最終決戦〜Twilight Princess(第一話)

 

 

 

 

 

雷鳴が轟き、暗雲が立ち込める空の下、リンクとミドナはようやくハイラル城の最上階に到達していた。

そこにある開け放たれた入り口の中は薄暗く、内部の様子は良く分からない。

しかし、逆にその事が二人にある事を気づかせていた。……ここに、最後の敵が待っているという事を。

「どうやら、ここみたいだな」

ミドナの独り言の様な呟きに、リンクは相槌を打った。

「ああ……嫌な気配がする。鳥肌立ってきたぜ」

今までの数々の魔物、そしてあの僣王ザントをも遥かに上回る邪悪な気配。これから対峙する敵の強大さを肌で感じ、リンクは思わず寒気を覚えた。

「これまでとは、桁違いって事か……」

「だろうな。だけど……ワタシ達は、絶対に勝たなきゃならないんだ。ゼルダ姫や……この世界を救うために」

「……そうだな」

真剣な表情で話すミドナに頷きながら、リンクはボンヤリと、これまでの冒険の事を思い返す。

(……小さな村で育った俺が、世界を救う勇者になるなんてな……世の中、何があるか分かんねえぜ)

今でも時々、彼は不思議に思う。――――なぜ自分が、そんな使命を背負う事になったのか? なぜ自分が、そんな力を持っていたのか?

「……この戦いが終われば、何か分かんのかな?」

「?……何がだ?」

突然の呟きにミドナは怪訝そうに彼に振り返る。思わず考えを口にしてしまったリンクは、慌てて首を振った。

「えっ? あ、いや……気にすんな、独り言だ」

「……雑念は捨てておけよ。奴は……半端じゃないんだからな」

「……ああ」

リンクは静かに頷くと、まだ見ぬ最大の敵を睨み付ける様に、正面を見据える。

「……いくぜ!」

そう言って歩き始めた彼の横に、ミドナが無言で寄り添い、二人は決戦の場へと足を踏み入れた。

 

 

 

「……ここは……?」

「玉座だ……この城のな」

リンクにそう答えたミドナは、注意深く辺りに視線を飛ばす。

それに習うかの様にあちこちを眺めていたリンクだったが、不意に足が何か硬い物に当たり、ハッとして足元を見た。

「!?……石造?」

すると、つられてそれを見たミドナが思い出す様に呟く。

「これは確か……玉座の上に飾られてた……」

「……何?」

――何故、そんな物が此処に……?

同時に同じ疑問を持った二人は、どちらとも無く前方にある、玉座の中空に目を向けた。

そして次の瞬間、揃って息を呑む。

「「……っ!?」」

そこにはミドナに全ての力を託したが故に、姿を消してしまったはずのゼルダ姫の姿があった。

見えない力で身体を壁に貼り付けられているらしく、その姿は弱々しく、苦しげな表情を浮かべている。

「ゼルダ姫!!」

「……待て!」

思わず助け出そうと身を乗り出したリンクを片手で制し、ミドナは言った。

「見ろ……奴だ」

「……っ!」

その言葉に、彼はまるでこの城の主であるかの様に、物々しく玉座に腰掛けている男を睨み付ける。

「っ! あれが……」

「そうだ……ガノンドロフだ」

ガノンドロフ――僣王ザントを影で操り、この世を我が物にしようと企てた魔盗賊。

今、その男が目の前にいる。自分達が倒すべく、最大にして最後の敵が…………。

(っ……すげえ威圧感だ。こりゃあ……相当な物だな……)

かなり離れている今でも、奴から発せられる禍々しき気配が、容赦なく肌を突き刺していく。

しかし、不愉快以外の何物でもないこの感じに、何故かリンクは奇妙な懐かしさを覚えていた。

(?……何故だ? 奴に会うのは……これが初めてじゃない気がする……)

既視感と呼ばれる物だろうか? そう彼は考えたが、すぐにそれを打ち消す。

(違う……この感じは、そんな物なんかじゃねえ)

