〜草原の兄妹…風の姉弟(後編)〜

 

 

 

 

―――――フォルセナ城・会議室。

「では……という事で」

「はい。よろしくお願いします」

数日に及んでいた会議もようやく終わりの時を迎え、リースは深々と向いの相手に頭を下げながら安堵の溜息をつく。

(ふう……これで終わり……ね)

しかし、それには多少の悲しみも含まれていた。

無理もない。結局、彼女の危惧していた通り、デュランとの時間を取る事が叶わなかったのだから。

ここ数日で彼と顔を合わせたのは、片手で数えられる程でしかなかった。

――――それも、互いに眼を合わせる程度の、極々短い時間の…………。

(仕方がないと……割り切れればいいのに……)

心の中で、何度もそう呪文の様に繰り返すが、無論効果は無い。ただ、余計に虚しくなっていくだけだ。

こんな心情、昔の自分には存在していなかった。デュランと出会い、彼に惹かれる前の自分には。

「……はあっ」

「?……リース殿。少し疲れましたかな?」

「っ!? い、いえ、リチャード王! その様な事は……」

思わず溜息が漏れてしまった所を、よりにもよってフォルセナ国王リチャードに見られてしまい、リースは慌てて否定する。

しかし、そんな彼女に苦笑を返しながら、リチャードは言った。

「そう強く否定せずともよろしかろう。此度の会議はいつにも増して長引いたが故、貴女が疲れたとしても、何ら不思議は無い」

「は、はい……心遣い、ありがとうございます」

とりあえず深々と頭を下げながら、リースは何となく落ち着かない気持ちになる。

(……ま、まさか……リチャード王……察して……?)

リチャードは確かに言葉の上では、自分が疲れているから溜息を漏らしてしまったのだと解釈している様ではある。

しかし、何故かその口調に妙な意味合いが込められている気がし、リースは僅かだが冷や汗を流した。

――――自分がデュランと会えない事で、溜息を漏らしたと見透かされと思って……。

「ところでリース殿。貴女は今日一日、フォルセナに滞在なさるおつもりでしたな」

「え?……あ、はい。本当は今日にでも発とうと思っていたのですが、流石にこの時間では……もう一日、ご迷惑になります」

手元の懐中時計に目を落としながら、リースはそう言う。

厳かな雰囲気を醸し出すその時計は、既に夕の刻に差し掛かる、午後六時を指し示していた。

いくらリースといえど、この時間に疲れた身体を引き摺ってローラントへと戻るのは、やはり気が進まなかった。

……と、そんな彼女の申し訳なさそうな言葉に、リチャードは軽く手を振りながら口を開く。

「いやいや、構う事は無い。それに、今日はこれから特別な催しを用意しておりますのでな。貴女にも是非楽しんで頂きたいと思っていた所です」

「特別な催し……ですか?」

「何、特別と言えどもそんな大それた物では無い。要はフォルセナの祭りの事なのです」

「祭り……?」

「まあ、本来の時期には些か早いんですがな……元々、厳密な日取りの決めていない祭り故、せっかくだからリース殿達が

滞在している間に開いてはどうか、という事になりましてな」

「そ、そんな……私達の為にその様な……」

「何、気になされるな。こちらとしても、他国に我がフォルセナの文化を知って頂きたいと常々思っていた所です」

「は、はあ……では、お言葉に甘えさせて頂きます」

イマイチ事情が理解出来ないリースであったが、彼女自身『祭り』と聞いて興味が引かれたのも手伝い、礼の意を表す。

そんな彼女の様子を見て、リチャードは満足したのか、更に言葉を続けた。

「うむ。それならば……分かっておるな?」

「はっ」

「……え?」

何やら意味深げな所で言葉を切り、傍らの大臣に目配せをしたリチャードに、リースは怪訝そうな声を漏らす。

だが、彼女が疑問を感じて尋ねる前に、リチャードの意を汲み取った大臣は足早に部屋を出て行った。

(?……何なのかしら、一体?)

