〜エピソード6〜
「えっと『ジャイアントステップ』……『ジャイアントステップ』……載ってないか、やっぱり」
図書館で貸してもらった地図を眺めながら歩いていたネスは、落胆の溜息をついた。
そこまで期待していなかったとはいえ、唯一の手掛かりとなる筈だった地図が役に立たないとなると、完全に自力で探し出すしかない。
田舎町のオネットとはいえ、隅から隅まで探すとなると広いものである。一通りオネットの地図を読み終えたネスは、何気なく天を仰いだ。
――――具体的な場所とまでは言わない。そこまで贅沢は言わない。せめて、何かヒントが欲しい。手掛かりになるような情報が欲しい。
こういう場合ゲームなら、手あたり次第町行く人に話しかけるのが定石だが、生憎これはゲームではなく本当の冒険だ。そんな方法で都合良く情報が手に入るとは思えない。
「とは言っても、アテなんかないし……ダメ元で市役所に行ってみようかなあ」
ネスがそんな独り言を呟いた時だった。
「あれ、ネスじゃん」
「ん?……ああ、君か。……どうしたの? なんか暗い顔してるよ?」
声の方向に振り向くと、そこにはクラスメイトが浮かない表情で立っていた。
不思議に思ってネスが訊ねると、クラスメイトは溜息と共に首を横に振る。
「そりゃあ、暗い顔にもなるさ。ゲームセンターに行っても、全然遊べないんだから」
「何で? 遊びすぎて、小遣い使い切ったの?」
「違う。“シャーク団”が占領してるんだよ、ゲームセンターを」
「……ああ、そういう事」
――――“シャーク団”。ネスもその名前ぐらいは聞いた事があった。
オネットでは有名な不良集団で、住民も迷惑しているらしく、市役所への苦情も多発しているとの事だ。
ネス自身は直接被害にあった事はないが、なるべく関わりたくない集団である。
「全く、嫌になるよ。抗議しようにも向こうは大勢だしさあ……おまけになんか凄い武器まで持ってるらしいし」
「凄い武器?」
「ああ。まあ連中が喋ってるのを聞いただけだから詳しくは知らないけど……軍隊とでも戦えるとか、なんとか……」
「ええっ?」
ネスは思わず顔を顰めた。
真相は不明だが、もしクラスメイトの話が本当なら大問題だ。最早、不良集団というレベルではなく、立派な犯罪者集団であると言える。
「なんて迷惑な連中だ」
不快感を露わにしてネスが呟くと、クラスメイトが深く頷いた。
「本当にな。それに……これも聞いた話だけど、ゲームセンター以外にもテリトリーを増やそうとしてるらしいよ。オネットの北西辺りって言ってたな」
「なっ……オネットの北西!? こ、困るよ、それは! そこには僕達の……!」
「ん? 僕達の、何?」
「い、いや、何でもない! 気にしないで」
危うく隠れ家の事を口にしてしまうところだったネスは、冷や汗を流しながら笑って誤魔化す。
しかし、次にクラスメイトが発した言葉に、冷や汗も誤魔化しの笑みも一瞬で引っ込んでしまった。
「そう? じゃあ話を続けるけど……最近、シャーク団のボスが、その辺りをうろついているらしいよ。変な名前の場があるらしくてさあ……何だったっけ? 『なんとかステップ』って……」
「!……まさか、『ジャイアントステップ』?」
「そうそう、確かそんな名前だったな。……って、おい、ネス!?」
予想だにしていなかった具体的な情報に、ネスは考えるよりも先に行動に移っていた。
驚きの声を上げたクラスメイトに構わず、彼は脇目も振らずにゲームセンターへと駆けていった。
数分後、ゲームセンターの近くまでやってきたネスの眼に、真っ黒のスーツに真っ黒のマスクと、全身黒づくめにした集団が飛び込んできた。
彼らこそが噂の“シャーク団”である。我が物顔で道路を占拠し、周囲の事を気にも留めず騒いでいるその様は、まさに不良集団のそれだった。
――……本当に迷惑な連中。
