第一章〜見過ごされた誕生〜

 

 

 

 

 

 

 

 

――――東暦1998年10月16日午後九時。

耳障りなアラートが、男の耳を打つ。もう何十……いや、何百回と聞いてきた、実験失敗を告げる音だ。

自然と男に苛立ちが募る。そんな彼の心中を知ってか知らずか、彼の傍らに立っていた助手が淡々と事実を口にした。

「相も変わらず、ですね。やはり、聞き齧った理論では中々成功しませんね」

「分かっている!」

男は激高して怒鳴りつけたが、助手の方は眉一つ動かさない。それが更に男の苛立ちを募らせ、コンソールに拳を叩きつける形で現れる。

助手はそんな男を眺めながら気づかれない様に嘆息すると、手にしていたノートを捲りながら彼に尋ねた。

「それで、どうなさるんですか? そろそろサンプルも尽き掛けてきていますが?」

「決まっているだろう!! 完成するまで絶対に止めん!! 必ず……必ず、あいつが造ると言っていた『作品』よりも……」

荒々しく返事をした男は、不意に歯を食いしばりながら両手を握りしめ、眼前のディスプレイに表示されたデータを睨みつける。

そんな彼の脳裏には、忌々しい一人の研究者の姿が浮かんでいた。

――――かつて、勝ち誇った様子で己の発見を語った昔馴染み。

今は何処で何をしているのかは不明だが、どうせ研究に没頭している事だろう。

もしかしたら、あの時よりも更に優れた『作品』を造り上げているのかもしれない。そう思うと、虫唾が走った。

「貸せ!!」

男は助手から乱暴にノートを引っ手繰ると、鬼の様な形相で捲りつつ口を開く。

「まだ試していない組み合わせは……ええい、まだ実験中の奴を除くとこれだけか! あれも正直、期待は出来ないし、これもダメとなるとまた調達しなければならない事に……くそっ!!」

「では、すぐに取り掛かりますか? その組み合わせの配合なら、然程時間は掛かりませんが」

「っ……!」

あくまで事務的な応対をしてくる助手に、男は尚も怒りを覚えるが、寸での所で爆発するのを抑える事が出来た。

確かに助手の言う通り次の実験に取り掛かりたかったし、彼の手際の良さに不本意ながら賞賛の意も覚えたからである。

気に食わない性格だが、助手としては優秀なのだ。腹の内は全く言っていい程に見せないが、利用価値が高いのだから傍に置いていて損は無い。

使えるものは、何だって使う。それが男のやり方だった。

「だったら早く準備にかかれ!」

「かしこまりました」

男が命令しながら投げつけたノートを見事に受け取ると、助手は一礼をしてから踵を返す。

そのまま退出しようとした彼だったが、出口である自動ドアを開こうとした瞬間、唐突にドアが開かれて仲間の研究員が現れた。

「?……どうしましたか?」

「はあっ……はあっ……は、博士!」

声を掛けた助手は眼に入っていない様子で、研究員は荒い息を弾ませながら男の元へと駆け寄る。

それを見て何か勘付いた男は、驚愕に眼を見開きながら言った。

「お、おい、まさか……」

「そのまさかです! 大成功ですよ博士! ほら、見てください!!」

研究員は興奮冷めやらぬ様子で、携えていた資料を男に突き出す。

男はそれを震えの止まらない手で受け取ると、研究員と同じく忙しない呼吸を繰り返しながら眼を落とした。

そして読み進め、ページが捲られていく毎に、彼の眼は血走り見開かれていく。思ってもみなかった実験の成果に武者震いが止まらず、一通り読み終えた際には我慢しきれず絶叫してしまった。

「素晴らしい! 偶然の産物とはいえ……いや、だからこそと言うべきか? ともかく素晴らしい結果だ!! これならあいつの『作品』よりも…………っ!?」

満悦至極の表情だった男が言い終わらぬ内に、盛大なエマージェンシー音が響き渡る。

あまりにも突然なその出来事に、普段は滅多に表情を崩さない助手が、珍しく狼狽えた様子でセキュリティシステムに近づいた。

「侵入者!? どうして此処が……っ! 近づいてきている……警備システムでは足止めにもならないみたいですね。これだと、物の数分で此処まで来るでしょう」

「ええっ!? そそ、そんな! もも、もしかして神士ですか!? どど、どうしましょう!?」

完全に平常心を失っている研究員が、オロオロと男を見やりながら悲鳴じみた叫びを上げる。

だが、男にそんな研究員に気をかけている余裕は無かった。せっかく掴んだ名誉の星が急速に遠ざかっていく現実に、怒りが全身を支配していく。

(くそ! くそ!! これからだというのに!!……っ!? いや、待て。恐らく目的は……だとしたら…………ええい、仕方ない!!)