リースが心の中でそう呟いた刹那、ガチャリと部屋のドアが開かれる。

―――そして、そこから現れたのは……。

「っ!?あ……」

「陛下、お呼びですか?……あ……」  

全身を純白の鎧で覆い、慣れた足取りで入室してきたデュランは、驚いて口元を押さえているリースを見て、僅かに声を漏らす。

そんな彼に、リチャードは含み笑いをしながら言った。

「うむ。お前を呼んだのは他でも無い、デュラン……よいな?」

「……陛下……」

その言葉から、リチャードが言わんとしている事を汲み取り、デュランは額に手を当てて唸る様な声を出す。

が、それも束の間。諦めた様な、それでいて何処か晴々とした表情で、彼は「承知いたしました」と答え、更に続けた。

「此度のフォルセナ祭における、リース王女の案内及び護衛。このデュラン、確かに御請けいたしました」

「……っ……」

彼の言葉を聞いて、心臓がドクンと波打つのを感じたリースは、懸命に紅潮しそうになる顔を堪えながら、思わず両手で胸を押さえる。

(リチャード王……やはり気づいて……は、恥ずかしい……)

確信めいた考えに、羞恥心で倒れそうになった彼女であったが、直後に差し伸べられたデュランの手は、何とか取る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

――――空がすっかり漆黒に染まった時刻。

フォルセナ城の彼方此方から賑やかな声がごった返し、普段の厳格な空気は薄れ、ただ人々の活気に溢れていた。

「はいは〜い! 熱々の焼きソバ、今ならお買い得の20ルクだよ!!」

「祭りと言ったら、やはりこれ! フォルセナ特製たこ焼、15ルクでどうだい!!」

「剣士を目指す全ての少年よ! 是非とも当店を見て言ってくれ!!」

……等とフォルセナ兵士が大きな声を張り上げ、それに様々な人が寄ってきている。

フォルセナ祭――正確には、『フォルセナ国紋章制定記念祭』と呼ぶ。文字通り、フォルセナの紋章が制定されたのを記念する祭りなのだ。

元々は、城に使える者だけで短い式典を行っていただけだったのだが、いつからかこの様な賑やかな祭りだったのである。

尤も、本来の意味を完全に忘れている訳ではなく、城の中でのみ行わる上、店を出すのは兵士達(しかもきちんと鎧と剣を纏った正装で)。

そして紋章に肖った剣と盾のレプリカを販売している店があったりと、剣士の国としての趣は所々に見られる。

純粋に紋章が制定された日を敬い、感謝する者。ただひたすら店巡りをし、己の食欲を満たす者等多種多様だが、

『この日を楽しみに思い、また大切に思っている』のは、全ての人々に共通している事だった。

因みに、このフォルセナ祭。リチャードがリースに話した通り、厳密な日取りは決められていない。

これはフォルセナの紋章が制定された時期に関する正確な資料が、長い年月の中で紛失してしまっている為である。

故に、残っている資料に記されている大まかな時期に従って、行われているのであった。

――――そんな祭の中を、ウェンディは忙しなく彼方此方に視線を飛ばしながら、歩いていた。

「う〜〜〜ん、いないなあ。お兄ちゃんもリース王女も……」

普段より少々上品な服を身に纏い、セミロングの金髪は左右で束ねてツインテールにし、眼には伊達眼鏡を掛けている。

これは単なるお洒落ではなく、もし兄に見つかっても気づかれない為の変装であった。

何せ「風邪引いたみたいだから、今日のお祭には行かない」とデュランに堂々と宣言してしまっている身分である。

ここでうっかり見つかってしまったら、不審に思われてしまうのは間違いないからだ。

(……何か、とんでもない事引き受けちゃったなあ……)

ステラから散々頼まれた挙句、とうとう折れてしまった先日の自分を思い出し、ウェンディは小さく溜息をつく。

それは、余りにも伯母が食い下がって来た事もあるが、結局自分も兄の恋路が気になって仕方が無い、という事が一番の原因であった。

この様な事情の下、彼女はこうして城内を歩き回っている。

その途中で何人か顔見知りの兵士と眼があったりもしたが、誰も声を掛けてくる事はなかった。

ウェンディはこれを自身の変装の効果だと考えていたが、実際はステラから先日に話を聞いたリチャードが兵士全員に

「デュランの妹を目にしても、気づかぬ振りをしておけ」と命令を下していたのが真実である。

更に、言うまでも無いかもしれないが、此度のフォルセナ祭の時期をずらしたのも、同じ理由であった。

(さてと……早く捜さなきゃ。……でも、お兄ちゃんとリース王女、一緒にいるかなあ?)

