第九話〜再び平和を〜
――――――オネット。町外れ。
「……ちいっ!これじゃ、キリがないぞ!」
「くそっ!……どれだけいるんだよ!?コイツラは!?」
スターマン達と激闘を繰り広げていたプーとジェフは、かなり疲労の色の濃い顔色で毒づく。
それに対して、スターマン達は勝利を確信しているかの様な笑みを浮かべながら、口々に言った。
「フ……ドウシタ?サッキマデノイセイハ、ドコニキエタノダ?」
「ワザワザソチラノチョウハツニノッテ、コンナヒトケノナイバショデタタカッテヤッテルノダ。モウスコシタノシマセテミセロ」
「くっ!……言われなくても!」
奴らの言葉にいきり立ったジェフが、バッグの中から大量の『ペンシルロケット』を取り出す。
「……バカメ」
「!?……待て、ジェフ!よせ!!」
咄嗟にスターマン達が挑発していたのに気づいたプーが叫んだが、既にジェフはペンシルロケットを発射してしまっていた。
凄まじい爆音が辺りに響き渡り、同時に全ての視界を遮る程の砂煙が巻き起こる。
それを見たジェフは、疲れきった顔に不敵な笑みを浮かべて言った。
「はあっ……はあっ……どうだ!!」
しかし、荒い息をつきながらそう叫ぶジェフに、プーは鋭い声を飛ばす。
「気を抜くな!!奴らは傷を負ってなどいないぞ!!」
「!?……えっ?」
目を丸くした顔でジェフが呟いた瞬間、砂煙の中から先程のペンシルロケットが姿を見せ、跳ね返ってくるかの様に二人へと襲い掛かる。
「!!……うわあああっ!!!」
(……マズイ!!よりにもよって、反射の結界か!!)
心の中で舌打ちしながら、プーは即座にシールドを張ろうと構えた。だが、その時彼の耳に、空間を裂く様な音が響き渡る。
「「っ!?」」」
瞬間、目の前の空間に大きな穴が開き、その中から二つの人影が飛び出した。
そして、一人はジェフを庇いながらペンシルロケットを回避し、もう一人はスターマン達に向かって炎を放つ。
「グ、グワアアアアッ……!!」
「……ダ、ダレダ!?」
突然現れた新たな敵に、動揺している奴らを尻目に、プーは呟く様に口を開いた。
「……ポーラ。……それに……お前は……」
その視線を受け取ったネスは、ゆっくりと頷く。
「プー……久しぶり。それに、ジェフも……怪我はない?」
「!?……ネ、ネス!?君、どうして……?」
幽霊でも見たかの様な顔をするジェフに、ポーラは微笑みながら説明した。
「……生きてたのよ……ネスは……」
「っ……そっか」
ようやくその事を理解した彼は、安堵の溜息をつく。そして、少々意地悪げな笑みを浮かべながらネスに言った。
「全く……一年間も、どこ行ってたんだよ?」
「ゴメンゴメン。……色々、あってさ」
バツが悪そうに答えた彼に、今度はプーが声を掛ける。
「……ふっ。随分と俺達に、心配掛けさせてくれたな?」
「……プー。こんな時に、そんな嫌味を言わなくたっていいだろ?」
僅かに眉を顰め、溜息交じりで呟いたネスは、不意にスターマン達に向き直りながら、三人の仲間に向かって言った。
「さてと……感度の再会は、コイツらを倒してから、改めてしようよ!!」
「ええ!!」
「そうだな!」
「……承知した!」
ポーラが駆けつけてき、ネスが戻ってきた事により、ジェフとプーは力を取り戻していた。
……いや、先刻戦っていた時以上に、力が漲(みなぎ)ってきていた。
仲間―――それは何物にも勝る力を生み出す、最高の強さ。……恐らく、奴らには分からないだろう。
「いくぞ、スターマン!!!」
ネスの叫びを合図に、四人はそれぞれスターマンの群れに飛び込んでいった。
「ク、クソッ!!」
「ワレワレヲナメルナ!!」
「……シネ!!」
突然現れたネスとポーラ。そして力を取り戻したジェフとポーラを見て、スターマン達は完全に浮き足立っていた。
PSIを使う事も忘れて滅茶苦茶に発射するビームを掻い潜り、プーが『王者の剣』で次々と敵の胴体を薙ぎ払う。
瞬く間に数人のスターマンを倒した彼は、やや呆れた様子で口を開いた。
「分からんものだな。お前達……少々計算外の事が起こると、こんなにも脆いものなのか?」
「ッ…オノレ!!」
それを見た他のスターマン達が、プーに目標を定め、PKスターストームの構えを取った。
(っ!流星術か……!?)
