第二章〜奇妙な再会〜
――――翌日。
ボクはユイヤと一緒に追悼式の式場に向かう為、朝早くから家を出た。
ユイヤの話だと、式場はかなり離れている様で歩いて一時間近く掛かるらしい。良い席を取るには、出来るだけ早く行く必要があるんだそうだ。
追悼式なんて厳かな式に『良い席』なんてのが有るのか甚だ疑問だが、まあ別に問題ないだろう。
(それより……こっちの方がよっぽど問題だよな)
心の中でそう呟き、ボクはカバンの中の『スーパーノヴァ』と『シグマガジェット』を覗く。
次いで、少し前を元気に歩くユイヤに尋ねた。
「ねえユイヤ?……やっぱりまずかったんじゃない?これ」
「大丈夫だって!誰も気づいたりなんかしないさ!」
一瞬だけ振り返り、ユイヤは気楽そうに答える。――――それはとても無責任……いや、この場合は無邪気な顔というのが正しいか。
ともかく、彼のそんな顔を見て何も言えなくなったボクは、溜息をついて昨日の事を思い返した。
……。
…………。
「うわあっ、ユリス兄ちゃん!この銃なに?」
「えっ?……ちょっ、ユイヤ!勝手に人の物触らないでよ!!」
夕食をご馳走になり、その後一息ついていると、ユイヤがボクの鞄から『スーパーノヴァ』と『シグマガジェット』を取り出して尋ねてきた。
「ゴメンゴメン!で、こんな銃何処で手に入れたの?」
「……全然悪いと思ってないだろ?」
「そんな事ないって!だから教えて、ねっ?」
「…………」
瞳をキラキラさせてお願いしてくるユイヤに、ボク溜息をつきながら素っ気無く答える。
「……何処だっていいだろ。それよりユイヤ、それ返して」
そして銃を取り上げ様と手を伸ばすが、ユイヤは素早く身を引いてそれを拒絶し、不満そうな顔をして文句を言った。
「え〜いいじゃん、ちょっとくらいさ」
「ダメだよ、それはオモチャじゃないんだから。ほら……」
「う〜〜……じゃあ、一回だけでいいから使わせてよ。そしたら返すから」
「……ダメ」
「何で?」
「危ないからだよ。ほら……あんまり駄々こねるとセイカさんに言いつけるよ?」
ボクがそう言うと、ユイヤは「う……わかったよ」とシュンとした表情で渋々と銃を返してくれた。
流石に今の言葉は聞いたらしい。――……ま、小さい子なら誰だってこうだろうけどね。
「あ、そうだ……ねえ、ユリス兄ちゃん」
『今泣いた烏がもう笑う』……そんな諺が示す様に、ユイヤはパッと表情を明るくして口を開く。
それに対して少しばかり嫌な予感がしつつも、ボクは尋ねた。
「何だい?」
「あのね、使わせてとは言わないからさ。明日の式が終わったら、その銃を使って見せてよ」
「え?これを?……う〜〜ん、まあ、それなら……良い、かな?」
曖昧に答えると、ユイヤはパンと両手を打って満面の笑顔になる。
「本当!?やったー!じゃ、約束だよ?」
「う、うん……分かった、約束する」
幼い子の妙なパワーに圧倒されてしまった気を覚えつつも、ボクは小さく頷いた。
……。
…………。
――――……という事で、今に至る。
つまりユイヤは追悼式が終わったらすぐに見せて欲しいらしく、ボクに銃を持たせたって訳だ。
(……だけど、本当に大丈夫なんだろうか?銃なんか持っていって)
そう思い、もう一度ユイヤに同じ事を尋ねる。
「ユイヤ……本当に大丈夫なの?」
「もう、ユリスお兄ちゃんは心配性だな!大丈夫だって、いちいち調べたりなんかしない筈だから……多分」
「多分?……なんだよ、その多分って。やっぱりマズイ……」
「と、とにかく心配なんかしなくていいってば!絶対大丈夫だから!」
「……してユイヤ。その根拠は?」
「僕の勘!!」
胸を張ってそう答えるユイヤに、ボクは大きく溜息をつく。
(……とにかく注意しておこう。見つかって、つまみ出されたりしたら嫌だし……)
ユイヤの後に続きながらそう考え、ボクは再び式場へと歩き出した。
三十分ぐらい歩くと大通りに出たらしく、大勢の人が目に入った。
皆が同じ方角に向かっている所から判断するに、この人達も追悼式に出席する人なのだろう。
それにしても大勢だ。――……ざっと見ただけで、パームブリンクスの全住民ぐらい、いるんじゃないだろうか?