――――そんな些細な不安を抱えながらも、ウェンディは小走りで懸命に二人を捜し続けた。

 

 

 

 

 

 

――――同時刻。他方。

「う〜〜〜ん、いないなあ。姉上もデュラン殿も……」

ウェンディと同じ様な台詞を漏らしているのは、リースの弟にしてローラント国王子――エリオットである。

「……やっぱり、あの時断っておけばよかったかなあ…?」

先日ライザから言われた「リース様とデュラン殿の様子を確認してきて下さい」という凄みを帯びた言葉に、

完全に気後れして了承してしまった自分を恨めしく思い、彼は今日と昨日を合わせて何度目か分からない後悔の呟きを漏らした。

フラミーに乗ってローラントを出発し、モールベアの高原に降りた後、そこで待機していたアマゾネス達(但し、服装は旅人の出で立ち)と

合流してフォルセナ城へと入った訳だが、それ以降「あまり大人数で行動していると怪しまれるから」という理由で、

アマゾネス達は別行動を取る事になり、エリオットは今に至る。

幸い祭の雰囲気に呑まれてか、はたまた先日のライザの言葉通りフォルセナが協力してくれているのか、誰も彼を気に留める者はいない。

自分が王子だとバレる心配が皆無に近くなったのはいいが、一向に目的の人物に会えず、エリオットは焦りを覚え始めていた。

(まずいな……これじゃ、何の為にこんな格好でここまで来たんだか……)

……と、彼が内心で舌打ちしていると、いつの間にか城の中庭に足が進んでいた。

涼しいと言うには少々冷たすぎる夜風だが、祭の熱気に包まれていた身体にはとても心地いい。

無意識に天を仰ぎつつ、エリオットが両手を広げて伸びをした時だった。

「……ですね」

「ああ……」

(っ!? この声は……!)

捜し続けていた人物の両方の声が微かに聞こえ、彼は咄嗟に身を硬くして近くの壁に身を隠す。

(姉上にデュラン殿の声……こっちか?)

少しずつ顔を出して周りの様子を確認しながら、エリオットはそろそろと声の方向へと近づく。

すると、先程は微かにしか聞こえなかった二人の声が、ハッキリと聞き取れる様になってきた。

「フォルセナにこんな祭がある事、どうして今まで話してくれなかったんですか、デュラン?」

「……悪い、別に話す事でもないと思ってな。それに……この祭の日にあんたが来るなんて、予想もしてなかったから」

そんな会話が聞こえた場所を、エリオットは手近な壁から僅かに顔を出して覗き見る。

そして、彼はそこにいた二人――リースとデュランの様子を眼にし、彼は驚愕の表情を浮かべた。

(っ……姉上……)

今眼にしている姉の姿を、エリオットは今まで一度たりとも見た事が無い。

誰を見る眼とも違う、喜びと些細な照れの色を浮かべた眼。自分に笑いかける時の笑顔より、格段に柔らかく美しい笑顔。

「けどなあ、妙だとは思ってたんだよ。数日前、陛下がいきなり祭の時期を早めたのにはさ。

 何かあるなとは考えてたけど……こういう事だったとはな」

「っ……じゃあ、やっぱりこの祭は……わ、私と……その……」

「ああ、違いない。ついでに言うなら、今日の会議がやたら延びてたのもそうだろうよ。

あんたが、今日中にローラントに帰ってしまわない様にな。……ったく、困ったお方だよ、陛下は。気を回しすぎだっての」

「そうですね……けど……リチャード王には、心から感謝しています」

「……まあ、それは……俺も同じだな……」

そして、これまで聞いた事も無い、優しくて澄んだ声での会話。

初めて見る姉の『恋する女性』としての姿に、エリオットは知らぬ間に更に顔を出して見入っていた。

(幸せそうだな、姉上。それにデュラン殿も……ライザが心配する様な人じゃ、なさそうだ)

何だか肩の荷が下りた様な気分になり、彼がフッと笑みを浮かべた時だった。

いきなり後ろから誰から口を塞がれ、苦しげに呻いたエリオットは後ろへと引き摺られる。

「……むぐう!?」

(静かにして! 見つかっちゃうでしょ!?)

