第二章〜廃墟の置き土産〜

 

 

 

 

 

 

 

――――東暦2002年10月10日午前十時。

「ねえ、後どれくらいで着くの?」

「十分ぐらいってとこだな。ちゃんと準備しとけ」

「分かった。……って言っても、特に何も持ってきてないし、これの状態を確認するくらいだけどね」

車を走らせる神連職員の男性に返事をすると、双慈は懐から愛用のダガーとクリスを取り出す。

そして、器用にその二つの刃を回転させると、満足そうな笑みを浮かべた。

「うん、大丈夫。“グリフ”も“フェル”も調子良さそうだよ」

「そんなんで分かるのか?」

「何となくだけどね。まっ、“新士”の超感覚って奴かな?」

「……可愛くないチビだぜ。おっと、右か」

職員は苦笑すると、慣れた手付きでハンドルを切る。その際に車内が軽く揺れ、双慈は慌てて二つの刃を懐に戻した。

――――寒冷地帯に存在するイリシレ国の首都、アドレー。

二人の乗った車は見渡す限りの雪景色の中、凍結して滑りやすくなっている道路を、少々のんびりとしたスピードで走っている。

スリップしないよう神経を尖らせている職員とは対照的に、双慈はあまり見たことがない雪国の景色にすっかり魅せられ、窓に顔をくっつけて外を眺めていた。

「うわあ、本当に真っ白だ。一年中、こんな感じなんでしょ?」

「ああ、此処から雪がなくなるのは、一年の内にほんの二か月かそこらだ」

「ふうん……雪掻きとか大変そうだな」

「そりゃあな。……っと、見えてきたぞ。あの建物だな」

職員の言葉に、双慈は視線を前に向ける。

だが、職員が言う目的地の建物がどれか分からず、不満そうな声を出した。

「どの建物? なんか小さいのばっかりで、それらしい建物なんか無いけど?」

「あのな、神連ってのは普通、そんなに堂々と建ってるもんじゃないんだよ。人目につかないよう、外見は目立たないようにしてるのが一般的なんだ。剣輪町だってそうだろ? 刀廻町のは、例外中の例外」

「へえ、そうなんだ。それで、ここの神連はどの建物なの?」

「あれだ、あれ。ほら、ちょっと大きめの奴」

そう言いつつ、職員は窓の外を指差す。双慈がその先を見つめると、小さめの市民ホールのような建物が視界に入った。途端、双慈は自然と表情を引き締める。

「いよいよ、ご対面だね。僕に依頼してきた人って、一体どんな人なんだろう? どんな風に挨拶すれば良いのかな?」

「ま、失礼がないようにしてれば、問題無いさ。だけど、大丈夫か? きょうは頼れる“繚姉”も“雄兄”もいないんだぜ?」

「だ、大丈夫だよ!」

からかうような職員の言葉に、双慈は少しだけ顔を赤くして返事をした。そして、少しだけそんな自分に驚く。

(僕も変わったな。繚姉は『良い事よ』って言ってたけど、なんか面白くないんだよなあ……)

愛着があった訳ではないが、かつての機械的な己を思い返し、彼は複雑な心情を溜息として吐き出した。

 

 

 

 

 

 

