〜エピソード5〜
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。そろそろ、起きないと」
「う……ん……もう少し寝かせてくれ」
身体を揺さぶられ、無理やり眼を覚まさせられたネスは、寝起きの不機嫌を隠そうともせずトレーシーに言う。
しかし、返ってきた妹の呆れ声に、瞬く間に眠気が吹っ飛んだ。
「もう……今日から冒険の旅にでるんでしょ? 明け方に帰ってきて話してくれたじゃない。それにもう、とっくにお昼過ぎてるんだよ。ママがお昼ご飯作って待ってるんだから」
「……あっ!」
慌ててネスは飛び起きる。すると、今日の朝日に誓った決意が、遅ればせながら戻ってきた。
――そうだった、これから僕は旅に出るんだった。……寝たら、すっかり忘れちゃってたな。我ながら、先が心配だよ……。
ブンブーンから“音の石”を託され、打倒ギーグを決意したものの、まともに眠っていなかったが故の睡魔に勝てず、ネスはとりあえず自宅へと戻った。
そして、心配して起きていた母親と妹に手短に事のあらましを告げると、フラフラと自室のベッドに倒れこみ、泥の様に眠り込んでしまったのである。
「今、何時?」
「午後一時。とりあえず、準備が出来たら降りてきてね。ハンバーグで門出を祝うって言ってたよ」
「あ、ありがとう」
「……私にお礼言ってどうするの、お兄ちゃん? お願いだから、しっかりしてよね。地球を救う勇者なんでしょ?」
「ゆ、勇者って……そんな大袈裟なもんじゃないってば」
「何言ってるのよ? 自分で嬉しそうに言ってた癖に」
「え?……本当?」
全く記憶が無かったネスは、恐る恐るトレーシーに訪ねる。するとトレーシーは大きく深呼吸したかと思うと、舌を出して言った。
「嘘」
「! この……」
「はいはい、とにかく早く降りてきてね。寝坊助勇者様♪」
「からかうなよ!」
ネスがそう怒鳴った頃、既に妹は彼の部屋から出て行っていた。
苛立ち交じりに出発の準備を整えたネスが一階へと降りると、食欲をそそるハンバーグを焼く音が聞こえてきた。
すると、それに反応するかの様に彼の腹の音が鳴り響く。それで息子の存在に気付いた母親が、キッチンから振り返った。
「あら、ネス、起きたばかりなのに、もうお腹ペコペコなの?」
「し、仕方ないでしょ。昨日……いや、今日か。夜通し運動してたんだから」
「夜通し運動ねえ……言い訳としては、上々かなあ」
「お前……」
減らず口を叩くトレーシーをネスは睨むが、そんな彼に母親が手を叩いて促す。
「ほらネス、もうすぐ出来るから準備して。お腹減ってるんでしょ?」
「……は〜い」
渋々ネスは頷くと、クスクスと笑っている妹を尻目に食事の準備をする。
手際良く食器を並べ、冷蔵庫からオレンジジュースとミネラルウォーターを取り出し、テーブルの上に置く。これで準備完了だ。
すると、母親の支度の方も終わったらしい。彼女はトレーシーに手伝いを求めながら、ネスに言った。
「そうそう、ネス。もうすぐパパから電話があると思うわよ」
「え、パパから?」
「ええ。朝に貴方の事で電話したら、直接門出の挨拶がしたいんだって」
「そ、そう……」
はにかんだ笑みと共に、ネスは指先で頬を掻いた。
ネスの父親は年がら年中仕事で家を空けていて、あまり顔を合わせる事はない。おまけに電話もこちらから掛ける事はあっても向こうから掛かってくる事は滅多になかった。
そんな父親が、わざわざ電話をしてくれるという事は、それだけ気に掛けているという証拠だろう。
