最終決戦〜Twilight Princess(第三話)

 

 

 

 

 

「……長かったな」

「……ああ」

リンクの呟きに、ミドナは無意識にそう呟く。……と、その途端、彼女の身体から無数の光が溢れ出し、二人は驚いて目を見開いた。

「お、おいミドナ!?な、何だよ、その光は……?」

「これは?……っ!!」

何かに気づいた様に、ミドナは自分の後ろにある玉座に振り向く。

それに合わせるかの様に溢れ出した光は、ゆっくりと玉座に座っているゼルダ姫の元へと渡っていった。

「……これは……何が?」

「あ……あ……」

全ての光がゼルダ姫へと行き渡ると、彼女の身体は一際激しい光に包まれる。

そして、その光がゆっくりと収まっていくのと同時に、今まで閉じられていたゼルダ姫の瞳が、ゆっくりと開かれた。

「ひ……姫さん……」

不意に今まで聞いた事も無い様な、弱々しいミドナを声が聞こえ、リンクは驚いて彼女を見やる。

「……ワタシ……ワタシ……!!」

今にも泣き出してしまいそうな表情で話すミドナに、ゼルダ姫は静かに首を振った。

「何も言わないで……ミドナ」

「で、でも……」

「……ほんの短い間でも、私の心は貴方と一つでした。……貴方の受けた苦しみに比べたら……」

「姫さん……本当に……ワタシは……アンタに……!!」

「……もういいじゃねえか、ミドナ」

尚も謝罪しようとする彼女の頭を軽く小突き、リンクは努めて明るい声をだす。

「本人がこう言ってるんだ。……気にするこたねえよ」

「リンク……」

こちらに振り向いたミドナに微笑むと、彼は何の気なしにゼルダ姫と振り返った。

「「…………」」

彼女もこちらに視線を合わせ、暫くの間、二人は互いに黙ったまま見つめあう。ややあって、リンクが口を開いた。

「そういやあ……この姿でアンタと会うのは、初めてだったな」

「ええ。……ですが、貴方のその姿は、私が思っていた通りでした」

軽く目を閉じ、記憶の糸を手繰らせた後、ゼルダは感慨深げに呟く。

「緑の衣を身に纏いし、伝説の勇者。……貴方とは、きっと出会うと思っていました」

「ゼルダ姫……俺も……」

面と向かって話すのが初めてなのも手伝って、何と言えばいいのか分からずに、彼は言葉を濁す。

「……上手く、言えねえけど……俺もアンタとは、いつか会うんじゃないかと思ってた……気がする」

「リンク……あの……っ!?」

「「!?」」

ゼルダ姫が何かをリンクに言おうとした瞬間、妙な音が三人の耳に響き渡り、彼らは驚いて音のした方向を見やる。

「「「なっ!?」」」」

するとそこには……魔獣と化した身体を失いながらも、今なお禍々しさを漂わせるガノンドロフの邪気があった。

そして、その邪気が次第に集まっていき、一つとなって形を作る。

「「「……っ!!」」」

その形を見て、三人は思わず息を呑む。その形とは、紛れもなく……ガノンドロフの笑い顔だった。

「まだ、死んでねえってのかよ!?」

「……大魔王ガノンドロフ。これほどの生命力だったとは……」

ゼルダ姫が呟く横で、リンクは苛立たしげに舌打ちをする。

(ちっ!……正直、勘弁して欲しいんだがな……!)

今の自分は全身に数々の傷を負い、動けない訳ではないが、まともに戦える体力は到底残っていない。

極めて絶望的な状況だと判断しながらも、彼は痛みを堪えつつマスターソードを構え、ミドナに話しかけた。

「……仕方ねえ! ミドナ、ゼルダ姫を頼む!! コイツは俺が今度こそ……っ!?」

しかし彼女の方を振り向いた所で、リンクは言葉を失って動きを止める。

「ミ、ミドナ? お前……何を………?」

不意にミドナが出現させた黒色の破片――影の結晶石を呆然と眺めながら、彼は独り言の様に呟く。

そんなリンクに、どこか寂しそうな笑顔を浮かべながら、彼女は静かに口を開いた。

「リンク……姫さんを……頼んだぞ」

「えっ?……っ!!」

その言葉が何を意味しているかを悟り、彼は慌ててミドナを止めようと彼女に手を伸ばす。

「バ、バカヤロウ! お前……っ!!」

しかし、その手が彼女に届く事は無く、寸での所でリンクとゼルダ姫の身体は、その場から消え去った。

――――……ミドナが影の魔力を使い、二人を遠くにワープさせたのである。

「……今までありがとう、リンク。それから、姫さん……今こそ、借りを返すぜ!!」

キッとガノンドロフを睨みつけ、彼女は影の結晶石を身につけ、魔力を開放させた。

「……はっ!!」

再び巨大且つ異形な姿になったミドナは、その手に影の武器を携え、力の限り叫ぶ。

「あの二人には、もう手出しさせない!ガノンドロフ!!お前は……ワタシが倒す!!」

――――その叫びと共に、彼女は勢いよく大魔王に迫っていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――黄昏時が迫る、ハイラル平原の一点。

