第二編〜最後の夜〜

 

 

 

 

――――夜空に満月が顔を出す時刻。

「眠れない…よな」

ユリスは自室のベッドに腰掛け、同じ様に横にいたモニカに言う。

「うん。だって……明日……だものね」

すると、彼女は仄かに頬を赤らめ、はにかんだ笑みを浮かべながら頷いた。その顔を見て、ユリスも「そうだね」と相槌を打つ。

――――そう、明日。明日、自分達は……永遠の愛を誓う。

ずっとずっと、願い続けて来た日。それが、とうとう明日に迫っている。

その事からくる興奮と緊張によって、ユリスもモニカも眠る事が出来ずにいるのだ。

「でもさ……思ってもみなかったな」

「え?」

不意に俯き加減で呟いたモニカに、ユリスはキョトンとした表情で彼女を見る。

するとモニカは、下を向いたまま、訥々と言った。

「君と……こんな仲になるなんて……最初は、思ってもみなかったなって事」

「……っ……」

「あ、か、勘違いしないでね、ユリス!君とこういう仲になったのが嫌って訳じゃ、全然ないから!ただ……」

複雑な感情が込められた声を漏らしたユリスに対して、モニカは慌てて彼の方を向いて手を振る。

「ただ……ちょっと考えたの。もし……」

「……もし?」

「もし……あの冒険が無かったら……私達、どうだったんだろう?……って」

「あの冒険が無かったら……か」

あの冒険――アトラミリアを巡ってグリフォン達と戦った、あの冒険。

彼女の言う通り、もしあの冒険が無かったら……自分達は、どうであったのだろうか?