――パパと話すのも久しぶりだな。しかも内容が内容だし、ちょっと照れるかも……。
ネスがそんな事を考えていると、不意に電話のベルが鳴り響いた。
「あら、噂をすればなんとやらね。ネス、きっとパパからでしょうから、貴方が出てちょうだい」
「うん」
母親と同意見だったネスは、徐に電話へと近づき、受話器を手に取る。
「もしもし」
「おお、ネス。パパだ。久しぶりだな」
「あ、パパ。うん、久しぶりだね」
案の定、電話の相手は父親だった。
挨拶をし終えると、父親は弾んだ声で本題に入る。
「ママから聞いたぞ。なんでも、世界を救う大冒険に出発するそうだな?」
「う、うん。まあ……」
「ハハハ! そんなに緊張するな。何事も経験だ。恐れずに勇気をもってやってみなさい。パパはいつでも、お前の味方だ」
「あ、ありがとう、パパ」
電話越しでも、ハッキリと感じ取れる父親の温かさに、ネスは胸が熱くなるのを感じる。
同時に、ずっと胸の内で燻っていた言いようのない不安が、少し薄れたように思えた。
「そうだ、ネス。キャッシュカードを持っているだろう?」
「キャッシュカード? ああ、前にパパが作ってくれた、僕の口座用の奴?」
「そうそう、それだ。これからお前の口座に、パパが定期的にお金を振り込んでやるからな。そのキッシュカードで引き出して使いなさい」
「えっ? い、良いの?」
ネスが戸惑いがちに訊ねると、父親は豪快に笑いながら答える。
「ハハハ! 当然だろう? 世界を救う大冒険が無一文で出来る訳ないからな。かといって働いて路銀を稼ぐのも子供のお前には難しいし、ましてやゲームみたいに敵と戦って稼ぐなんて出来ないだろ?」
「そ、それはそうだけど……」
「なあに、遠慮はいらない。パパに出来る事はこれくらいなんだから、気にせず自由にしなさい」
「パパ……ありがとう」
ネスが二度目の礼を述べると、電話越しの父親は苦笑混じりに言った。
「まあ、お前の事だ。きっと大丈夫だろう。パパだって、ヒーロー!……の父親になれるなら悪い気はしないぞ。じゃあ、ネス。健闘を祈る。時々は電話して、冒険譚を聞かせてくれよ!」
「うん!」
元気よくネスが返事をした直後、電話が切れる。すると彼の後ろから、母親の声が飛んできた。
「ネス、お昼の準備できたわよ。いただきましょう」
「は〜い」
途端に空腹を思い出したネスは、急いで電話から離れると、自分の席に座る。
そして、当分はないであろう家族揃っての昼食を食べ始めた。
母親お手製の特大ハンバーグの昼食を食べおえたネスは、食後の休憩もそこそこに旅に出る事にした。
リュックに当面必要な物を詰め込み、“ボロのバット”を担いだ彼は、見送ろうとしている母親と妹に振り返る。
「それじゃあ、そろそろ行くよ」
「いってらっしゃい、ネス。くれぐれも気をつけてね。学校の事はママが誤魔化してあげるから、心配しなくてから。それと、いつでも帰ってきていいから」
「ありがとう。ママも元気でね。トレーシーも、良い子でいるんだぞ」
「もう! 人を小さい子扱いしないでよ!」
そう言いながら膨れっ面になった妹の頭を撫でながら、ネスは笑った。
「はは、そう怒るなって。これでもアテにしてるんだ。チビの面倒も頼むぞ」
「はいはい、分かってるわ。まあ、私も私なりにお兄ちゃんの応援するから……時々は、電話してよね」
「え? あ、ああ……分かった」
不意に寂しそうな声を出したトレーシーに、ネスは妹の心情を察し、暫し彼女を見つめる。
口の減らない妹だが、それでも兄であるネスを慕っている事は、他でもない彼自身が一番良く知っていた。
