〜『生命』への叫喚〜
(何でだ!?……一体、何がどうなって……)
ユリスとカレナの戦いは、終止符の見えぬ泥沼の勝負へとなりつつあった。
カレナ――相手が名乗ったその名前を聞いてから、ユリスは混乱している。
彼が過去にその名前を聞いたのは、『あの時』のみ。一年前、未来でレザルナとの決着をつけた、あの時だけだ。
――……それとも、聞かなかったか!?レザルナから!俺の名を!?
先刻のカレナの言葉が、何度も頭の中で再生され、ユリスの脳を激しく殴りつけた。
(レザルナさんの子供……なのか!?……でも……でも、どうして生きて……!?)
そう。あの時のレザルナの言葉が真実であるならば、カレナという人物は既に亡くなっている筈である。
いや、歴史の点から考えるならば、彼が生きている時代からやって来た、という可能性も有るには有った。
――――しかし、仮にそうだったとしても、何故こうまで自分に敵意を向けるのか?そうまで自分を憎む理由とは?
「この世の理から背いた、身勝手な愛!!……それ故に、誕生した堕とし子!!」〕
逡巡するユリスに、カレナは全ての憎悪をぶつけるかの様に叫び続ける。
「背負うのは忌まわしき業!神に逆らいし命!!……それがお前だ、ユリス!!」
「……っ!!」
激昂と共に吐き捨てられたその言葉に、ユリスは心臓に刃を突きつけられた様な心地を覚えた。
堕とし子――確かに、自分はそう呼ばれる『存在』なのかもしれない。
二つの時代の血が宿りし身体。本来なら、この世に『生』を受ける筈の無かった『存在』。愛という名の欲望の下に、誕生した『命』。
否定できないそれらの事実が、容赦なく彼を打ち据えた。
「だからこそ!!お前はこの世界から、消えなくてはならない!!……俺の様にな!!」
カレナの強烈な殺意と決意が襲い掛かり、ユリスは思わずたじろぐ。しかし、同時に彼はカレナの発した最後の言葉に、引っ掛かりを感じた。
(……俺の様に?)
――……一体、どういう意味だ?
激しい葛藤に駆られるユリスに、カレナは更に言葉を続ける。
「それが、この世界の……神の望んだ事!!……それを果たす事が、俺の運命なのだ!!」
「っ!?……カレナ!!何を言って……!!」
「そうでなければ、俺はこの世界に『存在』出来る筈が無い!!……既に『死者』である、この俺が!!!」
「なっ……!?」
衝撃を受け、ユリスは僅かに攻撃の手を緩める。その隙を見逃さずに、カレナは続け様に電撃の魔法を放った。
反応が遅れ、応戦する時間を失ったユリスは咄嗟に身を捻るが、一条の稲妻が彼の左手を貫く。
次いで奔った激痛に、ユリスは思わず『シグマガジェット』を手放してしまった。
「痛っ!?……しまっ……!!」
彼は急いで『シグマガジェット』を拾おうとするが、そんな猶予も与えずに、カレナは次々と魔法を繰り出す。
そして、またしても高らかに声を響かせた。
「驚いた、という顔だな!?良いだろう、教えてやる!!……今ここにいる『俺』が、いかなる『存在』かを!!」
言いながらカレナは両手を静かに払い、魔法の刃を放つ。
しかし、それらは回避不可能な程に凄まじいという訳でもなければ、易々と避けられる程に生易しいという訳でもない。
格好の得物を見つけた獣が、ジワジワと相手を追い詰めるかの様な……それに酷似した攻撃だった。
「くっ!!」
最早『シグマガジェット』を拾える状況ではないと判断したユリスは、無数の魔法の刃を掻い潜り『スーパーノヴァ』を連射する。
だが、激しく動揺している彼の心情を物語る様に、普段なら正確無比に敵を撃ちぬくその光は、虚しく宙を切った。
それが合図であった様に、カレナは冷酷な笑みを浮かべながら口を開く。
「何故、俺の父親は突如として姿を消したのか!?何故、俺の母親はその事について、何も教えてくれなかったのか!?
