第一章〜謎の時空のひずみ〜
「ふぁ……」
目が覚めるともう朝だった。頭と胸がキリキリと痛む。……原因は言わずもがな、だ。
それを堪えながら、寝ぼけ眼でベッドから降り、服を着替える。そして机に視線を移すと、一枚の写真が目に入った。
「っ!」
――――それは、ボクとモニカが二人だけで写っている写真だった。
……。
…………。
「ねえユリス?」
「なあに、モニカ?」
街中で何か発明のネタはないかと写真を撮っていたボクに、モニカは話しかけてきた。
「今思ったんだけどさ、私達の記念になる様な写真って今まで撮ってなかったよね?」
「え?……ああ、そういえば…」
言われてみれば、せっかくカメラがあるのに、発明ネタばっかり撮っていてそんな写真は一枚もない事に気づく。
そんなボクを見たモニカは、笑顔でパンッと手を打ちつつ言った。
「でしょ?だからさ、今撮ろうよ!記念写真!」
「記念写真……か」
はしゃいだ様子の彼女を見つつ、ボクは腕組みをして考え込む。
見も蓋もない意見を言ってしまえば、そんな物は別に必要ないんだけど……だからといって有って邪魔になる物でもない。
(まっ、確かに一枚ぐらい、あったっていいよな……)
そう結論付けたボクは腕組みを解き、モニカに尋ねた。
「うん、いいよ。で、どんな写真を撮るの?」
「そんなの決まってるじゃない!私と君が一緒に写ってる写真!」
「え?……ボクとモニカが一緒に?」
「そうよ!……何?嫌なの?」
「い、いやそういう訳じゃ……」
少しばかり不機嫌な声を出したモニカにたじろぎながら、ボクは手を振る。
別に嫌なわけじゃない。だけどその、女の子と二人だけの写真っていうのは……やっぱり恥ずかしい。
(誰かに見られたら、絶対にからかいのネタにされるもんなあ……)
そんなボクの心情を知る由もなく、モニカは写真と撮ってくれる人を探し始めた。
「じゃ、決まりね。さ〜てと、誰か撮影役を頼めそうな人は……」
「それなら、俺が撮ってやるよ!」
「っ!?」
いきなり聞こえたその声の方に振り向くと、親友でもあり悪友でもあるドニーが、ニヤニヤしながら立っていた。
その余りにも良すぎるタイミングと表情から、ボクにはある事実が嫌でも理解できる。
(最初から全部聞いてたな、絶対に……)
恐らくボクをからかう格好のネタが手に入るのかもしれないと、その時を待っていたのだろう。
内心で大きく溜息をつくボクの横で、モニカは何一つ知らない幸せな表情でドニーにカメラを渡した。
「あ、じゃあドニーよろしくね。綺麗に撮ってよ?」
「任せとけって!さあさあ、お二人さん!早く並びな!」
「うん!ほらユリス、こっち!」
モニカに言われて仕方なく彼女の横に立つ。すると当然、モニカとの距離が近くなり色々な物が感じ取れた。
(うわ……白い……)
今まで意識して見てなかったが、彼女の肌は透き通る様に白い。
そして、その肌から微かな香りを感じたボクは、反射的に恥ずかしさを覚えて少し離れようとする。
すると不意にこちらに視線を向けたモニカは、いきなりボクの腕を両手で掴み、強く自分の方へ引き寄せた。
「え!?ちょっ、モニカ!?」
急な事に反応できず、ボクはモニカと密着してしまう。慌てて離れようとしたボクだったが、その時ある音が聞こえた。
――……そう。カメラのシャッターが切れる音が。
「OK!いい写真撮れたぜ〜!」
「…………」
ボクはしばし呆然とし、声が出なかった。
(……今の……撮ったんだよな?ドニー……)
急激に顔が赤くなっていくのを感じ、とっさに手で隠す。
「お〜いユリス?どうした?」
「……ドニー」
相変わらずニヤニヤ笑っているドニーを、ボクは思いっきり睨み付ける。
しかし、そんな事で臆する奴ではない。むしろ余計に面白がって宥める様に両手をボクに突き出した。
「おいおい、なにそんな怖い顔してんだよ?せっかく最高の記念写真撮ってやったんだぜ?」
「な、なにが最高だ!こ、こんな……」
「……どうしたの?なに怒ってるのユリス?」
モニカがキョトンとしてボクに尋ねる。
普段と何ら変わらない仕草からみるに、あれは無意識にした事らしい。
