〜常時ではなく、永遠の絆〜
「やっぱり、こっち……かしら? ああ、でもこっちの方が……う〜ん……」
自分の身長と同じくらいの鏡台の前に立ち、ポーラは様々な洋服をとっかえひっかえしていた。
彼女の周りの床には、足の踏み場もない程に服が散乱していて、近くにあるクローゼットやタンスも開けっ放しの状態になっている。
今日、身に纏う服を決める為にと試着を始めてから、早一時間。ポーラの部屋は、普段の整頓された状態とはかけ離れた、散らかり放題となっていた。
「ズボンの方が動きやすいけど、スカートの方が可愛いと思うし……きっとネスも……そっちの方が……」
なんだかとてつもなく恥ずかしい事を呟いてしまったように思い、ポーラは手に取っていたスカートを握りしめつつ頬を赤らめる。
自意識過剰だとは分かっているが、それでも気になるものは気になってしまうのだ。
――――久しぶりに会う彼の眼に、自分がどんな風に映るのかは。
「褒めてくれるかしら?……ネス」
口にした途端、心臓が高鳴るのを感じながら、ポーラは堪えきれず、はにかんだ笑みを零した。
二か月ほど前、ランマに集まってクリスマスを祝いたいという手紙がネス、ポーラ、ジェフの元に届いた。それを読んだ三人が、相当驚いたのは言うまでもない。
なにせプーの住むランマには、クリスマスという風習は本来無い。彼がクリスマスを知っているのは、あの冒険の時に三人が教えたからだ。
つまるところ、プーにとってクリスマスとはかなり縁浅いものの筈なのである。そして、彼が異国の風習に関心が薄いという事は、三人とも十分に知っていた。
――――その彼が、どうしてクリスマスを祝おうなどと言い出したのか?
誰もがそんな疑問を感じはしたが、異論は無かった。そんな訳で、あの冒険以来の数か月ぶりに、世界を救った四人は集合する事が決定したのである。
そして、その当日――12月25日。
ポーラは冬休み真っ只中にもかかわらずに早起きをし、クリスマスパーティに着ていく服を、ずっと悩んでいたのである。
他の身支度や用事は完全に上の空。いつもは会話が弾む親とも、今日ばかりは何を話したのかさえ覚えていない。
それくらい、今日は彼女にとって大切な日なのだ。
ランマでどんなパーティが催されるのか楽しみだし、ジェフやプーとも話したい事が沢山ある。だが、やはり一番の理由は、御無沙汰だったネスと会える事だった。
あの冒険から暫く経ったある日、ポーラはネスにずっと抱き続けてきた想いを告げ、晴れて二人は恋人同士になった。
とはいえ、それから特別二人の間で変化があった訳ではない。会うのも数週間に一回ぐらいというサイクルで、それも数時間の談笑や買い物で終わってしまう。
それについては、多分お互いにまだ照れがあるのだろうと、ポーラは考えている。
恋をした事が初めてで、その恋が実った事も初めて。だからその先についての知識に乏しく、手探りで少しずつ進まざるを得ない。
自分にしろ彼にしろ、そんな風に考えているのではないかと、彼女は思い、納得していた。
だから別段ネスとの関係に不満は無かったが、勿論もっと恋人らしくなりたいとは思っていた。
そんな時に舞い込んできた、今回のクリスマスパーティ。二人っきりという訳ではないものの、良い機会だとポーラは張り切っているのである。
「ちょっと寒いけど、やっぱりこのお気に入りの……ああでも、震えてばっかりだったらムード台無しだし……だけど……」
もうそろそろ二時間が経過しようとしている服選びだが、未だ終了の兆しは見えない。なにせ、クリアしなければならない条件が多すぎる。
――――ランマの人達に失礼がなく、防寒が十分であり、且つネスが喜んでくれそうな服。
この難しい注文全てに応える事の出来る服は、中々見つからない。
段々考えるのも難しくなっていき、あれこれと試している組み合わせも、そろそろ二週目に入ってしまっている気がした。
「はあっ、何でこんなに決まらないのかしら?」
ポーラが思わず溜息をついた時だった。不意に玄関のチャイムが聞こえ、彼女はハッとして時計を見る。