そんな疑問、そして憎悪を抱いたまま常世へと旅立った俺の魂は、浄化される事なく存在し続けた!!」
叫び続ける彼の脳裏に、在りし日の記憶が蘇る。
無邪気に笑い、自分が背負う業を知ることも無く過した、余りにも短い幸福の時間。
次第に感じ始めた不幸。姿さえ知らぬ父親と、それに対して黙り続けた母親……そのどちらに対しても、激しく憎んだ自分。
そして冒された不治の病。霞む視界の中、抱いた虚無と諦念。そのまま消え行く筈だった自分。だが、不意に目の前に広がった光景。
自分と同じくらいの少年が、自分の母親と何処かで対峙し、会話する場面が瞳に焼き付けられた。
続いて、その少年の生い立ち、生き様が映画の様に次々と映し出されていく。
それを眼にした瞬間、カレナの中である決意が芽生えたのだ。
――奴は、俺と同じ……生きていてはいけない……消さなければ……この手で……!!
そう思った刹那、視界がクリアになり、気がつくと自分は再び肉体を――それも幾分か成長した肉体を手にいれ、現世に立っていたのだ。
「そして!そのまま凍り付いていた俺の時間は、ある時再び動き出した!神から与えられた、ある使命を背負って!!」
神が与えてくれた力。彼は今でも、そうだと信じている。
この世にあるまじき『存在』だった自分。二つの時代の血が流れていた自分。そんな自分を神は裁いたのだ。
だが、もう一人。自分と同じく神によって裁かれる少年は、未だその業を知らずに、幸福の時間を過ごしている。
その少年を裁く為に、神は自分にかりそめの『生』を与え、蘇らせたのだ。
――――……きっと、そうに違いない。他にどんな理由がある?
「俺と同じ生!俺と同じ業!……俺と同じ様に裁かれる運命にあるお前を裁く為に!!」
そう叫んだ瞬間、ユリスは心臓が凍りついた様な表情を浮かべ、こちらを見やる。
「そ、そんな!?……ボクが……裁かれる運命……!?」
これまで以上に動揺しているのが、震えるその声からハッキリと分かる。そんなユリスに追い打ちをかける様に、カレナは更に声を張り上げた。
「認めたくないか!?だろうな!お前はかつて世界を救った英雄……アトラミリアに選ばれた勇者なのだから!!……だが!」
言葉と同時に、カレナはユリス目掛けて魔法の刃を飛ばす。今の彼でも、ギリギリで避けられる程度に力を加減して。
焦りと共にそれを回避した彼に向かって、カレナは再び口を開いた。
「それは所詮、お前がこれまで生きてきた中で、自身に塗りたくってきた金箔でしかない!!いかに金箔で外を綺麗に見繕うとも、
忌まわしき本質は決して消えも誤魔化せもしない!!」
「……っ!?」
「お前の本性は……在ってはならない『存在』!生きてはいけない『命』!流れに逆らった邪悪な時間の源だ!!
……だから消し去る!!それが同じ業を背負った、俺の宿命だ!!」
――――そう……それが事実であり真実。決して揺るがない、唯一正しい事。
完全たる決意を胸に、カレナは全てを終わらせるべく、最後の攻撃を仕掛けた。
(そうか……カレナは……)
相手の話を聞く中で、ユリスは全てを理解した。
彼が――カレナが自分を憎む理由、そして先程、彼が発した言葉の真意に。
カレナの瞳の奥にある思い。少しも表には出してはいないが、ユリスにはそれが漠然とだが感じられた。
(一緒だ、ボクと。母さんがいなくなって、父さんを憎んで……そして母さんも憎みかけていた、あの頃のボクと)
そう、自分と彼は同じ。同じ運命の下、同じ業を背負い、同じ思いを抱いた存在同士なのだ。
愛するべき親でありながら、神に逆らい、身勝手に自分をこの世に誕生させた両親に対して抱く、愛憎入り混じった思いを。
〔死ねええええええっっ!!〕
叫びながら、カレナはあらん限りの魔法を放つ。
がむしゃらであるかの様に見えたそれらの魔法は、意思を持っているかの如く、複雑な連携でユリスを追い詰める。
葛藤に駆られ、その上左腕の激痛に苛まれていたユリスは、何とかそれらを回避するので精一杯だ。
「……っ……!」
そんな最中、不意にユリスは妙な感覚に襲われた。
(もしかしたらボクも……カレナみたいになっていたのかも知れない……のか……?)