直感的な物でリンクは感じていた。――――奴と自分は、目に見えぬ何かで繋っている。底知れぬ、大きな因縁か何かで……。

「ようこそ、我が城へ……」

突如として、ガノンドロフが口を開き、小馬鹿にした様な声が辺りに響く。

「……っ!」

その声に、身体の中から何かが渦巻くのを感じたリンクの横で、ミドナは震える声で言った。

「お前が……ガノンドロフか……」

「……フッ」

鼻で笑う事で返事をした奴に、彼女は堪えていた怒りを爆発させて言い放つ。

「……死ぬほど会いたかったぜ!!」

「…………」

しかしガノンドロフは、それに全く動じる事無く、静かに立ちあがりながら言った。

「……僅かな力を宿した程度で、神に逆らい見捨てられた哀れな一族よ……」

伝承を語る様で、それでいて喜びを秘めた様な口調。そこには並大抵の者ならば、思わず竦み上がってしまうであろう威圧感があった。

……と、その時、体中の血が狂った様に騒ぐ感じがし、リンクは思わず胸を押さえる。

(くっ!……何だってんだ、全く!!)

恐らく、彼自身には分からないだろう。分かっているのは、彼の中に流れる勇者の血。全てを理解しているその血が、彼に告げているのだ。

――――奴は、何があっても倒さなければならない宿敵だと言う事を。

「お前達の苦悶が血肉の糧となり、憎悪は力となって我を目覚めさせた……」

そこまで喋ったガノンドロフは、ふと自分の真上にいるゼルダ姫に視線を向けた。

「お前達一族に欠けていた物……それは力!」

その言葉と共に奴は振り返ると、左手を力強く握り締める。すると、そこに三角形の紋章が浮かび上がった。

「神より授かりし……紋章……」

前にゼルダが見せた時の物と同じそれに、リンクは半ば苦しげに呟く。その声が聞こえたのか、ガノンドロフは声高らかに叫んだ。

「そうだ! 神より選ばれし強者だけが持つ絶対なる力!その力を支配する物こそが、この世を統べる王に相応しい!!」

「……自惚れるなよ!!」

堪りかねた様に、ミドナは両手を振り下ろしながら叫ぶ。

「ミドナ……」

「お前が、絶対なる力を持つ選ばれし者だと言うならば……」

驚いた様に自分を見つめているリンクに構う事無く、彼女はあらん限りの力を込めて吼えた。

「ワタシは全てをかけて、否定してやるよ!!」

「……」

そんなミドナを、ガノンドロフは暫く黙って見ていたが、やがて口端に笑みを浮かべ、軽く笑う。

「フッ……分からん物だな、以前はゼルダを……この世界を憎悪していたお前が……光が影に絆されたか……」

「……ああ、そうだよ!」

奴の呟きに、ミドナは怒りに任せて叫び続ける。

「ワタシはもう、自分の世界の事だけを考えていた昔のワタシじゃない! ゼルダ姫を……この光の世界を守りたいんだ!! 悪いか!?」

「いや……面白い!」

「「……!?」」

突然、奴の周りから黒き波動が出現し、リンクとミドナは同時に身構えた。

「リンク、気をつけろ!……来るぞ!!」

「ああ……いよいよって訳か」

静かにマスターソードを鞘から抜きながら、彼は気を引き締めて頷く。

「ならば、否定してみるがいい……」

奴のその言葉と共に、黒き波動は徐々に激しさを増し、自分達に向けられる殺気も、より強くなっていった。

(……訳の分かんねえ事を考えるのは止めだ! とにかくコイツを倒す!!)

グッと退魔の剣を握る手に力を込め、リンクは向けられる殺気に負けぬ様、強く精神を研ぎ澄ます。だが……。

「……その友情とやらでな!!」

(……!?)

不意に自分達に向けていた殺気を解き、ガノンドロフはその視線を中空――ゼルダ姫へと向けた。

「何!?」

「っ!!……ゼルダ姫!!」

奴が何をしようとしているのかを察し、ミドナは慌ててゼルダ姫の元へと飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい!ミドナ!!」

リンクが慌てた様に自分を呼んだが、答えている暇は無い。――――奴は……ガノンドロフは、ゼルダ姫を乗っ取るつもりだ!

(あの野郎!……姫さんの身体を……!!)