そして、いつの間にか約束の時刻になっていたのを確認すると、焦りと動揺の色を顔に浮かべた。
「ど、どうしよう? もう時間だわ。ま、まだ決まってないのに……!」
慌てたポーラは急いで服を決めようとするが、ただでさえ散々悩んでも決めかねていたものが、一瞬の内に決まるわけがない。
アタフタとしている彼女の耳に、誰かが階段を上ってくる音が近づいてくる。そして暫くして、コンコンと部屋のドアがノックされると、母親の声が聞こえてきた。
「ポーラ、ネスちゃんが来たわよ」
「わ、分かってるわ! ち、ちょっと待ってて!」
「あらあら、そんなに慌てて。でも、私に言っても意味ないわよ?」
「だ、だから分かってるってば!……ああ、もう! これで良いわ!」
結局ポーラが決めた服装は、ピンクのワンピースに真っ赤なリボン――あの冒険の時の服装そのままだった。
あれだけ悩んだ末に行き付いたのがこれだという事に、何だか情けないやら悲しいやらだが、もう迷っている時間は無い。
大急ぎで服を着て、手早くも念入りに髪をとかすと、ポーラは部屋の扉を開ける。そして、楽しそうに笑っていた母親に早口で言った。
「じ、じゃあママ、行ってきます!」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけてね。それと……楽しんでらっしゃい」
そう返した母親に軽く頷くと、ポーラが派手な音を立てながら階段を駆け下りる。もしこんな彼女を父親が見たら小言を言うだろうが、幸いにも今日は出掛けていて不在だった。
よって全く躊躇することなく大急ぎで一階に下りたポーラは、玄関前に到着するとピタリと立ち止まり、一つ深呼吸をする。
そして、上がっていた息と気持ちが平静になると、ゆっくりと玄関のドアを開けた。
当然だが、その先にはネスの姿があり、ポーラは無意識に笑みを浮かべると彼に挨拶する。
「お待たせ、ネス。ごめんなさい、ちょっと遅刻ね」
「全然。まだパーティの時間までにはかなりあるんだし、大丈夫だよ。ランマへ行くには、テレポーテーションですぐだしね」
そう言う彼の服装はトレードマークとも言うべき赤い野球帽は相変わらずだったが、あの冒険の時のような半袖半ズボンではなく、パーカーに長ズボンで、首にはマフラーをしていた。
そのマフラーがかなり乱雑な巻き方をしている事からして、多分、本人が望んで巻いてきた訳ではないのだろう。
そう思ったポーラは、その事をネスに訊ねてみた。
「そのマフラー、ひょっとして小母さんに言われて渋々してきた?」
「えっ、何で分かったの!?」
眼を丸くして素っ頓狂な声を上げた彼に、彼女はクスクスと笑いながら口を開く。
「だって、すっごく滅茶苦茶な巻き方なんだもの。それじゃ温かくないでしょう?」
「ああ、まあね。でも僕、寒さには割と強いし、正直言って要らないんだよね、これ。服だって別に半袖でも良かったんだけど、ママが夏物は全部仕舞っちゃってて、わざわざ取り出すのが面倒でさ」
「フフ、相変わらず元気ね、ネスは。……クシュン!」
「ポーラ?」
不意に吹き抜けた冷たい風に、ポーラは反射的にクシャミをしてしまう。
すると、ネスが巻いていたマフラーを外し、そっと彼女に肩にそれを掛けた。
「え?……ネ、ネス?」
「寒いなら、使って。さっき言ったけど、僕は別に平気だから」
「あ、ありがとう」
お礼を述べつつ、ポーラは手早くマフラーを巻く。首筋に伝わる彼の温もりに、知れず胸が高鳴るのを感じながら、彼女が笑顔で言った。
「うん、とても温かいわ」
「良かった。じゃ、ツーソンのデパートに行こうか。そこでケーキ買うんだったよね?」
「ええ、奮発して一番美味しいのを予約してあるから。それじゃ……」
ポーラが少しだけ積極的になって手を差し出すと、ネスは一瞬驚いたように身体を強張らせたが、やがてはにかんだ笑みと共に彼女の手を取る。
「行きましょう」
「うん……あ、ポーラ」
「何?」
並んで歩き出した直後、ネスが声を掛けてきたのに、ポーラは小首を傾げてみせた。
「その服、あの冒険の時に着てた奴だよね?」