そうなると、一人勝手に恥ずかしがっているボクが唯の道化でしかない。
余りにもやるせないそんな現実に、ボクは大きな溜息を共に呟いた。
「……なんでもない」
――――結局その写真は、後日ドニーから散々からかわれつつ、手渡される事になった。
……。
…………。
あの時は持っているのも恥ずかしいと思ったけど、今となってはボクと彼女が一緒の時代にいたという唯一の証拠。
だからずっと飾ってある。モニカを忘れるためには捨てたほうが良いというのは分かっていたけれど、どうしてもできなかった。
――どんなに苦しくても、空しくても……。
「ユリス!ユリス!……起きているか!?」
ドンドンとドアを叩きながら聞こえてくるその声に、ボクはハッと現実に戻る。
(ニード町長か。やれやれ、朝からとはまた……)
町長がボクの家に来るなんて、用件は決まっている。準備運動とでも言う様に両肩を軽く動かしながら、ボクはドアを開けた。
「おおユリス、起きていたか!朝早くすまんが、実は……」
「……モンスターでしょ?場所を教えて。すぐに行くから」
「あ、ああここだ。それじゃ頼んだぞ」
そう言って町長は地図を渡すと、用は済んだとばかりに帰っていく。……相変わらず手短というか、適当というか。
小さく苦笑しつつ、ボクは受け取った地図に目を通した。
(かなり深いポイントだ……これは少し、厄介かもしれないな)
面倒な事を引き受けてしまった後悔の念が微かに押し寄せるが、ボクはすぐにそれを振り払う。
「まあ、いいか……身体を動かす方が」
どうせ家にいても考え事をするだけだし、モンスター退治でもしていた方が気も晴れるだろう。
ボクは愛用の銃、『スーパーノヴァ』と『シグマガジェット』を持ってゼルマイト鉱山銅に向かった。
鉱山に入り、一時間ぐらい経った頃。ボクはふと足を止めて、地図を広げる。
「この辺の筈なんだけど……あれ?おかしいな?」
地図を確認しながら、ボクは軽く頭を掻きつつ首を傾げた。目的の場所に来ているはずなのだが、モンスターの気配がまるで感じない。
(この地図が間違ってるのか、本当にモンスターがいないのか……何にせよ、確認のしようが無い以上は帰るしかないな)
そう思い地図をしまった瞬間、ふと空気を裂く様な不自然な音がした。ハッとして両手に銃を持ち、ボクは辺りに忙しなく視線を飛ばす。
(気のせいか?……いや、違う。この感じは……)
先程は感じなかった、肌がチリチリと焦げ付く様なこの感覚。間違いなく、モンスターの気配だ。
そう判断した刹那、周りの暗闇からモンスターの姿が現れ、ボクは驚きの声を上げた。
「何っ!?」
――――亀型モンスター・ボルタと、蝙蝠型モンスター・エビルバット。
さして強敵ではないし見慣れた相手であるけれど、普段と明らかに異なっている点がある。……数だ。
ざっと見ただけで20、いや30匹はいる。これまでの経験からして、多くても4、5匹が上限だった。
しかし今はその数倍、こんな大群は見た事がない。おまけに、まだ集まってきている様な気配すら感じられた。
(これは、どういう事だ?……ともかく、一気に片付けた方が良いか)
そう判断したボクは、即座に右手の『シグマガジェット』の銃口をボルタ達に向け、躊躇いなくトリガーを引く。
一拍置いて凄まじい音と反動がボクを襲い、同時に弾丸がボルタ達へと襲い掛かった。
次いで着弾した弾丸によって齎された爆発が奴らを包み、周囲に残骸を飛び散らせる。
それを見て一気に殲滅出来たのかと淡い期待を抱いたボクだったが、すぐにそれは打ち消された。
「キシャーーー!!」
「……くっ!」
爆煙の中から群れを成して襲い掛かってきたエビルバット達を、ボクは軽く舌打ちしながら回避する。
鈍重なボルタとは違い敏捷性に長けた奴らには、やはり威力こそあれ弾速に欠ける『シグマガジェット』では仕留めにくい様だ。
そう判断したボクはすぐさま『スーパーノヴァ』を構え、宙を飛び交うエビルバット達に連射する。
高速のレーザーが一瞬また一瞬と鉱山内を照らし、その光が消えると同時に一匹ずつエビルバット達は消滅していった。
(よし!こうの調子で!)