「「「クラエ!!!」」」
高らかにそう叫び、彼らは掲げていた両手を一気に振り下ろす。
しかし、それとほぼ同時に、辺りに大きな不調和音が響き渡った。
「グアッ!?ナ、ナンダコレハ……!?」
「ド、ドウイウコトダ!?……ナ、ナゼPSIガハツドウシナイ!?」
不調和音の影響か、PSIが使えない状態になってしまったスターマン達は、狼狽した声を上げる。
プーはその隙を逃す事無く、お返しとばかりに天に向かって叫んだ。
「天に瞬く数多の星々よ!今こそ我の声を聞き、大地に落ちよ!!」
刹那、漆黒の夜空に幾万もの小さな輝きが見え、次の瞬間それらは一斉にスターマン達に降り注ぐ。
これが彼、プーの最大奥義―――PKスターストームΩである。
同じスターストームでも、スターマン達のそれとは桁が違った。奴らは断末魔の叫びを上げる事さえ叶わず、一瞬にして無へと還る。
決着がついたのを確認した彼は、先程スターマン達のPSIを封じ込めてくれた仲間へと振り返った。
「……助かったぞ、ジェフ」
「お安い御用さ!PSIさえ使えなかったら、コイツラなんて敵じゃないからな!!」
笑顔でそう叫びつつ、ジェフは持っていた『アンチPSIマシン』をバッグにしまい、代わりに再度ペンシルロケットの束を取り出す。
そして、自分が対峙しているスターマン達に向けて、一気に発射した。
「今度こそっ!!」
轟音と共に、数体のスターマンが爆発に飲み込まれる。
それを見て、一瞬歓喜の表情を浮かべたジェフだったが、次の瞬間、自分が失態を犯した事に気づいた。
「っ!?……しまった!木々に炎が……!!」
爆炎が周囲の木々に燃え移り、次々と炎が広がっていくのを見て、ジェフは唇を噛む。
……が、その時だった。
突如として冷たい氷の風が巻き起こり、赤色に染まっていき始めていた景色を、元の色へと戻していく。
「!!……ポーラ!」
慌ててジェフは、この術の主の方へ振り返る。すると、彼女は彼に向かって悪戯っぽくウインクをした。
「ジェフ!ちゃんと周りの事を考えなきゃダメよ!」
「そうそう!火を扱う時は、注意しないとね!」
槍を巧みに操ってスターマン達を撃破していたネスが、元気な声でそう叫ぶ。
そして次の瞬間、上空へと飛び上がったかと思うと、両手をスターマン達に突き出し、声を張り上げた。
「こういう風にね!……PKファイヤー!!!」
同時に放たれた火の玉は、スターマン達に触れる瞬間、巨大な火柱へと姿を変える。
しかし、その火柱はスターマンのみを焼き尽くし、役目が終わると静かに消えていった。
「す、すっごい、ネス……」
「……更に腕を上げた、と言う訳か」
一年ぶりに再会した仲間の活躍を目の当たりにし、プーとジェフは感嘆の呟きを漏らす。
だが、その時どこからか、不気味の声が彼ら四人の耳に響き渡った。
「……ドコマデモ、ワレワレノジャマヲスルキカ……イマワシキヨニンノコドモタチヨ……」
「!?……な、なんだ、この声は!?」
「な、なんか頭の中に直接聞こえてくる様な……?」
「……すごく嫌な声……誰?」
「っ!!……この声は、あの時の!!」
「……マサカ、オマエガイキテイタトハナ……ネス」