爆発寸前の頭ながらも素早く状況を判断した男は、歯痒くもある決断をした。

それは、常人ならば相当に躊躇う決断であったが、典型的な『研究者』であった彼は特に思う事も無かった。

男は手にしていた資料を研究員に押しやると、彼を助手の方に突き飛ばしながら叫ぶ。

「急いでそいつを連れて、此処から逃げろ! それは神の所業にも等しき、実験の貴重な資料だ! 絶対にこの世から消してはならん!!」

「……貴方は?」

「決まってるだろう! あの『サンプル』を死守する!」

「えええっ!? む、無理ですよ!! 博士、そんなに強くないでしょう!?」

信じられないといった表情を浮かべた研究員に、男は鼻で笑いながら言う。

「バカが! 誰が戦うと言った? 真の研究者足る者、自身の研究を守る為の方法の一つや二つ、常に考えてあるものだ。あの『サンプル』は絶対に誰にも渡さん!」

「えっ、それって……!! は、博士!?」

男が何を考えているのか理解した研究員は、焦った様子で身を乗り出す。しかし、助手がその身体をしっかりと押さえつけながら、彼に言った。

「お分かりになったのなら、早く逃げますよ。どんな神士かは不明ですが、私達が此処に居れば、どうしたって無事では済みません」

「そういう事だ! さあ、サッサと行け!! そして続けろ! この研究をな!!」

「っ!!…………はい!!」

研究員は苦渋に満ちた表情ながらも力強く頷くと、助手と顔を見合わせて同時に頷く。そして、部屋の片隅に有った緊急脱出路から姿を消した。

直後、男は急いで部屋を飛び出して『サンプル』のある部屋へと急ぐ。その間にも、エマージェンシー音に混じって何かが爆発する音や壊れる音が聞こえてきたが、幸いまだ距離が有る。