「え、ええ、そうよ。……変?」
「まさか。その、やっぱりポーラは……それが一番可愛いと思うよ」
「っ……ありがとう」
「よう、お二人さん。相変わらず仲睦まじい事で」
「もうジェフ、久しぶりに会って早々、からかわないでよ」
「ほ、本当よ。……あら?」
ポーラとネスがテレポーテーションでランマにやって来ると、偶然にも到着地点でジェフと鉢合わせした。
彼の隣には、スカイウォーカーに良く似た形状の機械がある。一体何なのだろうかとポーラが疑問に思っていると、ネスが「あっ」と声を上げた。
「ひょっとしてそれが、いつかの手紙に書いてた『スペーストンネル』の最新型?」
その言葉に、ポーラも「ああ」と頷いてみせる。時折ジェフから届く手紙に、確かそんな事が書かれていたのを思い出したのだ。
「そうさ、『スペーストンネルmk2』って名前なんだ。まっ、まだまだパパの造った奴には及ばない性能で、あらかじめ設定した空間しか移動できないんだけどね」
「それでも十分凄いよ。流石ジェフだね」
「本当。あの冒険からそんなに時も経ってないのに……やっぱり天才だわ」
「はは、ありがとう。……だけど、やっぱりテレポーテーションと同程度の性能にしなきゃ、誇れないと思うんだ」
少しだけ寂しそうにジェフが笑うと、ポーラとネスはどちらともなく顔を見合わせる。
何だか自分達がマズイ事をしてしまった感覚に襲われた二人だったが、それを敏感に感じ取ったジェフが慌てて片手を振ってみせた。
「おいおい、二人してそんな顔をしないでくれよ。別に君達がテレポーテーションで来た事に、文句があるわけじゃないさ」
「そ、そう? なら良いんだけど……」
「さっ、それより早く行こうぜ。プーを待たせちゃ悪いしさ」
「ええ、そうね。ネス、行きましょう」
「うん、分かった」
意見の合致した三人は、並んで歩きながらプーのいるランマ宮殿へと歩を進める。
しかし、その道すがら、不意にジェフがポーラとネスを眺めつつ軽く吹き出した。
「ん? どうしたの、ジェフ?」
「いや、その……言って良い?」
「何を?」
ポーラが訊ねると、ジェフはニヤニヤと笑いながら言った。
「君達さ、さっきやって来てから、ずっと手を握ったままだよね」
「へっ!?」
「なっ!?」
そう叫んだきり、揃って絶句してしまった二人に、ジェフが堪えきれなかったのか盛大に声を上げて笑う。
「アハハハ! ひょっとして無自覚だった? いやあ、本当……寒い冬には良い暖房だよ」
「ジ、ジェフ!」
顔を真っ赤にして叫ぶネスの隣で、ポーラは彼と同じように赤くなって俯いた。
――――しかし……それでも二人の握られた手は繋がったままだった。
宮殿に入ると、三人は前に来た時と内装が随分変わっている事に驚き、反射的に立ち止まってしまった。
「うわあ、凄い。壁や天井まで、ちゃんとクリスマスの飾りつけしてるよ」
「プーらしいわね。彼、几帳面だから」
「だけどリースとかの飾りはともかくとして、よく調達出来たなあ、モミの木なんか」
敷かれている赤い絨毯の左右に等間隔で置かれている、何本ものクリスマスツリーを眺めながら、ジェフは感心した様子で呟く。
すると、そんな彼らの声が聞こえたのか、奥の方から二人の女性が姿を現した。驚いた事に、服装こそランマの物だが頭にはしっかりとサンタの帽子を被っている。
その事に三人が内心で唖然としていると、女性達が両手を前で組んで深々とお辞儀をした。ランマ特有の挨拶だ。
「皆様、本日はようこそおいで下さいました。プー王子がお待ちです。こちらへ」
「あ、はい」
ネスが代表して返事をすると、女性の一人が引き返していき、残った方の女性が三人を王室へと案内する。その途中、何人かとすれ違ったが、やはり皆サンタの帽子を被っていた。
ここまで徹底してるのかと三度驚いた三人は、前を歩く女性に聞えないくらいの小声で、ヒソヒソと話し始めた。
「何だか……ここまでちゃんとしてると、少し緊張してくるんだけど、僕」
「わ、私も。これじゃパーティと言うより、儀式みたいな感じが……」
「あ、ああ。プーの奴、クリスマスをちょっと勘違いしてるんじゃないか?」