正直話しかけるのも嫌に思ったネスだが、事情が事情なのでそうもいかない。
意を決して彼は、スケボーで遊んでいる“シャーク団”の一人に近づくと、遠慮がちに声をかけた。
「あの……」
「ああ?」
いかにも不良といった返事に、ネスは一瞬怯む。しかし、すぐに気を取り直して言った。
「えっと、“シャーク団”のボスに会いたいんだけど……」
「何? 俺達のボスって言うと……フランク様の事か?」
「う、うん、そう」
「そうか、フランク様に会いたいのか……フランク様に叩きのめしてもらいたいんだな!」
「っ!? うわ!?」
いきなりスケボーに乗って突進してきたシャーク団員に、ネスは慌てながらも反射的に回避行動を取る。
そして辛うじてスケボーの突進を避けると、怒りを露わにしてシャーク団員に叫んだ。
「なんだよ、いきなり! 危ないじゃないか!!」
「ケケケ! お前が身の程知らずの事を言うからだよ! おい、お前ら! ちょっと遊んでやるとしようぜ!!」
その言葉に、近くにいた“シャーク団”の連中が一斉にネスへと視線を向ける。
「ヒヒヒ……お前みたいなのがフランク様に会おうなんて十年早いんだよ!」
「“シャーク団”に喧嘩を売ったらどうなるか、たっぷり教えてやろうぜ!」
腰でフラフープを回したり、ホッピングで飛び跳ねたりと、一見ふざけているように見えるものの、彼らからはハッキリと怒気を感じる。
どうやら“シャーク団”のボスであるフランクは、団員から相当の信頼を得ているようだ。
それを悟ったネスは、手段を誤った事を悔やむが、今はこの場を切り抜ける事の方が先である。
仕方なく彼はバットを握りしめると力強く振り被り、その先端を“シャーク団”達に突き付けながら言った。
「悪いけど、そっちの遊びに付き合ってあげてる時間は、僕には無いんだよ!」
「へえ、威勢の良い事を言うじゃねえか! やろうってんだな!?」
「面白え!!」
叫んだ直後、スケボーに乗った団員が再びネスに突進してきた。
しかし先程とは違い、今度はしっかりと身構えていたネスは難なく団員の突進を回避する。そして、その際に、団員の背中に強烈なバットの一撃をお見舞いした。
綺麗にネスの攻撃を食らった団員は、短い悲鳴を上げながらスケボーから転げ落ち、そのまま近くにあったゴミ置き場へと激突する。
その様子を見た他の団員達の顔に、マスク越しにでもハッキリと分かる動揺の色が表れた。
「こ、こいつ……!?」
「ひ、ひるんでんじゃねえ! やれ!!」
明らかに焦った様子で、団員達がネスに襲い掛かる。けれども、焦り故かその動きには無駄が多く、またスピードも無い。
ネスにしてみれば、昨夜から今朝にかけて戦ったヘビやカラス、そしてイヌの方が余程機敏な動きをしているように思えた。
――……勝てる!
そう確信する事で、バットの握る手に一層力が入り、敵の動きもより正確に見えてくる。
ネスは次々と襲ってくる団員達を片端からバットで倒していき、やがて残った一人の団員に再びバットの先端を突き付けた。
「さあ、どうする? 降参する? それとも……」
「フ、フ、フ、フランク様〜〜!!」
ネスが言い終わらない内に、団員は情けない悲鳴を上げながらゲームセンターの中へ逃げていってしまった。
「あっ!? ま、待て!!」
慌ててネスは団員の後を追って、ゲームセンターへ入る。
当然ながらゲームセンター内でも“シャーク団”がたむろしていたが、突然の乱入者に驚いたのか、あるいは先の慌てふためいて飛び込んできた仲間の様子に困惑しているのか、襲ってくる様子は無かった。
そんな団員達の間をすり抜けながら、ネスは逃げる団員の背中を追いかけ、ゲームセンターの裏側にある小さな空地へと足を踏み入れた。
「あ、あ、あ、あいつです、フランク様! あいつが……」
「ああ?……ったく、どんな奴かと思ったら、チビ助じゃねえか。みっともねえ」