男は息を切らしながら目的の部屋へと辿り着くと、中央に設置してあった巨大な装置を眼にして、安堵の笑みを浮かべた。

「はあ……はあ……よし、間に合ったな。さて……」

装置の内部で浮いている小さな物体を見やりながら、男はコンソールへと近づき凄まじい勢いでデータを入力し始める。

「成長速度は……修正が効かないとなると、最遅にしておくのがベストか……後は、このプログラムを入れて……」

ブツブツと呟きつつ、男はキーボードを叩き続ける。

徐々に近づいてくる足音に嫌が応にも焦りが生まれるが、彼は懸命にそれを押し殺しながら作業を続けた。

「よし、これで生命維持は万全な筈だ。これを転送して……最後に…………っ!!」

鋭い斬撃音、続いて派手にドアが崩壊する音が男に息を呑ませる。最終段階に入ったとはいえ、まだ作業が完成するには時間が必要だ。

だが、最早一刻の猶予も無い事は明白。それを悟った彼は、脳裏で忙しなく時間稼ぎの策を考えながら後ろに振り返った。

「っ!?……驚いたな。私の研究所でこうも大暴れしてくれたのが、こんな綺麗なお嬢さんだったとは」

「お世辞の方、どうもありがとう。けれど生憎、もうお嬢さんなんて年じゃないわ」

皮肉気にそう返した侵入者――剣を構えた女は、鋭い眼光を携えた瞳で男を睨みつける。

ポニーテールに纏めた髪は鮮やかな金色であるが、ライトに照らし出された頬は黄色く浮かび上がっている。

その姿から、女が遥か遠くの国からやって来たと判断した男は、溜息と共に形だけの労いの言葉を口にした。

「どうやら、東洋の人間らしいな。こんな辺境の地まで、わざわざご苦労な事だよ」

「別にそこまで苦労してないわ。確かに生まれは東洋の国だけど、今住んでるのはこの辺りだから」

「成程。道理でこちらの言葉も流暢な訳だ。しかしまあ、よく此処を嗅ぎ付けられたものだな。お蔭で私の研究は大幅に遅れる事になってしまったよ」

「安心なさい。その事で、貴方が悲しむ事は無いわ。だって……すぐに悲しむ事も出来なくなるんだから!」

女はそう叫ぶと、やにわに剣を振り翳す。すると凄まじい勢いで刀身が伸び、さながら鞭の様にしなりをきかせて男のすぐ傍を襲った。

そしてすぐさま女の元へと戻ると、たちまち元の剣の姿に納まる。初めてみる形状の武器に、男は興味をひかれて女に訊ねた。

「ほう、面白い剣だな。それも神器なのか?」

「フン、神士が神器以外の武器を扱うと思って?」

「っ……確かに」

皮肉を返された男は苦笑すると、女に気づかれない様に装置の様子を窺う。

(全プログラム完了まで、後6パーセント……どうにか、間に合ったか)

その事実に、思わず男の顔から笑みが零れかけるが、彼は寸での所でそれを抑える。ここで油断して気取られては、全ては水の泡だ。それだけは、決して有ってはならない。

男は意識して余裕の表情、それでいて微かに焦りを含んだ表情を作り、女を睨む。すると向こうは、こちらの狙い通り往生際の悪さを感じたらしく、苛立たしく口を開いた。

「もうお終いよ、ズラグ・マトームク博士。人の倫理を逸脱した研究を続けてきたその報い、きっちりと受けてもらうわ」

「おやおや、随分と自信たっぷりだな。まるで私が何の抵抗もしないと確信してるみたいだぞ?」

「強がりはしない事ね。貴方が単なる研究者で戦う術を持たない事は調査済みよ。さあ、観念なさい! 貴方を捕縛し、貴方の研究も全て破棄してあげるわ!!」

高らかに叫んだ女が、今にも先程の剣を再び伸ばそうとした時だった。

ほんの小さな……意味を知らない者であれば聞き逃してしまいかねない程に小さな電子音が、男の耳に入る。

それは完了の合図だった。これで自身の『研究成果』を守る事が出来ると確信した彼は、女がこちらに攻撃するよりも早くに高笑いを上げた。

「ククク……ハッハッハッハッ!!」

「!? 何が可笑しいの!?」

「いや、失敬失敬。君が随分と愉快な事を言うものだからね」

「?」

意味が分からずに眉を顰めた女に対して、男はこれ見よがしに装置のとあるボタンを押す。

すると次の瞬間、装置が派手な音を立てて爆発を起こし、それに連鎖する形で次々と周囲から爆発音が聞こえ出し、激しい揺れが起こり始めた。

―――――それは、この研究所の崩壊を意味する音。“ある一つ”を覗き、全ての装置及び部屋を破壊する音だった。

「な、何を!?」

「驚かなくても良いだろう? 君の望み通り、破棄してあげたのだから。私の研究をね」

「っ……貴方!?」

焦った女が、慌てて男の方へと駆け寄ろうとする。しかし、その時天井が崩落し、大きな瓦礫が二人の間に落下した。

これが女にとって最大の不運であり、男にとって最大の幸運となった。瓦礫が視界を遮る瞬間に映った、女の悔しさに打ち震えている姿を眼に焼き付けつつ、男は笑う。

(ふ、最期の最期でツキがやってきたか。やはり、神は私を……いや、私の研究を失うのは惜しいと思ったのかもな)