そう呟きながらテレポートで現れたのは、虹色に輝く身体を持つ、スターマン達の総統だった。
「ヤハリアノトキ……トドメヲサシテオクベキダッタノカモナ……」
総統は独り言の様にそう言うと、ゆっくりとネスに視線を向けた。
「……ツクヅク……オマエトハアイショウガワルイヨウダナ、ネス?」
「……みたいだね。で、どうするんだ?もう、そっちの仲間は殆ど倒したんだよ?勝ち目なんか無いと思うけど?」
いつでも攻撃出来る様に構えながらネスが尋ねると、他の三人も身構える。
すると総統は、フッとバカにした様な小さな笑みを漏らした。
「?……何がおかしいんだ?」
「クックックッ……カチメガナイダト?メデタイヤツラメ。ソレハコチラノセリフダ」
「!?……何!?」
その時だった。
頭上から、何かが風を裂く様な音がし、四人はハッとして明けつつある夜空を見上げる。
そして、そこにあった物体を目にして、驚愕の声を上げた。
「あ、あれは……!!」
「……UFO!?まさか…!?」
「そ、そんな……う、嘘だろ?」
「ち……まだ、あんな大群が……」
上空に浮遊している、無数の銀色に輝く円盤を見開いた瞳で見つめながら、四人は思わず後ずさりをする。
敵部隊の大部分を倒してきたと思っていたが、どうやらそれは大きな間違いだったらしい。
「ハハハハハッ!!ナンダソノカオハ?サッキノイセイハ、ドコニキエタノダ?」
「……くっ!」
「言いたい放題……言ってくれるわね」
「ああ……だけど……どうする?」
「正直言って……こちらが、かなり不利だな……」
プーの呟きに、ネスは心の中で頷きながら、必死に策を練った。
(あんな上空にいたんじゃ、こっちが繰り出せる攻撃は極端に限られてしまう。それに……もしあの位置から攻撃されたら……)
今まで、あのUFO自体が攻撃して来た事は無かったが、だからと言ってその可能性が全く無い訳ではない。
高度な技術を有している奴らの事だ。あのUFOにも、何らかの武器が搭載されていると考えるのが普通だろう。
(……だとしたら、奴らの攻撃を許す訳にはいかない!先手の一撃で、何としてでも全滅させなければ……!)
「サテト……テンカラオマエタチトコノホシガホロビルサマヲ、ユックリケンブツサセテモラウトスルカ」
「……!!」
その言葉に、ネスは思考を中断して、総統に目をやる。すると次の瞬間、目の前にいた総統は一瞬にして姿を消した。
「!?……テレポートか!!」
舌打ちをしながら、ネスは上空に視線を移す。と、刹那、見えた光景に、大きく目を見開いた。
UFOの大群が一斉に機体の中心部を開いていく。そこに凄まじいエネルギーが凝縮させていくのが、地上からでも分かった。
これが何を意味するのか……それが分からないほど、ネス達は鈍感ではない。
「!!……嫌な予感が当たったか……」
「う、嘘でしょ?……あ、あんな……」
「冗談じゃない……ど、どうしろって言うんだよ!?」
「……万事休すか」
四人はそれぞれ、絶望が混じった声で呟いた。確かに、あんな攻撃をされたのでは、防ぐ事も避ける事も出来そうに無い。
……いや、仮に自分達が凌げたとしても、この辺りの地形が跡形もなく消し飛んでしまうだろう。
(だとしたら……一か八か、あれを放つしかない!!)