「モニカは、どう思ってるんだい?」

「えっ?」

ユリスが尋ねると、彼女は戸惑った声を上げる。しかし、すぐに彼の言葉の意味を理解し、考え込む仕種を見せた。

「そうねえ……多分だけど、きっと出会ってなかったわね、私達」

「あれ?……意外と現実的な答えだな」

「な、何よ?『きっと私達は、どうあっても出会う運命だったのよ』……な〜〜んて、可愛らしく言って欲しかった?」

「へ?う〜〜ん……」

その言葉に、ふとユリスはそう言っているモニカを想像してみる。そして、暫くしてから口を開いた。

「…………いや、怖いからいい」

「ちょっと!それどういう意味よ!?」

「へっ!?い、いや……別に……その……」

思うがままの事を言ってしまったユリスは、怒気を含んだモニカの言葉に、反射的に身を退く。

「べ〜〜つ〜〜に〜〜?な〜〜にかしら〜〜〜〜?」

「え、ええっと……だ、だから……」

恐怖を感じる笑顔で迫ってくる彼女に、彼は冷や汗を掻きながら必死に言葉を探す。

しかし、結局適切な言葉が見つからず、観念したユリスはモニカに深々と頭を下げ、謝罪した。

「ゴ、ゴメンなさい」

「……はあっ。まっ、いいわ。正直、自分でも可笑しいなとは思ったから」

「な、なんだよ。それじゃ別にボクが謝る必要なんか、無かったじゃないか!」

思わずそう愚痴を零したユリスだが、すぐに「しまった!」と口を押さえる。

しかし時既に遅く、一旦和らいでいたモニカの表情が、再び険悪な物へと変わった。

「あのね!失礼な事を言った人が、とやかく文句言わないの!!」

「……ハイ」

バツが悪そうに返事をし、ユリスは俯く。

だが、すぐにモニカが尋ねる声が聞こえ、徐に顔を上げた。

「それで?ユリスはどう思ってるの?」

「えっ?どう思ってるって……ああ……」

脱線していた話を彼女が戻したのに気づき、彼はふと中空を眺めながら考え込む。

「そうだなあ……う〜〜ん……」

そんな風に少しの間ユリスは悩んでいたが、やがてボソボソと話し出した。

「正直、何とも言えないってのが本音だな。でも……」

「でも?」

「今だから言えるんだけどさ。実は……」

そこで不意に言葉を切ると、彼はモニカの顔をまじまじと見つめながら口を開く。

「実は、初めて君と出会った時……何だかボク、凄く懐かしい気がしてたんだ」

「え?……懐かしい?」

「うん」

コクリと頷いたユリスに、モニカは少々動揺した表情を浮かべながら言った。

「そ、それって、どういう意味なの?」

「さあ、それは……ボクにも分からない。ただ……」

「ただ?」

「上手く言えないんだけど……やっぱりボクと君は……どうあっても、出会ってたんじゃないかって」

「……ユリス」

「君を見て、懐かしく思ったのは……運命の人と、ようやく出会えたからじゃないかなって……そう思うんだ」

恥ずかしさの為か、少々赤くなった顔でそう言い終えたユリスは、フッと軽く笑いながら嘆息する。

「まっ、真実は神様でもないと分からないけどね」

「クス……そうね。でも……」

彼の言葉を聞いて、胸の奥に熱い物が込み上げてきたモニカは、そっと彼に寄りかかる。

すると彼女の予想通り、ユリスはビクッと身体を硬直させ、驚いた様に彼女に眼を向けた。

「モ、モニカ!?どど、どうし……」

「ユリスの言う通りだったら……素敵だよね」

「ま、まあ……ね」

いつものモニカらしからぬ可愛らしい挙動に、彼はドギマギしながら頷く。

(……って、こんな事を言ったら絶対に怒るよな)

緊張の最中に嫌な汗が流れるのを感じたユリスだったが、不意にモニカから声を掛けられて我に返った。

「あっ、そういえばさ、ユリス。ちょっと聞いていい?」

「な、何を?モニカ?」

彼がそう返すと、彼女は姿勢を正して彼に尋ねる。

「君ってさ……あの冒険の間、私の事どう思ってた?」

「……へ?」

突拍子もない質問に、ユリスは思わずそう聞き返してしまった。

「だから!……あの冒険の間、君は私の事、どう思ってたかって聞いてるの」

「ど、どう思ってたって……どういう事?」

そう返すユリスだが、何となく意味は理解できていた。

しかし、もし勘違いだったら恥ずかしい事この上ないので、念の為にそう尋ねる。

するとモニカは、何やら呆れた表情で頭に手を当てたが、やがて気を取り直した様に言った。

「……聞き方を変えるわ。君ってさ、あの冒険の間で、私を可愛いって思った時っていつ?」

「うえあっ!?」

とんでもない質問に、彼は言葉にならない声を上げてしまった。

「な、ななな、なに言い出すんだよ、モニカ!?」

「何よ?別に変な事言ってないでしょ?」

(十分、変な事だって…!!)

彼は思わずそう叫ぶそうになったが、寸での所で堪える。

いくら恋人同士だからって……いくら明日結婚する仲同士だからって、「私の事、可愛いって思った時っていつ?」と聞かれて、

「そうだな、あの時とあの時とあの時だね」なんて、返事出来るもんじゃない。

いや広い世の中を捜せば、それが出来る人の一人や二人いるかも知れないが、少なくとも自分には無理だ。

(ボクがそんな事言える性格じゃないって、モニカも分かってるだろ!?)

そう内心で絶叫しているユリスの心情を知る由も無く、モニカは何も言わない彼を見て、沈んだ表情で呟く。

「……無いんだ?」

「うあっ……!ち、ちがうってモニカ!ちゃんとあるよ!あるってば!!」

「本当?……それで、いつ?」

「…………」

瞬く間に表情を明るくした彼女を、ユリスは気づかれない程度のジト目で眺める。

(え、演技だったのか?それとも、単に切り替えが早いだけか?)

――……多分、後者だな。モニカの性格から考えて。

そんな風に自分で自分に疑問を投げかけ、それに対して答えを出すと器用な事を約一秒で終えた後、彼は口を開いた。

「は、話すけどさあ……笑ったりしないでよ?」

「しないわよ。そんな事。ほら、早く話して」

「う、うん、分かったよ。確かあれは……

そう前置きをした後、ユリスは訥々と話し始めた。

 

 

 

 