だからこそ、きっと今も口には出さないが本当は寂しいのだろう。そう思ったネスは、再びトレーシーの頭を撫でつつ言った。
「多分、色んな町に行く事になるだろうから、色んなお土産買ってきてやるからな。楽しみにしてろよ」
「……うん」
「よし。じゃあ、ママ、トレーシー。行ってきます!」
二人を元気づける為の笑顔と共にそう言うと、ネスは踵を返して家のドアを開けた。
――――そして、ネスが本当の意味で再び此処に戻ってくるのは……当分先の事となる。
「さてと、まずはブンブーンが言ってた『ジャイアントステップ』って所を探さなきゃな。とはいえ、どうやって探せばいいのかわからないや」
そんな独り言を呟きつつ、晴天の下を歩いていたネスだったが、不意に道の向こうから見知った人物が歩いてくるのに気付き、足を止める。
「あれ、ホーランドさん?」
「おや、ネスちゃん」
向こうもこちらに気付いたらしく、ホーランドは手を振りながら近づいてきた
なにやら随分と機嫌が良いようで、その足取りは軽やかで表情も笑顔である。そんなホーランドを不思議に思ったネスは、率直に訊ねた。
「どうしたんですか? なんだか嬉しそうですけど……」
「え、そうかい? いやあ、困ったなあ……俺、あんまり顔に出る方じゃないんだけどなあ」
全然困っているとは思えない様子で、ホーランドは頭を掻く。どうやら、相当に幸運な出来事でもあったらしい。
自然と興味を惹かれたネスは、ある“可能性”に辿り着き、それを口にした。
「もしかして、とうとう宝物を見つけたんですか?」
「よくぞ聞いてくれました!!」
いきなり大声で叫ばれ、ネスは思わず両耳を塞ぐ。
しかし、ホーランドはそんな彼に事など気にもせず、嬉々とした様子で続けた。
「そう、苦節何年……いや何十年! このライヤー・ホーランド! ついにとんでもない物を見つけたんだよ!!」
「そ、そうですか。それは良かったですね、おめでとうございます」
「ありがとう、ネスちゃん。おっ、そうだ! せっかくだから、ネスちゃん。君にも見せてあげよう! 特別にタダでだ!」
「え? あ、いえ、遠慮しておきます。なんか、悪いですし」
「気にしない気にしない! さあさあ、こっちだ」
「わっ!? ち、ちょっとホーランドさん!?」
強引に手を取られたネスは、そのまま引き摺られるようにホーランドに連れていかれてしまった。
連れていかれた先は、ホーランドの自宅だった。
不思議に思い怪訝な表情をするネスの手を引いたまま、ホーランドは家のドアを開ける。すると驚いた事に、中には大きな穴が開いていて一本の梯子が掛けられていた。
異様な光景に唖然としたネスだったが、不意に手を放して先に梯子を下りていったホーランドの姿を見て、慌てて彼の後を追う。
梯子を下りた先は広い空洞になっていて、所々にホーランドは発掘したであろう痕跡やトンネルがあった。
――本当にトレジャーハンターをやってたんだなあ……。
そんな感想を抱きながら、ネスはドンドン先を行くホーランドの姿を見失わないように歩を進める。
やがていくつかのトンネルを潜り抜けた所で、ようやくホーランドが足を止めてネスの方へと振り返った。
「フフフ、この奥だよネスちゃん。俺の発見した、一世一代のお宝は」
「どんな宝なんですか?」
「それは見てのお楽しみだ。さあさあ、こっちこっち!」
手招きをしながらホーランドが眼前のトンネルへと入っていき、ネスも高まる好奇心と共にトンネルを入る。
数秒の暗闇の中で、ネスは出口の方から何かが光っているのを眼にした。すると彼は、その光を見て妙な感覚に陥る。
――?……なんだ、この感じ?