震えながらネスを指差しているシャーク団員の隣で、黒いサングラスをかけた金髪の男が気怠そうに首を振る。
しかし、その立ち振る舞いには無駄がなく、組織を纏める立場の人間特有の貫禄があった。
その男が両手にナイフを持っている事に気付き、ネスは無意識に唾を呑み込む。
――こいつが、“シャーク団”のボスか……。
背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、ネスはゆっくりと男に近づく。すると、向こうから声がかかった。
「……“シャーク団”の頭のフランクだ。お前は? 何の理由で俺の仲間にケンカを売った?」
「僕の名前なんて、どうでもいいだろ。それより、ジャイアント……」
「何だと?」
途端、フランクの声が低くなり、彼の周囲の空気が凍り付いたような緊張感が漂う。
それを敏感に感じ取ったネスが思わず後退りすると殆ど同時に、フランクが両手のナイフを振り回しながら叫んだ。
「自分の名前くらい名乗れよ! ふざけるなーー!!」
「っ!?」
シャーク団員達とは比べ物にならない俊敏さで迫ってきたフランクに、ネスの心に自然と恐怖心が芽生える。
その恐怖心が、行動に後れを生じさせた。必死でフランクのナイフを避けようとしたネスだったが、間に合わずに左腕を斬られる。
鋭い痛みと共に赤い血が迸るが、それを気にしている余裕は無かった。フランクは一切の容赦を見せずに、次々とナイフの斬撃を繰り出してくる。
「舐めた口を利くとどうなるか、たっぷり教えてやるぜ! 覚悟しな!!」
「ぐっ……ううっ!」
ネスは辛うじてバットでナイフを受け止め続けるが、完全に防戦一方で反撃の糸口が見つからない。
そうしている間にも次第に押し込まれていき、遂には空地の端にまで追い込まれていった。
――このままじゃ……このままじゃ……!……そうだ!!
妙案を思いついたネスは、後方に飛び退いて背中を柵に当て、フランクと距離を取る。そして、突然の行動に一瞬戸惑っていたフランクに向けて、ネスは左手を突き出した。
次の瞬間、その左手から妖しい光が放たれ、フランクを包み込む。
――――ブンブーンに教えてもらったPSI“催眠術”である。
「っ!?……うっ、なんだ、これ……急に眠く……」
額を手で押さえ、ふらつき始めたフランクを見て、ネスは素早く反撃に転じた。
まず、フランクが持っていたナイフに手を伸ばす。当然フランクは抵抗してきたが、“催眠術”による眠気に襲われている今の彼に、先程までの力はない。
難なくナイフを奪い取ったネスは、そのままフランクの背中に回り込み、遠心力を加えたバットの一撃を浴びせた。
「がはっ!!」
苦痛の呻きと共に、フランクは地面に倒れこむ。そんな彼に、空地の隅で戦いを見ていたシャーク団員が慌てて駆け寄った。
「フ、フランク様!」
「ハア、ハア……お、お前……思ったよりやるじゃねえか。そうでなくちゃ面白く……」
「……やめなよ」
フランクの言葉を遮ると、ネスは空地の片隅に置かれていたゴミ箱にナイフを投げ入れる。
そして立ち上がろうとしているフランクにバットの先端を向けながら言った。
「もう勝負はついたんだ。……君の負けだよ、フランク」
「ちっ!……冗談じゃねえ。無敵のフランクが負けるわけにはいかねえんだ!……ハア、ハア……」
「フ、フ、フランク様! そ、そ、それは……!」
「……?」
上着のポケットから何かのスイッチらしき物を取り出したフランクに、シャーク団員が慌てふためく。
「い、い、いくらなんでも“アレ”はマズイですよ! フランク様!」
「うるせえ! いくぜ、“フランキースタイン2号”だ!!」
吼えたフランクは力強くスイッチを押す。
すると、空地に生えていた一本の木のあたりから物音がし、ネスは反射的にそちらに振り向き、そして眼を見開いた。
――こ、これは一体……!?