――――従来の“神士”とは違う、人工的に生み出された新しい存在である“新士”。その存在が世に広まる切っ掛けとなった“新神革命”から、早二年あまり。

この事件の最重要関係者であり、現状で世界中の神連において唯一存在が知られている新士である双慈は、刀廻町の神士連合に所属し、任務をこなす日々を送っていた。

まだ神連に所属してから二年程度だが、彼の戦闘力は(自身の消耗さ加減が分からないという難点はあれど)既に一級品とも評されている。

何と言っても、“鵺”と“爆狼”という二体の神の力を持ち、神士の中でもトップクラスの実力者である”幻妖剣士“上永繚奈に教育されているのだ。

その上、同じく実力者である”覇王剣士“武真雄一からも指導を受けられる立場である。元々持っていたものが大きい分、磨けば光るのは自明の理であろう。

ただ双慈はまだ幼く、今までに無かった“新士”という存在である事も手伝い、知識や経験には乏しい。

それを補う為に、彼は世界中の各神連からの要請に応じ、多くの人々や神々と出会う事件に関わり、見聞を広めていくことになっているのである。

今回、このアドレーの町を訪れたのも、その理由によってだ。

詳しくはまだ分からないが、何でもかなり厄介な事件らしい。加えて今回は、今までならば必ずどちらかは一緒だった繚奈も雄一もいない。いわば今回は、双慈の初めての単独任務なのだ。

表面上は平静を装っている双慈だが、やはり心の中では緊張を否めなかった。

(ああ……本当、どんな依頼なんだろう?)

不安の気持ちを吐き出す様に、彼は静かに溜息をつく。その直後に、職員が言った。

「おい双慈。到着するぞ。降りる準備しとけ」

「う、うん」

少しだけ上擦った声で返事をすると、双慈は愛用の神器――“グリフ”と名付けた“鵺”のダガーと“フェル”と名付けた“爆狼”のクリスを懐に仕舞い、服の乱れを正す。

彼がそうしている内に、車は駐車場に入っていた。職員が車を停めてエンジンを切ると、建物の入口の方を見やりながら呟いた。

「図書館か。剣輪町のゲーセンと、良い勝負だな」

「何の勝負?」

「気にするな、こっちの話だ。ほら、早くシートベルト外して降り……おや、出迎えか」

「えっ、本当?」

驚いた双慈が入口へと視線を向けると、確かに一人の女性がこちらに近づいてくる姿があった。

慌てて彼はシートベルトを外すと、ドアを開けて外に出る。そして車の前へと出ると、やってきた女性に声を掛けた。

「あ、あの! ぼ、僕! え、えっと……」

しかし、予想外の事に考えていた挨拶の言葉が綺麗に吹き飛んでしまい、口が上手く動かない。

真っ白になった頭で懸命に言葉を探す双慈に、女性はクスリと微笑んだ。

「坊や。ここはイリシレだから、パージル語は通じないのよ?」

「え? あ、そ、そうか、ゴメンなさい……って、あれ?」

「あ〜すいません。こいつ、見ての通りまだチビなんで、からかわないでくれます?」

職員が呆れた様子でそう言うと、女性は口元を抑えつつ肩を震わせる。

「フフフ、失礼。だけど、本当にこんな幼い子が、”神士“……しかも、従来とは全く違う存在なんて、ちょっと信じられないわ」

「ま、そりゃそうでしょうな。しかし、実力の方は保証します。『そろそろ異名をつけたって良いか』なんて意見も、神連内で出てきている程ですから」

「へえ、それは……えっと、ソウジだったわね?」

「は、はい! じゃなくて……ラ、ラビ……」

「落ち着け、双慈。パージル語で大丈夫だ。彼女も、それで話してるだろ?」

「あ、そ、そうか。えっと、初めまして、双慈と言います。今回は、よろしくお願いします」

「ええ、よろしくねソウジ。私はフィーノ。この図書館の副館長であり、神連の“副官長”よ。ま、こんな所で立ち話もなんだし、中に入って」

「わ、分かりました」

「さて、これで俺の役目はひとまず終了だな。しっかりやれよ、双慈。じゃあな!」

軽く手を振りながら、職員は車に乗り込むとすぐに出て行ってしまった。

何だか置いて行かれたような感覚に襲われ、少し不安になった双慈だが、すぐに気持ちを切り替えると、フィーノに言った。

「それじゃあフィーノさん、行きましょう。神連は、この図書館の下ですか?」

「ええ、そうよ。よく分かったわね?」

「雄……知り合いの神士が所属している所が、そんな風でしたから」

そう言って、双慈は苦笑して見せた。

 

 

 

 

 

 