先程までの好奇心に代わり、不安と緊張を抱えながら、ネスはトンネルを潜り抜けた。
そして、ホーランドの“宝”を目の当たりにし、思わず言葉を失う。
「うわっ! これは……」
「どうだい、ネスちゃん? こんな凄いお宝、生まれて初めて見ただろう? これ以上の宝なんて、この先一生見る事ないだろうから、しっかりと眼に焼き付けておくといい」
嬉々として喋るホーランドの声が、どこか遠くに聞こえる。なぜならネスの全意識は、眼前の物に集中していたからだ。
――――胸の前で剣を両手で抱えている、黄金の像。
果たして純金なのか否かなのかはネスに判別できなかったが、それでも凄い値打ちがすると思わせる雰囲気が伝わってくる像だった。
まだ発掘したての為か、彼方此方に土を被っているのにかかわらず、全身から発せられる輝きは異様なまでに美しい。見る者の心を奪う魅力を秘めた黄金像だった。
「す、凄い……」
夢見心地になりながら、ネスは無意識に黄金像へと手を伸ばす。何故だか分からないが、この黄金像に触れてみたくて仕方がなくなったからだ。
しかしその直後、彼は頭の中で何かが弾けるような感覚に襲われ、それによって我に返る。慌てて手を引っ込めると、皮肉を込めたホーランドの声が耳に入っきた。
「おいおいネスちゃん。無暗に触らないでくれよ。万が一壊れでもしたら大変だからね。どうしても言うのなら、お金を払ってくれ。勿論、大金をね」
「大金って……そこまでして触りたくはないですよ」
急激に熱が冷めていくのを感じながら、ネスは顔を顰めてそう言った。しかし、次いで発せられたホーランドの言葉に、思わず眼を丸くする。
「フッフッフ、典型的な酸っぱい葡萄という奴だね。まあ、君の家はあまり裕福じゃないし、ポーキーちゃんとこみたいにはいかないか」
「!? ポーキーもこの像を見たんですか!?」
「ああ。父親さん……アンブラミさんだったかな? 二人してジロジロ眺めてベタベタ触りまくっていったよ。特にポーキーちゃんは大層気に入ってたねえ。もうベタベタベタベタって感じだったな」
「……で、大金を貰ったと?」
「勿論! いやあ、やっぱり金持ちは気前が良いねえ。ふっかけ……コホン、少し割高な値段を言ったのに、ポンッと出してくれるんだから。おまけに世界旅行にまで行っちゃんだから、本当、金はある頃にはあるんだねえ」
「せ、世界旅行!?」
突拍子もない事に、ネスは素っ頓狂な声を上げた。
「ポ、ポーキーとアンブラミさん、世界旅行に行ったんですか!? ラードナさんやピッキーは!?」
「その二人は留守番だって言ってたよ。父親と長男の水入らずの旅だとかなんとかって」
「へえ……あ、じゃあさっきホーランドさん、二人の見送りをしてたんですね?」
「そういう事。その際にまたチップを少々頂……とと、それよりネスちゃん、お宝鑑賞時間はここまで。タダでこれだけ見れたら十分だろ? 帰ってくれ」
「あ、はあ……分かりました。ありがとうございます」
半ば追い出すような口調で言われたネスは、仕方なく踵を返し、来た道を引き返そうとする。
だが、突如背筋に悪寒が奔り、彼は弾かれたように黄金像の方へと振り返った。
「ん? なんだい、ネスちゃん?」
「い、いえ……」
嫌な汗が背中を流れるのを感じながら、ネスはもう一度黄金像を注視する。すると、胸の奥に得体のしれない何かが込み上げてき、彼は振り払うように眼を伏せて軽く頭を振った。
「ネスちゃん? 具合でも悪いのかい?」
「違います。気にしないでください。じゃあ……」
珍しく気遣う様子を見せたホーランドに会釈をすると、ネスは再び身を翻し、今度こそ来た道を引き返し始めた。
――――勿論この時ネスは、この美しくも妖しい黄金像と幾度となく邂逅する事になる等、知る由も無かった。
「ポーキーの奴、一体どういうつもりなんだ?」
腕組みをして歩きつつ、ネスは隣人の事を考える。
親密な間柄ではなかったが、それでもポーキーの行動パターンは大体把握している。
太っている為か或いは単に面倒屋の為かは定かではないが、ポーキーは断じて旅行が好きなタイプではない。
基本は部屋でだらけるか、そうでなければ通いなれた場所でイタズラをするかのどちらかなのだ。間違っても、進んで遠出するような性格ではない。
そんなポーキーが、父親同伴とはいえ世界旅行に出かけたという事実。ネスにはそれが、どうにも腑に落ちなかった。
――どれくらいの期間の旅行なのかは分からないけど、世界旅行なんだから二日三日じゃないよな。当然、暫く学校にも行かないわけだし……ん? まさか、それが理由か?