やや睨む様にエリオットを見ながら、少女――ウェンディは小さな声で彼に叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

(何なのよ、この男の子は……!?)

予想外の事態に、ウェンディは内心動揺していた。

ようやく捜してた人物の両方を見つけたと思ったら、その二人を覗き見している余分な影が一つあったのだから、まあ仕方ないだろう。

しかも、その影――見知らぬ少年の覗き方が、半端なく下手だったのだから堪らない。

本人は隠れてるつもりなんだろうが、ハッキリ言ってバレバレ過ぎて目も当てられないくらい丸見えだ。

幸い、デュランもリースも二人の世界に入っているから気づいてない様だが、いつバレたとしても何ら不思議でない。

――そうなったら、私が覗けないじゃない!!

だからウェンディは、慌てて少年の背後に忍び寄り、少々乱暴ではあるが口元を塞いで壁に身を隠せる位置まで引き摺ったのだ。

「むむ……むぐう!」

「あ……ご、ゴメン。大丈夫?」

少年が本気で苦しがっているのに気づき、彼女は咄嗟に手を離し、彼の顔を覗き込む。……その瞬間、時間が止まった。

(っ……うわあ、綺麗な顔してる……)

男の子に、果たして『綺麗』という言葉が褒め言葉になるのかどうかは分からなかったが、ウェンディはそう思わずにはいられなかった。

鮮やかな金色の髪に、端正な顔。女の子の自分より白いんじゃないかと思わずにはいられない、透き通った肌。

思わずジロジロと眺めだしたウェンディだったが、少年の遠慮がちの声に、ハッと我に返る。

「あの……?」

「へ? あっ……な、なんでもない。気にしないで……それより……」

僅かに頬が赤くなったのを感じながら、彼女は慌てて返事をした後、再び壁からそっとデュランとリースを覗いてみた。

(よかった。気づかれてないみたい。……っ!?)

知れず安堵の笑みを漏らしたウェンディだったが、不意に少年が自分に密着してきたのに、内心激しく動揺しながら小声で叫ぶ。

(ち、ちょっと!? な、何でくっついてくんのよ!?)

(し、仕方ないじゃないか! こ、こうでもしないと見れないんだから……)

バツが悪そうに返事する彼の顔も、自分と同じ様に仄かに紅潮している。そんな少年に、ウェンディは言い返そうと口を開きかけた時だった。

「そろそろ……戻るか」

「……そうですね」

((……っ!)) 

聞こえてきたデュランとリースの声に、ウェンディと少年は揃ってそちらの方向を凝視する。

そんな二人に見られているとも知らず、リースが背を向けて歩き始めていたデュランの手を咄嗟に掴む。

その行為に、デュランは一瞬眼を丸くしたが、すぐに彼女の意図を察し、軽く肩を竦めた後、徐にリースに振り返った。

(え?お、お兄ちゃん?……ま、まさか!?)

この後に考えられるであろうシーンを予想し、ウェンディは無意識に身を乗り出す。すると、横にいた少年が小さく抗議の声を上げた。

(あ、あの。そうされると、僕が見れないんだけど……)

(え?……ち、ちょっと……お、押さないで……きゃあ!)

言いつつ自分と同じ様に身を乗り出し始めた彼に、バランスを崩したウェンディはそのまま前方に倒れこむ。

その際、咄嗟に少年の服を掴んでしまい、つられて彼も倒れこんだ。

「うわあっ!?」

ドサッという派手な音と共に、二人は縺れ合いながら前方へと倒れる。 

「…ったあ〜〜。もうっ、何するのよ!?」

「ご、ごめんなさ……あっ……」

「ん? どうし……」

たの?……そう続けようとしたウェンディだったが、少年の眼差しの方向に顔を向けた瞬間、表情が凍りつく。

そこには……何とも言えない顔でこちらを見ている、デュランとリースの姿があった。

しかも運の悪い事に、転んだ拍子に伊達眼鏡を落とし、緩かったのか髪を括っていた紐も解けている。

――――つまり……普段の自分と何ら変わらない姿で、兄の前に現れてしまったのだ。

「ウ、ウェンディ……お、お前、風邪引いたから家で休んでたんじゃ……?」

「あ……はは……ははははは……」

最早、渇いた笑みを浮かべる事しか出来ず、ウェンディは冷や汗を流しながらその場に硬直する。

しかし、続いてリース王女が発した言葉は、そんな彼女に更なる衝撃を与えた。

「あら?……っ!? エ、エリオット!? ど、どうして貴方がここに!?」

「……へっ?」

エリオット――どちらかというと世間に疎い人間に分類するウェンディも、その名前には聞き覚えがある。

(エリオット?……エリオットって……た、確か……)

ウェンディはぎこちなく首を動かし、最悪だという感じに手で顔を覆っている少年を見る。

――――……ローラントの……王子……?

