〜エピソード３４〜

 

 

 

 

 

常夏のリゾート地であるサマーズと言えど、流石に日が昇らぬ内である未明であれば人影は疎らだ。

波を打つ音以外は静寂そのものである砂浜。集中するには最適のこの場所で、プーは一人で修行に励んでいた。

瞑想をしつつ己の気を高め、次いで掌底と共にその気を海へと放つ。

放たれた気によって激しい波飛沫が生じたところで、彼は休む間もなく今度は冷気を掌から放った。

幼い頃に体得し、既に馴染みのものとなっている“氷術”――仲間の言葉を借りるならば“PKフリーズ”―—である。

それは瞬く間に波飛沫を凍り付かせ、巨大な氷のオブジェへと姿を変える。そのオブジェに向けて、プーは勢い良く飛び上がると、気合と共に鋭い蹴りを放った。

「はああっ！！」

次の瞬間、彼が作り出した氷のオブジェは粉々に砕け散り海へと還る。

上々との自己評価を下しながら、プーは鮮やかな宙返りをして砂浜に着地した。

「ふむ、一応は上達しているか」

「はあ〜……大したもんだな。いつもこんな修行してるのかい？」

突然の声に、プーは驚いて後ろに振り返る。すると、感心した様子で口を半開きにしているジェフの姿があった。

「ジェフ。……すまん、部屋を出る時に起こしたか？」

「ううん、大丈夫。単に眼を覚めただけだから。で、部屋に君がいなかったから、もしやと思ってね」

「そうか。なら良いのだが……ところでネスは？」

「グッスリお休み中さ。日が昇り切る前に起きる事なんてまず無いよ、我らがリーダーは」

そう言ってジェフは愉快そうに笑う。だがプーは、彼のように笑う事は出来なかった。

「そう……か」

「？……プー、どうしたんだい？　僕、何かマズいこと言った？」

努めて感情を押し殺したつもりだったが、ジェフは何やら感づいたらしい。彼は笑みを消して、こちらに気遣いの視線を向けてくる。

それに対してプーは、「いや……」と言いながら首を横に振った。

「気にするな。それよりジェフ、一つ訊きたいんだが……」

「何だい？」

「あいつは……ネスは、修行の類をしたりはしないのか？」

プーのその言葉に、ジェフは一瞬両眼を見開いたかと思うと、再び盛大に笑いながら答えた。

「修行？　ネスが？　ハハハ、まっさか！　彼がそんなのやった日には、このサマーズに大雪が降るって！」

「っ……成程」

ジェフに釣られるように、プーも笑みを零す。しかし、その笑みは苦笑いでしかなく、彼の心は少しも愉快ではなかった。

それを悟られまいと彼は、尚も笑い続けながらネスへのからかいの言葉を止めないジェフに、ただ相槌を打つことに徹した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プーがネスのしもべ、もとい仲間として彼とその仲間達と行動するようになってから、早数日。