最早、一刻の猶予も無い。そう判断したネスは、不意に目を閉じ、両手に精神力を集中させる。
と、それに気づいたポーラが、慌てた声で尋ねた。
「ネ、ネス!?な、何をする気!?」
「……あれを使う」
「「「……っ!?」」」
彼のその言葉に彼女は、そしてジェフとプーは揃って息を呑む。……ややあって、ポーラが口を開いた。
「……だけど、いくら何でも無茶じゃ……」
「大丈夫。……絶対に、ね」
彼女の言葉を遮り、ネスは宥める様な笑みを浮かべる。そして、キッとした表情で上空の円盤達を睨み付けた。
「僕の事は心配しないで。だからポーラ、サイコシールドを力の限り張っておいて。多分……皆に危険が及ばない様に、手加減する事は出来ないから」
「ネス……」
彼女は何と言ったらいいのか分からずに、ただそう呟く。その横で、ジェフとプーは一瞬だけ顔を見合わせ、やがて揃って溜息をついた。
「……結局、ネスに頼るしかないって事か」
「歯痒いな……こんな状況で、助力するも事も出来んとは……」
「……ジェフ……プー……ゴメン、もしかしたら君達にもダメージが……」
「大丈夫よ」
申し訳なさそうな声を出したネスに、ポーラは力強く言い放った。
「……ポーラ」
「私達の事は、心配しないで。……だからネス、思いっきりやって」
「……分かった。頼むよ」
軽く頷くと、彼は三人から僅かに距離を置く。それを確認した後、ポーラは目を閉じ、小さく呟いた。
「……サイコシールドΣ」
その言葉によって、三人の周りに光の壁が生まれる。その中で、彼女はジッとネスを見つめた。
僅かに潤んだ瞳から、彼女が「死なないで」というメッセージが送っているのが、手に取る様に分かる。
――――……分かってるよ。
心の中でそう返事をし、ネスはさらに両手に精神を集中した。
(必ず……守ってみせる!この星を!……皆を!……君を!!)
彼がにそう決意したのと殆ど同時、UFO達が一斉に極太のビームを発射する。
破滅の雨を言うべきそれらに向けて、ネスは両手を突き出しながら、力の限りに叫んだ。
「PK……ドラグーーーーーーーン!!!!!!」
彼の両手に結集された精神力が巨大な念動波となり、上空へと放たれる。
そして、その余波が、サイコシールド越しにポーラ達の肌をビリビリと刺激した。
「きゃっ……!!」
「……な、なんて威力だよ……」
「こ……これ程とはな……」
三人が口々に呟いた直後、ネスのPKドラグーンは降り注いでいたビームを一つ残らず飲み込み、そのままスターマンのUFO達に激突した。
「いけええええええええっっ!!!!」
瞬間、凄まじい轟音と共に、眩い閃光が辺りを照らし出す。
思わず顔を覆った四人が再び目を開いた時、上空に点々と存在していたUFOは跡形もなく姿を消していた。
「はあっ……はあっ……はあっ……やった!」
肩で息をしながら、ネスは歓喜の声を上げる。
と、それが合図であったかの様に、ポーラはサイコシールドを解き、ジェフとプーと共に彼の傍に駆け寄った。
「……ネス!!大丈夫!?」
「全く……大した奴だよ、君は」
「……見事だったぞ」
三人の激励の言葉を浴びたネスは、微かに照れの混じった笑みを浮かべた。
「はは……ありがとう、皆」
「……あれ?」
不意に視界が傾くかの様な感覚を覚え、ネスは思わず前方に倒れそうになる。
「!……ネス!?」
「おっと!」
ポーラが声を上げるのと殆ど同時に、プーが彼の身体を手で支えた。どうやら、精神力を使い切ってしまったらしい。
「大丈夫か?」
「う、うん……ちょっと、ふらついただけだから……」
そう呟くネスの顔には、疲労の色が濃く滲んでいた。もっとも、あれだけ凄まじいPSIを放ったのだから、無理もない事なのだが。
「ともかく……早いうちに休んだ方がいいだろう。あれ程に強力な技を使ったんだからな」
プーはそう言うと、ネスに自身の肩を貸してその場に立たせる。
「歩けるか?」
「……平気さ。とりあえず……僕の家に行こう。そこなら……皆、休めると思うから」
「……そうね、それがいいわ。私も休みたいし」
「決まりだな」
ジェフが、そう呟いた時だった。突如として、ネスの背中に冷たい戦慄が奔る。
「っ!?」
「?……ネス、どうし……」
ポーラが言い終わらないうちに、四人の背後から高速のビームが襲い掛かってきた。
「「「「……!?」」」」
