最終決戦〜Ocarina pf Time(最終話)

 

 

 

 

 

――――空が晴れていく……。

二人の頭上にあった黒雲は次々と消えていき、暖かく優しい太陽の光が、静かに降り注いできた。

「……終わったな」

リンクがポツリと呟く。傍らにいたゼルダが、その呟きにゆっくりと頷いた。

「ええ。……これでハイラルも、平和な時を刻み始めるでしょう」

それから彼女は彼に振り返り、「あなたのおかげです」と笑みを浮かべる。

「よせよ、俺一人じゃない。お前だって頑張っただろ?」

「……いえ、私は……」

不意に気まずそうに視線を外したゼルダに、リンクは不思議そうに首を傾げた。

「ゼルダ?」

「今回の悲劇は……全て私の過ちです」

「……?」

何を言ってるんだ?……そう言いたげな表情の彼に、彼女は申し訳なさそうに口を開く。

「己の未熟さを省みず、聖地を制御しようとし……その結果、あなたまで巻き込んでしまった」

「…………」

「少し考えれば、愚かだと気づいたはず……なのに、私は……」

「ゼルダ、もういい」

次第に涙ぐんできた彼女の言葉を制し、リンクは静かに首を振った。

「俺は別に、お前のせいで巻き込まれたなんて思ってない。……前にお前が言ってただろ?全ては不幸な偶然だったんだ。

お前が、そこまで気にする必要はないさ」

「ですが……」

「それに、未熟なのが原因だって言うんだったら……俺もそうだろ?」

「えっ?」

虚をつかれた様に顔を上げたゼルダに、彼は言う。

「あの時……マスターソードを台座から引き抜いた時、俺が未熟でなければ……七年間も眠らされる必要はなかったんだ」

「!……違います、リンク! あなたが聖地に封印されたのは未熟だからではなく、ただ……」

「幼すぎたから……か? なら、お前だってそうだろ?」

「っ……」

「あの時、幼いお前は出来るだけの事を考え、行動した……その結果がどうであれ、何もしないよりはマシだと俺は思うぜ」

「リンク……」

「だからもう、過去を悔やむのはいいだろ? なんであれ、ハイラルは救われたんだ……それで、いいじゃないか」

そこまで言うと、リンクは穏やかな笑みを浮かべた。

「……ありがとう、リンク。ですが……」

しかしゼルダはその笑顔を直視する事ができず、顔を背けたまま礼を言うと、それから辛そうに切り出した。

「私があなたから七年間を奪い、ハイラルを地獄に変える原因を作ってしまったのは事実……その過ちを、私は今こそ正さなければなりません」

「正すって……どうするんだ?」

リンクが尋ねると、彼女はようやく彼に向き直り、真摯な表情で言う。

「魔王の魔力が消えた今なら……賢者としての私の力で、あなたを七年前に戻す事ができます。

……まだガノンドロフが反乱を起こす前の、本当に平和だった七年前に」

「?……っ……成程。七年前に戻ってガノンドロフが反乱を起こすのを阻止し、この暗黒の七年間を変えろってか?