それぞれに有効な手段を見つけたボクは、四方八方から現れるモンスター達に次々と銃口を向けトリガーを引いていく。
爆発と光線が幾度も発生し、その度にボルタとエビルバットは確実に倒れていった。
しかし、かなりのペースで倒しているにも関わらず、奴らはまるで湧いて出るかの如く絶え間なく姿を現す。
徐々に蓄積していく全身の疲労感から、このままでは埒があかない事を悟ったボクは、一旦攻撃の手を休めて狭い坑道に逃げ込んだ。
「キシャーー!!」
「グァァァァ!!」
当然、モンスターは逃げるボクを追ってくる。……予想していた通り、狭い坑道に密集して。
そして大半の奴らが固まったのを見計らうと、ボクは逃げ足を止めてクルリと振り返った。
(これなら多分……一撃で終わらせれる筈だ)
心の中で呟きつつ、『シグマガジェット』の出力リミッターとなっているピンを抜いた。
それから両手でグリップを握り、静かに腰を落として襲ってくるであろう反動に備える。
これまで試し撃ちした事はあるものの、実戦で使うのは初めての事。だから正直、気は進まない。
だが、活路を開くのはこれしかないと思ったボクは、微かに冷や汗を浮かべつつトリガーを引いた。
瞬間、先刻の物とは桁違いの衝撃がボクの身体を後方に押し寄せる。それと同時に、凄まじい爆発音が周囲に響き渡った。
「くうっ!!」
巻き起こった爆煙から庇う為に腕を眼に当て、ボクは衝撃が収まる時を待つ。
やがて、土埃や小石が身体に当たらなくなるのを感じて徐に眼をあけると、モンスター達の残骸が微かに転がっている光景が飛び込んできた。
(他に敵の気配は…………うん、無いな)
確実に戦闘が終わった事に、ボクはホッと息をついて『シグマガジェット』にピンを突き刺す。
「掃討完了っと……だけど、やっぱり少し強すぎるな、これ」
『シグマガジェット』を眺めながら、ボクは自身が施した改造の過激さに少々後悔を覚える。
―――かつての冒険以来、新たな趣味となっていた武器改造。それを行っている最中に、偶然発見してしまった出力の爆発的上昇方法。
その結果に生み出されたのが、先程の大爆発を起こす弾丸―――『フレア・グレネード』だ。
爽快感を覚えないと言えば、嘘になる。しかし、余り無闇に……特にこういう坑道での使用は避けるべきだろう。
現に今も崩壊とは言えずとも、鉱山内にダメージを与えてしまったらしい。所々から、砂利や小石が落ちてきていた。
(あくまでも奥の手って事にしといた方がいいな……それにしても、何なんだ?あのモンスターの大群は?)
今後の使用に関して深く戒めた後、ボクの頭に疑問が浮かぶ。
(あいつら、あんなに集団で襲ってくる奴じゃ無かった筈……いや、それ以前にあれ程モンスターが集まる事自体が妙な気がする。
悪い予感がするな…………)
悪い予感――それが何なのかは、ボクにも分からない。だけど、予感自体は間違いない気がしてならなかった。
「……このポイントは発掘しないようにって、町長に伝えておこう」
結論を出したボクは『シグマガジェット』と『スーパーノヴァ』を腰のホルスターにしまう。
そして、町長に事を知らせようと来た道を戻り始めた……その時だった。
(っ!?……何だ?これ……は……?)
突然視界がグニャリと曲がる感覚に、ボクは思わず額に手をあてて回復の時を待つ。
しかし、その感覚は一向に元に戻る事はなく、むしろ時間が経つと共にドンドン酷くなっていった。
(うっ……一体……?まるで世界が歪む様な……っ……まさか!?)
気力を振り絞って眼を見開き正面見る戸と、やはりそこにはかつて見た事のある『時空のひずみ』があった。
しかし、それは記憶にある物よりも数倍大きく、まるで異界への入り口とも取れる形状をしている。
突然現れた『時空のひずみ』に戸惑うボクだったが、不意に更なる異常に気づいて呆然と呟いた。
「あれ?……何だかさっきよりも大きく……なってる……?……っ!?」
――……違う!『時空のひずみ』が大きくなっているんじゃない!ボクが徐々に近づいているんだ!!
