〜咲き誇るはずだった出会いの花〜
綺麗な花がたくさん咲き乱れる場所、花の宮殿。いつ誰が建てたとも分からない。
この宮殿の主は一人の女性、名はアンドレア。
代々この宮殿を守るのがアンドレアの一族の掟。 生まれた瞬間からその宿命からは逃れられない。宮殿の中でしか生きられない。
「それもまた・・・宿命」。
宮殿にはアンドレアと数名の兵士と使用人が住んでいるが兵士や使用人は恐れ多いのか、彼女と必要以上に話そうとはしない。
話し相手もいない彼女はただ本を読むか、花を見ているしかなかった。
そんなある日の事。兵士の一人がアンドレアの部屋にやって来た。その横には一人の少年が俯いて立っていた。
まだ年端もいかないであろう月の民の少年だ。
「どうしました?、その子は」。
それを聞くと兵士は。
「こいつが宮殿に忍び込んだんです」。
少年はなおも、俯いたままだ。まさかこんな少年があの石を狙って来た訳ではないだろう。
アンドレアはそう思い、少年に何をしていたのか尋ねた。
「花を・・・・見ていたんだ・・・綺麗な花が・・咲いてたから」。
少年は俯いた状態で呟くように言った。
兵士は少年を睨みつけ。 「嘘じゃないだろうな?」。兵士は低い声でそう言った。
「そんな子供が嘘をつきますか?」。
アンドレアが兵士に言うと、兵士は驚いたようにアンドレアの方を見た。俯いていた少年もバッと顔をあげアンドレアの方を向いた。
それが少年との出会いだった。少年は花の世話役として 宮殿に置かれる事になった。
少年は名前を持っていなかったのでアンドレアにサンと名付けられた。
まぶしい太陽のように花たちに愛情を注いでほしいというアンドレアの思いのこもった名前。
「私はアンドレア、よろしくね」。
アンドレアが天使のような笑顔でサンに微笑みかけた。
「・・うん、よろしく」。
アンドレアの笑顔になかば見とれていたサンは慌てて返事を返した。
花が大好きな二人はすぐに仲良くなった。
「ねえ?・・アンドレアは何の花が好き?」
サンが聞くと、アンドレアは。
「みんな好きよ、みんなとっても綺麗だもの」。
そうサンに微笑みかけた。「・・僕もみんな好き」
サンはアンドレアの笑顔にドキドキしながら答えた。アンドレアはサンと話しているのが好きだった。サンもアンドレアといるのが好きだった。
ある日アンドレアが庭を散歩していると一輪の花が折れていた。
「・・・・・可哀想に・・・」。
悲しげな表情で呟くアンドレア。そこにサンがやって来た。
「・・・・・・・アンドレア」。
アンドレアはサンの方を向いて。
「この花、折れてしまったみたいなの」。
アンドレアの悲しげな表情にサンはドキッとする。実はその花はさっき自分が誤って折ってしまった花だったからだ。
しかしサンは言い出せなかった。悲しそうなアンドレアを見て。もしも自分が折ったといえば、アンドレアに嫌われてしまうかもしれない。
それが怖かった。アンドレアは折れた花を自室に飾る事にした。サンもそれに賛成したが、やはり後ろめたい気分だった。
嫌われたくない、でもアンドレアに嘘をつくのはもっと嫌だ。そう思ったサンは。
「ごめんよ・・・アンドレア、その花を折ったの・・・僕なんだ」。
勇気を振り絞ってアンドレアに話したサン。しかしアンドレアは笑顔だった。
「この花はサンに大切な事を教えてくれた、私にもサンは優しいいい子だって教えてくれた、それがこの花の命だったの」。
アンドレアはいつも綺麗な笑顔でサンに微笑んだ。サンはその笑顔に顔を赤らめながら笑った。
ある時、サンがアンドレアから貰って撒いた種が芽を出した。アンドレアはサンが愛情を注いだから芽が出たのだと言った。
「僕、この花たちが大好きなんだ」
サンは嬉しそうにそういった。
でもアンドレアの事はもっと大好き。
そう心の中で呟いた。
でも恥ずかしくて言葉には出せなかった。大好きなアンドレアと一緒の暮らし、花を育てて、アンドレアと話して、この暮らしがサンは大好きだった。
ずっと続けばいいのに。そう思うサンだが、それがずっと続く事はない事をこの先、サンは知ることになる。
ご感想
図書館の兎様から頂きました、ダークロのアンドレア&サンの話でした。
文章としては短いながらも、しっかりと情景が伝わってくる、素晴らしい小説ですね。
思えば、ダークロの物語はこの二人の出会いから始まってた様な物・・・それを再確認させてくれる話でした。
図書館の兎様、素晴らしい小説どうもありがとうございました<m(__)m>
タイトルはご自由にとの事でしたので、勝手につけさせてもらいましたが、
お気に召さなければ、遠慮なくお申し付け下さい。では。