戦車の様なロボットが、キャタピラの音を響かせながら徐にこちらへと近づいてくる。
それを見たネスの脳裏に、クラスメイトの言葉が蘇った。
『おまけになんか凄い武器まで持ってるらしいし』
「これの事だったのか……」
ネスがそう呟くと、ロボットは激しく蒸気を吐き、こちらを威嚇する。
そんな彼の耳に、苦しげながらも自信に満ちたフランクの叫びが飛び込んできた。
「俺が作り上げた最強のロボット、“フランキースタイン2号”! ヤワな攻撃なんざ効かないぜ! その強さをたっぷりと味わいな!」
「……くっ!」
小さく歯噛みした後、ネスは先手必勝とばかりに“フランキースタイン2号”に迫ると、バット大きく振り被った。
しかし、それを見た“フランキースタイン2号”が、突然パンチを繰り出す。そのパンチはネスが振りかぶったバットに命中し、いとも簡単にバットをへし折ってしまった。
「なっ!?……う、うわあっ!!」
想像以上の強さに驚愕したネスに向けて、“フランキースタイン2号”が猛スピードで突進する。
完全に反応が遅れたネスは真正面からその突進を受け、派手にふっとばされた後に地面に叩きつけられた。
激痛に苛まされながらもどうにか起き上がろうとしたネスだったが、そんな彼に“フランキースタイン2号”がダメ押しとばかりに再び突進する。
強い衝撃を受け、転げ回りながら柵に激突したネスの身体は、フランクとの戦いで出来た傷に加えて打撲や擦り傷まみれで、既にボロボロの状態になっていた。
「ぐ……いった……うう……」
「はははっ! ざまあ見やがれ! どうだ、もう二度と舐めた事をしないと誓うなら、この辺で勘弁してやるぜ?」
「っ……誰が……」
フランクの嘲笑に苛立ちを覚えながら、ネスは必至で精神を集中させて“ライフアップ”を使う。
暖かい光がネスを包み、完全とまではいかないまでも傷と痛みを回復させたネスは、静かにその場に立ち上がった。
「いっ!? こ、こいつ傷を……!?」
「お、お前……魔法使いだったのか?」
「……ポーキーも似たようなセリフを言ってたな。説明したところで理解してもらえないだろうし、そう思うなら思ってれば?」
「っ……ふん、随分な口を利くじゃねえか。だがよ、いくら傷を治したからって、何の武器も無く俺の“フランキースタイン2号”に勝てると思ってるのか?」
「く……」
確かにフランクの言う通りだった。
武器であるバットは折れて使い物にならない上、ロボットである“フランキースタイン2号”に“催眠術”は恐らく効果は無いだろう。
勿論、素手で戦えるような相手ではない事も分かり切っている。完全にお手上げの状態だった。
――どうすれば……何か……何か別の“PSI”は使えないのか……!?
必死に考えながら、ネスは両の拳を握りしめた。その直後、次第に拳を熱くなってくるのを感じ、彼はハッとして両手を眼前に持ってきて凝視する。
すると、自分の両手の中に、僅かにではあるが蒼い光が生まれているのが見えた。
――これは……一体……?
「どうした? ボンヤリ自分の手を眺めて?……まあいい、“フランキースタイン2号”! 止めをさしてやれ!!」
「っ!!」
フランクの叫びを合図に、三度“フランキースタイン2号”が突進してくる。それに対して、ネスは半ば無意識に両手を前に突き出して身構えた。
刹那、彼の両手が眩いばかりの蒼い光を放つ。それを見たネスは、直観的にある事を悟った。
――これなら、きっと!
彼がそう確信するのと、“フランキースタイン2号”が彼に迫るのは殆ど同時だった。
しかし、今度のネスは吹っ飛ばされる事は無かった。なぜなら、彼は両手で“フランキースタイン2号”の突進を押し留めたからである。
「ひ、ひええええっっ!?」
「バ、バカな!? な、なんだあの光は!?」
シャーク団員が悲鳴を上げ、フランクが驚愕に声を震わせる。
そんな彼らの声を聞きながら、ネスは“フランキースタイン2号”を押し留めている両手に更に力を込めた。
「う……うあああああっっ!!」
絶叫と共に、ネスは“フランキースタイン2号”を掴む。すると彼の手から発せられていた蒼い光が、“フランキースタイン2号”を包んだ。
――……飛んでいけ!