「く……博士! ズラグ・マトームク博士!!」

苛立たしく叫ぶ女の声に、男は背を向ける。そして、役目を終えた眼前の装置を誇らしく眺めながら、愉快気に女に言った。

「フフ、グズグズしている時間は無いぞ? 早く脱出する事だな。尤も、この研究所と運命を共にしたいというなら、話は別だがね。ククク……ハッハッハッハッ!!」」

その男の高笑いに呼応するかの様に、次々と天井から瓦礫が落下してくる。最早、この場が安全ではないという事は明白だった。

だが、彼の心に恐怖は無い。事を成し遂げたという喜びだけが心を埋め尽くし、この先に有る逃れる事の出来ない“死”に対する感情を麻痺させていた。

「っ!…………これで隠蔽出来たなんて、思わない事ね!!」

女のそんな捨て台詞が男の耳に入った後、崩落の音に紛れて遠ざかっていく足音が僅かに聞こえる。

それは男にとって、勝鬨と言って差し支えないものだった。男は不意に顔を上へと向けると、脱出させた二人の人物を思い浮かべながら眼を閉じる。

(自分の眼で、作品の出来栄えを見る事が叶わんのは残念極まりないが、最悪という訳ではない。いつか、必ず此処を見つけ出し、そして誕生させろ。お前達なら、きっと……)

――――そこまで考えた直後、男の頭上に一際大きい瓦礫が落下し、彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――東暦2002年10月1日午後5時。

一年の大半が雪と氷で覆われている寒冷地に存在する小国――イリシレ。

その首都であるアドレーの片隅に建てられた民営図書館の事務室で、一人の男性が頬杖をつきながらコンピューターの画面を眺めていた。

『東暦1998年10月19日。アドレー神士連合官長殿宛。

 先日、かねてより違法研究の件で捜索が続けられていたズラグ・マトームク博士の件で、自分は彼が隠れているとされていた研究所を突きとめる事に成功。

 最優先に研究の破棄、並びに博士の捕縛をと命じられていた為、単独で襲撃を決行。所内に存在した装置を眼につく限り破壊する事は出来たものの、肝心の博士の捕縛は成し得られず。

 彼は自身が追い詰められたとみるや、自ら研究所を自爆。後日、廃墟と化した研究所を調査し、彼の死体を回収。稼働していた装置も皆無であった。

 しかし、かなり大規模の研究所であるにも関わらず、他の研究者の存在は確認できず。これにより、まだ研究の破棄と言う目的は達成されていないと判断。引き続き、周辺の調査を行う予定。

 アドレー神士連合所属、ミズネ・ルキ』

『東暦1999年11月1日。アドレー神士連合官長殿宛。

 昨日を持って、ズラグ・マトームク博士に関する調査の打ち切り決定が確定。約一年における長期の調査であったが、結果はあまり芳しいものとは言えず。

 但し、奇跡的に残っていた数枚の資料を回収する事には成功。その資料から、博士の研究には二名の協力者がいた事が判明。詳しい人物像は不明なものの、

現在も何処かで博士の研究を続行している可能性が極めて高いと推測。よって自分は、この二名の捜索及び捕縛の任を受領。今後暫くは神連を離れ、世界各地を巡り任務を遂行する予定。

尚、個人的意見として、今後も研究所周辺の調査は続行する事を提案。理由として、博士が自ら研究所を破壊した事が、どうにも違和感が拭えないためである。

アドレー神士連合所属、ミズネ・ルキ』

「これから、もう三年か……早いものだな」

報告書らしき文面を読み終えた男が、シミジミとした口調でそう呟く。その直後、彼の後ろから落ち着いた女性の声が掛かった。

「トゼロ館長?」

「うおっ!?」

「図書館開館中に向こうの仕事はしないでくださいねって、いつも言ってますよね?」

「あ、ああ、分かってる! す、すまん!」

トゼロと呼ばれた男性は、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にし、難しい表情をしている女性に頭を下げる。