「すごい人だな、これは」
ボクが思わずそう呟くと、ユイヤは語り始めた。
「そりゃそうだよ。レイブラント王の追悼式なんだから。ユリス兄ちゃんみたいに遠くから来る人だって、数え切れない程いるよ」
「へえ……そんなにレイブラント王って偉大な人だったの?」
「うん、何でも歴代の王のなかでも五本の指に入るとか、入らないとか……ってユリス兄ちゃん、知らないで来たの?」
「い、いやそういう訳じゃ……」
痛い所をつかれて、思わずどもってしまい顔を逸らす。
ユイヤの指摘した通り、ボクはレイブラント王の事はほとんど知らないし、わざわざ追悼式にでるほど尊敬している訳でもない。
ボクが式に出席する理由……それはモニカに会う為。それ以外の何物でもなかった。
(なんて言えないよな……流石に……)
自分で思うのもなんだが、不謹慎にも程がある。母さんが聞いたら、さぞ怒るだろう。
だけど行かない訳にはいかなかった。会ってどうなるか分からないけど、約束は守らなきゃならない……そう決めたから。
そんな事を考えていると、ユイヤが意味深な笑みを浮かべながら、ボクの顔を覗き込んできた。
「……はっは〜〜ん。そっかそっか、ユリス兄ちゃんもそっちの『くち』かあ……」
「な、何だよ?その『くち』って……?」
何だか心を見透かされてしまいそうな気がしたから身を引いて、睨むように見返す。
しかし、ユイヤは少しも臆する事無く、更に言葉を続けた。
「ユリス兄ちゃん……モニカ様が目当てで遙々やってきたんでしょ?」
「っ!?」
情けないくらい素直に反応してしまい、ボクは言葉を詰まらせる。……少し頬が熱く感じる事から考えるに、紅潮もしているのだろう。
そんなボクを見たユイヤは、意地悪げな笑みを浮かべつつ何度頷き、沁み沁みとした口調で言った。
「モニカ様は美人だからね、遠くから来てまで見る価値はあるよね〜〜?」
「ち、違うって!ボクは別に……そんな……」
「良いって良いって、隠さなくっても。ここだけの話……それが理由の人も結構いるんだよ」
「そ、そうなの……?」
「うん、僕らのような子供はみんなそうだよ。王様の事とかは、イマイチ分からないからさ」
それはちょっとどうかと思ったが、小さな子供に追悼式なんて分かる筈もないし、仕方ないのかもしれない。
――尤も、ボクも『小さく』はないが子供なんだどけね……。
「そんな訳だから早く行こう!前の方の列取らなきゃ!!」
そう言うや否や、ユイヤはボクの手を掴んで走り出す。つんのめりそうになるのを耐えながら、ボクも走り出した。
式場―――もといレイブラント城に着くと、それはもう見渡す限りの人、人、人。
大通りの数倍ともあろう人が目に入った。
「ホントにすごいな、まさかこんなに人がいるとは……うっ……」
急に吐き気がして慌てて口元を押さえる。……どうやら、人酔いしてしまったらしい。
今までこんな大人数に囲まれるなんて事が無かった為か、ボクはこういう状況に強くない様だ。
と、そんな風に弱っているボクの隣で、ユイヤが不満げな声を漏らす。
「まだ開式まで時間あるのに……これじゃ前の方なんて無理じゃないか!」
「確かにそうだね……で、ユイヤ?どうするの?」、
「……う〜〜〜ん……」
腕を組んで唸るユイヤを暫く眺めていたボクだったが、やがて何処からか前に行けないかと辺りを見回し始める。
すると、遠くの方に白いローブを頭まで被った怪しげな集団の姿が眼に入った。
(?……何だ、あれは?)