そんな風に各々不安を口にしていると、いつの間にか王室の手前まで辿り着いていた。
女性は「ここからは皆様だけで」と言い残し、一礼すると元来た道を引き返して行く。取り残された三人は暫く顔を見合わせて先へと躊躇していたが、やがて意を決した様子で頷き合った。
「い、行こう」
「え、ええ」
「り、了解」
緊張と不安からか、まるで得体の知れない洞窟へ入る時のように、三人は恐る恐る暗がりの通路へと歩き出した。
敵など出てくる筈もないのに周囲へ忙しなく視線を飛ばし、慎重過ぎる足取りで進む。そして、たっぷりと時間を掛けて王室へと入った瞬間、盛大なクラッカー音が一斉に鳴り響いた。
――――緊張していた三人は、それに対して驚きのあまり、絶叫と共にひっくり返ってしまった。
「驚かせてすまない。しかし『くりすます』とは、ああするものだと書物で読んだのだが……違ったのか?」
「い、いや、間違ってはないんだけど……」
「ち、ちょっと私達……その……」
「へ、変な勘違いしてた、かな? は、はは……」
豪華なテーブルに腰掛けた三人はプーから眼を逸らしつつ歯切れの悪い返事をする。
何故、そんな事をしているかというと彼の恰好が原因だった。これまた何処から調達してきたのか、プーは全身サンタの服装で、おまけに白い付け髭まで付けている。
決して似合っていない訳ではない。むしろ似合ってるからこそ、思わず吹き出してしまいかねないのだ。
先程揃って失態を犯してしまった身である以上、更なる失礼は流石にマズイだろうと、三人はどうにか堪えているのである。
しかし、いくら頑張っても笑いは治まってくれない。それを悟られまいと俯き、小刻みに震えている三人を見て、プーが首を傾げた。
「どうした? せっかくこれから祝宴だというのに、腹痛か?」
「ま、まさか! そんな事無いって!」
「う、うん! 私もお腹ペコペコよ!」
「ぼ、僕もさ! あ〜楽しみ! プー、早くしてくれよ!」
「あ、ああ、分かった。……すぐに準備を」
プーがそう言うと、王室にいた人々が一斉に「かしこまりました」と答え、ゾロゾロと部屋を出て行く。
そして、十分程の時間が流れると、見るからに美味しそうな料理の盛られた盆を、両手に抱えて戻ってきた。
「うわあ、すっごい!」
「本当、美味しそう」
「いやあ、何だから悪いなあ。こっちはお菓子やケーキしか持ってきてないってのに」
「気にすることはない。せっかくの機会なんだから、これくらいのもてなしは当然だ。……さて、積もる話はそれぞれあるだろうが、まずは腹ごしらえとしよう」
「賛成!!」
「異議無し!!」
ネスとジェフは嬉々とした表情で叫ぶと、我先にと鳥の丸焼きに手を伸ばす。
「もう二人共、行儀悪いんだから」
「はは、良いさ。今日は無礼講だ。ポーラ、お前も遠慮せず食べてくれ」
「ありがとう、プー。じゃあ私は……お肉は混雑しているみたいだから、こっちを頂くわ」
食事の作法などお構いなしといった風に、鶏肉を頬張っている二人に苦笑しつつ、ポーラは果実が盛られた皿へと手を伸ばした。
一時間程が経過すると、あれだけあった料理の数々は綺麗に皿の上から消えてしまっていた。
普段は小食のポーラも少しお腹が苦しくなる程に食べ、ジェフとプーも談笑しつつもかなりの量を食べている。
ネスに至っては、他の三人が食べた分と同等くらいの量を胃袋に収めていた。
その上で、今は食後のデザートであるジェフの持ってきたクッキーや、ポーラが買ったクリスマスケーキを至福の表情で食べている。相変わらずの大食漢ぶりだった。
「モグモグ……ねえ、ケーキもう一切れ良い?」
「おいおい、まだ入るのか? どんな胃袋してるんだよ、本当」
「まあ、ネスらしいといえば、らしいがな」
「ちょっとプー? それ、どういう意味?」
「ほらほら、怒らないの、ネス。はい、ケーキをどうぞ」
少しムッとした様子でプーを見たネスに、ポーラはケーキの乗った皿を差し出す。するとネスはたちまち笑顔になり、フォークを動かし始めた。
「流石だな、ポーラ。ネスの扱いが板についてる」