「よく来たね、ソウジ。君の事は、色々と調べさせてもらったよ」

「はあ……」

男の言葉に、双慈は気の無い返事をする。失礼だとは思ったが、どう返事すれば良いのか分からないのだから、仕方が無かった。

「私がここ、アドレー神士連合の官長、トゼロだ。今回の件、よろしく頼むよ」

「全力を尽くします」

ほとんど形式的に頭を下げた双慈は、チラリと周囲を窺う。

(それにしても、小っちゃい神連だな……今まで結構色んな神連見てきたけど、こんなに小っちゃいのは初めてだ)

彼がそんな感想を抱くのも当然で、この神連はかなり小さかった。

部屋数も少ないし、職員も数人いるだけだ。その分、コンピューターはかなり多いらしく、入った時からひっきりなしに電子音が鳴り響いている。

しかし、やはり一国の首都にある神連としては小規模だと思わざるを得ない。だからと言って文句がある訳ではないのだが、どことなく妙な感じがする。

「それで、一体どんな用件で僕を?」

「うむ。君に、ある施設を調査して欲しいのだ」

「施設調査……ですか?」

キョトンとした表情で、双慈は訊き返す。同時に、内心訝しさを覚えた。

無理もない。かなり厄介な事件だと聞かされていたから、てっきり神士や幻獣の討伐だと彼は思っていたのだ。

「そうだ。もう少し、具体的に言うと研究所跡の調査だな」

「っ!……成程、そういう事ですか」

事情を察した双慈の表情が、瞬時に引き締まる。

研究所跡の調査――それは往々にして、危険性の高いケースだと彼は知っていた。

そもそも、研究所跡を調査せねばならない理由とくれば、大体決まっている。その場所に、厄介な代物が放置されているからに他ならない。

――――研究装置。資料。実験サンプル。不完全な実験作品。

考えられる候補は幾つもあるが、どれにしても野放しには出来ない。何者かに悪用されるのは勿論だが、“自我があるもの”ならばそれだけで危険極まりないのだ。

“新神革命”の当事者である双慈は、その事を知りつくしていると言っても良かった。

「もう壊滅してから四年程が経過しているのだが、どうも最近、その研究所跡で妙な事が起こっているらしいのだ」

「妙な事?」

「“幻獣”だよ。研究所跡の近辺で、幻獣の目撃情報が多発しているのだ。少数だが、襲撃事件も起きている」

「っ……それは、放っておけませんね」

「ああ。しかしまだ、その研究所跡と幻獣の出現が関連しているのかどうかは分からない。つまり、それを君に調べて欲しいのだよ」

「分かりました。案内してもらえますか?」

「勿論だとも。フィーノ君、よろしく頼んだよ」

「はい」

呼ばれたフィーノは返事をすると、テキパキと身支度を始める。

そんな彼女を暫く眺めていたトゼロだったが、やがて何かを思い出したかの様に双慈の方へと向き直った。

「幻獣についてだが、強さそのものはそれ程でもないとの事だ。だが、数はかなりのものと聞いている。くれぐれも、無理はしないでくれ。今回の件は、幻獣討伐が目的ではないのだからな」