確かにそうすればこの一連の悲劇も存在しなくなるな」

そう言った彼に、ゼルダはゆっくりと頷く。

「……ええ。あなたにはまた、厄介事を頼んでしまいますが……」

「なに、気にするな。……考えてみれば、ガノンドロフを封印したとは言え、奴の手には『力』のトライフォースが未だにある訳だ。

 それじゃ、いつまた封印を破って復活するか、分かったもんじゃないからな。……しっかり元から解決するのが、一番って事か」

心得た、とばかりに頷くリンクに、彼女はスッと手を差し出した。

「リンク、時のオカリナを私に……私が『時の歌』を奏でれば、あなたは七年前に帰る事ができます」

「分かった。……よろしく頼む」

懐から時のオカリナを取り出し、彼はゼルダの手のひらにそっと乗せる。

「……」

彼のその手にもう片方の手を載せ、彼女は悲しそうに笑いながら言った。

「ハイラルに平和が戻る時……それが私達の別れの時なのです……ね」

「……何言ってるんだ?」

「えっ?」

呆れた様に微笑まれ、ゼルダはキョトンとした表情でリンクを見つめる。すると彼は、まるで子供に言い聞かす様に口を開いた。

「別れじゃないだろ?……始まりだ。俺とお前の、本当の出会いのな」

「……リンク」

「今度は……平和な時代で会いに行くぜ。そしてもう……何処にも行かない」

「!……っ……っく……」

感極まったゼルダは必死で嗚咽を堪え、涙を流しながらも力強く頷く。

「……待って……います」

「ああ」

彼の言葉を合図に互いに手を離す。そして、ゼルダは涙で潤んだ瞳を閉じ、ゆっくりと『時の歌』を奏で始めた。

♪〜〜♪♪〜〜〜♪〜〜

♪〜〜♪♪〜〜〜♪〜〜

メロディが流れ始めた途端、リンクの身体は優しい青色の光に包まれる。

「……またな……ゼルダ……」

薄れ行く意識の中、彼は最後にそう言った。……そして、目を閉じた瞬間、彼の意識は途切れる。

その間際に、ゼルダの言葉を聞きながら。

「……リンク……ありがとう……」

――――これが暗黒時代と呼ばれ、現在は存在しない歴史にある七年間の……最後の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと意識が戻り、リンクは静かに目を開ける。すると、そこは馴染み深い時の神殿だった。

「戻って……きたんだな」

目の前にある台座に刺さっているマスターソード。そして、妙に懐かしさを感じる幼い自分の身体。

それは自分の記憶と何ら変わりない、七年前。違う事があるとすれば……この手に時のオカリナが無いくらいだ。

「……リンク」

「?……ナビィ?」

七年後の世界でゼルダと会話してる時から、全く喋らなかったナビィに突然呼びかけられ、彼は聞き返す。

「どうした?」

「……ナビィ、ここでお別れなの」

「……えっ?」

どういう事だ?と言おうとして、リンクはハッとする。――そうか、もう……。

(ナビィが俺の傍にいる理由は……無いんだな……)

妖精は本来森に存在し、コキリ族の傍にいる種族。ハイリア人である自分の傍にいたのは、使命を負った自分を助けるために過ぎないのだ。

そして、その使命が終わった今、ナビィは本来のいるべき場所――森に帰るべきなのである。

(ずっと一緒……って訳にはいかないよな。やっぱり……)

寂しいが、そうしければならないのだと彼にも分かった。微かに憂いを秘めた笑みを浮かべ、リンクは優しい声でナビィに言う。

「……今までありがとな、ナビィ」

彼がそう言うと、ナビィは暫く沈黙した後、悲しげな声で呟く様に言った。

「リンク……元気でね」

ナビィは言い終えると、ゆっくりと彼の傍を離れ、神殿のステンドグラスへと飛び立っていく。その後ろ姿に、リンクは笑顔で語りかけた。

「いつかまた会いに行くぜ! 相棒!!」

「…………」

ナビィは振り返ることはせず、心の中で返事をする。

(またね……リンク……)

――――ナビィの大切な……パートナー……。

小さいその姿は、やがて吸い込まれるようにステンドグラスへと消えていく。

その様子を、リンクは最後まで身動きもせずに、ただジッと見つめていた。

「ふうっ……さて、と」

どれくらい経っただろうか?……彼は溜息を一つついた後、ゆっくりと歩き出す。

(ゼルダに……会わなきゃな)

リンクがそう思いながら時の扉をくぐると、不意に神殿内に轟音が響き渡った。

その音と共に、時の扉がゆっくりと閉じていく。それを見届けた後、彼は晴々とした表情をしながら、時の神殿を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――……懐かしい。

リンクはそう思わずにはいられなかった。空は見事なまでに青く澄み渡り、微かに小鳥のさえずりが聞こえてくる。

周りに植えられている花々からの優しい香りが自分を包み、自然と彼は笑みを零した。

正に、平和を絵に描いた様な風景。ここ、ハイラル城の中庭は、初めて訪れた時と何ら変わってなかった。

(……って考えてみれば、今が初めてになる訳か?)