「そりゃあね、なんたって未来の奥……」
「ジ、ジェフ!」
「ん? 何の話?」
「ネ、ネスはいいの!」
「ふっ、どうしたポーラ? 風邪でもひいたか? 顔が赤いぞ?」
「プ、プーまで! もうっ!」
膨れっ面になったポーラを見て、ネスはキョトンとして、ジェフは声を上げて笑い、プーは忍び笑いをする。
そんな三人に、何だか怒るのが虚しくなった彼女は、ふと浮かんだ疑問をプーに投げかけた。
「……そういえばプー。どうしてランマでクリスマスパーティをしようって言い出したの?」
「む?」
「あ、それ僕も気になってた」
「ングング……僕も……」
「ああ、実はな……」
三人に訊ねられ、プーは僅かに照れの色を浮かべた表情で言った。
「仕方がないのは分かってるんだが、最近堅苦しい暮らしの毎日でな。無性にお前達と会いたくなってしまったんだ。無論、『くりすます』に興味があったのも理由の一つだが……」
「あ、そういう理由だったのか。でも、わざわざパーティ開かなくったって、会おうと思えばいつでも会えるじゃん」
「ネス、僕らはそうでもプーは違うんだよ。なにせ、王子様なんだから」
「まあ、そういう事だ。今回にしても、イースーチーを説得するのに苦労させられたよ」
「そうなの。じゃあ来年もまた……という訳にはいかないのね?」
「っ……難しいだろうな」
「……ああ」
「そう……なんだ」
眼を瞑り腕組みをして言ったプーの言葉に、場の雰囲気が重くなる。
――――あの冒険の時のように四人で過ごせる時間は、これからドンドン減っていく。
その事に気づき、皆が黙り込んだ。先刻までの楽しさを塗り潰すかのように、悲しさが心の中で広がっていく。
しかし、やがてネスが穏やかな笑みと共に口を開いた。
「でもさ……」
「ネス?」
「でも、全然会えないって訳じゃないんだしさ。これからは今回みたいに、何かの記念日の時に会うようにしようよ。それぐらいは、きっと出来る筈さ」
「……そうだな。うん、そうだよ。流石ネス、未だ僕らのリーダーだね」
「確かにな。決める時は、決めてくれるのは相変わらずだ」
「そ、そんな、褒め過ぎだよ」
「うふふ、良いじゃないネス。素直に喜んでおけば」
ポーラが軽くネスの肩を叩くと、彼ははにかみながら頬を掻く。
すると、そんな二人を眺めていたジェフとプーが、ふと顔を見合わせた。
「まあ、でも、あれだね。記念日と言っても色々あるけど……」
「ああ、この二人の結婚日には、必ず集まりたいものだな」
「なっ!?」
「ち、ちょっと!?」
思わずネスとポーラが叫ぶが、ジェフとプーは涼しい顔をして会話を続ける。
「しっかし、どうする? 結婚式もランマでやるのか?」
「それはそれで歓迎するぞ。しかし家族の事を考えると、やはり式はどちらかの故郷でやるのが筋だと思うが……」
「う〜ん、それもそうか。となると、披露宴だけって事になるな。また今日みたいに、沢山料理が必要になるぜ、きっと」
「なに、その時は今日よりも更に豪華な料理で持て成すさ。……してネス、ポーラ。期日はもう決まってるのか?」
至極真面目な表情で訊ねたプーに、二人は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「そんなの、ま、まだ決まってるわけないだろう!!」
「そそ、そうよ! 私達はまだ未成年なんだから!!」
「……結婚する事は確定済みなんだね」
「らしいな。仲睦まじくて何よりだ」
「ジ、ジェフ!!」
「プ、プー!!」
再びネスとポーラが怒鳴ると、ジェフとプーは盛大に吹き出してしまう。そんな彼らを見て、二人もやがて笑い出す。
日頃の立場や悩み、寂しさなどを忘れた四人の笑い声は、クリスマスの夜にいつまでも響き渡っていた。
あとがき
という訳で、78659(並び替えるとポーカーのストレートだそうです)のキリ番小説でした。
四人全員が登場する話は久々でしたので、中々難産だった気がします。どうしても、会話文が多くなってしまうんですよね。
ともあれ、エイト(こまめ)様。リクエストありがとうございました。では。