不意に思い当たった節は、あまりにもくだらないもので、ネスは無意識に顔を顰める。
いくらポーキーとはいえ、学校に行きたくないという理由で好きでもない旅行に出かけたりはしないだろう。第一、あの父親が許可するとは到底思えない。
「……まあ、どうでもいいか。これからの旅先で、うっかり出くわすような事になりさえしなければ……」
「あっ、ネスさんじゃないですか。丁度良いタイミングです」
馴染みのある声が聞こえ、ネスは考えを中断してその声の方へと振り返る。
すると、普段から遊んでいるメンバーの一人――隠れ家の見張り役担当の少年がこちらへ駆けてきていた。
「やあ、どうしたんだい?……まさか、隠れ家の見張り役を代わってくれとか?」
「違いますよ。見張り役は僕の役目ですから。実は……その……」
「うん?」
「変な事聞きますけど、これからネスさん、何処か旅に出るつもりだったりしません?」
「えっ!? なんで分かったの!?」
思わずネスが身を乗り出して訊ねると、見張り役の少年は照れた笑いを浮かべながら答える。
「いやあ実はさっき、隠れ家のメンバーで夢を見たって話をしてたんですよ」
「夢?」
「ええ。ネスさんが冒険の旅に出るって夢です。全員が全員同じ内容の夢を見るなんて不思議だなって話になって、もしかしたら正夢なんじゃないかってみなさんが言って……」
「へえ、それはまた凄い偶然だな。……自分で言うのもなんだけど、運命的なものを感じるよ」
「ですよね! 僕も思ったんです。これがもし正夢だったら、まるでゲームのプロローグみたいだなって。……ところで、何の旅なんですか?」
「え? ああ、え〜っと……」
訊ねられて、ネスは少し困惑する。
――――“地球を救う旅”と正直に話して、果たして信じてもらえるだろうか?
そんな疑問が、彼の頭を掠めたからだ。とはいえ、大切な友人に嘘をつくのも気がひける。
真実を話すべきか否かでネスが悩んでいると、見張り役の少年は何かを察したように言った。
「あ、ネスさん。話したくないのでしたら、無理に話さなくていいですよ。きっと、無闇に話してはいけない大変な旅なんでしょう? メンバーのみなさんも、そう言ってましたし」
「う、うん。そうなんだ。上手く説明できないんだけど……ごめん」
「なんでネスさんが誤るんですか? まあ、そういうところがネスさんらしんですけど……と、いけない、忘れるところでした。ネスさん、これを受け取ってください。僕達からの餞別です」
そう言いながら、見張り役の少年は小さな包みをネスに手渡した。
「何が入ってるの?」
「ミスターベースボールの帽子とヨーヨーですよ」
「えっ!?……うわあ、本当だ。両方とも前から僕が欲しがってた奴」
いそいそと包みを開いたネスは、中にあった帽子とヨーヨーを歓喜の眼差しで見つめる。
「まあ冒険の役には立たないかもしれませんけど、お守りとでも思ってもらえれば」
「ありがとう。お守りか……うん、そうするよ。こんな心強いお守り、そうそうないからね」
閉じた包みをリュックにしまいながら、ネスは自然と零れる笑みと共に口を開く。
すると見張り役の少年も、つられるように笑いながら言った。
「気にしないでください。その代わり……と言ってはなんですが、冒険が終わったら色々と話を聞かせてくださいね。みなさんも、それを楽しみにしてますから」
「任しといて! お土産とお土産話、両方沢山持って帰ってくるよ!」
「はい! 頑張ってくださいね、ネスさん!」
「ああ!!」
力強く頷くと同時に、ネスは見張り役の少年とハイタッチをする。
そして彼に背を向けると、『ジャイアントステップ』を探し出すべく、オネット市街地へと歩いていった。