「……………」

そこまで考えた刹那、彼女の内で時間が止まる。そして、次の瞬間、彼女はあらん限りの声で絶叫した。

「え、ええーーーーーーっっ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!! ごめんなさい!! ごめんなさい!!」

「え、あ、いや……だ、大丈夫。き、気にしてないから……」

ひたすら頭を下げて謝罪を繰り返すウェンディと、それに少々動揺しているエリオットを、デュランとリースは互いに苦笑しながら眺めていた。

先程のウェンディの絶叫に何事かと寄ってきた数人を何とか誤魔化し、一番近かったこの部屋に、とりあえず二人を連れてきたのが数分前。

……それから、ずっとこの調子なのだ。

「しっかし、俺ってまだ信用されて無いんだな」

「……えっ?」

不意に呟いたデュランに、リースはキョトンとした表情をし、「どういう事ですか?」と眼で尋ねる。

それに対して、彼は溜息混じりに答えた。

「分からないか? エリオット王子があんたに内緒で此処に来た理由が」

「え……っ! まさか、ライザか誰かが、貴方と……その、私の………」

「だろうよ」

リースが言い終わらない内に、デュランは頷く。そして、今度はリースが溜息を吐いた。

「本当にライザ達は、どうしてこう……心配性というか、猜疑心が強いというか……」

「仕方ないさ。あんたは王女なんだから。それより……」

少し気まずそうな表情しながら、デュランは切り出す。

「すまなかったな」

「?……デュラン、すまなかったって、どういう事ですか?」

「いや、どういう事って……ほら……」

そう言って彼は、相変わらず謝り続けている妹と、それを懸命に宥めているエリオットに眼をやる。

「知らなかったとはいえ、家の妹がエリオット王子にえらい事を……」

「ああ、その事ですか。構わないで下さい、大した事じゃありませんから」

「……大した事じゃない、訳でもないだろ? 他国の王子に粗相なんて、下手したら国際問題になりかね……」

「大丈夫ですって。心配しないで下さい、デュラン」

「そうか? なら、いいんだが……」

イマイチ釈然としていないデュランに笑みを返しつつ、リースはふと視線を弟へと呟いた。

「それにしても……これは、帰ってからが楽しみかもしれませんね」

「?……何がだ?」

「あ……独り言です」

そう言って首を振りながらも、彼女の眼は、同年代の女の子への対応に困り果てているエリオットへと向けられている。

そこには今まで見た事が無い、年相応の初心な少年の表情をした弟の姿があった。

(エリオットにも、そろそろ縁談が来る年になった事だし……帰ったらきっちりと聞いてみる必要があるわね)

今現在の段階で、エリオットがウェンディをどう想っているのかは判断しかねるが、少なくとも嫌悪してはなさそうだ。

ならば……と、リースは考えながら、心の中でエリオットに話しかけた。

(今回の事はお咎め無しにしてあげます。貴方にも、春が来たのかもしれませんからね、エリオット)

 

 

 

 

―――――どうも、フォルセナとローラント間(厳密に言うと、二組のきょうだい間)での騒動は、もう暫く続く様である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

と言う訳で、後編UPです。……少々、遅くなりましたが(汗)。

ここまで読んだ方なら既にお分かりだと思いますが、この話のメインはウェンディ&エリオットです。

何となく絡ませたら面白い二人じゃないか?と前々から思っていた事から、今回の話が生まれました。

後、いかにも続きがありそうな感じで終わってますが、次があるかはハッキリ言って未定です(大汗)。

機会があれば、という事で(苦笑)。何はともあれ、お読み頂いてありがとうございました。では。

 

 

 

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