ミドナの力で半ば強制的に飛ばされてきたリンクとゼルダは、どちらともなく辺りを見回した。

「っ……ここは?」

「ハイラル平原……みたいですね」

リンクの問いかけに、ゼルダ姫がポツリと答える。それを聞いて、リンクは歯痒そうに声を漏らした。

「ミドナの奴……格好つけやがって……」

「……大丈夫なんでしょうか?」

遠くに見えるハイラル城を見つめながら、ゼルダは心配そうな表情をする。それに対して、リンクは静かに首を振りながら、口を開いた。

「分からねえ。だけど、今の俺達には、そう信じるしか……!?」

刹那、凄まじい爆音が耳を打ち、二人はハッとしてハイラル城に視線を移す。すると……。

「!?……な、何!?」

「そんな…ハイラル城が……」

黄昏の空に映える様に聳え立っていたハイラル城は、無残にも黒煙を上げて崩壊していく最中だった。

そのあまりにも悲惨な現実に、リンクは思わず震える声を漏らした。

「な、何が起こったってんだ……?」

ミドナは?……そう続けようとした彼だったが、突如として身体を奔り抜けた禍々しい気配を感じ、息を呑む。

「っ!? これは……まさか……」

「!!……あれは!?」

ゼルダ姫が声を上げるのとほぼ同時。二人は平原の向こう側に、小さな人影があるのを確認する。

一頭の馬に跨ったその人影は、さながら戦に勝利したかの様に、片手を天に翳す。その人影に、リンクもゼルダ姫も見覚えがあった。

「ガノン……ドロフ」

「な、何でアイツ元に戻ってんだ?……っ!!まてよ……それじゃ、ミドナは一体……」

呆然と呟いたリンクだったが、その時になって、初めて奴が何かを握り締めている事に気づく。

目を凝らして『それ』が何なのかを理解した彼は、ショックのあまり声を失う。

「…………っ!!」

――あれは……ミドナの……影の結晶石……!

それがガノンドロフの手にあるという事。それが何を意味するのか分からないほど、リンクの思考は鈍くない。

(……ミドナ……お前……)

途端、ガノンドロフは手に力を込め、持っていた影の結晶石を握り潰した。

それが合図だったかの様に、奴の後方から無数の騎士が出現する。

「っ!! あれは……?」

「ファントムライダー……ガノンドロフが生み出した者達でしょう」

リンクの問いにゼルダ姫が答えた刹那、大魔王の軍団が勢いよく彼らの方へと迫っていった。

「くっ!……やってやるぜ!! ミドナの敵討ちだ!!!」

それを見て、リンクは苦痛に顔を歪めながらもマスターソードを構え、迎え撃とうとする。

しかし、そんな彼を宥める様に、ゼルダ姫が彼の腕に自らの手を乗せた。

「!?……ゼルダ姫?」

「駄目です、リンク。今の傷ついた貴方では……勝ち目はありません」

「け、けどよ! だからって……!!」

リンクは身を乗り出して反論するが、彼女が真摯な眼差しで自分を見ているのに気づき、思わず口を閉ざす。

「ゼルダ姫……」

「今度は、私が貴方の力になる番です。ですから……どうか私の言う通りに」

「……分かった」

彼がそう言って頷いたのを確認すると、ゼルダ姫は静かに目を閉じ、呪文の様な言葉を並べ始めた。

「現世の大地をあまねく照らす大いなる力、任されし光の精霊達よ……今こそ退魔の光、我に与えよ!!」

彼女がそう言い終ると、突然自分の周りに眩い光が発生し、リンクは思わず目を腕で覆う。

「うわっ!?」

そう呟いた瞬間、彼は自分が消えてしまうかの様な、不思議な感覚に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が目を開けると、そこに広がっていたのはハイラル平原ではなく、別の景色だった。

「……ここは?」

頭上には全てを飲み込んでしまうかの如く漆黒の闇が広がっており、それとは対照的に、地面には無数の光が輝いている。

この世の物とは思えない、あまりにも神秘的な風景。そんな場所で、リンクは暫し呆然と立ち尽くしていた。

(こんな所に俺を連れてきて……ゼルダ姫は何を?)

心の中で呟いた瞬間、彼は自分の身体に異変が起こっている事に気づく。

「!?……傷が……」

ガノンドロフとの戦いで、身体の至る所に生まれていた数々の傷が、見る見る内に塞がっていった。

(この光の……力、か?)