ふと、そんな疑問が頭を掠めるが、この際どうでもいい事だろう。そう思い、我知らず苦笑する。

そして、彼はゆっくりと歩を進めながら、彼女にどう声を掛けようかと思案し始めた。

(俺はあいつを知ってるけど、あいつは俺を知らない事になるんだよな。今はナビィもいないし、精霊石も持ってないし……どうしたものか……)

暫く悩んだものの、答えは見つからない。

結局リンクは、怪しまれるのを承知の上で、正面の窓から城内を覗いている少女に、ゆっくりと声を掛けた。

「……あの」

「……!?」

少女を驚く様な仕種を見せ、こちらに振り返る。

「……っ……あ、あなた……!?」

「え……えっと……俺は……」

声を掛けたのはいいが、次に言うべき言葉が見当たらず、彼は彼女から目を逸らしながら頬を掻く。

(……どう言やいいんだよ……?)

じっとこちらを見つめている、彼女の視線がこの上なく痛い。何かを言わなければ……そう思えば思うほど、頭が混乱して言葉が出てこない。

……と、その時だった。

「……リンク」

「!?」

突然に自分の名を呼ばれ、リンクは驚いて少女に向き直る。

(今、確かに俺の名を!?……なんでだ……まさか……!?)

――知ってるのか? 俺の事を……?

戸惑いの表情を浮かべた彼に、彼女――ゼルダはふわりと微笑んだ。

「もう何処にも行かない……でしたよね?」

「っ……!」

彼は思わず息を飲む。そう、それは紛れもなく自分が彼女に言った言葉だ……七年後の世界で。

「ゼルダ、お前……何で……?」

呟く様にリンクがそう言うと、彼女は笑みを浮かべたまま頷いた。

「……私にも分かりません。なぜ……あなたの事を……ですが……」

ジワリと涙を滲ませ、ゼルダは泣き笑いの様な顔でこう言う。

「あなたが、ここにいる……それだけで私は……嬉しい……です……」

「……」

無意識にリンクは彼女に歩み寄った。そして、そっと瞳の涙を拭いながら笑みを返す。

「……何だかよく分からないが、この際どうでもいいよな……会いに来たぜ、ゼルダ」

――――それは、ハイラルの神々からの贈り物か……。

「……はい。待っていました、リンク」

――――『時の勇者』と『時の賢者』は……七年前の世界で、再会を果たしたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

――――この後、未来を知るリンクとゼルダは、ガノンドロフの野望を阻止することに成功する。

これにより、ハイラルに完全な平和が訪れた……はずだった。

しかし、神の悪戯か。何かの拍子に、トライフォースが三つに分かれてしまうという出来事が起きる。

『勇気』はリンクに、『知恵』はゼルダに……そして『力』はガノンドロフに。

だが、リンクとゼルダはその事に気づくことはなく、一人気づいたガノンドロフも、影の世界『トワイライト』へと封印される。

この神に選ばれし三人が再び集うのは……トライフォースの名さえ忘れられてしまった、数百年後のことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

と言う訳で完結しました、時オカゼルダ小説。

よく分からない箇所もあったかと思いますが、深く考えずにサラッと読み流してくれればいいです。

一応、悠士がEDから思ったのは、こんな展開なんです。…他に思った人なんか、まずいないと思いますが(苦笑)

さて次は、前々から言っていた通り、トワプリの話を書く予定なんですが……いつになるのか、全く分かりません()

なので、あまり期待せずに期待していてください(凄い矛盾)。では。

 

  

inserted by FC2 system