『銀河宇宙最大の破壊主ギーグの討伐』という果てしなく大きな目標を聞かされたプーは、ランマでの日々とは比べ物にならないくらい濃密な毎日を過ごしていた。

そして彼ら――ネス・ポーラ・ジェフの英傑ぶり。これに何より驚かされている。

一見すると、とても世界を救おうとしている者達とは思えない、至極普通の少年少女達。しかし、内に秘められた力はいずれも常人を遥かに超越していた。

それはこの数日の間に巡り回った二つの場所―—“ネスの場所”と呼ばれる“マグネットヒル”と“ピンククラウド”―—で証明されている。

ジェフは身体能力こそ少々見劣りするものだが、それを補うかの如く様々なカラクリ――彼らの言葉でいうところのメカ――を造り出し、そして使いこなしていた。

ポーラは自分と同じく“氷術”や“雷術”を使うが、修行もしていないにもかかわらず自分と同等の威力を持っていた。

いや“氷術”に関して言えば、自分以上の使い手かもしれない。それ程に、彼女は術の扱いに長けていた。

そして、ネス。正直最初は三人の中で一番冴えないと思ったが、それは全くの思い違いだとすぐに理解する事になった。

鍛え抜かれた肉体というには程遠い身体にもかかわらず、その強靭さとタフさはずば抜けていた。

少々動きの俊敏さに欠ける点こそあるものの、とても修行や鍛錬の類をした事がないとは思えなかった。

そして自分以上の強さを持つ“治癒術”に、見た事も聞いた事もない“念動波術”―—ネスは“PKドラグーン”と呼んでいた――の凄まじさ。

初見時、どことなく頼りなさを感じた己の見る目の無さを、プーは恥じたものである。それと同時に、彼は思った。

――――果たして、自分は彼ら仲間……特にネスに対して、対等でいられるだけの力があるのだろうか、と。

自分は幼い頃より鍛錬を積み、武道にも術にもそれなりの自信があった。

だが、彼らに会ってその自信は消え失せてしまっている。自分が彼らよりも優れているという、明確な点。それが存在するのだろうかと、思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわあ、すっごいなあ！　見渡す限りの青と青！！」

「本当……見惚れるくらいに美しい景色だわ」

それぞれの感想を述べながら仲睦まじく甲板に立ち、海を眺めているネスとポーラを、ジェフとプーは苦笑交じりに眺めていた。

「なあ、ジェフよ？　一応聞くのだが……」

「恋人じゃないよ。本人達曰く」

「……鋭いな」

「こんなの誰だって分かるさ。鋭くもなんともないって」

そう言ってジェフは鼻で笑う。

「プーはまだいいよ。僕なんて君より長い間、こんな光景見せられてるんだからな」

「それはまた、ご苦労なことだ」

同情と共に笑ったプーは、もう一度ネスとポーラに眼をやった。

こちらの視線にはまるで気づいておらず、吹き抜ける風に髪がさらわれるのも気にせずに、顔を見合わせて談笑している。

それはどこにでもいる仲の良い恋人同士のようで、このシチュエーション――大海原を進む船の上―—に実に映えていた。

プーはその様を見て微笑んだ後、邪魔者は不要とばかりに彼らに背を向けて反対方向の甲板へと歩を進める。するとジェフが「僕も」と言いながら後をついてきた。

今、彼ら四人はサマーズとスカラビを繋ぐ海上を移動している。船を運転しているのはネス達が世話を焼いたという船乗りだ。

何でも、彼とその妻の間の仲を取りなしたようで、そのお礼にと船を出してもらっている。

現在この海上には“クラーケン”という怪物が出て危険らしく、実際周囲には船の姿は一つも見えない。にもかかわらずこうして船を出してくれたのだから、余程ネス達に恩義を感じているのだろう。

その辺りの事情は、まだ新参者であるプーにはよく分からない。三人の内の誰かに訊ねてみれば分かる事なのだろうが、向こうから話さないのであれば無理に訊く事でもないと彼は判断したのだ。