驚愕に目を見開いていたリンクだったが、不意に強烈な光を後方から感じ、ハッとして振り向く。

「っ!?……!!」

するとそこには、かつて自分が救った光の精霊達――ラトアーヌ・フィローネ・オルディン・ラネールの姿があった。

そして彼らの中心で、ゼルダ姫が祈りを捧げている。

(すげえ……)

神話等には大した知識もないリンクだったが、その様子を見て、こう思わずにはいられなかった。

――――……女神の様だ、と。

「ゼルダ……姫……?」

彼が呟くのと殆ど同時。ゼルダ姫の前で何かが輝き、彼女はそれを静かに手にする。

そして、静かにリンクを見つめ、鈴の鳴る様な声を出した。

「ごめんなさい、リンク。突然、この様な場所に連れてきて……」

「い、いや、それは別にいいけど……その手に持ってるのは?」

ゼルダ姫の手の中にある、見事な矢を指差しながら、リンクは尋ねる。

「この矢は、『光の矢』と呼ばれる物。……我が城に、代々受け継がれてきた武具です」

「『光の矢』……」

「ええ。そして、この武具と共に、ハイラルの姫にのみ、語り継がれてきた伝説があります……」

そう言うとゼルダ姫は、一句一句を強く声に出しながら、話を続けた。

「……『ハイラルの姫たる者よ。ハイラルに邪悪なる者が現れし時……伝説の勇者、緑の衣をその身に纏いて、汝の前に姿現さん。

 その時汝は光の矢を射て、勇者と共に邪悪なる者をハイラルから葬り去るべし』………私は、貴方のその姿を見て、確信しました。

今が、この伝説を………この伝説を、真実にする時なのだと」

「……ゼルダ姫」

「ですから、リンク……いえ、選ばれし勇者リンク……」

そこまで言って、彼女は彼に対して深々と頭を下げ、懇願する様に口を開いた。

「どうか……私に、最後の力を御貸し下さい」

「…………」

その頼みの言葉を聞いて、リンクは暫し無言で彼女を見つめる。

しかし、それも束の間。やがて困った様な顔をしながら、彼女に話しかけた。

「……よしてくれよ」

「えっ?」

その彼の言葉に、思わずゼルダ姫は顔を上げ、キョトンとした表情をする。

するとリンクは、穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「今更、そんな他人行儀は無しだ。アンタに力を貸してやると言える程、俺は偉い奴じゃない。それに……

 その伝説では、勇者は『姫に力を貸した』んじゃないはずだ。……勇者は、『姫と力を合わせて戦った』……違うか?」

「……リンク」

「……だろ?だったら、頼まなきゃいけないのは、俺も同じだ。……ゼルダ姫」

スッと彼女に手を差し伸べつつ、リンクは笑みを消し、真剣な表情で口を開く。

「俺に……力を貸してくれ」

「……はい」

差し伸べられた手を強く握り返し、ゼルダ姫は力強く頷いた。

――――その刹那、二人の手に甲に宿る『神より授かりし紋章』が、一際大きく輝き出した…… 

 

 

 

 

 

 

再びハイラル平原へと戻ったリンクは、懐から馬笛を取り出し、口に当てて美しいメロディを奏で出す。

♪♪〜〜〜〜♪♪♪〜〜〜

♪♪〜〜〜〜♪♪♪〜〜〜

すると、その音色に引き寄せられた様に、一頭の見事な馬が、平原の彼方から姿を現した。

彼の大切なパートナー――エポナである。

「悪いな、エポナ。最後の戦い……付き合ってもらうぜ」

「ヒヒーーーーンッ!!」

勇ましく嘶いたエポナを見て、満足げに頷きながら、リンクは突如としてゼルダ姫を抱き上げる。

「きゃっ!? リ、リンク!?」

「ちょっと失礼するぜ!……よっと!!」

そのまま軽やかにエポナに飛び乗った彼は、彼女を後方に跨らせる。

「二人乗りは少しばかり無理があるが……エポナ、我慢してくれよ」

そんな風に、愛馬に向かって話しかけているリンクに、ゼルダ姫は声を掛けた。

「リンク、よく聞いて下さい」

「……ああ」

「ガノンドロフ……いや、ガノンはその身に強大な魔力を宿しています。いかに貴方の持つマスターソードを用いたとて、

 容易に傷を負わす事は出来ないでしょう」

そこまで言うと、彼女はゆっくりと携えていた弓を構え、光の矢を手に持つ。

「ですから、私の放つ光の矢で、ガノンの魔力を封じ込めます。貴方はガノンを捕らえて、矢が届く距離を保って下さい」

「成程。……分かったぜ、ゼルダ姫」

リンクがそう返事をした瞬間、遠くから馬の駆ける音が聞こえ、二人は揃って、その声の方向に視線を移した。

すると、ガノンドロフが大勢のファントムライダーと共に、こちらに向かって来るのが目に入る。……どうやら、自分達の姿を捉えた様だ。

「ちっ、気づかれちまったみたいだな。……ゼルダ姫! 飛ばしていくからな、振り落とされないでくれよ!!」

「……はい!!」

 

 

 

 

――――今度こそ、ガノンドロフを倒す!!

固い決意を胸に、リンクは颯爽とエポナを駆り、大魔王へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


あとがき

 

三話目です。思ったんですが、トワプリは時オカに比べて、ぼかした描写が多いんですよね。

なので、かなり補足しないと、小説にしにくいと最近感じました。なので、前回に引き続き、オリジナル全開です()

さて、次回は怒涛のラストバトルになります。一気に決着まで行きますので、ご期待ください。では。

 

  

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