「ええ、分かってます。ところで、その幻獣のタイプ……っていうか、どんな幻獣だかは分からないんですか?」

「すまない、情報が錯乱していてな、詳細は掴めていないのだよ」

「いえ、謝る必要は無いですよ。幻獣の正体が分からないってパターンは、今まで何度もありましたから」

双慈がそう言った直後、フィーノが彼に声を掛けた。出発の準備が整ったらしい。

「じゃあトゼロさん、行ってきます」

「気をつけるのだぞ」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

目的の研究所跡は、アドレーの町から北に車で一時間程度、そして徒歩で一時間程度の場所だった。

森林地帯のようで、周囲は白銀の衣を纏った木々が立ち茂っている。その中にあった小さな空き地に、殆ど全壊している煉瓦の家跡があった。

「これが、その研究所跡ですか?」

「ええ。表向きは、ある富豪の別荘になっていたの。だけど本当は……こっちよ」

手招きをして促したフィーノに、双慈は素直に従い彼女を追う。

フィーノは家跡の中に足を踏み入れると、地面を軽く蹴った。すると、微かだが金属製の扉らしき物が、その姿を見せた。

「この下に、研究所を設けていたみたいなの」

「ふうん……やっぱり、そういうもんなのかなあ?」

「ん? 何の話?」

「あ……ゴメンなさい、こっちの話です。忘れてください」

「そう? なら良いけど……それじゃあ、この先は頼めるかしら?」

「はい、任せてください。貴女は危険ですから、神連に戻った方が良いですよ。幻獣が出るって話でしたし」

「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ。これでも神連の職員ですもの。身を守る術の一つや二つ、心得ているわ」

そう言うとフィーノは、軽く胸を叩いて見せた。

「だから私の事は気にしないで、君は自分の心配だけしてなさい。トゼロ官長も言ってたけど、無理だけはしないように」

「っ……分かりました」

眼を閉じて軽く嘆息しつつ、双慈は頷いた。

子供扱いは今に始まった事じゃないし、正直されても仕方が無いとは思っている。事実、自分はまだ十歳を迎えたばかりの子供なのだから。

しかし、ここまであからさまだと、やはり不愉快になるのは否めない。

(幻獣が出たら、ちょっとだけ派手に暴れようかな……)

そんな事を考えながら、彼はフィーノが見つけた扉の取っ手に手を掛ける。そのまま力任せに引っ張ると、割と簡単に扉が開き、中から階段が現れた。

「それじゃあ、行ってきます」

双慈はフィーノに一礼すると、子供らしい軽やかな足取りで階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

(うわあ……派手にやったな)

階段を下り終えて研究所跡に辿り着いた双慈は、注意深く周囲を見渡しながら、心の中で呟いた。

――――ディスプレイが壊れているコンピューター。グチャグチャにされたまま放置されている無数のコード。床に散らばる燃えカス。

何の研究かは分からなくとも、これらの痕跡から、この場所で“何が起こったか”は大体見当がつく。

(研究対象が暴走したか、あるいは誰かがそうなるような手引きしたか……まあ、そんなとこだろうな)

皮肉を抱きつつも、双慈は何か手がかりになるような物が残っていないか探る。

けれども、コンピューターはどれも電源が完全に落ちていて作動せず、記録媒体も残っていない。燃えカスも殆ど灰同然で、復元も困難なのが見て取れた。

念の為にと一つ二つ回収して、持ってきていた小型の保存装置に入れるが、あまり期待は出来ないだろう。

良い報告は無理そうだと落胆しつつ、彼は研究所跡の奥へと進む。

いつもならば、その両手には二つの神器――“グリフ”と“フェル”が握られているのだが今回は違った。

最初こそ警戒して構えながら歩いていたのだが、話と違ってまるで幻獣の気配は感じられないし、床がゴチャゴチャしていて両手が塞がっていると非常に歩きにくいのである。

そんなわけで、双慈は足元を注視しつつ歩を進めていた。するとどうしても、左右はともかくとして頭上への関心は薄れてしまっていた。

――――故に彼は、頭上で微かに動く小さな物が幾つか存在していた事に、全く気が付かなかったのである。

十五分程歩き続けた双慈は、自動ドア――正確には自動ドアだったドアを見つけた。

ものの見事に破壊され、最早ドアの形すら成していなかったが、調べてみるとかなり厳重なセキュリティが施されていたのが分かる。

(何か手がかりがあるとしたら、この先だな)

双慈はそう判断すると、ドアの奥へと眼をやる。

巨大な瓦礫が無数に崩れ落ちていて、見るも無残な光景だったが、彼はこれ以上崩壊させないようにゆっくりと瓦礫の山へと近づいた。

山の彼方此方には小さな隙間が空いていて、そこから中を見ることが出来る。双慈は近くの隙間に顔を近づけると、ジッと眼を凝らした。

すると見えたのは、巨大な装置だった。かなり派手に彼方此方を破損しているが、それでも保存装置らしき物であると判別できるくらいの形状は保っている。

(これが、この研究所の一番の目玉かな? だけど、これ……まさかとは思うけど、どことなく似てる気が……)