そう。いつの間にか、ボクは『時空のひずみ』に吸い寄せられていたのだ。
このままで飲み込まれてしまうと思ったボクは、慌てて『時空のひずみ』から離れようと身体を動かす。
しかし、既に全身が強く引っ張られる様な感覚に陥っている上に、眼の感覚の方も治っていない。
そんな状態ではとても力が出せる筈がなく、ボクは『時空のひずみ』の間近にまで近づいてしまっていた。
(く……そ……!これに飲み込まれたら……どうなるんだよ!?)
全く見当もつかない事に、自然と恐怖が湧き上がってくる。
ボクはそれを原動力に、どうにか『時空のひずみ』から逃れようとしたが、既に限界を感じていた。
フッと全身の力が抜け、バタリとその場に倒れたボクは、眼前に迫った『時空のひずみ』に絶叫する。
「う……うわああぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
――――そう叫んだ瞬間……ボクの意識は途切れた。
――……どれくらい経っただろうか?
「……ちゃん!……お兄ちゃん!!」
(……え?……)
誰からから呼ばれる声を聞き、ボクは意識を覚醒させる。頭がズキズキと痛み、体は鉛の様に重い。
(う……ここは?)
ふと周囲に視線を移すと、どうやら何処かの民家の様だ。窓の外に、見た事のない街が広がっている。
(……どうしてボクは、こんな所にいるんだ?……確か、ゼルマイト鉱山洞で『時空のひずみ』に飲み込まれて……)
「もう!お兄ちゃんってば!!!」
「うわあっ!!」
驚いて横を見ると、一人の男の子が頬を膨らましてボクを睨んでいた。
――――金色に輝く髪に赤い目。年は7、8歳くらいだろうか?
「えっと……君は?」
おずおずとボクが尋ねると、男の子は呆れた表情を作りながら言う。
「ユイヤだよ!それより気づいたんなら早くどいてよね!それ僕のベッドなんだから!!」
「えっ?あ、うんゴメン……」
どうやら彼――ユイヤのベッドで眠っていたらしい。慌ててベッドから降りて近くにあった椅子に腰掛けると、ボクはユイヤに尋ねた。
「えっとユイヤ、ここは一体どこなの?」
「僕の家に決まってるじゃない。お兄ちゃん何言ってるの?」
ベッドに腰掛けながらユイヤは不思議そうに首を傾げる。その様子を見て、ボクはガリガリと頭を掻いた。
こういう小さな子とはあまり話さないから、どう質問したら良いのかがイマイチ掴めない。
暫く適切な言葉は何かと考えた後、ボクは改めてユイヤに尋ねた。
「そうじゃなくて、なんでボクはここにいるかって事を聞いてるんだよ」
「……お兄ちゃん、覚えてないの?」
心配そうにユイヤはボクを見る。それに対してボクが頷くと、彼は溜息を一つついた後、状況を説明してくれた。
話によると、ボクはユイヤの家の前で倒れていたらしい。それを彼が見つけてここまで運んでくれ、介抱してくれたらしい。
そして、ボクはずっと、四日間眠り続けていたとの事だ。
「……で、お兄ちゃん、なんで家の前で倒れてたの?」
「え、えっと……」
――……どう説明したら、良いのだろうか?
『時空のひずみ』に飲み込まれたのが原因だというのは分かるが、それをありのまま伝えても理解してもらえないだろう。
だからボクは、「ちょっと道に迷ってね」と、適当にはぐらしかした。
するとユイヤはそれで納得してくれたらしく、「そっか」と頷き、また尋ねてきた。
「っていう事は、お兄ちゃん、遠くの人?」
「うん、そうだよ」
実際ここがどこなのか、まだよく分かってなかったが、パームブリンクスでない事は確かだ。
『遠くの人』でも間違いではないだろう。――……しかし、此処は一体どこなんだ?
「……ねえユイヤ、この街は何て言うんだい?」
「この街の名前?レイブラント城下町だけど?」
「えっ……?」
――……レイブラント城下町だって!?
そんな名前の街なんて聞いたことがなかった。第一ボクの住んでいる世界に城下町なんて物はない。
だけど、『レイブラント』という名前には聞き覚えがあった。――そう、確か……。
(ボクの記憶が確かなら、モニカが住んでいた城の名前……という事は……ここは未来?)
『まさか』と思う。しかし、そう思う一方で『ひょっとしたら』とも思ってしまう。
グルグルと頭の中で様々な考えが蠢いて苦しさを感じた時、じれったそうなユイヤの声が聞こえた。
「……ちゃん……お兄ちゃん!!聞いてる?」
「え?あ、ゴ、ゴメン何?」
「だから!お兄ちゃんは、遠くから何をしにこの街に来たのって!」
「そ、それは……」
ボクは困った。――……一体、なんて言えば良いのだろう?