ネスが心の中でそう念じると、まるで風船のように“フランキースタイン2号”が宙へと浮き上がり、次の瞬間に呆気なく吹っ飛ばされる。
無論、通常の力ならば到底できない芸当である。ネスの秘めたる“PSI”の力があってこその、成せる技であった。
「あ、ああ……」
激しく回転しながら宙を舞う“フランキースタイン2号”を見て、フランクが今までに聞いたことのない弱々しい声を出す。それはすぐに訪れる、愛機の末路を悲観したが故の声だった。
束の間の空中遊泳を終え、“フランキースタイン2号”が地面に激突する。
激しい墜落音と共に全身から無数のパーツを弾き飛ばすと、“フランキースタイン2号”は見るも無残なスクラップへと成り果ててしまった。
暫くして、もう“フランキースタイン2号”が動かない事を確信したネスは、全身から一気に力が抜けるのを感じて、その場に尻餅をついた。
頭が妙に熱く、心臓が激しく脈を打っているのが分かる。
―――強敵との戦いに勝利を収めた事に興奮しているのか、先程の“PSI”を使った事による副作用か、あるいはその両方か……。
なんにせよ、暫くは満足に動けない状態の彼を、フランクとシャーク団員が瞬きもせずに見つめていた。
「フ、フ、フランク様だけじゃなく、“フランキースタイン2号”まで……こ、こんなチビ助に……」
「……初めて負けた」
フランクはそう呟くと徐に立ち上がり、静かにネスへと歩み寄る。そんなフランクを見て、ネスは全身の怠さを億劫に感じながらも飛び起きた。
「っ!? まだ、やる気!?」
「……いいや、もう終わりだ。“フランキースタイン2号”がやられたとあっちゃあ、もう俺には打つ手がねえ。無敵のフランクも、ただのフランクになっちまった」
寂しそうに、しかし何処か清々しそうにそう言うと、フランクは戦っていた時は明らかに違う、落ち着いた佇まいでネスに訊ねた。
「で? 結局、俺に何の用なんだ? 俺の代わりに、“シャーク団”の頭をやりたいから殴り込みに来たのか?」
「ち、違うよ! 誰がそんな事……僕はただ『ジャイアントステップ』の事を聞きたかったんだ」
「ああ、あそこの事か。いいだろう、教えてやる。あの場所はどうやら、ある種のパワースポットらしい。いつだったか見つけたんだが、何かをもたらすようなエナジーを感じたんだ」
「……やっぱり」
フランクに聞こえないくらいの小さな声で、ネスは呟いた。
「まあ、俺はエナジーを感じただけで、特にどうって訳ではなかったがな。恐らくは特定の人間が訪れなければ何も起きないんだろう。だがネス、お前なら……ひょっとしたら……」
「……それで、その場所は?」
「オネット北西に旅芸人が使っている小屋があるのは知ってるか?」
「うん」
「その奥から『ジャイアントステップ』に行ける。今は小屋に鍵が掛かっているが、市役所のゲーハー・ピカールが鍵を持っている筈だ。とにかく市役所に行ってみろ」
「市役所か……分かった、ありがとうフランク」
軽く頭を下げて市役所へ向かおうとしたネスだったが、フランクに肩を掴まれながら呼び止められる。
「待て、ネス。話は最後まで聞け。『ジャイアントステップ』に行く前に、念入りに準備をしておく事だ」
「え? 準備?」
「ああ。あそこにはえらく凶暴な動物がウヨウヨいる。多分、パワースポットからエナジーを吸い取って、強くなったんだろうな。特にあの……」
「……あの?」
「……一度だけ見たんだが、最深部にとてつもなくデカいアリがいる。あれはもうバケモンといって構わないだろう。気をつけていけ」
「…………うん」
フランクの表情と言葉から、そのバケモノの恐ろしさを察したネスは、恐怖を覚えながらも力強く頷いた。
すると、フランクが軽く笑みを浮かべながらネスに言う。
「まあ、お前ならきっと大丈夫だろう。さっきお前か見せた、あの力があればな。俺より強いネス! 健闘を祈るぜ!」
「オ、オイラも応援してます!」
畏怖の念から尊敬の念へと変わったのか、シャーク団員もフランクと同じくネスに励ましの言葉を贈る。
そんな彼らに複雑な感情を抱きながらも、ネスはぎこちなく笑いつつ返事をした。
「ありがとう。えっと……これからはもう、悪い事しないようにね」
「ああ。“シャーク団”の活動は、今日これまでだ」
「オイラも一般男子としての生活に戻ります」
「っ……良かった。じゃあ、さようなら」
清々しい彼らの言葉にネスは満足すると、踵を返してゲームセンターを後にした。