すると、彼女はかけていた眼鏡のズレを修正しながら、呆れた様に嘆息した。

「もう、いつもそれじゃないですか。まあ、今は利用者が皆無だから良いですけど……万が一誰かに見られたら、大変なんですからね」

「ほ、本当にすまん、フィーノ! 先日の件で、彼女を呼び戻すかどうかで悩んでいて……」

「先日の件?……っ、成程、ミズネの報告書を読んでいたんですか」

フィーノと呼ばれた女性は納得した様子でトゼロの見ていた画面を覗き込む。

「当時これを読んだ時は、『証拠の無い推測で提案するものではない』と彼女を注意したと記憶していますが……結果論ですが、それは間違いになってしまいましたね」

「まあ、それを今更どうこう言っても無意味だ。問題は、誰を調査に向かわせるかなのだが…………あ、いや、すまん。言った傍から向こうの話をしてしまったな」

腕組みをして考え込む仕草をみせたトゼロは、慌てて我に返るとフィーノに詫びる。

しかし彼女は「いえ……」と軽く首を横に振ると、トゼロの隣に有った椅子に腰掛けて軽く眼を伏せた。

「重要な事ですし、館長が気になさるのも分かります。一刻も早く手を打つべきですから、あの研究所の件は」

「ああ。本当なら彼女自身を呼び戻すのが一番なのだが、今の所在地が掴めなくてな……」

「連絡は来てないのですか?」

「いや、一ヶ月前に来ている。どうやら東洋の方を巡っているらしいが、相変わらず空振り続きだそうだ」

「東洋……そう言えば、ミズノの故郷はその辺りでしたね。確か国名は……“パージル”でしたか」

「そうだ。ひょっとしたら帰省しているのかもしれんが、確証が無い以上、向こうの神連にも連絡が取れん。数もそれなりに有るしな。だから、こうして困ってる訳なんだが……」

深い溜息と共にトゼロが頭を抱えて俯いた直後、館内に閉館を告げるチャイムが鳴り響く。尤も、元々利用客がいなかったのだから、取り立てて周囲に変化は無い。

しかし、フィーノにとっては別だった。彼女は一つ咳払いをすると、先程までの畏まった口調から一転してくだけた口調でトゼロの言葉の後を受け継いだ。

「此処の神士達を出向かせられれば一番簡単なんだけど……難しいわね、今回の件が件だし」

「そういう事だ。此処でナンバーワンの神士である彼女でないと、この件は務まりそうにない。受けた報告から判断するに、相当厄介そうだからな。さて、どうしたもの……待てよ」

「どうしたの、トゼロ?」

訊ねてきたフィーノに、トゼロは「確か……」と呟きつつコンピュータを操作する。不意に思い出したあるデータを検索しつつ、彼は言った。

「パージルで思い出したんだが、あそこにあるシティ……確かトウネシティだったか? そこに今、変わった神士がいるという話があっただろ?」

「トウネシティ?……ああ! そう言えば、少し前に向こうに行った者が話してくれたわね。何でも、新しい神士だとか……」

「そうだ。私の記憶が確かなら……有った、これだ!」

目当てのデータに辿り着いたトゼロは、そのデータを画面上に呼び出す。程無くして、少々赤黒い肌をした黒髪の少年の写真が現れた。

トゼロとフィーノは、その少年の姿をまじまじと眺めながら、同時に表示されている彼のデータに眼を走らせる。

『双慈。現在は当神連所属『幻妖剣士』上永繚奈の保護下に有り。諸事情により当神連のみ任務ならず他からの要請にも積極的に応じる次第。要、連絡されたし」

その後、双慈の簡単な紹介が続いていたが、それを読むフィーノはとても本当の事だとは思えなかった。

「……まだ年端もいかない男の子じゃない。神士には若い子も沢山いるけど、この子はその中でも最年少クラスだわ。それになんなのかしら、この『従来の神士とは違う存在』って」

「確かに、この眼で直接見てみないと分からない事だ。だが、物は試し。連絡してみようじゃないか」

「そうね。だけどすぐに来てくれるかしら? パージルから此処まで、結構な長旅よ?」

「それは向こうが何とかしてくれるだろう。それに、放ってはおけないが一刻を争う件という訳でもないんだ。必要以上に急かさなくても構わん」

フィーノの疑問に答えたトゼロは、トウネシティへ連絡を入れる。それが終わるとコンピューターの電源を落として立ち上がり、軽く両肩を揉みながら口を開いた。

「さて、本部の方に行くとするか。やはり専用の席の方が、何かと捗るし」

「だったらもう、此処で神連の仕事はしないで欲しいわね」

「う……わ、分かっている! ほら、行くぞ!!」

痛い所を突かれたトゼロは、少々不貞腐れた表情でそう言うと身を翻して館内の奥へと歩いて行く。

その後に少し遅れてついて行きながら、フィーノは前に有る大きな背中を見つめ、思わず苦笑した。

「本当。仕方ない『官長』さんなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

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