……。

…………。

――――五年前。とある日。

「ウーー……アンサン、マダオワラヘンノカ?」

「もうちょっとだよ。ほらほら、じっとしてて」

過酷な冒険から、暫しの間開放される休日。

ユリスはこの日、自室にてライトポッド――スティーブのメンテンナンスを行っていた。

「ふう……全く、彼方此方派手に壊れてるんだから」

「アンサンガ、コキツカウカラヤロガ!シカモイッツモ、オウキュウシュウリデマニアワセハルシ!!」

「ははは……そうだったね。ゴメンゴメン」

怒り出したスティーブを、ユリスがやんわりと宥めていた時だった。

突然ノックの音が聞こえ、一瞬手を止めた彼だったが、すぐに作業を再開しつつ口を開く。

「誰?モニカかい?」

「うん。ユリス、今いい?」

「話を聞くぐらいだったら、大丈夫だよ」

ユリスがそう答えると、ガチャリとドアが開き、モニカが入ってきた。

「よかった。……あのさ、ユリス。私、ちょっと欲しい物があるの」

「欲しい物?」

スティーブのレッグパーツを取り外し、配線を組み替えながら、彼は不思議そうに聞き返す。

「うん。丈夫な布とガラスの元と、それから聖水なんだけど……確か君、持ってたよね?」

「え、ああ、うん。……でも、そんなの何に使うんだい?」

――――丈夫な布、ガラスの元、聖水。

全く共通点が無く、何の目的に使用するのか皆目見当もつかないユリスは、思わず作業の手を止めて首を傾げた。

それを見てモニカは、「大した事じゃないわよ」と手を振りながら言った後、更に言葉を続ける。

「ちょっとね。野暮用に必要なの。……で、何所に有るの?」

「ああ、その中に三つとも入ってると思うよ」

そう言って彼が指差したのは、部屋の隅に置いてあった冒険用の鞄。

モニカはユリスに「ありがとう」と礼を述べた後、ゴソゴソと鞄を漁り、目的の物を取り出した。

「うん、これこれ!これが有れば、何とか出来るわね」

「出来る?出来るって、何が?」

怪訝な顔でそう尋ねたユリスに、モニカは少々ドギマギしながら答える。

「えっ!?な、何って……べ、別に何でもないわ!そ、それじゃユリス!スティーブの修理、頑張ってね!!」

言い終えると彼女は、明らかに取り繕った笑みで手を振りながら、慌しく部屋を出ていった。

「何だ?変なモニカ……」

半ば逃げる様にモニカが出て行ったドアを、彼はボンヤリと見つめる。

と、その時、それまでずっと黙っていたスティーブが、堪りかねた様に叫んだ。

「ア〜〜ン〜〜サ〜〜ン!!」

「うわっ!?……な、何だよスティーブ?」

「ナンダヨ、ヤアラヘンワ!サッキカラ、テガトマットルヤナイカ!ハヨウ、シュウリシテクンナハレ!!」

「へ?あ、ああ……悪い悪い」

ポリポリと頭を掻きながら、ユリスは作業を再開した。

カッカしているスティーブに、「後で特製ブレンドオイルあげるから」と宥めつつ。

 

 

 

 

 

――――数時間後。

「……よし!メンテンナンス完了っと!!もう動いていいよ、スティーブ」

「フィ〜〜ヤットカイナ。ジットシスギテ、アチコチガギーギーイウトルワ」

ブツブツ言いながら立ち上がったスティーブは、慣らし運転とばかりに身体の彼方此方を動かす。

(ロボットなんだから、ギーギーって音がして当然だろ……)

ユリスは心の中でそんなツッコミをしつつ、確認の為スティーブに尋ねた。

「どう?どこか調子悪い箇所はない?」

「ウ〜〜〜ン……インヤ、イジョウナシヤ。サスガハアンサン、ウデハタシカヤナ!」

「ははっ、どういたしまして。それじゃあ、せっかくだし散歩でもして来たら?じっとしてて、ウズウズしてたんだろ?」

「オオ、ソウヤナ。ホナ、チョットソノヘンニデカケテクルワ。ホナナ、アンサン!」

そう言うが早いか、スティーブは元気良く部屋を飛び出していく。

「本当……人間みたいなロボットにしちゃったよなあ」

スティーブの姿を見送った後、一人になったユリスは知れず笑みを零した。と、その時だった。

「ユリス〜〜。いる〜〜?」

「あっ、モニカ。どうしたの?」

ノックの音と共に、モニカの聊か遠慮気味な声がドア越しに聞こえ、ユリスは尋ね返す。

すると、何やら緊張している様に取れる声が返ってきた。

「うん、ちょっと……今、大丈夫?」

「ああ。丁度、暇になった所」

彼がそう言うと、カチャリとドアが開かれる。そして、モニカの姿が眼に入った瞬間、ユリスは思わず息を呑んだ。

「っ!?……モ、モニカ?……その格好……」

「えへへ。どう、似合ってる?」

彼女は少々はにかんだ表情で、その場でクルリと一回転をして見せる。

それを見て、何やら訳の分からない動揺を抱きつつ、ユリスは上擦った声を発した。

「に、似合ってるかって、言われても……どど、どうしたの……それ?」

――――南国の民族衣装……なのだろうか?