自らに投げかけたその疑問が、瞬く間に心の中に染み渡り、ジワジワと黒い波が押し寄せてくる。
――――……自分もまた、過去にカレナの様な思いに囚われた事があった。
過ちを犯して自分に『命』を与えておきながら、都合が悪くなれば早々と姿を消し、子との絆を絶つ身勝手な親。
四年前に未来で母親であるエイナと再会した時、確かに彼はそんな事を思った。
その後に母親の本当の思いを知り、それが単なる思い込みだと分かったが、今にして思えば、それは運が良かっただけなのかもしれない。
――――もしあの時、自分が母親の言葉から耳を塞ぎ、ただただ身勝手な親だと思い込んでいたら……?
――――もしあの時、自分が忌まわしき存在だと認め、そんな自分を深く酷く憎んだとしていたら……?
その結果カレナの様に、自分という存在その物を否定しようとした可能性は、決して低くは無い。
否、今こうして自身と同じ『存在』と対面したが故に、ユリスは自分という存在に、激しい疑念を抱いていた。
(ボクは……ボクという『存在』は……一体、何なんだ?)
かつて、母親であるエイナは言った。誰も、二つの時代に『存在』する事は許されないと。
ならば、その身に二つの時代の血が流れている自分は……やはり、許されない『存在』なのだろうか?
そしてカレナの言う通り……裁かれる運命にある『命』なのだろうか?
(だとすれば……やっぱりボクは……生きてはいけない『存在』なのか?)
思念の渦に沈んでいく彼の耳に、容赦ないカレナの叫び声が谺する。
「ユリス!!俺は何があろうともお前は倒す!!……それだけが、俺は今ここにいる存在意義だ!!」
更に激しく魔法を放ちながら、カレナは高らかに吼えた。
「誰一人とて、生まれる前から背負いし業より逃れる術は無い!!誰一人とて、その真実から眼を背ける事は許されない!!」
――……生まれる前から背負いし業?
半ば無意識で回避行動をとりながら、ユリスは胸の奥で、その言葉を反芻する。
「そして!業はいかなる手段を用いても消す事は出来ない!!………死をもってでしかな!!」
――……死をもって?
「故に、お前はここで死ななければならない!!……この世界の為に!!」
――……世界の為?
「その務めを果たせば、俺もこの世界から消える!そして世界から完全に消滅するのだ!!忌まわしき『存在』は!!」
――……忌まわしき存在?
辛うじてそれを避けたユリスは、不意に凄まじい反発感が込みあがってくるのを感じた。
(……そうなのか?……本当に……本当にそうなのか?ボクは……いやボク達は……?)、
確かに自分や彼は、この世の理から背いた『生』なのかもしれない。堕とし子という名の、過ちの『命』なのかもしれない。
そして過ちが過ちを呼ぶかの様に、自分は更に時間の流れに逆らい、モニカを自分の傍へと置いた。
どれだけ言葉を並べようが、自分にどんな栄誉があろうとも、それらは決して消える事の無い業なのかもしれない。
そして、このまま自分が存在し続ければ、この世界の理…時間の流れは狂い続けたままになるのかもしれない。
そう思うと、心に広がっていく罪悪感は否定できない。――しかし……。
(だけど……だけど、それだったら!)