その集団から何か妙な気配を感じたボクは、ジッと彼らの様子を観察する。
ハッキリした事は言えないが、どうにも胡散臭い気がしてならなかったからだ。
(あ、周りの人達が道を空けていく…………?城に入ってくぞ?……兵士?いや、まさか……)
「ユリス兄ちゃん、聖衛隊なんか眺めてどうしたの?」
急に声を掛けられてボクが視線を右下に落とすと、ユイヤがキョトンとした表情でこちらを見上げていた。
どうやら、彼はあの集団の事を知っているらしい。そう思ったボクはユイヤに尋ねた。
「聖衛隊って言うの?あの集団は?」
「うん。モニカ様の挨拶の時、護衛するんだよ。悪い奴に狙われない様に」
「成程……そうだよな、護衛は必要だよな」
式に紛れて王女――つまりモニカに良からぬ事を仕出かす連中がいると考えるのは、何らおかしい事じゃない。
そう考えると、護衛の者がいるのは不思議でも何でもない。……しかし、ボクはどうも腑に落ちなかった。
(さっきの感じ……唯の気のせいか?いや、それだったら、それで良いんだけど……何だかなあ……)
一端気になりだすと止まらなくなる所が、ボクにはある。
段々悪い考えが浮かんできたボクは、さり気無くユイヤに声を掛けた。
「ねえユイヤ……聞いても良いかな?」
「ん?何を?」
「えっとモニカ……様の挨拶って、どこでやるの?」
「あのバルコニーだよ。あそこにモニカ様と聖衛隊が立つんだ」
そう言ってユイヤは、お城のバルコニーを指差す。……かなり高い位置にある、立派なバルコニーだ。
「他に誰かいるのかい?」
「ううん、モニカ様達だけだよ」
「……挨拶は、式のいつ頃?」
「えっと、確か最後だったと思う。その前に様の挨拶があってその後じゃなかったかなあ?……ってユリス兄ちゃん、何でそんな事聞くの?」
「…………」
ユイヤの問いには答えずに、ボクは腕組みをして考える。
(物事の終わり間近……誰もが胸を撫で下ろす頃合……そこにモニカと、あの聖衛隊のみがバルコニーに……)
――……まさか……?
先刻から思っていた『仮説』が、徐々に輪郭を帯びて浮かびあがってきた。
こうなると、もう自分の眼でその『仮説』が間違いか否かを確認しないと気が済まない。
居ても立っても居られなくなったボクの足は、自然とレイブラント城へと進みだした。
「?……ユリス兄ちゃん、何処いくの!?」
「ちょっと用事!すぐに戻るから!!」
不思議そうに声を掛けてきたユイヤにそう答えると、ボクは城の方へと駆け出していた。
――――レイブラント城。
「さて、これからどうするか……」
どうにか上手く忍び込めたボクは、長い廊下の物陰に隠れながら、これからの事を考える。
(問題はあのバルコニーまで、どうやったら行けるのか……思ったより複雑なんだよなあ、この城。あそこまで一直線にはとても行けそうにないし。
こんな事なら、ユイヤに聞いておけばよかった。……って、ユイヤが城の内部まで知ってる訳ないか。……はあっ……)
途方に暮れるボクの耳に、ふと遠くから足音が聞こえてきた。ハッとして身を強張らせたボクは、より注意深く物陰に隠れて様子を窺う。
コツコツという足音が次第に大きくなり、やがて二つの白いローブが姿を現した。
(聖衛隊……!)