完全に不意をつかれた四人は、咄嗟の回避で致命傷こそ免れたものの、浅からぬ傷を負って地に倒れこむ。
「痛っ!!」
「うわっ!!」
「……ぐっ!!」
「……うっ!!」
痛みを堪えながら、ゆっくりと身を起こしたネスは、慌てて仲間達に声を掛けた。
「ポーラ!ジェフ!プー!……しっかりするんだ!!」
だが、三人とも倒れた時に頭を打ったらしく、気を失っている。
焦ったネスは皆に何度も呼びかけるが、ふと背後に鋭い殺気を感じて振り返った。
「この感じ……まさか……!?」
「……ハア……ハア……オノレ……オノレオノレ!!」
そんな苦しげな呻き声と共に姿を現したのは、全身に傷を負って片腕を失った、スターマンの総統だった。
恐らくPKドラグーンを受ける際に、テレポートでUFOから脱出したのだろう。
あの極限状態でそんな芸当が出来るとは、流石は総統といった所だろうか。
「ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナ!!コウナッタラ……オマエタチダケデモジゴクニオクッテヤルワ!!」
「……くそっ!!」
怒号と共に発射されたビームの雨が容赦なく迫り来るが、疲れきった身体を強引に動かす事で、ネスは何とかビームをかわす。
しかし、そのビームは悪い事に気絶している三人の間近の地面に激突し、爆風と石つぶてが皆の姿を覆い隠した。
「!?……みんな!!」
一瞬そちらに気をとられたネスの肩を、一条のビームが貫通した。激しい出血と痛みを何とか堪えつつ、ネスは総統を睨み付ける。
「つ……ったく!往生際の悪い奴だな!!」
「ハア……ハア……クックックッ、ザンネンダッタナ、ネス。モウワタシニ、スターストームヲツカウコトハデキナイガ
…………クタバリゾコナイヲヒトリシマツスルコトグライ、ドウトイウコトハナイ!!」
「それは……どうかな!!」
ネスは満身創痍に近い状態でありながらも、気力を振り絞って槍を手にして総統に迫る。
そのまま勢い良く槍を薙ぎ払った彼だったが、その切っ先は虚しく空を切った。……テレポートによって回避されたのである。
「はあ……はあ……っく!まだテレポートが使えるのか!?」
「フフフ……ショウブアッタヨウダナ!?」
渾身の一撃を外し、無防備となっているネスに向けて、総統はビームを発射する。
そのビームは吸い込まれる様に彼の左胸―――心臓が僅かにそれた部分を貫通した。
「がっ!!……は……!!」
気絶してしまいそうな程の激痛が奔る胸を押さえながら、ネスは槍を支えにする事でどうにか踏み止まる。
「……はあっ……はあっ……はあっ……!!」
「ハア……ハア……ドウダ!?ツギデトドメニシテクレル!!」
そう叫んだ総統が、再びビームを放とうと構える。しかし次の瞬間、ネスがいきなり持っていた槍を、全力で総統に投げつけた。
「やあああああっ……!!」
「ナッ!?……ウ、ウギャアアアアアアアッッ!!!」
彼が投げた槍は見事に奴の目に突き刺さり、総統は悲鳴を上げて苦しみだす。
それを黙って見つめながら、ネスは静かに目を閉じて、精神を集中し始めた。
(……これが、最後の一発だ!!全霊を……この一撃に込める!!
自分に残っている全ての精神力を両手に集中させると、彼は眼を見開き総統を睨み付ける。
――――終わらせる……今度こそ、必ず!!
「PK……ドラグーーーーン!!!!!」
ネスの両手から放たれた念動波が、一斉に総統に襲い掛かる。
それは先刻の物に比べれば遥かに小規模であったが、満身創痍の相手を消滅させるには十分だった。
「グアアアアアアアアッッ……!!!!!」
断末魔の叫びを上げながら、総統の身体は念動波に包まれ、徐々に消滅していく。
そして奴が完全に消え去ると、ネスは力なく笑みを浮かべた。
「はあ……はあ……こ、今度こそ……や、やった……よ……」
呟く様にそれだけ言うと、ネスは力尽きた様にその場に倒れこむ。そんな彼の身体に、暖かな日差しが降り注いできた。
――――……それは、太陽の光。
激闘によって時間の経過も忘れていたが、どうやらもう夜が明ける時刻らしい。
もう閉じたままビクともしない瞳を何とか開けようとしながら、ネスは朝日の輝きを頭に浮かべた。
(……朝日か……はは、何だか……マンガみたいに……タイミング……が……い……)
心地よい感情が、全身の傷を癒してくれる様に思える。そう思った所で、彼の意識は途切れた。