次の瞬間、ユリスは自分に……いや、神に……否、この世界にある全ての『存在』に疑問を投げかけた。
――――ならば……ならば、生まれるべき『存在』……生きるべき『存在』とは一体何だ?
自分も彼も皆と同じ。父親が見守る中、母親がその身を痛めて産み落とした『命』だ。
他の誰と何処がどう違う?例えその背景にどんな事情があろうとも、決定的な違い等ありはしない筈だ。
それとも……そうして生まれた『命』という『生』自体が過ち――忌まわしき『存在』なのか?
――……いや、違う!!
「……違う、カレナ!そんな事はない!!」
ある結論に至ったユリスは、声を限りにカレナへと叫び返した。
「生まれる前から背負わなければいけない業なんて、ありはしない!!生きてはいけない『生』なんて、ありはしない!!
そして……付加価値のある『命』なんて、絶対にありはしない!!!」
『命』と名のつく物は、この世に『生』を受けた瞬間から、一つの『存在』となる。
その『命』は、ただ『命』としてだけ『存在』する事になるのだ。
忌まわしき命。その様な『命』など、この世には『存在』しない。そして同時に……過ちの『生』も。
――――『命』は『命』……『生』は『生』……。
それらは、他にどんな言葉がつく事も無く、ただそれだけで『存在』し、ただそれだけで意味を成す。
――――『命』に意義は無い。『生』に必然は無い。
それらは無常であり、その無常こそが必定。理念や摂理では図れない『存在』……それが『生』であり、『命』なのだ。
その『生』や『命』には、どんな属性もつく事は無い。
善悪、大小、軽重、優劣――それらを『生』や『命』に付ける権利は、誰にも存在しない筈だ。
――――……そう。例え、神であろうとも。
「過ちの『存在』なんかじゃないんだ!!ボクも……そしてカレナ!お前……いや、君も!!!」
確信に満ちて言い放ったユリスの言葉に、カレナはハッと息を呑む仕種を見せる。
(そう、忌まわしき『存在』でも、ましてや堕とし子なんかでもない!……ボク達は!!)
これまでの自分が生きてきた『生』の中で、業を背負った事が無いと言うつもりはない。
そして、彼――カレナが、どんな『生』を生きてきたかは、自分には分からない。
だが、それとは関係なく、自分も彼も唯一つの『生』であり『命』なのだ。それを否定する理由も、逆に否定される理由も無い。
――――……それは間違いなく真実。決して揺るがない、確かな事。
「だから、カレナ!!もうやめるんだ!!君がこんな事をする理由なんか無い!!」
「っ!?……何を……何をふざけた事を!!」
これまで見せた事のない、感情が露呈された表情を浮かべ、カレナは更に魔法を連発しながら叫んだ。
「どんな御託を並べようが、俺やお前はこの世界の理から外れた『存在』!!消えなければならない運命にあるのだ!!」
「そんな事は無い!!例え、どんな形で生まれた『命』でも、その『存在』を否定されやしないんだ!!」
葛藤から解放されたユリスは、回避不可能に思われるカレナの攻撃を鮮やかに避けながら言い返す。
「な、何を理由に……何を根拠にそんな事を……!!」
「理由も根拠も無いんだよ!!『生』も『命』も……ただ『存在』する事に意味があるんだ!!」
「くっ……黙れ!黙れええええっ……!!」
カレナは絶叫と共に、今までの計算され尽くした攻撃とは全く正反対の、ただただ無我夢中な攻撃を続ける。
そんな彼とは対照的に、確固たる信念を胸に抱いたユリスは、回避を行いながら懸命に相手に語りかけた。
「カレナ!!もう自分を偽り続けて……自分に嘘を言い続けるのはやめるんだ!!」
「!?……な、何を言っている!?俺は自分を偽っても、嘘を言ってもいない!!……俺はただ、憎いだけだ!!