ボクはゴクリと息を呑む。そして次の瞬間、自分の『仮説』が正しかった事を確信した。
「しっかしなあ……何もこんな回りくどいやり方じゃなくてもいいんじゃねえか?」
「そうボヤくな。暗殺なんぞより、こういうやり方を用いた方が民衆に与える影響は大きい……追悼式で姫君が殺されたとあっては、
誰もこんな国になど居たくはなくなるだろう」
「まあな……だが大丈夫なんだろうな?あのモニカって王女、かなり強いって噂だが?」
「案ずるな。追悼式の挨拶に武装などしている訳がない。簡単な事だ」
粘着質な喋り方で話し合い、通り過ぎて行った聖衛隊を見届け、ボクは軽く舌打ちする。
(くそっ、嫌な予感が的中したか……)
聖衛隊はモニカの護衛役なんかじゃない。その全く正反対の役――モニカを殺害する気でいる連中だ。
話の内容から判断するに、決行はモニカの挨拶の時と見て、まず間違いないだろう。
どうにかして止めなければならないが、部外者で不法侵入者である現在のボクの言葉には、説得力の欠片も無いのは明白だ。
となれば、誰の力を借りる事も出来ない。自分だけで、奴らの凶事を食い止めるしかないのだ。
(しかし、一体どうしたら……っ!あれは……)
焦る気持ちを抑えながら考えていたボクの耳に、また足音が聞こえてくる。
慌ててそちらに視線をやると、また一人、聖衛隊がこちらに歩いてくるのが見えた。
「あ〜あ、こんな面倒なことやってらんねえよなあ〜〜」
そうボヤきつつ此方に向かってくる奴は、どこもかしこも隙だらけだ。おまけに周りには誰もいない。
これらの条件から、ボクはある考えを頭の中に浮かばせ、すぐにそれを実行に移した。
「っ!!」
「!?な……ぐあっ!!」
目の前を通り過ぎた奴の後頭部を、『シグマガジェット』のグリップ部分で思い切り殴りつける。
……想像以上に効いたらしく、アッサリとのびてしまった聖衛隊を見下ろしながら、ボクは軽く頭を掻いた。
「あちゃ……少し、やり過ぎたか?……まあ死んではないだろうし、問題ないよな、うん。……さて」
その場に身を屈め、聖衛隊のローブを脱がす。すると中から、見るからに悪党面をした男が姿を現した。
「ったく、こんなのが護衛役なんて笑い話にもならないって…………よしっと、こんなもんかな?」
手早く白いローブを身に纏いながら、ボクはそう呟く。
これで一応、傍目からは聖衛隊の人間に見られるだろう。――……細かい事を突っ込まれなければ、だけど。
(問題は、この人をどうするか……暫く眼を覚まさないだろうけど、ここに放っておくのも何か危なさそうだし……)
「……誰だ!?そこで、何をしている!?」
いきなり後ろから声が飛んでき、ボクはビクッと身体を強張らせて振り返る。
すると、城の兵士らしき人が槍を構えてこちらに走り寄ってくるのが眼に入った。
まさか一部始終を見られていたのではないかと思い、ボクはローブの下で冷や汗を流す。
最悪、この人も気絶させなければならないと考えていると、兵士はボクを見てハッとした表情をして敬礼した。
「っ……失礼!聖衛隊の方でしたか。ん?……そこに倒れている者は?」
「あ、えっと……こ、この辺りを何やらウロウロしていたので問い詰めると、急に襲いかかってきて……咄嗟に」
出来る限り低い声で大人の男性を演じながら、ボクはそう説明する。
あまり上手い嘘とは言えなかったが、どうやら兵士は信じてくれたらしい。神妙な顔つきで腕組みをし、倒れている男を眺めながら言った。
「うむ……見るからに怪しい奴だな。きっと良からぬ事を企んで城に侵入したに違いない。……どうも、ありがとうございました。
この者は私が牢に入れておきますので、貴方は控え室の方にお急ぎ下さい。部屋は、この廊下を行った先の突き当たりを右に向かった所です」
「あ、ありが……か、感謝する」
偶然にも、これから向かおうとした場所を正確に教えてくれた兵士に、ボクは礼を言う。