「しかし本当にいるのかねえ？　クラーケンなんてさ」

大きく伸びをしながら、ジェフが気怠そうに呟く。

「そういう話なのだろう？　現に俺達が出航する時、周囲の者は怯えた様子を見せていたではないか」

「まあ、そうなんだけどさ。僕も情報収集した際に散々聞いたし。でもプー、この景色を見てごらんよ」

そう言って彼は、大仰に両手を空に翳して見せた。

「この雲一つない青空に、それと同じくらい美しい海。恐怖の化物が出てくる雰囲気なんて、微塵もないじゃないか」

「……確かに。特に気配を感じるという訳も無し……む？」

何の気なしに海面に視線を向けたプーは、異変を察する。その様子を見たジェフが、怪訝そうに訊ねてきた。

「どうしたんだ、プー？」

「いや何、急に波が穏やかになったものでな……」

「え、波？……あ、本当だ」

先程まで音を立てていた波が、いつのまにかピタリと止んでいる。それを確認したジェフは、何かを思い出すような仕草をしながら呟いた。

「ははあ、これが“凪”ってやつか」

「凪？」

「ああ。ま、僕も本での知識しか無いけど、風が収まって波が穏やかになる状態を指す言葉さ」

「……風が収まる？」

「そう、風が……あ、あれ？」

「ずっと吹いたままだな……」

淡々とプーが事実を告げる。そう、先程から周囲を吹き抜ける風は微塵も勢いを弱めることなく、二人の髪や衣服をはためかせているのだ。

その事実に、ジェフはあからさまに動揺を露わにする。顔に冷や汗を浮かべてオロオロするその姿は、仲間になってから始めて見るものだった。

「ど、どういうことだよ、これ？　こ、こんな自然現象は……」

「…………ラ？…………の！？…………丈夫！？」

「む！？」

微かにではあるがネスの声が耳に届き、プーは後方を振り返る。

すると遠目で詳しくは分からないが、ポーラが小刻みに震えており、そんな彼女に声を掛けているネスの姿があった。どうも、只事ではないらしい。

「ジェフ、何かあったらしい！　行くぞ！」

「え？　え？　何かあったって……あっ、ま、待ってくれ！」

どうやらジェフには先程のネスの声が届いていなかったらしく、まるで彼らの異変に気付いてないようだ。

しかし、こちらが説明するよりも実際に行ってみた方が早いし、何より正確だ。そう思ったプーは、もたつくジェフに構わずネスとポーラの元へと駆けて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「どうした！？　何かあったのか！？」