大胆に肩や背中等を露出し、それでいて何処か高貴な感じがする服を、モニカは身に纏っている。

普段の動きやすいラフな格好から一転して、女の子らしさを強調するその衣装に、彼は内心ドギマギして仕方がなかった。

言葉を飾らずに言えば、見惚れてしまったのである。

「これね、私の正装なの。流石に、この格好だと『王女様』って感じするでしょ?」

「う、うん……」

そう聞かれて、ユリスは思わず即答して頷いた。それくらい、今のモニカは『王女様』らしかった。

衣装もそうだが髪型もいつもと少し違い、綺麗な髪飾りでストレートに纏めてある。

ふと視線を落としてみると、履いているブーツも、服や髪飾りに合わせたデザインの物であった。

それらの衣装に身を包んだ彼女が、とても上品な少女に見えてしまい、ユリスは思わず頬を赤らめる。

(や、やっぱり王女様だったんだな。何だか、すごく納得できた)

「?……ユリス、どうしたの?」

「へっ?あ……な、何でもない!何でもないよ!」

不意に尋ねてきたモニカに、彼は慌てて大袈裟に手を振りながら答える。

それから、不意に思った質問を彼女に投げかけた。

「と、ところでさ。その衣装……未来から持ってきてたの?」

「あ、ううん、違う違う。さっき作ったの」

「つ、作った!?」

予想外に答えに、ユリスは眼を丸くする。そんな彼に、モニカは小さく頷いた後、言葉を続けた。

「うん。ほら、何時間か前に私、君に欲しい物があるって言ったでしょ?」

「え?あの時のあれって……これを作る為の物だったの?」

数時間前の記憶を呼び覚ましつつ、ユリスがそう言うと、彼女は笑顔で「そうよ」と返す。

「他のは自分で調達できたんだけどね、あの三つだけ足らなかったら、君に頼んだって訳」

「そうだったんだ。でもさあ……」

「うん?」

ふと疑問を感じた彼は、腕組みをして首を傾げながら、呟く様に言った。

「丈夫な布とガラスの元は分かるとして……聖水なんて、服を作るのに必要なの?」

「ああ、それ?まあ確かに、作る事その物には必要ないんだけど……ちょっとした、御呪いに必要なの」

「御呪い?」

「そっ。出来た服に聖水を掛けると、神の御加護を得られるって言われてるの。……多分、作り話だろうけどね」

「ふ〜〜ん、そうなんだ」

ユリスは訳も無く、感心の呟きを漏らす。

しかし、それも束の間、物言いたげに自分を見ているモニカに気づき、不思議そうに声を出した。

「ん?どうしたの、モニカ?」

「どうしたのって……さっきの私の質問の答えは?」

「へ?さっきの質問?」

「もうっ、誤魔化さないでよ!さっき似合ってるかって、聞いたでしょ!?」

「えっ?あ、ああ……」

そう言えば、最初にそんな事を聞かれた様な気がする。

その事を思い出したユリスは、恥ずかしさを感じながらも正直に言った。

「……似合ってるよ。とっても……綺麗だと思う」

「えへへ……ありがとう」

――――仄かに色づいた頬で、モニカはそう笑顔で言った。

……。

…………。

 

 

 

 

「……まあ、この時かな」

話し終えたユリスは、そう言って俯く。

何やらとんでもない事を白状させられた気がし、彼はだんだん顔が赤くなっていくのを感じた。

(あ〜〜!なんでこんな事、本人に言わなければならないんだ!?)