そして、少しブカブカのローブ足を引っ張られない様に注意しながら、言われた控え室へ歩いていった。
――――控え室。
「……そろそろ出番だ。……手筈はわかっているな?」
一際背の高い、リーダーらしい奴が皆に確認する様に言う。
すると、今まで酒を飲むなりカードで遊ぶなりしていた連中も自分の行為を止め、リーダーの話に耳を傾けた。
「もう一度確認する。タイミングは挨拶が終わって拍手が鳴り響いている時だ……忘れるなよ」
「「「…………」」」
全員が無言で頷き、ボクもやや遅れてそれに習う。
幸運だったのは、この連中が余り饒舌な集団ではなかった事だ。故に、この部屋に入ってから、ボクは殆ど話しかけられる事はなかった。
もし、気軽に無駄口を叩き合う様な連中だったら、ほぼ間違いなくボロが出ていただろう。
(これなら喋らない限り、正体がバレる事は無さそうだな……)
少しばかり安堵したボクは、他の連中に続いて控え室を出る。
そして、通路を抜け何度か階段を上ったり下ったりと五分程歩いた所で、とある部屋の前に辿り着く。
すると聖衛隊のリーダーが扉を軽くノックし、先程とは打って変わって紳士らしい口調で言った。
「失礼します、聖衛隊です」
「……どうぞ」
ややあって扉の向こう側から聞こえてきた声に、ボクは息を呑む。――この声は、間違いなく……。
心の中で確認するよりも早くに扉が開かれ、部屋の中の景色が視界に移る。
その中の一点――見慣れた紅髪を眺めながら、ボクは心の中で呟いた。
(……モニカ…)
『プリンセスドレス』を身に纏い、やや憂いを帯びた表情をしている彼女は、記憶とは違い随分と大人っぽい雰囲気を漂わせている。
そんなモニカがボクらに深々と頭を下げ、挨拶した。
「……よろしくお願いします」
「ご安心ください、モニカ様。貴方は必ず我々がお守りします」
「……」
――よくもまあ、殺そうとしている相手にここまで平然と演技できるものだ。
ボクがある意味感心していると、外からワッと拍手が巻き起こる。……そう言えば、モニカの前に王妃が挨拶するとユイヤが言っていた。
(自信無さそうだったけど……合ってたんだな)
そう思いながら暫く待っていると、王妃様がバルコニーから戻ってきてモニカに声を掛ける。
「モニカ、くれぐれもしっかりする様に」
「母上、心配は無用です。もう三回目ですし、緊張することはありません」
堂々と答えるモニカに、王妃様も満足げに微笑む。そしてボク達に目を向け、モニカ同様に頭を下げた。
「聖衛隊の皆さん、どうかよろしくお願いします」
「はい。お任せを」
「……」
――……しかし、王妃様まで頭を下げるなんて、この聖衛隊ってそんなに偉いものなんだろうか?
そんな事を考えているのが仕草に表れていたのか、不意にモニカに声を掛けられる。
「?……どうかしましたか?」
「っ……い、いえ!なんでも……っ!」
突然の事に声を作るのを忘れ、ボクは素の声を出してしまった。
慌てて黙り込み、周囲の反応を窺うが特に何もない。……どうやら、バレては居ない様だ。
(ふうっ……危なかった……)
心の中で胸を撫で下ろすボクを、モニカは暫し不思議そうに見ていたが、やがて何事もなかったかの様にバルコニーに向かう。
その後に続いて、僕達もバルコニーへと出た。
(うわ……ここから見ると、本当に人が多いな……)
式場を見下ろしてみると、先刻よりもさらに人が増えている。――……こういうのを、人海って言うのかな?
「……ではモニカ様、よろしくお願いします」
そう言って司会の人がモニカにマイクを渡す。そして、モニカは深呼吸を一つしてから話し始めた。
「皆様、今日は我が父レイブラント王の三周忌追悼式に多数ご参列くださった事、心よりお礼申し上げます」
(……始まった。さて……終わり際が勝負だぞ)
自分にそう言い聞かせつつ、ボクは『その時』が来るのを待った。