二人に駆け寄ったプーがそう訊ねると、ネスが困惑した顔でこちらに視線を向ける。

「あ、プー！　いや、ポーラが……急に寒気がするって……」

「寒気？　風邪か？」

「っ……違うわ。そうじゃない」

小さくはあるがハッキリとした口調でそう言いながら、ポーラが振り返った。

両腕で己を抱きしめるようにしつつ震えているものの、顔色自体はそう悪くない。本人の言う通り、体調不良というわけではないようだ。

「では、何なのだポーラ？　何故、そうも震えている？」

「……近づいている」

「え？　近づいてる？」

ネスが繰り返すと、ポーラはコクリと頷く。

「ええ、近づいている……多分、もうすぐ……」

「何だ？　一体、何が近づいていると……」

「うわっ！？　みんな見てみろよ、空を！　何だかヤバくないか、これ！？」

遅れてやってきたジェフの声に、一同は揃って空を見上げる。すると、つい先程まで雲一つ無かった青空に、凄まじい勢いで暗雲が立ち込めつつあった。

あまりに急激な天候の変化に全員が困惑していると、操舵室にいた船乗りが悲鳴に近い叫び声を上げる。

「おいおいおい！！　こ、これって、まさか……！！」

「な、何か知ってるん……」

「！！……この気は！！」

突如、強大で禍々しい気を感じたプーは、その方向を睨みつける。

そんな彼の眼は、暗雲に包まれ真昼とは思えない程に暗くなってしまった海の中で“何か”の姿を捉えた。

最初は豆粒くらいの大きさだった“それ”は、瞬く間にこちらへと近づき、その姿を露わにする。

―――—緑の巨躯を携え、眼を持たない大蛇。

化物と呼ぶに相応しい“それ”が何者であるかは、容易に判別する事が出来た。

「で、で、で、で、で、どえーーーーーーたあああ！！」

船乗りが絶叫し、次いで船が勢いよく加速する。突然の急加速に、四人はバランスを崩してその場に倒れ込むが、誰も船乗りに文句を言いはしない。

あのような化物からは一目散に逃げたくなるのが当然の心理であろう。

だが、猛スピードで進む船にクラーケンはピッタリとくっついてくる。いや、正確には奴のスピードの方が上だった。

少しずつ距離が詰められていき、クラーケンの巨躯が船へと迫る。最早逃げ切るのは不可能と判断したプーは、他の三人に向けて叫んだ。

「止むを得ん！　皆、奴を追っ払うぞ！！」

「り、了解！　ネス、これだ！！」

真っ先に返事をしたジェフは懐から球体―—爆弾―—をいくつか取りだすと、二、三個をネスに手渡す。

渡されたネスは暫く戸惑っていたが、すぐに「うん！」と頷くと、それらをクラーケン目掛けて投げつけた。

続けざまにジェフが、今度は彼の十八番である“ペンシルロケット”と呼ばれる武器を取り出して発射した。

二人の攻撃は的確にクラーケンに命中し、派手な爆発が連続して巻き起こり爆煙が奴を包み込む。

その際に聞こえたクラーケンのおぞましい叫び声から、ダメージを与えたことは見て取れた。問題は、それが致命傷であったか否かである。

「やった！？」

「効いたとは思うけど……」

「！！……衝撃に備えろ！！」

一際早くクラーケンの動きに気づいたプーは、鋭い声を飛ばす。薄れゆく爆煙の中から奴が鮮やかに身体を捻り、太い尻尾を薙ぎ払ってきたのだ。

だが、威嚇なのかダメージによる鈍りなのか、クラーケンの尻尾は船体には命中せず真横の海面へと叩きつけられる。

それによって生み出された大波が船を呑み込み、甲板にいた四人はずぶ濡れになってしまった。船そのものが転覆しなかったのが、せめてもの救いか。

「うわあっ！！　み、みんな大丈夫！？」

「え、ええ……なんとか……」

「ぺっぺっ、海水飲んじまった……しかし、あいつ全然効いてないな。結構な火器、投入したんだけど」

「流石は噂に名高き怪物というわけか。もしや物理的な攻撃は効き目が薄いのか？」

「っ、なら！」

プーの呟きを聞いて、ポーラが指先から炎を放つ。彼女の能力の一つである“炎術”だ。

見る見るうちに大きくなった炎が勢いよくクラーケンを包み込むが、奴はまるで堪えていない様子で再び尻尾を振り回してくる。

今度は正確に自分達を狙ってきたその攻撃に対して、咄嗟にネスが“念動波術”を放ち軌道を逸らす事に成功した。

「ふう、危なかった」

「ありがとうネス。でも困ったわね。PSIも大してダメージを与えていないみたいだわ。一体、何が効くのかしら？」

「…………待てよ」

海上を一瞥しながら、プーは独り言ちる。彼の脳裏には、ある考えが浮かんでいた。

（何もわざわざ倒す必要はない。どうにか振り切ってスカラビにまで無事辿りつければ我々の目標は達成するわけだ。……ならば！）

あまり長考している時間は無い。彼は素早く決断すると、三人に向けて指示を飛ばした。

「ネス！　ジェフ！　海を攻撃して波飛沫を起こしてくれ！　ポーラは俺が合図したら“氷術”を頼む！」

「「え？」」

