっぱい後悔していた。――――何故かと言うと……。

「シャアアアアァァッッ!!」

「ギイィィィィッッ!!」

「グオオォォォッッ!!」

(…………)

以前に(とは言っても随分と前になるが)鉱山洞に入った時にはいなかったはずのモンスターが、今はあふれかえるほどに群がっていたからだ。

幸いにも、冒険の時に愛用していたレンチと銃を持ってきていたから良かったが、もし丸腰で来ていたらどうなっていたことやら……。

ここにきてユリスは、町長がなぜ自分に事を頼んだかを理解していた。

(世界を救った勇者だから大丈夫だろうとでも思ったんだろうな、絶対)

簡単に言ってくれる、と彼は思う。

そりゃあ確かにあの冒険と通じて強くなったとは思うが、だからといって無敵になった訳ではない。

それにここにいるモンスターは、あの冒険の時に出会った数々のモンスターと比べても、強さには全く遜色はない。

いや、むしろここのモンスターの方が強いという気さえもする。

「こんな時に、モニカがいてくれたらなあ……大分楽なのに」

不意に鉱山洞の低い天井を見上げ、ユリスは自分と同じく世界を救った勇者である少女の姿を思い浮かべる。

――――百年後の世界から来た、長く真っ赤な髪が特徴的な少女。

自分より少し年上で、だけど自分より幼いところもあり、それでいて妙に大人ぶることもあり、一緒にいて退屈しなかった。

そして何よりも、その卓越した剣腕と快活さに、自分は何度も助けられていた。

(元気でやってるかな? 王女なんだから色々忙しいのかも。でも、王女の様に振舞っているモニカって、ちょっと想像できないよな)

うっすらと笑みを浮かべ、思いを馳せていたユリスだったが、やがてハッと自分が今置かれている状況を再確認し、慌てて首を振る。

「いけないいけない。モニカはもういないんだし、ボク一人で頑張らなきゃな!」

自分を鼓舞する様にそう声に出し、彼は鉱山洞の奥へと足を進めた。

 

 

 

 

 

それからしばらく、モンスター達と激戦を繰り広げながら、ユリスはただひたすら奥へ奥へと進んでいった。

使い慣れた銃『スーパーノヴァ』で先手を取り、止めをさせなかった奴には強力なレンチ『グレード・ゼロ』で致命傷を与える。

寸分の無駄もないその戦い振りは、確かに世界を救った勇者だけの事はあると思わせる。

彼に事を頼んだニード町長の判断は、英断と言えるだろう。……もっとも、当の本人にしてみれば、迷惑以外の何物でもないのだが。

「あれ? ここにはモンスターがいないのか?」

その後さらに鉱山洞の奥へと進んでいったユリスは、ふとモンスターの気配の無い、広い空洞へと辿り着いた。

「ふうん……『鉱員たちの休憩所』か」

地図に示されていた名称を声に出し、彼はほっと息を吐く。

見ると、所々に簡素な木製のベンチが置かれている。休憩所の名の通り、ここは安全な場所の様だ。

「せっかくだし、少し休んどこうかな。流石に疲れてきたし」

等と独り言を言いながら、ユリスが近くにあったベンチに腰掛けようとした時、『それ』は起きた。

「うわっ!?」

突然、目の前の空間が光りだし、彼は咄嗟に腕で顔を覆い、目を瞑る。

「な、何なんだこれは!? ま、まさかモンスター!?」

激しい閃光で目を開けることが出来ず、ユリスはしばらく顔を覆ったままだったが、やがて光が消えていくのを感じ、ゆっくりと目をあけた。

「ったく! 何だったんだ今の……」

光は?……そう続けようとした彼だったが、目の前の光景にポカンと口を開けたまま立ち尽くす。

(……えっ?)