と、再び心の中で絶叫したユリスに、モニカはクスクスと笑みを漏らした。

「……何だよ、モニカ?」

「クスクス……だ、だってユリス。自分で話しといと、真っ赤になるんだもん」

「なっ!?そ、それは君が話してって言うから……それで……その……だ、大体モニカはどうなんだよ!?」

「えっ、私?」

不意に尋ねられ、彼女はキョトンとした表情を浮かべる。そんなモニカに、ユリスは少々自棄気味に言った。

「ボ、ボクがこうして言ったんだから!モニカも……その……」

「?……ああ!そういう事」

合点が言ったモニカは、意地悪そうな笑顔で、ユリスに確認する。

「つまり私にも……『ボクの事を格好いいと思った時って、いつ?』と、聞きたい訳ね?」

「ま、まあ……簡単に、言えば……」

そっぽを向いてそういうユリスはそっぽを向く。

――――面白くない。全くもって面白くない。

普段は自分の方が大人びている事の方が多いのだが、何故か今は立場が逆になってしまっている。

彼女が年上だという事を、自分が年下だという事を再認識させられた気分だ。

そんなユリスの不満を知る由も無いモニカは、「そうね……」を暫し考える仕草を見せた後、徐に口を開いた。

「最初に出会った時からずっと……って事でいい?」

「な、なんだよ、それ!?そうやって誤魔化すのありかよ!?」

思いっきり不服そうな表情で、ユリスはモニカに非難の声を発した。しかし彼女は、あっけらかんとそれを受け流す。

「別に誤魔化してなんかないわよ?思った通りの事を言っただけなんだから」

「……嘘はやめようよ。最初に出会った頃、ボクの事を『頼りない』だの『しっかりしろ』だの、何度も言っていたのは何処の誰でしたっけ?」

「あら?私そんな事、君に言ったかしら?」

「……本当に良い性格してるね、君」

大きな溜息をつきながらそう言うと、ユリスは疲れた顔で額に手を当てた。

そんな彼に、モニカは笑みを零しながら声を掛ける。

「あはは、どういたしまして。……でもさ、本当なんだよ?」

「えっ?」

驚いて彼が顔を上げると、彼女は至って真面目な表情で口を開いた。

「最初に出会った時から、君の事……格好いいって思ってた。これは正真正銘、本当だよ」

「っ!……そ、そう……」

モニカのその言葉に、ユリスは堪らなく気恥ずかしさを感じ、慌てて話題を変える。

「で、でさあ!何で急に……あんな事を聞いたの?」

「ああ、それは今日で……最後……だから」

「最後?」

彼が繰り返すと、彼女はコクンと小さく頷いた。

「そう、最後。私と君が……『恋人』でいる、ね」

「あっ……そうか、そうだよな」

確かに、自分達が『恋人』という関係でいるのは、今日で最後だ。

―――そう、明日から自分達は…………。

「だからさ、何だか聞いてみたくなったの。こんな事、恋人同士でなきゃ…恥ずかしくて聞けないでしょ?」

「こ……う、うん」

寸での所で「恋人同士でも十分恥ずかしいよ」という言葉を呑み込み、ユリスは頷く。

そして、同時にモニカの質問の真意を察し、納得した。

「さっ、そろそろ寝ましょ。寝不足になっちゃったら、明日が台無しだものね」

「そうだね。でも、その前に……」

「何?……きゃっ!?」

不意にユリスはモニカの両肩を掴むと、グイッと自分の方に引き寄せる。

そして間近に迫った彼女の唇に、そっと自分の物を重ねた。

「っ!?……なな、な、な……!?」

束の間の出来事の後、行為を終えたユリスがモニカを解放すると、彼女は激しく動揺の色を見せながら口を開いた。

「い、い、いきなり何するのよ!?」

「いや、だって……最後だからね」

「は、はあっ!?」

顔を真っ赤にしてそう叫ぶモニカに、形勢逆転だと心の中でほくそ笑みつつ、ユリスは言う。

「だから、恋人の関係である内に最後の……って思ってさ」

「な、な、な……!!」

頭から湯気が出そうな勢いで紅潮した彼女に、彼は止めの一言を告げた。

「なんなら、もう一回する?」

 

 

 

 

 

「結構よ!!!!」

――――そう叫んだモニカの声は、パームブリンクス中に届いたとか……。

 

 

 

 

 

 


  

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