なにか適当な言葉はないか、あれこれ悩んでいるとガチャッと音がして、ドアが開く。
そして、一人の女性がドアを開けて部屋に入ってきた。見た目の年齢から判断して、恐らくユイヤのお母さんだろう。
「あら、気がついたのね……気分はどうですか?」
「えっ、あ、はい大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」
そう言ってボクは、ペコリと頭を下げた。それを見たその人は、笑いながら手を振る。
「いいのよ、気にしないで。それより貴方、名前は?」
「あっ、そういえばまだお兄ちゃんの名前聞いてなかった。ねえ、何て言うの?」
ユイヤもボクの方に顔を向ける。――……そういえば、自己紹介がまだだったな。
「ボクはユリスっていいます」
「ユリス……いい名前ね。私はセイカ、この子は私の子供で……」
「ユイヤですよね?さっき聞きました。ボクを助けてくれた事も」
「うん!本当に大変だったんだったから!!」
いかにも苦労しました、っていう感じで言うユイヤを見て、セイカさんは「そういうこと言うものじゃないの」と嗜める。
するとユイヤは不満そうに頬を膨らませたが、心からそう思っているわけではないという事がなんとなく分かった。
(……ボクも母さんと、こんな事があったな)
ふとそんな思いに耽る。それくらい見ていて、微笑ましい光景だった。
「それでユリス兄ちゃん。本当にどうしてこの街に来たの?」
改めてユイヤが聞いてきた。――……本当に、どう答えよう?
ボクが言いよどんでいるとセイカさんが、横から口を開く。
「なにを言ってるのユイヤ。レイブラント王の追悼式のために決まっているじゃないの」
「あ、そうか!」
忘れてた、という感じて言うユイヤに、ボクは内心首を傾げながら尋ねる。
「……レイブラント王の追悼式?……えっと、それ何時あるんですか?」
「ユリス兄ちゃん、それも知らないで来たの?明日だよ追悼式」
「…………明日か」
レイブラント王――直接あったことはないけど、モニカの父親でグリフォンの部下であったギルトーニに暗殺されたって事は彼女から聞いている。
その人がモニカにとってどれほど大切だったかは、ギルトーニに対する執着心からよく分かった。
(……そのギルトーニにも暗い過去があったことを知って、モニカは暫くやり場のない思いにとらわれていたっけ)
不意に蘇った思い出を振り返っていると、ユイヤに声をかけられた。
「ユリス兄ちゃん!明日の追悼式、一緒に行こうよ!」
「え?ユイヤも出席するの、追悼式?」
ボクは驚いて聞き返すと、ユイヤはさも当然だと言わんばかりに胸を張って言葉を続ける。
「だって、モニカ様が見られるんだもん!!」
「……へ?」
「ユイヤ!そういう物ではないんですよ、追悼式は!」
途端、ユイヤはセイカさんに叱られて、シュンとした表情で俯く。
二人のそんな遣り取りを眺めながら、ボクは混乱する頭を懸命に制御しながら考えた。
(……追悼式に出席すれば……モニカに会える……?)
それは間違いないだろう。王の追悼式に出席しない王女なんているはずない。つまり、追悼式に行けば、確実にモニカに会えるという事だ。
――二度と会えないと思っていた、彼女に。でも……でも……。
(会ってどうするんだ?……やっぱり行かない方が……いや、しかし……)
「ユリス?どうかしたの?」
ハッと顔を上げるとセイカさんがボクの顔を覗き込んでいた。どうやら、考え込んでしまっていたらしい。
「い、いえ……なんでもありません」
「そう?それならユリス。出来れば明日の追悼式、この子の面倒をお願いしてもいいかしら?」
ユイヤの頭に手を乗せながら頼んできたセイカさんに、ボクは尋ね返す。
「あれ?セイカさんは出席しないんですか?」
「私……あまり身体が丈夫じゃないの。追悼式は野外だし、頼めるならお願いしたいの」
「そうなんですか……分かりました」
――――そんな訳で、ボクはユイヤと一緒に追悼式に―――モニカに会いに行く事にした。
セイカさんの頼みを断れなかったっていうのもあるけど、『約束』の為っていうのが一番の理由だった。
そう、約束。モニカと別れる時に言った『またいつか会おう』という約束。
それを守るためにも出席するべきだろう……たとえそれが、一瞬であったとしても。