―――人違い? いや、そんなはずはない。あの長い紅髪は……でも何故? どうして彼女が……。

困惑するユリスだったが、こちらに向けられた懐かしい顔と、発せられた懐かしい声に、我知らず声を張り上げていた。

「あっ、ユリス!」

「モニカ!?」

そう。くるりと振り返ったのは、間違いなくモニカだった。

「久しぶり! 元気だった?」

「い、いや、まあ、それは……って、そうじゃない! モニカ、君どうやってこの時代に!? 帰ったんじゃなかったの!?」

未だ信じがたい思いで尋ねる彼に、彼女はあっさりと答える。

「え〜〜と、まあ一応帰ったんだけど……何か無性にこの時代に来たくなっちゃって。クレストおばばに星の砂時計を

ちょうだいって頼んで、それで来ちゃった!」

「……いや、『来ちゃった!』って……いいの? 王女が勝手にそんなことして?」

「う〜〜ん、実をいうとあれから時間移動は禁止されちゃったのよねえ……理由、身分を問わず」

「え、ええっ!? だ、だったらこの時代に来ちゃ……」

「まあまあ、固い事は言いっこなし!」

狼狽するユリスを、モニカは笑って制す。……果たして笑って済ませていい事なのかは定かではないが。

「それはそうと……ここってどこ? こんなダンジョン初めてよね?」

不思議そうに辺りを見渡す彼女に、彼は思い出したように説明した。

「あ、ああ、モニカはここの事知らないんだよね。ここはゼルマイト鉱山洞って所なんだ」

「ゼルマイト鉱山洞?」

「うん。パームブリンクスの公園に、封鎖されてる入り口があったでしょ? そこから入ったのがこの場所」

「へえ、パームブリンクスにこんな場所に通じる道があったんだ。で、ここで何してるの?」

「それはね……」

ユリスがざっと事情を説明すると、モニカは興味を示したようで、はしゃいだ声でこう告げた。

「わあ、面白そう! 私も手伝うわよっ!!」

「えっ? て、手伝うって……モニカ、いいの?」

「いいのって何が?」

彼が何を言いたいのか分からず、彼女は怪訝に聞き返す。

「いや、そりゃ手伝ってくれるのはありがたいけど……そんな事してる時間あるの? すぐに帰らないといけないんじゃ……」

「ああ、それなら問題なし! しばらくこっちにいても構わないって、ちゃんと許しもらってきてるから」

「そっか。それだったら遠慮なく頼もうかな。それじゃモニカ、改めてよろしく!」

「まっかせて! さあ、それではゼルマイト鉱石目指して、レッツゴーー!!」

「オーー!!」

掛け声と共に、再び出会った二人は、鉱山洞への奥深くへと足を踏みだ……したのだが、

ある種の生理現象を思わせる音がモニカのお腹の辺りから響き渡り、二人はそろって足を止めた。

「モ、モニカ……?」

しばしの沈黙の後、ユリスが気まずそうに尋ねると、モニカはやや赤くなりながら恥ずかしげに笑う。

「は、はははは……」

「…………」

再度、沈黙。ややあって彼は溜息と共に口を開いた。

「一回戻ろうか?」

「……お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――その後、ゼルマイト鉱山洞を離脱した二人は、もう既に日が暮れかけていることに驚き、ひとまずユリスの家へと向かった。

突然のモニカの来訪に、家の使用人達は最初こそ目を丸くして驚いたが、それも束の間で、すぐに暖かく彼女を迎え入れた。

そして、いつもより豪華な夕食を堪能した二人は、部屋でゆっくりと久々の会話を楽しんでいた。

「あ〜〜美味しかった! ゴメンねユリス。急に訪ねてきた上に夕食まで頂いちゃって」

「別に気にしなくていいよ。みんな久しぶりにモニカに会えて嬉しかったみたいだし」

ユリスがそう言うと、モニカは「ありがと」とはにかんだ笑みを浮かべ、ベッドに身を沈める。

「明日、みんなに挨拶しておこうかな? ミレーネやミーナにも会いたいし」

「そうだね。まっ、鉱石探しもそこまで時間がないって訳でもないしさ」

「そうね。星の砂時計の効き目も、数日程度で消えるもんじゃないって、クレストおばばも言ってたし」

「へえ〜〜あの時はすぐ戻ったけど、そんなに長いこと効果があるんだ。凄いなあ星の砂時計……あれ?」

不意にある事を思い出し、彼は怪訝そうに首を傾げた。その様子を見た彼女は、身を起こして問いかける。

「ユリス? どうしたの?」

「いやさ、ちょっと思ったんだけど……」

ポリポリと頬を掻きながら、ユリスは「ボクの記憶違いかなあ?」と前置きしつつ口を開いた。

「確か星の砂時計って、使った人の一番思いの強い過去の場所に戻るんじゃなかったっけ?」

「?……そうよ。それが?」

何を今更、と言いたそうな表情で返すモニカに、ユリスは相変わらず首を傾げながら続ける。

「いや……それだったら、何でモニカはゼルマイト鉱山洞に現れたの? だって君、あの場所知らなかったでしょ?」

「えっ?……あ……そ、それは……」

彼のその問いに、彼女はどうしたのか気恥ずかしそうに言葉を濁し、顔を逸らした。見るとその顔は仄かに赤い。

「?……モニカ、どうしたの? ボク、何か変な事言った?」

「う、ううん……えっと……その……」

「……?」

益々赤くなっていくモニカに、ユリスは訳が分からずに再度首を傾げる。――――と、その時……。

「モニカさ〜〜ん! お風呂の準備が出来ましたよ〜〜!」

「え、あ、はい! じ、じゃあユリス! また後でね!!」

そういい残すと、彼女はまさに疾風の如く部屋を出て行った。

後に残された彼は、ただポカンとするばかりである。

「?……どうしたんだろう? 変なモニカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ……ユリスってば、妙なところで鋭いんだから……」

湯船につかりながら、モニカは大きな溜息をついた。

「でも……本当に来れたのね」

天井に視線を向けつつ、彼女は数時間前の事を思い出す。

――――もう一度ユリスに会いたい。

そんなただ一つの思いで星の砂時計を使った。そして、その思いの通り、再び彼に会うことができた。

鉱石探しと言うのはいい口実である。この時代に……ユリスの傍に入るための。

(……自分で言うのもなんだけど……すっかり恋する乙女になっちゃったわね、私……)

まさか一人の男の子に会うために、わざわざ禁止事項を破ってまで行動するとは……。

剣の修行に明け暮れていて、異性にとんと興味のなかった昔とは大した違いだ。

無意識に苦笑していたモニカだったが、不意に沈んだ表情になり、湯船に顔をつけた。

(いつまで……ここにいようかな?)

城の者たちからは「なるべく早く」と言われただけで具体的な期日までは要求されていない。

しかし、だからと言って長々といる訳にもいかない。王女の自分にはやるべき事が沢山あるのだから。

(でも今は……もう少しだけ……)

やらなければならない事はたくさんある。それは重々承知している。――――だが、それでも今は……。

(ユリスと一緒にいさせて欲しい……)

心の中でそう呟き、彼女はゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

 

お待たせしました。何とか2000のキリ番小説をUPさせることが出来ました。

リク内容は『ダークロの小説』だけでしたので、結構好き勝手に書いてしまいましたが、どうでしょうか?()

キリ番小説は出来る限り優先して書いていきますが、それでもお時間は頂くと思います。ご了承ください。

この小説は、キリ番を取った方(名前の申告なし)のみ、お持ち帰り可です。では。

 

inserted by FC2 system