出現させた黒き波動に身を溶け込ませたガノンドロフは、邪悪な怨念と言うべき姿に変化する。

そして、その怨念は真っ直ぐにゼルダ姫へと襲い掛かっていった。

「っ!!」

「……くそっ!!」

彼女の前で自らを盾とする様に立ち塞がりつつ、ミドナは毒づく。

――――もうこれ以上……ゼルダ姫を傷つけさせてなるものか……!!

(姫さんは……絶対にワタシが……)

眼前に迫ったガノンドロフに対して、彼女を強く目を閉じ、衝撃に備える。

「……えっ?」

しかし、怨念と化した奴はミドナの身体をすり抜けていき、ゼルダ姫の身体へ消えていく。

「っ!……くっ!!」

ミドナは思わず振り返り、ゼルダ姫への中へと消えた奴を引き摺り出そうと拳を握る。

だが、どうしてもその後の行動に移す事が出来ず、彼女はやりきれない表情で項垂れた。

(……ダメだ。ワタシは、これ以上……)

奴を引きずり出すには、ゼルダ姫にダメージを与えるしかない。だが、それは今のミドナには、これ以上無い程に過酷なものだった。

――――もうこれ以上……ゼルダ姫を傷つけさせてなるものか……!!

先程、心の中で叫んだ言葉が木霊し、彼女の心を揺さぶる。――――自分には出来ない。ゼルダ姫から奴を引き摺り出すことは……!!

「……姫さん」

震える手をゼルダ姫の頬に添えながら、ミドナは祈る様に呟く。

「頼む……あんな奴に、支配なんかされ……」

「っ!!」

だが、彼女が言い終わらない内に、とてもゼルダ姫の物とは思えない程に邪悪な光を放つ眼が開かれる。

そして、その眼光が放つ衝撃によって、ミドナは大きく後方に吹き飛ばされてしまった。

「うわあっ!!」

「!……ミドナ!!」

急いで吹き飛ばされた彼女の元へと駆け寄ろうとしたリンクだったが、その目前で見慣れた結界に道を阻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?……影の結界か」

「……フッフッフッ」

微かな笑い声に彼が振り返ると、そこにはゼルダ姫……いや、ゼルダ姫に憑依したガノンドロフが立っていた。

「ガノンドロフ……てめえ、ゼルダ姫の身体を……!!」

「光と影を統べる王に弓引く愚か者よ……」

携えていた剣を構えつつ、ガノンドロフは殺気を放ちながら言う。

「その身をもって、我が力に触れるがいい!!」

「うおっ!?」

突然、奴から発せられた電撃を寸での所で避けながら、リンクは苦々しい思いを感じ、唇を噛んだ。

「……ふざけやがって!!」

――こんな展開になるなんざ……聞いてねえぞ!

倒すべき敵と、救うべき姫。その両方が存在する眼前の相手に、苛立ちを込めた視線を向けると、奴は皮肉を秘めた言葉を放つ。

「フン……戦いにくいか?だが、我を倒さなくば、救われる物など何一つないぞ?」

「ちっ!……散々御託を並べておいて、やる事は人質取りかよ!? 三流悪党のセオリーそのままじゃねえのか!?」

「何とでも言え」

「っ!?

――――自身の力か?……それともゼルダ姫の力か?

どちらとも分からぬ力で中空に舞い上がったガノンドロフは、剣を頭上に掲げ、腹の底にまで響き渡る様な叫び声を上げた。

「さあ、始めるとしようか!! 貴様とて、神より授かりし紋章を持つ者なのだろう?ならば、その力を見せてみよ!!」

「……へっ! 言われなくたって見せてやるさ! ただし、見物料は安かねえぞ!!」

 

 

 

 

―――――心に潜む後ろめたさを隠しつつ、リンクは最後の決戦へ臨む。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

さて、(覚えているかどうか分かりませんが)かなり前に告知していた、トワプリゼルダ小説です。

一応、予定では時オカ同様、五話で終わるかと。……あくまで予定ですが()

それから、トワプリのリンクは『少し不良でやんちゃ』ってのが公式設定らしいので、それを参考にリンクの口調を

かなり荒っぽい物にしていますので、ご了承ください。

時オカ以上にゆっくりした更新になると思いますが(メインじゃないですしね)お楽しみ頂けたら幸いです。では。

 

 

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