「っ！……成程！　いくぞ、ネス！！」

困惑するネスとポーラとよそに、一人だけプーの意図を読み取ったジェフが叫ぶ。

「う、うん！」

それに呼応したネスが、海上目掛けて“念動波術”を放ち、ジェフが同時に持っていた銃を乱射した。

その攻撃によって派手な波飛沫が発生し、クラーケンへと降り注ぐ。狙い通りの展開に安堵しつつ、再度プーが叫んだ。

「今だ、ポーラ！！」

「は、はい！！」

ポーラが“氷術”を放つ構えに入ったのを確認した後、プーも同じく“氷術”を放つ。

二人の“氷術”は波飛沫と共にクラーケンを凍り付かせ、巨大な氷塊の中に奴を閉じ込める事に成功した。

「よし！　これで時間を稼げるだろう」

「す、すごいよプー！　よくこんなこと思いついたね！」

「なに、単なる思い付きだ。そんな称賛される程でもない。それより、早くスカラビに……っ、何！？」

氷が融ける音が聞こえたのに、プーは驚いてクラーケンへと振り返る。

すると、奴が口から先刻のポーラの“炎術”に匹敵する炎を吐き、己を閉じ込めていた氷をあっという間に融かしてしまっていた。

唖然とする一同に、クラーケンは雄叫びを上げる。それには明らかに、怒りの感情が込められていた。

その怒りの雄叫びに反応したかのように、頭上を覆っていた暗雲から稲妻が落ちてくる。幸い船体に直撃こそしなかったが、稲妻は次から次へと降り注いできた。

「きゃあああっ！！」

「こ、これはちょっとマズいんじゃないか！？　完全に怒らせちゃったみたいだぞ」

ポーラが悲鳴を上げて蹲り、ジェフも引き攣った表情で渇いた笑みを浮かべる。

「くそっ！　これ程のものとは……ええい、何か有効打は……！」

「みんな、下がってて！！」

「っ！？　ネス！？」

毒づいたプーの言葉を遮って、ネスが三人の前に躍り出る。そして“念動波術”の構えをとって彼に、思わずプーは叫んでいた。

「ネス、無理だ！　いくらお前の十八番のそれでも、奴には効き目が薄い！！」

「……大丈夫」

何故か少々苦しそうな声で、ネスはそう答える。そんな彼の両手には、眩い程の輝きを放つ虹色の光が纏われていた。

それを見たプーは、訝し気に眉を顰める。

（どういう事だ？　今まであれ程までに強い光は見たことがない。まさかあいつ、まだ奥の手があるというのか？）

彼が心の中で呟いた疑問の答えは、すぐに明らかになった。

「はあああああああっっ！！」

クラーケンに勝るとも劣らぬ雄叫びと共に、ネスが“念動波術”を放つ。しかし、今までのそれとは桁が違った。

放たれた七色の光は次々と奴に重ねって幾つもの束となり、次いで連鎖するように爆発していく。クラーケンの生み出した雷鳴以上の轟音が周囲に響き渡り、反射的にプーは耳を塞いだ。

そんな彼の眼に、苦痛の呻き声と共にゆっくりと倒れていくクラーケンの姿が映る。そして、派手な波飛沫を立てて海へと沈んだ奴は、そのまま二度と姿を現すことはなかった。

（なんと……まさか、これ程までの力を……）

「ふう、ふう……あっ」

「！……ネス！！」

安堵の溜息をついたネスが不意によろめき、その場に崩れ落ちる。慌てて彼に駆け寄ったポーラは、軽く揺さぶりながら声を掛けた。

「大丈夫？　しっかりして！！」

「へ、平気……少し休めば……問題無いと思う」

そう言いながら、ネスはヨロヨロと立ち上がる。明らかに疲労しているのが見て取れたが、それでも動くことは出来るようだった。

と、その時、操舵室から船乗りが拍手をしながらこちらに近寄ってきた。

「いやあ、大したもんだ！　あのクラーケンを倒しちまうとは！　とんでもない子供達だな！！」

「あ、船乗りさん、船の方は？」

「心配ない。所々ずぶ濡れになっちまったが、ちゃんと動くさ。もうクラーケンもいないし、安心してスカラビに行けるぜ。……お、空も海も元通りになってきたな！」

船乗りの言葉に一同が周囲を見渡すと、確かに海には波が戻り、暗雲も徐々に晴れていっている。

それらを見て、ようやく安堵したらしいジェフが、満面の笑みと共にネスの方を軽く叩いた。

「流石は我らのリーダー！　見事なお手並み！　僕らは完全に引き立て役だぜ、全く！」

「イテテ、そ、そんなことないよ。みんなで頑張ったからクラーケンを倒せたんだ。そうだよね、プー？」

「！……あ、ああ……そう、だな」

不意に同意を求められ、プーは言葉に詰まってしまう。しかし、幸いなことにネスはそれに対して反応することはなく、ポーラに心配され且つジェフにからかわれて忙しそうにしている。

プーはそんなネスを眺めながら、無意識に両手を握りしめていた。

（違う。此度の戦い、殆どネス一人の力による勝利だ。俺の講じた策は、ほんの僅かな時間稼ぎにしかならなかった。……俺は……俺は……）

ずっと抱いていた不安。それが益々大きくなっていくのを感じながら、プーは奥歯を噛み締めた。

――本当に彼らの……ネスの力になれるのだろうか？