双慈はかつて嫌と言う程に見た事があり、自身にとっても強く関わりのある装置の事を思い浮かべ、表情を曇らせる。

「ま、考えるのは後でいいか。とりあえず、この装置はもう少し調べた方が良さそうだ」

そう呟いた双慈は、一旦覗いていた隙間から顔を離し、周囲を見渡して潜り込めそうな隙間を探す。

幸い、特に時間を掛ける事も無く見つけると、双慈は溜息を一つついて両肩を回した。

「ふう……さて、それじゃ行こうか」

双慈は瓦礫の隙間に近づくと、躊躇い無くその中に潜り込む。こういう時、小さくて柔らかい子供の身体は実に便利だ。

難無く隙間を潜り抜けた彼は、眼前にある装置を改めて眺める。やはり、何かの保存装置である事に間違いはなさそうだ。間近で見ると、そう思える程に記憶の中にある物と酷似している。

(やっぱり、似てるな。まあ、あの人が造ったって事は無いだろうけど……繚姉や雄兄が言ってた通り、あの人から聞いた誰かが造ったってことかな?)

そんな感想を抱いた双慈の頭には、“天上の庭”がありありと浮かんでいた。

――――人工的に“神士”や“神獣”を造り出し、それをより強く改良させた“新士”や“新獣”としてこの世に生み出す装置。

二年前に神士達な間で瞬く間に広がった“新神革命”という名の事件の最重要物であり、双慈にとっては揺り籠とも言える物だった。

かつて、好野という研究者が雛形を開発し、それを義長という研究者――双慈にとってはある意味父親とも言える男が、長い年月を掛けて改良を重ね続けた、罪深き存在。

悪用されれば、世界は確実に間違った方向へ進んでしまうと神連の間で危惧されている、厄介極まりない装置だ。

現在、既に好野は“天上の庭”から手を引いており、義長もこの世にはいない。

しかし、奴が長年の間に誰かに少しでも“天上の庭”について漏らした可能性は否定できず、そこから誰かが新たな“天上の庭”を造り出した可能性も、また否定できないのが現状なのだ。

ともあれ、この装置は念入りに調べる必要がある。そう確信した双慈に、腕組みをしつつ考えた。

「さあ、どうする双慈? こういう場合、まずはどうやって調べる?」

そんな独り言を口にしながら、彼は暫し思案していたが、やがてある結論を出すと大きく息を吐いた。

結局の所、この装置がまだ稼働するか否か、電源を入れてみるしかないだろう。仮にそれによって何か問題が発生したとしても、そうしなければ何も始まらない。

「とはいえ、こんな状態で電源が入るとも……あれ? これって予備電源? 無事で残ってたのか……あ、こっちにはケーブルが……これで繋げば、まだ動くかも」

装置の後ろへと周り、調べていた双慈は、次第に装置が稼働する可能性が高まっていくのを感じる。

幸運にも、発見した予備電源の接続は、彼にもわかるくらいに単純なものだった。難なく装置と予備電源を繋げた彼は、緊張しつつ装置の正面へと戻った。

「さてと、後は電源スイッチか。どれどれ……あ、きっとこれだな」

一際目立つボタンを発見し、双慈は無意識に息を呑む。暫くそのままボタンを見つめていたが、やがて意を決してボタンに指を掛けた。

その次の瞬間、周囲一帯に耳を劈く様なエマージェンシーコールが鳴り響く。驚いた双慈は咄嗟に装置から離れると、反射的に“グリフ”と“フェル”へと手をやった。

「ああ〜ったく! トラップだったのか!?」

――――双慈のその問いを肯定するかの様に瓦礫の山が崩壊し、数匹の怪鳥が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  

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