身勝手に俺を産み落とした親!!……そして、俺と同じ様に、死すべき『存在』であるお前が!!」
「違う!!」
わめき続けるカレナに、ユリスは一層声を張り上げて叫んだ。
「君は、本当は両親を憎んでなんかいなかった!!ただ……ただ、悲しかっただけだろう!?自分に何も言ってくれなかった……
事実を何も話してくれなかった両親が!!その悲しみを……憎しみと偽っちゃいけないんだ!!」
昔の自分に語りかける様に、彼は強い口調で言い放った。その言葉には、相手への気遣いが込められている。
――――かつて、自分が経験した事。気づいた過ち。
だからこそ、相手に分かってもらいたい。……ただその一心で、ユリスは叫び続けた。
「君が憎む『存在』なんか、どこにもありはしない!!ありはしないんだ!!!!」
「う、うるさい!!俺の……俺の気持ちを、勝手に解釈するな!!俺は……俺は……!!」
するとカレナは、両手を天へと翳し、禍々しい気を発する黒球を出現させる。
〔俺は……俺は、悲しくなどない!!ただ……ただ!憎いんだ!!お前が!!そして……愚かな俺の親がああああっっ!!」
波動に満ちた黒球を手元に寄せながら叫ぶカレナを見て、ユリスは焦りを覚えつつ、再び口を開いた。
「違う!!君は誰も憎んでなんかない!!だから……!!!」
「……違う!!お前には分からないのか!?欲望のままに堕とし子を成した親!!そして……その堕とし子が、どれほど憎むべき存在かを!!」
黒球を纏う波動の凄まじさが最高潮に達し、次の瞬間、カレナはそれを絶叫と共にユリスへと放つ。
〔だから!……だから!!……俺はああああっっ……!!〕
「っ!!……やめるんだ、カレナ!!」
必死に説得するユリスの言葉も虚しく、完全に激高したカレナは、怒りのままに黒球を投げつけた。
(……くっ……!!!)
眼にも留まらぬ速さで迫りくる黒球に、ユリスは歯を食い縛りながら、素早く『スーパーノヴァ』を構える。
そして一瞬でリミッターを外し、眼前に迫っていた黒球を中心に狙いを定め、トリガーを引きつつ言い放った。
「思い出せ、カレナ!!君に確かにあった幸福の時間を!!そこに確かにあった父さんの姿を!!そして……母さんの優しさ!温もりを!!」
「……っ!?」
『スーパーノヴァ』から放たれた一条の光が、瞬く間に黒球を貫き消滅させ、尚も虚空を切り裂いてカレナへと襲い掛かる。
ユリスの言葉に動揺していた彼は反応が遅れ、魔法で防御する事も叶わず、その身に光が突き刺さった。
――――『シャイニング・レーザー』
一年前、レザルナとの戦いに決着をつけた、ユリスの切り札。
皮肉にも、彼女の息子であるこの相手との戦いでも、この技が終止符を打つ物になった。
「がっ……は…………」
身体の中心に無残な穴を作り、カレナはその場へと倒れこむ。
「……」
それを見て、ユリスは如何ともし難いやりきれなさを感じる。
苦々しい気持ちを抱え、彼が近くに落ちていた『シグマガジェット』を拾い上げ時だった。
「!?……なんだ!?空間が……!?」
不意に目の前の……いや、自分達を包み込んでいた空間が、轟音を立てながら蠢き始める。
それは次第に激しくなっていき、ユリスは極度の緊張に襲われ、その場で身構えた。
刹那、ガラスが割れる様な音が耳を突き抜けたかと思うと、飲み込まれそうな程の眩しい光が眼を襲う。
「うわっ!?これは……!?」
やがて、光が弱まっていくのを感じた彼は、ゆっくりと瞳を開く。そして、その眼に映った景色を見て、思わず息を呑んだ。
「……っ!!」
――――ガンドール火山の火口。
あの妙な空間に入る前に自分がいた場所に、深い傷を負った『青き血の民』らしき少女と、彼女を懸命に手当てしている最愛の人の姿があった。